キム・ダミ覚醒の巻…映画『The Witch 魔女』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2018年)
日本公開日:2018年11月3日
監督:パク・フンジョン
The Witch 魔女
ざうぃっち まじょ
『The Witch 魔女』あらすじ
『The Witch 魔女』感想(ネタバレなし)
キム・ダミのブレイク作!
とある俳優にとってその作品に出演したことで一気に人気に火がついたとき、その作品を「ブレイク作」と呼んだりします。なんで「ブレイク」と表現するのかは諸説あるらしいのですが、有力な説のひとつが英語の「ブレイクスルー(breakthrough)」の略だというもの。「breakthrough」は躍進とかそういう意味の単語ですね。
俳優にしてみればブレイクできればそれだけで最高でしょうが、同時にどんな作品でブレイクするのかも大事になってきます。そのブレイク作の印象というものを俳優は良くも悪くも背負い込むことになるからです。愛らしいキャラだったらそのイメージが付きまとうし、逆に恐ろしい悪役だったらその怖いイメージのまま自身も評価される。俳優のその後のキャリアにも影響は避けられない、ブレイク作はとても重要なスタート地点です。
そんな中、この俳優のブレイク作は「これぞブレイク作!」と言いたくなるほどに象徴的で強烈でした。
その俳優とは“キム・ダミ”です。
“キム・ダミ”は1995年生まれの韓国の俳優。日本でも話題となった2020年のドラマ『梨泰院クラス』の主演を務めたので、それで知った人も多いはず。しかし、“キム・ダミ”のブレイク作はこのドラマではありません。これより前にブレイクとなった映画が2018年に存在し、その映画での大注目があったからこそ、この『梨泰院クラス』の韓国国内での注目も集まったと言えるでしょう。“キム・ダミ”はそのブレイク作となった2018年の主演映画から2020年のドラマ『梨泰院クラス』まであまり俳優業を積極的に展開しておらず、ちょっとファンの間ではレア度の高い若手俳優でしたから余計ですね。
その“キム・ダミ”の記念すべきブレイク作となった2018年の映画、それが本作『The Witch 魔女』です。
厳密には“キム・ダミ”は同年に『マリオネット 私が殺された日』という映画にもでているので、こっちの方が先だとも言えるのですけど、やはり本作『The Witch 魔女』があまりにインパクトが強かったので、こちらの映画が誰しもが認めるブレイク作ということになっています。
なにせ本作『The Witch 魔女』、新人俳優をブレイクさせるためにあえて書いたのではないかと思わせるくらいにぴったりすぎるシナリオなのです。物語はひとりの純朴な女子高校生を主人公にしています。この田舎で暮らす垢ぬけない少女はふとしたきっかけでオーディション番組に出演することになり、そこでみるみるうちに勝ちあがってどんどんテレビの話題の人になっていく…というのが序盤の筋書き。
ところが…というここからが物語の真骨頂。この田舎臭さの漂う平凡そうな女子高校生、実はとんでもない裏があって…。ここから驚愕のバイオレンス・アクションが炸裂するのです。ほんと、血みどろの暴力&残虐な展開が連発し、観客は主人公にハートブレイクされますよ(文字どおり死ぬという意味で)。
この『The Witch 魔女』の主演オーディションは1500倍の倍率だったそうなのですが、それを勝ち抜き、まさしく映画内でも圧倒してみせた“キム・ダミ”。やっぱり才能を持っている人間だったんでしょうね。
『The Witch 魔女』はオリジナルの映画ながら韓国国内で大ヒット。“キム・ダミ”は大鐘賞や青龍映画賞などで新人俳優賞を次々と獲得し、完全にこの年を象徴する話題作&話題俳優となりました。“キム・ダミ”祭りです。
こういう映画に新人の子を起用してみせるという製作の挑戦ができるのも羨ましいなと思います。事務所と映画会社の蜜月関係が大前提になっている日本だと無名な新人をキャスティングするのはまずありえないですからね。
カルト的大ヒット作の『The Witch 魔女』を生んだ監督は、『血闘』(2011年)、『新しき世界』(2013年)、『隻眼の虎』(2015年)、『V.I.P. 修羅の獣たち』(2017年)と暴力性満載な映画を手がけ続けてきた“パク・フンジョン”。『The Witch 魔女』以降は、『楽園の夜』(2020年)といった映画も監督しています。
“キム・ダミ”以外の俳優陣は、『ヴィーナス・トーク 官能の法則』の“チョ・ミンス”、『新感染 ファイナル・エクスプレス』『パラサイト 半地下の家族』の“チェ・ウシク”、『密偵』の“パク・ヒスン”、ドラマ『サンガプ屋台』の“チョン・ダウン”、ドラマ『恋するアプリ Love Alarm』の“コ・ミンシ”など。
