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韓国ドラマ『寄生獣 ザ・グレイ』感想(ネタバレ)…寄生生物と学ぶ愛国主義とセルフケア

寄生獣 ザ・グレイ

寄生生物と学ぶ愛国主義とセルフケア…「Netflix」ドラマシリーズ『寄生獣 ーザ・グレイー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Parasyte: The Grey
製作国:韓国(2024年)
シーズン1:2024年にNetflixで配信
監督:ヨン・サンホ
児童虐待描写
寄生獣 ザ・グレイ

きせいじゅう ざぐれい
『寄生獣 ザ・グレイ』のポスター。寄生された主人公の顔半分から触手が伸びているデザイン。

『寄生獣 ザ・グレイ』物語 簡単紹介

それは突然降ってきた。人間を宿主として寄生し、その肉体を支配する正体不明の生物が世界に蔓延する。見た目は人間と変わらず、攻撃性を発揮したときだけ異様な形態に変異する。知らず知らずのうちに謎の不審死が相次いでおり、それはこの寄生生物の仕業であった。このままでは人類は滅んでしまう。寄生生物の台頭を阻止すべく韓国では脅威への対抗策が練られるが、あるひとりの存在が事態を左右することに…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『寄生獣 ザ・グレイ』の感想です。

『寄生獣 ザ・グレイ』感想(ネタバレなし)

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日本と韓国の共生の産物

日本の漫画や小説が海外で映像化することは最近も目立っており、ハリウッドでそんな試みがあれば大きな話題にもなります。しかし、ハリウッドばかりではありません。韓国に渡ることもあります。

日本と韓国は多少の文化や言語の違いはあれど、やはり同じアジア圏などで、作品の共有はしやすいほうでしょう。クリエイティブ面でももっと共生できるはずですが、これまでは互いの業界がガラパゴス化していたこともあり、交流の機会は少なかったのかもしれません。

しかし、今は事情が変わりました。日本も韓国もグローバルな市場に目を向け始めています。こうなったら協力するほうが得です。互いにないものを分かち合い、可能性を底上げできます。

しかも、「Netflix」という日本と韓国を繋ぐ場も登場し、現実的な企画として動きやすくなりました。

今回の作品もそんな新時代らしいクリエイティブ体制で生まれたドラマシリーズと言えるのではないでしょうか。

それが本作『寄生獣 ザ・グレイ』

本作の原作は、”岩明均”による漫画『寄生獣』で、始まりは1988年とかなり昔です。しかし、その物語性や世界観はじゅうぶん現代でも通用するものでした。

人間社会の前に突如として現れた謎の寄生生物。人間を乗っ取り、人類を攻撃するその寄生生物が瞬く間に勢力を拡大させる中、ある主人公と1匹の寄生生物が奇妙な共生関係を築き、世界に何をもたらすのか…。そんなパニック・サスペンスやホラー・スリラー、さらにはSF的な社会風刺まで含んだジャンルです。

原作漫画を基に日本では2014年と2015年に2部構成の実写映画化となり、“染谷将太”主演で展開。ダイナミックな変形をする寄生生物の映像化は当時は大変だったと思いますが、CGにこだわりぬく“山崎貴”監督のチームの尽力のおかげで、かなり見ごたえのあるクオリティとなっていました。この積み重ねが『ゴジラ−1.0』のアカデミー視覚効果賞の受賞に繋がったようなもの。『寄生獣』のおかげです。

日本実写版でも映画の尺に収めて、かつ現代化するために原作の脚色が結構施されたのですが、今回は韓国で実写ドラマ化です。当然、こちらも日本実写映画版以上に大幅なアレンジがなされています。

どう変わったのかは実際に観てほしいのですが、舞台はもちろん韓国。主人公は女性となり、寄生生物との関わり方もだいぶ違います。ホラー・スリラーの濃度が強めとなりつつ、エンターテインメント性は研ぎ澄まされました。

