2021年のフランスに新生ルパンが華麗に出没…ドラマシリーズ『LUPIN ルパン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:フランス(2021年)
シーズン1:2021年にNetflixで配信
原案:ジョージ・ケイ、フランソワ・ウザン
LUPIN ルパン
るぱん
『LUPIN ルパン』あらすじ
ひとりの男はある目的のために華麗な手口で行動に出る。自分の愛する父を罠に陥れた裕福な存在に仕返しをする…それは失敗できない人生を賭けた勝負だった。相手は芸術への貢献でメディアでも話題。そんな注目を集める中で、男は堂々と盗みを成功させる。警察さえも巧みに翻弄し、見た目を変幻自在に誤魔化し、正体を隠す。フランスの小説家モーリス・ルブランが発表した推理小説「アルセーヌ・ルパン」のように…。
『LUPIN ルパン』感想(ネタバレなし)
またもルパンはあなたの心を盗む
日本では「ルパン」と言えば、大半の人は「ルパン三世」を思い浮かべてしまうのですが、無論、オリジナルは1905年からフランスの小説家であるモーリス・ルブランが発表した推理小説「アルセーヌ・ルパン」シリーズです。
私は恥ずかしながらこのモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパン」シリーズをちゃんと読んだことがなくて、割と最近になってじっくり読書したのですが…めちゃくちゃ面白かった…。これは1900年代初期の人たちがドハマりするのも頷けます。私がその時代に子どもとして生きてたら、絶対に将来の夢は「ルパン!」って答えてましたよ。
神出鬼没の怪盗紳士こと主人公であるアルセーヌ・ルパンを含めた登場人物たちが魅力的なのはもちろんのこと、しっかりミステリーやサスペンスとして丁寧に作られているんですね。荒唐無稽なトリックもあるのですが、このルパンならやりかねないという説得力があって、グイグイと引き込まれます。
また、歴史ロマンみたいな側面もあって、いろいろな歴史的アイテムが登場しながら物語が綴られていくのがまた学術的好奇心をくすぐるのも心地よく、そこにフランスらしさがあったり…。
今も世界中の多くの人々に愛され続けている「アルセーヌ・ルパン」シリーズ。
そんな名作への愛をたっぷり込めつつ、華麗に現代アレンジされて2021年のフランスに蘇った作品が出没しました。それが本作『LUPIN ルパン』です。
本作は2021年からNetflixで配信されたフランスのドラマシリーズなのですが、配信されるや否や話題沸騰となり、瞬く間に「非英語圏の作品」として最高の視聴者数を記録。新たなルパンが大衆の心を掴んだのです。
正直、これはなかなか難しいことだと思います。原作が伝説的な支持を持っていますからね。熱心なファンの厳しい批評もあります。それでもこの『LUPIN ルパン』が成功できたのはなぜか。
それは簡単に言ってしまうと「こういうルパンを求めていた!」という社会の需要にバシっと答えられたからなんだと思います。単なるノスタルジーやブランドに頼っているわけではないのです。今のルパンだったらこうこないとね!というツボを押さえている。そこがこの『LUPIN ルパン』の良さです。詳細は後半の感想で…。
といっても主人公はルパン本人ではないのです。あの「アルセーヌ・ルパン」シリーズにベタ惚れしてるマニアな男であり、ファンがルパンになっている…そこもファン冥利に尽きますよね。
その新生したルパンを演じるのは、フランスの俳優である“オマール・シー”。日本でも話題となった『最強のふたり』(2011年)が有名ですが、この『LUPIN ルパン』、間違いなく今後の“オマール・シー”の新たな代表作になりましたね。
原案&脚本を務めるのは、ドラマ『キリング・イヴ』の脚本も手がけた“ジョージ・ケイ”。
『LUPIN ルパン』は配信が変則的で、シーズンではなく最初に「パート1」として全5話が配信され、しばらくして「パート2」としてさらに全5話が配信されています。パート1とパート2合わせて全10話(各話約40~50分)。この2つのパートで大きな物語がひととおり完結します。
作中では「アルセーヌ・ルパン」シリーズへのオマージュが隙間なく満載されており、ファンであればニヤリとできる仕掛けが盛りだくさん。中には日本の「ルパン三世」への目配せもあって、相当に細かくできています。何よりも“ルパンらしさ”を誇りにしている佇まいがいいですね。