これだけ話題となった『The Witch 魔女』、日本でも当然劇場公開されて…と言いたいところですが、シネマートの「のむコレ2018」で限定公開されただけでにとどまっており、残念な扱いで…。『梨泰院クラス』がヒットした後に、一般劇場公開してくれるかなと淡い期待もしたのですけど、そんなこともなかった…。
単なる俳優のブレイク作というだけでなく、韓国映画界のアクションの新しい起点になった一作とも言えますし、『The Witch 魔女』を観ていない人は今からでもしっかり押さえておくといいですよ。
オススメ度のチェック
ひとり | :アクション映画好きも注目 |
友人 | :エンタメで盛り上がる |
恋人 | :俳優ファン同士で |
キッズ | :暴力描写多め |
『The Witch 魔女』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):小さな魔女の物語
夜の森を必死に走る幼い女の子。その子を捕えるべく獰猛な犬を連れた追っ手が迫りますが、捕まえることはできませんでした。
捜索チームに指示する女、ペクは「探し続けて、ただし本社には処理したと伝えなさい。どうせすぐ暴走して死ぬわ」「8歳の娘に何ができるの」と冷たく言い放ちます。
そこからそれほど遠くない場所にある酪農家。日もでていない時間帯に作業をしていた男性は草むらで倒れている女の子を見つけました。酷い有様です。急いで駆け寄って無事を確かめ、抱きかかえ、妻を呼びます。医者に家まで来てもらうと、心配ないそうで安心。でも記憶は戻らないかもと言われます。「この子が回復したらどうするのか」と問われ、夫婦は心に決めます。
それから10年ちょっと後。酪農家夫妻に拾われた子はク・ジャユンと名付けられ、すくすくと成長しました。19歳で高校3年生。今は酪農業の手伝いに一生懸命。ツケがたまっている店でも飼料をもらい、トラックを運転して行ってしまいます。それでもみんな許してくれるほどに、ジャユンは愛想のいい子として町で慕われていました。
家へ帰ると、義父が年老いても仕事しており、ジャユンは「休日は私が働く」と代わります。義母は弱り、認知症の兆候がありましたが、病院に行っていません。家計は苦しく、家畜を何頭か売らないとダメだろうと父は言います。
一方でジャユンは最近は突発的な頭痛のような症状を感じていました。
友人のミョンヒは警官の娘で「未成年で無免許運転したら捕まるよ」とふざけながら揶揄ってきますがいつも仲良しです。今日も登校途中のバスで優勝賞金5億ウォンのオーディション番組をスマホで見せてくれます。これなら母の治療費だって大丈夫かもしれない…。ミョンヒは「お色直しもしてあげる」とノリノリ。
そこで思い切って申し込んでみることに。出演が決まって予選を勝ち進むこともでき、マネージャー気分のミョンヒは大喜び。
両親もテレビにでたジャユンの映像を満足げに居間で一緒に眺めます。しかし、番組内で「特技はありますか」との質問に「手品のようなものなら」と“とある行為”をやってみせるジャユン。その映像を見て、不安な表情を見せる両親。ミョンヒは気にしておらず、「いつか種明かしをしてよ」と呑気です。
いよいよ番組はソウルでの収録に。ジャユンとミョンヒはソウルへ向かい、電車で大はしゃぎ。すると前に座っていた若い男が急に笑いだします。知らない人ですが、向こうは知っているらしいです。
「番号で呼ばれるよりははるかにマシだよな、魔女さん」「あのことを忘れたのか?」
意味深なことを言ってきますが、ジャユンは理解できない顔を浮かべます。男は急に顔に手を伸ばしてきますが、涙がつたうジャユン。男は去っていきました。
今回の番組も順調で、ベスト16に進出が決定。プロデューサーはもっと手品を見せられないかと言ってくるほどです。
しかし、テレビ局を出た後、謎の黒い車が止まります。ぞくぞくと降りてくる謎の集団。「YSエンター」という名刺をだしてきますが、スカウトにしては怪しい…。
そして寝静まった家に侵入者が…。
田舎っ子vsアイドル系美男美女
『The Witch 魔女』は不吉な冒頭を除き、前半はかなりゆっくり進行します。田舎のいかにも純朴そうな女子高校生がオーディション番組で花開いていく姿を微笑ましく撮っており、ほんわかムード。
とくに親友のミョンヒとの掛け合いの姿がとても仲良さそうでいいです。ソウルに向かう電車で一緒にゆで卵を口につっこみながら、ソーダで流し込む場面の、あの何とも言えないマヌケさも愛らしく…。あのゆで卵一気食いでオーディション番組に勝ちあがってもよさそうにすら思える…。でも、絶対に窒息するからみんなはマネしないでね…(あれはきっとあの子が特別なスキルの持ち主だからできる芸当だよ)。