そして監督するのが“ヨン・サンホ”だというのも忘れるわけにはいきません。2016年に世界的大ヒットとなったゾンビ列車大パニック映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』でブレイク。世界で最も話題の韓国クリエイターとなり、2018年の『サイコキネシス 念力』、2020年の『新感染半島 ファイナル・ステージ』と、立て続けに勢い重視のエンタメ快作を生み出し、2021年にはドラマ『地獄が呼んでいる』、2023年には『JUNG_E/ジョンイ』と、絶好調。

“ヨン・サンホ”監督なら『寄生獣』はぴったりだなと思いましたが、『寄生獣 ザ・グレイ』は上手い具合に自己流に練り上げています。なんかドラマシリーズを作るのも手慣れてきている感じがする…。“ヨン・サンホ”監督はまだまだ進化してます。

それにしてもこの『寄生獣』の英題は「Parasyte」なんですね。韓国で「パラサイト」だと例のあの映画が真っ先に思いつきますが、そっちはとりあえず脇に置いて…。

韓国実写ドラマ版『寄生獣 ザ・グレイ』で、主人公を演じるのは、『ソウルメイト』やドラマ『青春越壁』“チョン・ソニ”。共演は、『モガディシュ 脱出までの14日間』『キル・ボクスン』“ク・ギョファン”『別れる決心』“イ・ジョンヒョン”『あなたの顔の前に』“クォン・ヘヒョ”『呪呪呪/死者をあやつるもの』“キム・イングォン”など。

韓国らしくリニューアルしていますが、原作ファン向けの粋なサービスシーンもあるので、そこもお楽しみに。

『寄生獣 ザ・グレイ』は「Netflix」独占配信で、全6話。1話あたり約40~60分程度です。1日1話ずつ観るのも良し、一気に観るのも良し。ドラマに寄生されてください。

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『寄生獣 ザ・グレイ』を観る前のQ&A

✔『寄生獣 ザ・グレイ』の見どころ
★韓国のヨン・サンホ監督らしいクオリティ。
★日本との違いを味わえる。
✔『寄生獣 ザ・グレイ』の欠点
☆もっとボリュームアップした展開を見たくなる。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:原作知らなくても
友人 3.5:気軽なエンタメ
恋人 3.5:スリルを一緒に
キッズ 3.0:残酷描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『寄生獣 ザ・グレイ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

夜、爆音で盛り上がる野外ライブ会場に”何か”が落ちてきます。”それ”は這いまわり、ひとりの男の耳から体内に侵入。酔いつぶれていた男はふらふらと立ち上がり、観客のいるエリアに現れます。そして頭部が奇怪に割れて鋭利な触手で次々と人を襲い始め…

1時間前。スーパーマーケットにてレジ係のチョン・スインは、今日も「殺すぞ」と横柄な態度の客に怒鳴られつつも仕事を終え、バイクで帰宅しようと夜道を走っていました。しかし、その後ろをあの横柄な客の男の車が尾行しており、道端で追突してきます。さらに降りてきた男はナイフでめった刺しにしてきました

瀕死のスインは草むらに身を隠し、息も絶え絶え。ところが忍び寄る錯乱した男は真っ二つで絶命してしまい…。スインは気絶したまま病院に搬送されます。

ナミル警察署の刑事キム・チョルミンは病院に到着。先に対応した警官から、加害者と思われる男の側が切り裂かれて死亡しており、被害者の女性は刺された傷があるものの完治しているという、奇妙な報告を受けます。

被害者のスインはこのチョルミン刑事と親戚でした。目覚めるスインも混乱。「10歳のときもこの不幸になる感覚を味わった」と語るスイン。彼女は父に虐待されていて、叔父であるチョルミンが一時保護していました。「お前が自分を救ったんだ」とチョルミンは気を遣って言葉をかけます。