マニアックなファンの人も、ルパンをよく知らない人も、敷居が低くてそれでいてどっぷりと満喫できる、最高のシリーズになるでしょう。子どもでも観られる内容なので安心してください。
オススメ度のチェック
ひとり | :観やすいシリーズ |
友人 | :ファン同士で語り合う |
恋人 | :ロマンスもある |
キッズ | :社会のために盗むのです |
『LUPIN ルパン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):俺はルパンだ
ルーヴル美術館の裏の専用入り口から入っていく従業員たち。厳重な手荷物検査を通り、ひとりの男はIDカードをかざします。「ルイス・ペレンナ」という名の清掃員として中へ。ロッカーで服を着替え、清掃道具を手に、いつもの仕事をします。実はいつもの仕事ではないのですが…。
モナリザの絵を意味深に見つめるその男、次にマリー・アントワネットの首飾りに注目。2000万以上の価値があるとかで、後にこの会場で開催されるオークションに出される予定の品です。
別の日。その男は「アサン・ディオプ」とある女性に呼ばれていました。その女性、クレールは元恋人で、彼女には仕事を見つけたと報告し、息子に会いたいという想いを伝えます。「これからは変わる」と前向きな発言をして…。
その後、アサンはヴァンサンという街のギャングのもとを訪れ、カネを出せとベランダで脅されます。そこでカネをがっぽり稼げる提案を持ちかけます。
オークションの夜。アサンは「ポール・セルニーヌ」の名前で正装で参加。会場では一番の注目の品、例の首飾りが話題に出され、この首飾りはペレグリニ家が購入しましたが25年前に盗まれたという経緯が説明されます。
そして、現在の所有者であるジュリエット・ペレグリニという女性が登壇。アサンが意味深い彼女を見つめます。実はアサンは子ども時代からジュリエットと顔見知りでした。アサンの父親のババカール・ディオプはペレグリニ家で召使として働いており、家主のユベール・ペレグリニに雇われ、その妻のアンヌ・ペレグリニとも親しかったのです。
目玉である首飾りのオークションは過熱。アサンは3300万を提示、さらに6000万を一気に提示して決着をつけます。その間にあのギャングたちが従業員を装って侵入。首飾りを盗む準備を開始し出します。
アサンは正規で競り落とした首飾りを見せてもらい、触ります。その瞬間に襲撃者が。アサンから首飾りを奪い、そいつらは逃走。しかし、逃走車両は事故を起こし、窃盗犯は無事に逮捕。首飾りも戻ってきて、現場に駆け付けた警察も安心。アサンは颯爽と美術館を後にしてきました。警官のひとりであるユセフ・ゲディラが、これはアルセーヌ・ルパンの小説に似ていると上司の警部ロマン・ロジエに伝えますが気にされることはなく…。
これは全てアサンが仕組んだことでした。2週間前。首飾りが久しぶりに発見されたというニュースを耳にします。その首飾りはペレグリニ家で働いた父が盗んだということで父は逮捕され、刑務所で自殺をしていたのです。これはその復讐。本物は奪われた隙にゴミ箱に放り込み、襲撃者には偽物を掴ませていました。あのギャングも騙していたのです。後はアサンはトイレで清掃員に着替え、そのゴミ袋を持って外へ。美術館を出れば億万長者。彼は誰にも気づかれずに達成したのでした。
ゲディラだけがポール・セルニーヌの文字はアルセーヌ・ルパンの並び替えだと気づきます。
アサンは息子のラウールのもとへ。自分が子どもの頃に父からもらったルパンの本をあげます。
「俺はルパン」
これはそんな男の華麗な復讐の始まり…。
このルパンがフランスで歓迎される理由
本作『LUPIN ルパン』は主人公がセネガル出身の黒人ということになっています。だからといってアフリカ系のキャスティングをしたから人気が出た…みたいな、そんなわけありません。この主人公設定が非常に現代社会で大きな意味を持ち、この主人公をルパンたらしめているものなのです。
言ってみれば最近の映画だと2019年の『レ・ミゼラブル』と同じ。あちらも古典的名作を大胆にアレンジしたことで話題となりました。
『LUPIN ルパン』が同様なのは、フランスという社会における格差、富裕層と労働層(移民階級)の置かれている現状の違い、その残酷さを物語の主要な背景として活用していることです。