そんな田舎のアホ丸出しな素を曝け出していると突然現れるあのヘラヘラ男。この時点ではコイツが一番不気味で、その怪演が光るピークです(この後、一気に小物に落ちるのでね…)。
さらにヘラヘラ男と並んで長髪女も登場し、なんかさながらアイドルグループのカリスマ精鋭男女みたいな構図。たぶんこれはわざと対比になるようにやっているんでしょう。田舎臭い垢ぬけない子と、オーラのあるアイドル系の美男美女。この対比はものすごく韓国社会らしいですよね。ちょっと韓国のエンターテインメント業界を風刺している感じもあって…。
前半はこの極端な二者の対立が勃発することを観客に煽りまくります。“チョ・ミンス”演じるいかにもフィクサーな大物女ペクの不敵な笑みもあり、こいつが全ての裏を仕切っており、田舎少女が蹂躙されてしまうという可哀想な展開なんだと…。
ところがそうはいきませんでした。ここからがこの『The Witch 魔女』の本領発揮。正体を覚醒させます。
まだパート1です!
『The Witch 魔女』はぶっちゃけて言ってしまうと、よくある「魔女もの」のテンプレです。全ては魔女の手のひらの上、魔女の圧倒的なパワーにひれ伏すだけで、敵いっこない存在だと痛感させられる。
本作のジャユンもそうです。軽率な行動のせいで脱走した組織に捕まえられたのではありませんでした。ジャユン自らがあえてオーディション番組で能力の一部を披露して組織の追っ手に自身の存在をアピールし、おびき寄せたのでした。その目的はリスクある能力の安定的なコントロールに必要な薬物を入手すること。その薬物は自分のためだけでなく認知症に苦しむ母のためにもなる。ジャユンの父もそれを理解したうえで行動を許します。夫妻は幼い頃から家畜を殺してしまうジャユンの凶暴性をしっかり把握しており、それでも育てることを決意していた…。
ジャユンの完全計画の手駒にすぎないことを知ったペクの狼狽。驚異的なパワーであらゆる能力者を圧倒して死に追い込んでいくジャユンの恐ろしさ。ここのアクション・シーンは暴力性も全開で凄まじくあり、残酷版の「X-MEN」みたいなもの。ジャユンはあれですね、韓国版の「スカーレット・ウィッチ」ですよ。
“キム・ダミ”のここでの豹変っぷりも最高です。全てを見下したような小生意気な顔つきに変貌して、あらゆる“優位に立っていると思いあがっている存在”を蹂躙していく。カタルシスがあります。
また、『The Witch 魔女』はアクション映画としても大きな実績を作りました。というのも『悪女 AKUJO』でも製作陣が言っていましたが、韓国映画界ではこういうバイオレンスアクションは男のモノという先入観が強く、女性を主人公にしたがらない風潮があったと言われています。
『The Witch 魔女』は無名の女優でそれを成功させて大ヒットを達成しましたからね。そんな偏見を吹き飛ばす突破口になりました。そういう意味でもブレイクですよ。
実際、『The Witch 魔女』以降の韓国作品は女性のアクション・シーンがかなり増えたような気がします。最近も韓国ドラマ『今、私たちの学校は…』で超人系女子のアクションがでてきたし…。
その『The Witch 魔女』はラストは「お姉ちゃんに手出ししたら首が飛ぶわよ」の衝撃のセリフでエンディング。本作は「Part1」。クリフハンガーで終わって次作に続くのです…!
…だったのですが、肝心の次作がなかなか企画始動せず…。本作の配給のワーナーが降りて、やっと別企業で2作目の「Part2」が製作開始となり、ついに2022年6月に韓国で『The Witch: Part 2. The Other One』が公開です。良かったですよ。これで続きがないのはあんまりだしね…。
後は日本でも公開してくれるか。絶対に公開をしてください!
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 90%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
続編の感想記事です。
・『The Witch 魔女 増殖』
作品ポスター・画像 (C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved The Witch 魔女 パート1
以上、『The Witch 魔女』の感想でした。
The Witch: Part 1 – The Subversion (2018) [Japanese Review] 『The Witch 魔女』考察・評価レビュー