数か月後。ある裏社会の人物から指示を受けて敵対関係の大物を殺害したソル・ガンウは、身を隠すために姉ギョンヒの家へ寄ります。姉の様子は何か変で、妹ジニは消えていました。妹の部屋にはセジン教会のリーフレットがありました。

一方、スインは日常に戻っていました。叔父のチョルミンから心配して電話がかかってくることもありました。ある日、夜中にバスに乗っていると急に頭痛に襲われ、乗ってきた人に違和感を感じ、不安になって降ります。

なぜかスインは2人の男女に追い詰められます。そのひとりはガンウの姉で、ガンウもこっそり陰から見ていました。

謎の男女は「同種だな?」と問い詰めてきます。するとスインの頭部から触手が飛び出し、声が変わり、「私も同種だ」と言います。

目が覚めたスインは、傍にいたガンウから「彼らの仲間になるな」と化け物から伝えるように言われたと告げられます。「本来は脳を食べるのだが、傷を治すのに必死で食べ損ねた」とも。そして時間差筆談でもうひとりの自分と対話できることを知ります。

その頃、ナミル警察署では厳重なチェック体制が敷かれており、チョルミン刑事は部下のカン・ウォンソクとその状況に困惑します。

そして特別会議に参加。目の前に現れたのが特別部隊「チームグレイ」のチームリーダーを名乗るチェ・ジュンギョン。彼女は身体強奪者寄生生物について語りだし、前回のEDMフェスティバルの惨事もこれの仕業で、情報統制しており、実際は世界中に思考能力を持つ生命体が人間社会に紛れていると言い切ります。

対処方法は宿主を殺すことだけ。

人間社会の存亡に関わる最大の危機を乗り越えることはできるのか…。

この『寄生獣 ザ・グレイ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/04/08に更新されています。
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寄生生物の行き着く先は愛国主義

ここから『寄生獣 ザ・グレイ』のネタバレありの感想本文です。

ドラマ『寄生獣 ザ・グレイ』は、“ヨン・サンホ”監督の持ち味が最大限に引き出されており、作品性とベストマッチしていました。

ドラマシリーズとしても毎話飽きないように必ず大きな見せ場となるシーンがあり、もったいぶらずにエンターテインメントを提供してくれます。第2話では「1vs1」の寄生生物同士戦、第3話では廃墟遊園地で狩られる側となり、第4話では渋滞道路での大パニックの乱戦…。どんどんスケールアップするのも楽しいです。

映像クオリティのキレはいつもどおり。寄生生物(パラサイト)は頭部がぱっくり割れるのは原作と同じなのですが、今作では主人公も顔半分が変形します(原作では右手だった)。結果、主人公側も相当に化け物感があり、グロテスクさに磨きがかかっています。

戦闘もよくある今どきのコンバット・スタイルに触手攻撃を交えたもので、普通にカッコいいです。

まあ、ちょっと寄生生物の判別のくだりは設定にやや難がありましたけど。髪の毛頼みすぎますもんね…。

そんなビジュアルに加え、物語の芯の部分は、原作にあった社会パニックものを強化し、韓国らしい味付けにしています。

例えば、寄生生物が組織化の足掛かりとするのが、クォン・ヒョクジュ牧師を中心とするセジン教会。ある種のカルトの成り立ちとも重なり、この手のアプローチは韓国作品では定番です。

そのカルトがなぜ大衆に支持されるのかということもしっかり描いています。その目線となるのが、カン・ウォンソク。彼は経済的上昇志向が強く、昇級して家族に認められる家長になりたいという願望を抱いています。よくある典型的な保守性を帯びた父親像です。

だからこそ人間の身でありながら、寄生生物に支配されたセジン教会の牧師に力を貸します。普通に警察署内ではキャリアアップできないので、教会の内通者になるほうが有利になるはずという打算的選択です。

このウォンソクは作中でどんどん深みにハマり、牧師が最終的に市長(かなり保守的な政治姿勢)に寄生し、やがては国のトップである大統領の座につこうとしていると知ると、それも全力で支援します(結局、踏み台として使い捨てになるのですが)。権威に陶酔する国民の脆弱さを体現する結末です。すがりつく相手を見誤っているのだけど…。

