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映画『エゴイスト』感想(ネタバレ)…謝りすぎるゲイとケアが下手なゲイ

エゴイスト

謝りすぎるゲイとケアが下手なゲイ…映画『エゴイスト』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Egoist
製作国:日本(2022年)
日本公開日:2023年2月10日
監督:松永大司
自死・自傷描写 LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写
エゴイスト

えごいすと
『エゴイスト』のポスター。2人の男性が裸でキスして抱き合う姿を映したデザイン。

『エゴイスト』物語 簡単紹介

東京の都会でファッション雑誌の編集者として働いている斉藤浩輔は、おカネも稼いでそれなりに豊かな生活を送り、プライベートでは同じゲイの仲間たちと飲み交わしてお喋りを楽しみ、充実して生きていた。しかし、恋人だけはいなかった。ある日、母を支えながら地道に暮らすパーソナルトレーナーの中村龍太と出会う。2人は惹かれ合い、性的な関係を結んでいくが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『エゴイスト』の感想です。

『エゴイスト』感想(ネタバレなし)

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変わりそうで変わらない2020年代の日本で…

日本で同性婚の法制化に向けて活動する「Marriage For All Japan」によれば、2024年は「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)で札幌、東京、福岡の3つの高裁判決が出され、明確に違憲と判断されました。

同性婚も異性婚と同じ婚姻制度を適用することを含め、早急な対応が望まれると司法の場で指摘されています。もはや明白です。結婚する機会は平等に与えられるべきであり、それは社会が保障しないといけません。「そんなに結婚にこだわるの?」とか、「パートナーシップ制度じゃダメなの?」とか、そういう話は論外です。「どうして平等にさせたくないの?」という話です。

しかし、2025年になっても少数与党だかなんだか知りませんが、日本の現政権は同性結婚に向き合おうとしません。ただ幸せになりたいだけの人を踏みにじり続けています。

同性愛について2020年代の日本は間違いなく転換点の時期です。そうなってくるとこの時期に作られる同性愛を主題にした映画で何が描かれるのか…そういうところも大切だと思います。映画は社会を映す鏡。では何を映すでしょうか。

この2022年に東京国際映画祭で上映され、2023年2月に一般劇場公開された『エゴイスト』はどうだっただろうかという振り返りもかねての感想が今回の記事です。

『エゴイスト』は、『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』でデビューして、『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』で話題になったエッセイストの“高山真”が2012年に執筆した自伝的小説が原作。2020年に亡くなったのですが、没後に映画化されるかたちになりました。

物語は、ひとりのゲイ男性を主人公にしており、東京の大都会でバリバリと働きまくる雑誌編集者なのですが、その仕事一筋だった男がある青年と出会い、他人事にはできない特別な感情を抱き、性的関係を重ねていく…というだいたいはそんな導入です。

ゲイ・ロマンスですが、双方の家族の物語も交差しながら、エモーショナルなドラマが展開していきます。

『エゴイスト』で主演を務めたのは“鈴木亮平”で、今作での演技が高く評価され、その年にはいろいろ受賞していました。これまで『俺物語!!』でのコミカルな演技から、『孤狼の血 LEVEL2』での凶悪な演技まで、器用に演じ分けられる俳優としての実力をあちこちで証明していましたが、『エゴイスト』ではその“鈴木亮平”の演技がより繊細に味わえます。

そして“鈴木亮平”の相手となるパートナー役を演じるのは、『ムーンライト・シャドウ』『レジェンド&バタフライ』などで活躍する若手の“宮沢氷魚”。映画で初めて主演を務めたのがゲイ・ロマンスを描いた『his』(2020年)だったので、今回の同性愛者の役柄もなんだか既視感がありますが…。

映画『エゴイスト』を監督するのは、『トイレのピエタ』(2015年)、『ハナレイ・ベイ』(2018年)、『Pure Japanese』(2022年)と作品を重ねている“松永大司”

まだ観ていない人で、興味があるなら『エゴイスト』をぜひどうぞ。

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『エゴイスト』を観る前のQ&A

✔『エゴイスト』の見どころ
★主演2人の俳優の感情豊かな演技の重なり。
✔『エゴイスト』の欠点
☆ゲイやセックスワーカーの表象としては展開はややありきたり。

鑑賞の案内チェック

基本 同性愛者に対する差別や偏見の描写があります。ゲイ当事者の苦悩が描かれ、重たく悲劇的な展開もあるので注意です。直接的で明白な描写ではないですが、自死の解釈を可能とする展開も含まれます。
キッズ 2.0
性行為の描写が含まれます。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『エゴイスト』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

