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LGBTQ当事者を狙うオンラインハラスメントの特徴と対応【個人的整理】

LGBTQ当事者を狙うオンラインハラスメント

「オンライン・ハラスメント」とは、インターネットやウェブサービス上で起きるイジメや嫌がらせのことで、英語では「cyberbullying」「cyberharassment」「online bullying」と呼んだりもします。

LGBTQの当事者はオンライン・ハラスメントの被害を受けやすく、泣き寝入りする人も多いことが報告されていますThe Advocate。ひとりで悩みを抱え込む人も少なくないでしょう。

私もオンライン・ハラスメントの被害を受けたことがありますが、被害者になってしまうと不安が増し、より脆弱となり、状況が悪循環に陥りやすいです。

そこで少し冷静になれるように、オンライン・ハラスメントに関する手口の特徴と対処を整理しました。ひととおりLGBTQ向けにまとめていますが、LGBTQ関係なく全般的に該当する事項もあります。

被害者として自覚できるように、または加害者にならないために…。

※この記事には私の経験則の知見も入っています。ここに掲載されていることが必ず正しいもしくは推奨されるという意味ではありません。参考のひとつ程度として扱ってください。ハラスメントの内容によっては警察に相談することが望ましいケースもあります。
この記事にはLGBTQ差別の言説が多く掲載されています。ご注意ください。

オンラインハラスメントの基本的な特徴

オンライン・ハラスメントにはだいたい以下の基本的な特徴があります。

  • 標的を定めている
  • 威圧的・高圧的
  • しつこい
  • 正体がわからない

まず、特定のターゲットを定めていることが多いです。「コイツを狙う」と決め、威圧的で攻撃性のある行為を向けてきます。そして、その行為はターゲットに対して執拗に向けられ、1回では済みません。また、そのハラスメントをする側は匿名で正体がわからないことが頻出し、これがハラスメント被害者をさらに不安と恐怖で追い詰めることになります。場合によっては実名をだしている加害者もいますが、そういう人は著名人としてハラスメントの犬笛役になったりします。

オンラインハラスメントの動機は個々で異なります。嘲笑など遊び半分で行われる場合もあれば、差別など明確な攻撃意図をともなう場合もあれば、「相手を許したくない」「言動が気に入らない」という自己中心的な恨み感情で動いている場合もあります。

LGBTQ当事者にオンライン・ハラスメントするのは、LGBTQの外の人間とは限りません。LGBTQコミュニティ内からハラスメントを受けることさえあります。加害者は「反LGBTQ」だけでなく、他のマイノリティを認めない、もしくは当事者の言動を監視・支配しようとする「有害なLGBTQ当事者」もいます。

ハラスメントの手段

ここからはオンライン・ハラスメントで用いられやすい手段を整理しています。

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ドクシング(ドキシング)

「ドクシング(doxing / doxxing)」とは、同意なしに対象の個人情報を晒し上げる行為です。氏名や住所、電話番号、写真、SMSのやりとりなどの個人情報をインターネットなどで公開したりしてきます。特定の内部資料や過去のSNS投稿をかき集めて、勝手に編集を加えてまとめたり、情報を曲解して公開し、印象操作するケースもあります。

例:WPATH Files(WPATHファイル)(Erin In The Morning
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ストーキング

オンラインにおける「ストーキング」とは、対象にネット上で執拗につきまとう行為です。ストーキングを行う加害者は「ストーカー」と呼ばれます。例えば、オンライン上の発言を収集したり、SNSのアカウントに張り付いてしつこくリポストや返信でコメントを残したりします。マンスプレイニングやガスライティングなどの構図をともなうことがあります。オンラインにおけるストーキングは現実社会でのストーキングに発展するケースもありえます。

例:「早くこっちの質問に答えてみせろ!対応しろ!」
例:「そっちが間違っているんだ!」
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トローリング