最終話での決戦の場も象徴的。兵士像のある戦争記念館のような場所で、組織化の価値を知った寄生生物は野望を語ります。それは人間社会の権力欲と同一。組織化の行く着く先は愛国主義です。これはもう日本だったら靖国神社とかを舞台にしているようなものですね。

寄生生物に浸食されようと、浸食されていなかろうと、人間社会の本質は変わらないのでした。

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寄生生物とセルフケア

主人公側と寄生生物のストーリーについて、原作では、右手に寄生したミギーという存在と主人公男子との、ときにはユーモラスな会話の中で、この両者ならではの見方で人間社会を風刺していくという構図です。

ドラマ『寄生獣 ザ・グレイ』は、そのユーモアはカットしており(ソル・ガンウが多少補ってくれているけど)、そこを楽しみにしていたファンには残念ですが、その代わり、別のストーリーを用意しています。

それが主人公のチョン・スインが子どもの時期に父親から酷い虐待を受け、家を飛び出して通報しているという背景です。大人になったスインは自立して生活できていますが、心の奥底にはなおもトラウマを抱えています。

そんなスインが寄生生物に憑りつかれ、今作では「ジキルとハイド」が引用されるとおり(寄生生物はハイジとガンウに名付けられる)、二重人格のように描かれます。寄生生物が意識を主体として発揮できるのは1日で十数分程度のようです。

これはつまり、かつての児童虐待による心理的トラウマの結果にともなう自己防衛とも重ね合わせることができます。作中で何度か繰り返される自身の寄生生物との対話は、ある意味ではセルフケアです。自分で自分を見つめ直す過程です。

こう考えると、本作はドラマ『ムーンナイト』と同じ、主人公のメンタルケアの物語になっていますね。フィクションらしい設定でそれを表現しています。

スインの寄生生物は「お前は独りじゃない」と声をかけてくれます。それはかつて叔父のキム・・チョルミンがかけてくれた言葉の変換です。体内には自分で自分を救う力があって、ゆっくりでいいから、その救いの手を受け止めればいいのです。

対する「チームグレイ」のチームリーダーのチェ・ジュンギョンは犯罪心理分析を専門としながら夫を寄生体に乗っ取られ、「猟犬」として利用しながら「こんなものは夫ではない、根絶させなくては」と非情な発言をしつつ、複雑な葛藤を内在していました。復讐心に憑りつかれた自分を抑え、人間を信じる心を取り戻すという、こちらも堅実なメンタルケアが描かれています。

とりあえず韓国は寄生体の組織化を食い止めて一件落着したようですが、最後の最後に特大のファンサービスが待っていました。ジュンギョンの前に現れたのは、ルポライターで専門家を名乗る日本人の人物。その名は泉新一…原作の主人公です。“菅田将暉”のサプライズ出演となりました。

泉新一が右手を差し出すというラストの演出もニクイですね(この行為の意味は原作読者ならよくわかっている)。

これを単なるファンサービスで終わらせず、個人的には次のシーズンへと発展させて、韓国と日本をまたがる世界観拡張を成し遂げてほしいものです。絶対に新しい面白さに繋がりますよ。今度は国家間の共生をクロスオーバーさせながら寄生生物を仕掛けに物語を転がせば、原作も到達できていなかった大きな進化になるでしょう。

“ヨン・サンホ”監督の映像化センスも今後もっと進化しそうです。『呪術廻戦』とかもこの人なら実写化できそうだ…(すっごい予算がいるけど)。

『寄生獣 ザ・グレイ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 78%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix 韓国寄生獣ザグレイ

以上、『寄生獣 ザ・グレイ』の感想でした。

Parasyte: The Grey (2024) [Japanese Review] 『寄生獣 ザ・グレイ』考察・評価レビュー