東京の大都会ででファッション雑誌の編集者を務める斉藤浩輔。今はスタジオでモデルの写真撮影の現場に立ち会っています。手際よくカメラのシャッターが切られる中、斉藤浩輔はモデルの女性の写真の数々をチェックし、親しみやすい態度でコメント。職場でもすっかり打ち解けて馴染んでいます。

そのファッションもビシっと決まっている斉藤浩輔にはもうひとつの顔がありました。

仕事が終わり、向かったのはいつもの仲間と飲みです。この仲間たちはゲイとして体験を共有する男たちでした。飲み屋で気兼ねなく会話をします。みんなお喋りで、気楽そうです。

その中で、あるひとりは婚姻届をもらってカレシとそれを書いて日本では同性では法的に結婚できないので壁に貼ったというエピソードを楽しそうに喋っています。

恋人のいない斉藤は出会いのきっかけの話題をとおして、パーソナルトレーナーで良い若い子がいるという話をされます。その情報を気軽に頭に留めておきます。

18歳で東京にでた斉藤にとって、故郷の田舎には良い思い出はありません。それでもたまには実家に戻ります。この日は母の命日でした。

仏壇に手をあわせていると、高齢になった父から「お前もそろそろいい年なんだし、いい人はいないのか。子どもの顔を母さんも見たいだろうし」と呟かれます。それに対して斉藤は「いい人がいればね」とあっさり流します。

例の教えてもらったパーソナルトレーナーにお願いすることにし、さっそくトレーニングの場に向かいます。やってきたのは中村龍太という若い青年でした。

中村は斉藤の体を支え、ストレッチをサポート。「綺麗な顔をしてるね」と斉藤は感想を漏らします。汗を流した後、喫茶店で食事のアドバイスをしてもらいます。

そのときに彼の事情もさりげなく聞きます。なんでも中村は高校中退の母子家庭で生活は苦しく、バイトもしているようです。今も母と同居していて、稼ぎは母のためでもありました。その健気な姿勢を斉藤は褒めます。それでも今回の食事代は自分が払うと中村は言い張り、その初々しい姿に斉藤はまた惹かれるのでした。

いつものゲイ仲間の飲み会で、パーソナルトレーナーの中村龍太について「可愛かった」と所感を語り、少し上機嫌な斉藤。食べた品目を「彼が傷つかないために」ということで嘘も交えて報告し、仲間にはそんな態度を揶揄われます。

その後も斉藤は中村を気にかけ、関係を深めていきます。帰り際、中村は斉藤の唇に軽くキスし、去ろうとしました。

そのままマンションの家に誘うと、中村からキス。斉藤は体を重ねて快感を味わいます。この斉藤の部屋は広々としており、何着もの服もあり、斉藤の生活感がでていました。中村は物珍しそうに見渡します。

「龍太と呼んでください」と家からでる際に中村は口にし、「浩輔さん」とあちらも呼んでくれます。斉藤はベランダで見送り、大切な時間の余韻を感じます。

以降、2人の性関係は続き、斉藤は中村の母へのプレゼントを毎度渡していました。最初は遠慮していた中村でしたが、斉藤のビジネスで培った押しの姿勢にすっかり身を任せていました。

ところが、その中村から「もう会いたくない」と突然言われます。意味が分からずに困惑して立っていると、中村はその理由をたどたどしく説明し…。

この『エゴイスト』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/02/24に更新されています。
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身勝手や独占欲にみえるのは…

ここから『エゴイスト』のネタバレありの感想本文です。

『エゴイスト』の主人公である斉藤浩輔は、少なくとも現在はあらゆる点で恵まれているようにみえます。

キャリア一筋で順調に仕事をこなし、ブランド服で身を固め、生活は安定していて裕福そうです。おカネを持て余してそうですらあります。

人間関係も充実しており、職場では同業者ともフレンドリーで、何よりもゲイとして自由にさらけだせる友人もたくさんいます。職場でも性的指向をオープンにしているのかはよくわかりませんが、公にしていてもわりと受け入れてくれそうな雰囲気です。

斉藤浩輔はとにかくこの対人関係が同僚であろうと友人であろうと常に物腰柔らかで、一見すると有害さを全然感じさせません。

とは言え、きっとこの振る舞いは、14歳で母が亡くなり、故郷で10代の頃に酷い差別を受けてきた体験ゆえの、斉藤浩輔なりの事を荒立てないことによる生存方法だったのだろうなと察することもできます。こういう性的マイノリティ当事者の体験が人生に染み込んでいるキャラクター像になっているのはいいですね。

その斉藤浩輔はパーソナルトレーニングを依頼するかたちで中村龍太と知り合います。あからさまに恋愛目当ての接触で、最初からガンガン攻めて、かなりあっさり関係を築けます。斉藤浩輔の仕事で磨いたコミュニケーションの力でしょうか。