オンライン・ハラスメントを行う加害者の中には相手の反応を引き出そうと狙う者もいて、そういう人を「トロール」といい、その行為を「トローリング」と呼びます。反応を引き出すために意図的に他人を挑発したり気分を害したりする行為すべてを指します。ミスジェンダリングやデッドネーミング、論争的な話題をあえて吹っ掛けるなどです。

例:「要するに身体的には男なんですよね?」
例:「ペドフィリアについてどう思っているんですか!」
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オンライン突撃(凸)

対象に直接コンタクトできる電話番号、メールアドレス、ダイレクトメッセージ、お問い合わせフォームなどに一斉にアクセスする行為は、「突撃」を意味する「凸」としてネット・スラングで呼ばれたりもします。これにより対象の許容量をオーバーさせ、平常の業務や日常を妨害します。

オンライン上の突撃行為は、犬笛を行う強力な扇動者にとって誘発されることもあります。狙い目となる人物のアカウントなどをリスト化して、オンライン上で共有するケースもあります。この場合、現実社会で爆破予告や放火・暴力事件などを招く事例もあり、「確率的テロリズム」と呼ばれています。

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なりすまし

実際とは異なる人物や組織に偽装してなりすます行為です。著名人や有名アカウントになりすますケースもあれば、LGBTQ権利運動を支持しているように見せかけ、コミュニティの合意のないもしくは不埒な際立った発言をしたりして信用性を落とそうと企む者もいます。そういう場合、「#トランス差別に反対します」などとプロフィールに書いてあるだけだったり、素性が読めない表面だけのアカウントも珍しくありません。

また、LGBTQに関する当事者団体や科学組織を装うこともあります。この場合は、往々にして反LGBTQ勢力と繋がりがみられます。

ハラスメントのレトリック

ここからはオンライン・ハラスメントで用いられやすい話術的な手口を整理しています。

ハラスメントにおいて、明らかに誹謗中傷に該当するレトリックは今回は取り上げません。例えば、殺害予告脅迫特定の差別蔑視用語トーンポリシング(態度・服装・容姿などへの言及)”言っていない”ことを勝手な解釈で”言った”ことにする曲解「活動家」といった言葉を不信感を与えるために使用すること「病気だ」「日本から出ていけ」「利権だ」「行き過ぎた過激なイデオロギーだ」といった表現などです。

以下では、一見すると無害そうにみえるアプローチでの語り口が、オンライン・ハラスメントになりうるという事例を紹介しています。

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「友達になりましょう」

LGBTQ当事者にとって信頼できる友人ができるのは嬉しいと考える人も少なくないでしょう。しかし、「友達になりましょう」というオンライン上の声かけがどこまで信用できるのかはわかりにくいです。

残念ながら「友達になろう」と声をかけて、より親密な繋がりを獲得してから、オンライン・ハラスメントに転換する悪意のある人物も世の中にはいます。ナンパ的なつきまといはLGBTQコミュニティ内でも生じます。

友達を作らない人は嫌われるのでは?……と考えてしまう人もいるでしょう。でも大丈夫です。

当事者それぞれで、どれくらい人と繋がりたいかは違います。多くの繋がりを持っている人が正しいというわけではありません。自分のペースで人間関係を構築していいです。オンライン上で人間関係に疲れた時は、あなたのやりたいように関係性を制限しても問題ありません。

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「支援しますよ」

LGBTQ支援団体は日本でもかなりの数が各地で活動するようになり始めました。当事者にとって頼もしい味方です。しかし、支援や当事者団体を装っているだけの存在もわずかにいるのが現実です。

日本国内では、一見すると当事者団体に見えつつ、実は有名なカルトと接点がある組織も確認されています。保守的勢力と繋がりのある差別主義的な当事者団体もいくつか活動しています。そうした組織は、オンライン上のほうが活発に活動しているケースも多いです(オンラインにしか実体がない場合も)。

本当に支援してくれる人/団体だったらどうするの?…と考えてしまう人もいるでしょう。でも大丈夫です。

当事者心理を熟知している支援団体や支援者は、むやみやたらに当事者に接触してきません。なぜなら「当事者は他人不信になっている人も珍しくなく、恐怖や不安を与えかねない」とわかっているからです。適切な支援団体や支援者は当事者側の意思でアクセスしやすいように入り口のハードルをなるべく下げて待ってくれています。