作中のアサンも子どもの頃から無自覚な差別に晒されてきました。あのジュリエットさえも初対面時の「泳げたらキスしてあげる」という誘いも一見するとエロティックな少年期の思い出に映りますが、その内実には見下しが潜んでいます。そういう富裕層の掌の上で媚を売って生きるしかなかった移民の辛さ。そしてアサンの父が捨て駒として利用され…。
これがどう大事なのかというと、ルパンに欠かせない義賊としての立ち位置を明確にするからです。つまり、今回のルパンはこういう人たちの味方なんだということ。
今のフランスはまさにこの格差に直面し、悲痛な声があがっています。ペレグリニ(わん!)はあくまでその搾取する側の象徴。アサンは代弁者です。
移民であれ労働者階級であれ、普段はコソ泥として犯罪者扱いされがちな存在が、実は才能を有しており、その学識を巧みに用いて上位者の世界を欺く…これほど今のフランスに不満を抱く人たちがスカっとする話はないでしょう。
シーズン1(パート1&パート2):登場人物の魅力
『LUPIN ルパン』は登場人物たちがとにかく魅力的。
まずは何と言っても主人公のアサンです。“オマール・シー”らしいチャーミングさ、それが紳士としてのキャラクターに見事にマッチしている。完璧なハマり役でした。
そのアサンの少年時代からの相棒であるバンジャマン・フェレル。今は宝石商をしているようですが、この彼とのブロマンスがまたたまらない。ちゃっかりバンジャマンに恋愛のお相手を用意していないのもわかってる、この製作陣。ちょっと『007 スカイフォール』のQとの関係を彷彿とさせる感じですね。
ここに間接的に加わるのが刑事のゲディラ。警察の中では周囲がドン引きするルパン・オタク。ちなみにゲディラのオタクっぷりに呆れる同僚のソフィア・ベルカセムを演じている“シリーヌ・ブテラ”はあの“ソフィア・ブテラ”の従姉なんだそうです。話を戻すとこのゲティラとアサンのオタクとしての通じ合いもいいですね。
そこに終盤に加わる金融専門家を装うフィリップ・クールベ。どことなくこれまでにない佇まいですが、フィリップもルパンのオタク。つまり、本作はルパン・マニアたちがオタクの連帯でルパンをコケにする連中に一矢報いる話でもあり、これはもうオタク心をわかっている人はアガってしまいますね。
一方、アサンはルパンらしく女性関係も多めなのですが、その中心的人物であるクレールとジュリエットの2人。対極的で生活環境も全然違う女性像です。片やシングルマザー平民、片や富裕層のお嬢様。でもどちらも自立しようという心意気に溢れ、アサンもそんな女性を後押しする。そのフェアな姿勢が現代のジェンダー観の需要にも答えていました。ジャーナリストのファビエンヌ・ベリオやアンヌ・ペレグリニ(わん!)など古き男社会に酷使されて擦り減ってしまった女性たちも描きつつ…。
シーズン1(パート1&パート2):ストーリー&ロケーション
『LUPIN ルパン』はストーリーも良かったです。とくにロケーションを意識して、フランスを余すところなく展開していく贅沢さがいいですね。ちょっと定番すぎる部分もあるのですが、むしろそこがいい。
王道でルーヴル美術館に始まり、ルパンの聖地エトルタでルパンを愛する者同士が交錯し、後半はカタコンベでまさに窮地から這い上がり、そして最後はシャトレ座。計算された見事なルートです。
そんなフランスの歴史的な旅路を見せながら、アサンの用いるテクニックは極めて現代的で、ドローン、ディープフェイク、ギグワーカー配達員まで何でも使う。このギャップがまた良かったりします。なのに最後はしっかり古典的な方法でシャトレ座の内部に潜入しますからね。
最後はバンジャマンとフィリップがルパン三世の愛車でおなじみの「黄色いフィアット500」に乗ってどこかへ消えていくというオマケもまさかのサービスでした。
パート3も制作するとのことですが、これだけ完成度が高いと次は何をするのだろうか。またフランス国内で華麗に飛び回るのか、それとも世界に飛び出すのか。原作はまだまだ魅力いっぱいのものが無数にありますから、原作愛はいくらでもエネルギーになってくれるでしょう。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 97% Audience 77%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Gaumont Television
以上、『LUPIN ルパン』の感想でした。
Lupin (2021) [Japanese Review] 『LUPIN ルパン』考察・評価レビュー