この前半は本当にロマンチックで、斉藤浩輔は中村龍太を溺愛していると言っても過言ではないほどに熱中します。

一方で、斉藤浩輔のほうがはるかに経済的余裕があるので、中村龍太との立場は格差がどうしても生じます。そんな中、斉藤浩輔は中村龍太の母を支援するということで、やたらとプレゼントを与えます。これは斉藤浩輔が早くに母を亡くした経験に根付く「母に何か奉公したい」という感情なのでしょう。

さらに中村龍太がいわゆるウリセン(男性同性愛者向けの性風俗サービス)であると知り、距離をとりたがる彼になおも接触を試み、「専属の客になる、買ってあげる」とまで言い切ります。

この言動はいささか介入しすぎで、人によっては身勝手であり、また独占欲にも思えます。

しかし、留意してほしいのは、2人はゲイであり、現時点で日本では結婚できないということ。もしこれが異性カップルなら、結婚すれば財産が共有されますので、比較的支障なくパートナーやその片方の親の経済支援も実行できます。その場合、「支援」なんて言い方すらしないですし、違和感を持たれる話ではないでしょう。今回、斉藤浩輔の行動が特異にみえるのは、社会制度からこぼれ落ちているという面も大きいという点は無視できません。

加えて、中村龍太のような母子家庭の支援だって本来は社会が担うべきなのに…。

『エゴイスト』という映画が現実社会のどんな現実を映しているのかと考えれば、そういう特定の当事者を自己責任のもとに追い込んでしまう残酷さだと思います。エゴイストなのではなく、エゴイストにさせられてしまう。謝るしかできなくさせる。それはとても恐ろしい目に見えづらい暴力です。

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ケアが下手なゲイ

『エゴイスト』は親密な男性同士の関係性がじっくり描かれる前半パートや、上記の社会から疎外された特定の人たち(ゲイや貧困)の心理の描写は良かったです。

ただ、個人的には物語全体の大枠として中盤以降から起きる展開は、表象としてはステレオタイプに終わってしまった印象を受けました。

それは中村龍太の死です。死因は映画内では過労死とも自殺ともとれる曖昧な扱いに留めています。

どちらにせよ突然のショッキングな喪失感が斉藤浩輔にも観客にも舞い込んできます。

一応、前もって書いておきますけど、この死が不自然だとかそういう話ではありません。レプリゼンテーションの問題点で気になるところがあるという話です。

まずこのようにゲイのキャラクターに悲劇的な顛末が待ち受け、ショッキングさを与える仕掛けにプロット上で使われるのは俗に「Bury Your Gays」と呼ばれるステレオタイプな表象として分類されてもいます。

しかも、中村龍太は母に性的指向が気づかれた後に死亡しており、性的マイノリティにおける典型的な悲劇のオチです。

それだけでなく、中村龍太はセックスワーカーでもあり、セックスワーカーの表象においてもステレオタイプな悲劇でした。仕事を後ろめたいと思っている発言もあり、本作ではほぼこの職業のアイデンティティが正当に評価されません。

私はそれらの表象の問題に加え、後半は中村龍太の母との母との関係性に焦点が偏りすぎているのもちょっとなと感じました。母親のケアの役割を強調させている感じがあったかな、と。

願望を言うなら、もっと作中の斉藤浩輔のゲイ仲間を活かしてほしかったところです。せっかくいるんですからね。ここは『老ナルキソス』が上手くやってみせていたのですが、『エゴイスト』はゲイ仲間がゲイっぽい空気を演出するためのプロットの背景にすぎないんですね。終盤は自責の念にかられる斉藤浩輔に「飲めばいい!」みたいな有害な声かけしかやってないし…。

ケアが下手なゲイというか、この映画のケアの描き方が下手でした。

『エゴイスト』は映画は2022年に製作ですが、原作は2012年なので、物語の舞台の感覚としては2010年代以前の空気感が強く、この差が表出しているのか。なんというか1990年代の海外のクィア映画を日本映画の味わいでやりましたという感じでしたね。

『エゴイスト』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
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関連作品紹介

日本のゲイを主題にした映画の感想記事です。

・『老ナルキソス』

・『彼女が好きなものは』

・『窮鼠はチーズの夢を見る』

作品ポスター・画像 (C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会 えこいすと

以上、『エゴイスト』の感想でした。

Egoist (2022) [Japanese Review] 『エゴイスト』考察・評価レビュー
#日本映画2023年 #松永大司 #鈴木亮平 #宮沢氷魚 #セックスワーカー #癌 #ゲイ