信頼できる支援団体や当事者団体を見つけたいときは、大手メディアや専門家によって複数情報源で紹介されていることが確認できる組織を目安にするのもひとつです。

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「議論しましょう」

LGBTQに関わるトピックは議論の題材にされやすく、オンライン上でも頻繁にそうした議論は起きています。こうした議論は有益なこともあれば、有害なこともあります。

当事者に対して「議論しましょう」「対話してみませんか」と呼びかける行為は、反LGBTQ勢力が好んで利用する手口です。そうやって同じ土俵に上がらせ、見世物にしたり、イジメの場に引きずり込んだりしてきます。一見するとフェアな「賛否」を問うものでも、それは実際はフェアでもなんでもなく、加害側に有利なことがあります。

こういう議論に参加できないと仲間外れにされない?…と考えてしまう人もいるでしょう。でも大丈夫です。

議論に参加しなくても、あなたの正当性は何も疑われるようなものではありません。

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「素朴な疑問なのですが…」

誰でも疑問を持つのは悪いことではありません。自然なことです。しかし、それを悪用してくるのが、反LGBTQ勢力の陰湿なところです。

「素朴な疑問なのですけど…」「少しわからないことがあるのですが…」と前置きし、当事者を質問攻めにしたり、そもそも前提が間違っている質問をぶつけてきます。そうやって当事者を疲弊させ、回答の粗探しをして、さらに質問で苦しめます。揚げ足取りのような疑問に時間を無駄にさせます。これは反LGBTQのいつもの手口です朝日新聞

質問に答えられないと当事者として失格にならない?…と考えてしまう人もいるでしょう。でも大丈夫です。

どんな質問にも応答する必要はありません。当事者には「説明する義務」や「証明する義務」なんてものはないです。

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「取材させてください」

当事者を取材しようと考えて接触を試みるメディア関係者はいるでしょう。当事者に話を聞きたいのはリアルを知りたいからという姿勢の現れかもしれません。しかし、当事者にとってそれが必ずしも良い体験になるとは限りません。

当事者の苦労や負担を理解していない取材の試みは逆に当事者を追い詰めかねません。取材から上記の「議論しましょう」や「素朴な疑問なのですが…」という方向へ移ってしまうこともよくあります。中には、しつこく取材を申し込んでくる人もいます。

取材を無下に断るのはLGBTQを理解してもらうせっかくの機会を捨てることにならない?…と考えてしまう人もいるでしょう。でも大丈夫です。

一般の当事者がそんな重い責任を負う必要は一切ありません。世の中には取材に慣れている専門家の人もいます。そちらのほうがはるかに適切です。

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「当事者なら○○だ」

前述したとおり、LGBTQコミュニティ内でもオンライン・ハラスメントは起きます。

よく起きるのは、当事者が他の当事者に自己の信じる模範や型を押し付けようとする行為です。例えば、「ゲイならみんなこの話が好きだろ?」「レズビアンというのはこう振る舞うべきだよね」「トランスジェンダーなら迷惑をかけるべきではない」「ノンバイナリーらしい格好をしなさい」「アセクシュアルなんてマイノリティといえるの?」など。これらはエリート主義が前提にあったりします。

また、当事者であっても差別問題や連帯への理解度やコミットはまちまちです。学んでいる最中かもしれません。経済的事情やディサビリティの理由で関与が難しいかもしれません。身の危険がある人もいます。権利運動にはみんな自由に参加できるわけではないです。そうした個々の立場を無視し、最初から「すべての差別に反対してみせろ」「プライドパレードに参加しないとダメだ」「当事者ならこれくらいの知識を持つべきです」などと完璧を一方的に要求するのは、平等を目指す姿勢とはむしろ言えません。LGBTQコミュニティには学びを助ける味方がいると頼もしいですし、率先して権利運動に尽力する人は尊敬されますが、焦らせ怯えさせる人は有害でしょう。

このようにLGBTQコミュニティ内で特定の模範に従っているかを威圧的に監視し合うことは「ポリシング(policing)」と呼ばれたりもします。

同じ当事者の話は聞くべきだよね?…と考えてしまう人もいるでしょう。でも大丈夫です。

当事者と言っても人それぞれ違います。同じラベルを使っていても、そのありようは個人で異なるものです。まずは自分を一番に大切にしてください。

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「○○差別です」

「それが差別であることを指摘すること」は平等な社会を築くうえで大切なことです。一方で、そのやり方しだいでは、それ自体がハラスメントになってしまいかねないこともあります。

その厄介な背景として、反LGBTQ勢力の間でLGBTQ当事者の存在や言動に対して「○○差別です」とぶつける行為がバックラッシュの常套手段として普及していることが挙げられます。「○○」に入る言葉は何でもいいです(例:女性差別、障がい者差別、ペドフィリア差別…などなど)。これは「反差別」を掲げる人に対して「ほら、そっちも差別しているじゃないか」と難癖をつけ、信用性を失わせる狙いがあります。その動機にはデマ、情報の曲解、陰謀論などがあったりします。そして「差別を指摘する行為」を「ただの大きい声を上げた方が勝ち」という論破のようなものとして幼稚化し、権利運動自体の世論の印象を骨抜きにしようとしてきます。

困ったことに「○○差別です」と指摘されても、それがとくに匿名の人からの指摘だと、その人が適切に差別構造を理解したうえで行動しているのか、誤解なのか、反LGBTQが正体なのか、ひとめではわかりません。だからこそハラスメントとして機能してしまいます。

もし本当に自分が差別をしてしまっていてそれを教えてくれていたら?…と考えてしまう人もいるでしょう。でも大丈夫です。

匿名の正体不明の人たちからの「○○差別です」に依存せずとも、自分が差別しているかどうかを自覚する手段はいくらでもあります。信頼できる情報源と専門家の手を借りればいいのです。匿名の意見に翻弄されるくらいなら、差別問題を扱った本などをゆっくり読む時間にあてるほうが何倍も価値があります。


上記のアプローチを一切やってはいけないということではありません。ただし、上記の言動をたとえ善意のつもりでも匿名でやってしまっている人は、当事者にとってはそれがオンライン・ハラスメントと区別できないケースがあるということに、じゅうぶんに留意してください。「ハラスメントをしない」ためには何よりも相手がどういう構造の中に立っているのかを認識しないといけません。

オンラインハラスメントの対処

オンライン・ハラスメントの被害を受けた場合、必ず有効な対処はないので、難しい状況に陥ることが多いです。以下の対処は選択肢のいくつかですが、完全な防御や防止は期待できないかもしれません。

  • 無視する
  • 個人情報を掲載しない
  • ミュートやブロック
  • SNSの表示制限
  • SNSの通報機能を利用する
LGBTQへのオンライン・ハラスメントで使われやすい固有の単語をSNSなどでミュートにすると、ハラスメントを低減できることがあります。ただし、一部の悪意のないコメントも表示されなくなる可能性もあります。自分にとってどちらが有益かを考えて実行してみてください。

対処するのは申し訳ない」「失礼なんじゃないか」「嫌な奴だと思われると躊躇することはありません。「ハラスメントみたいなことをされてしまった…。私の考えすぎかな? 私が悪いのかな?と自分を卑下しなくてもいいです。ハラスメントを受けた側が悪いかのように扱われ、必要以上に説明を要求され、それが余計に苦しい状況を生むことは多々あります。

オンライン・ハラスメントは人権侵害です。オンライン・ハラスメントは人の命を奪うこともある、間接的な殺人です。大袈裟ではなく、即断即決で対処していいのです。あなたの命を守ることが最優先です。

オンライン・ハラスメントに苦しんでいる人へ。あなたが完璧である必要はありません。あなたが存在するだけでじゅうぶんです。