誰もあらすじを教えてはいけない…映画『誰も助けてくれない』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にDisney+で配信
監督:ブライアン・ダフィールド
誰も助けてくれない
だれもたすけてくれない
『誰も助けてくれない』あらすじ
『誰も助けてくれない』感想(ネタバレなし)
この監督は今度は何を見せてくれる?
あなたにとって自分の家に侵入してほしくない最も嫌な存在は何ですか?
まあ、どんな何であれ、自宅に侵入されるのは嫌ですけど…。愚問でしたね…。
家に侵入する…と言えば、やっぱり犯罪者でしょうか。とくに家に押し入る主要な犯罪が強盗。アメリカでは年間165万軒の家が強盗の被害に遭っているそうです。これは30秒に1件というものすごい発生率です。日本では2022年は1万5692件もの侵入強盗が認知されています。ただ、アメリカも日本もこれでも強盗件数は減少傾向にあります。
他に家に侵入して嫌なのは…虫とか? 虫嫌いでなくても自分の部屋に虫が平然とウロウロしていたら気になる人も少なくないはずです。なんか2023年の夏は長期間で暑かったせいか、虫の活動がそんなに活発ではなかった気もするけど…。今年はいつものクモ以外には、トンボくらいしかびっくりする侵入はなかったな…。
虫よりももっと大きい動物が侵入してくることもありますね。北海道ではヒグマが食べ物目当てに小屋とかに入ってくる可能性も常に想定しないといけません。
でも今回紹介する映画のような“侵入”は普通は想定外じゃないかな…?
それが本作『誰も助けてくれない』です。
原題は「No One Will Save You」。邦題はそのまま直訳したかたちですね。
で、この映画『誰も助けてくれない』…う~ん…またも困った案件。どこまで内容を紹介すればいいのか…完全に悩むタイプの作品なのです。正直、あらすじとか一切知らずに鑑賞したほうがいいと思います。ジャンルすらも口にするのはネタバレになるかなと思うし…。
中身を言ってしまうと「ああ、そんなことか」となるのですが、本作はとにかく演出が上手く、映画というのはどんなにありきたりな題材でも演出しだいでいくらでも効果を変えることができることを思い知らされる一作です。
そんな『誰も助けてくれない』を監督したのは、“ブライアン・ダフィールド”。この人、マニアックな映画好きなら視界に入っていたことでしょう。『ザ・ベビーシッター』(2017年)、『アンダーウォーター』(2020年)、『ラブ&モンスターズ』(2020年)など際立ったジャンルの尖った作品の脚本を近年連発で手がけ、2020年には生徒たちが突然爆発して死んでしまう怪事件が連続する高校を舞台した異色の青春映画『スポンティニアス』で監督デビューした人物です。
この“ブライアン・ダフィールド”監督なら『誰も助けてくれない』みたいな映画を作るのも大納得です。“ブライアン・ダフィールド”監督は大作に走らず、この路線でミニマムな個性作をずっと撮っていってほしいな…。
本作『誰も助けてくれない』は俳優陣も特徴です。そう書くとさぞかし豪華なキャストが揃っているのだと思われそうですが、そういう特徴ではなく…。ほぼ主演俳優ひとりで物語を引っ張っているのです。
その主演を務めるのが“ケイトリン・デヴァー”。コミカルな『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』から、シリアスなドラマ『アンビリーバブル たった1つの真実』、捻った恋愛モノの『ロザライン』まで、どの作品でも芸達者な演技力をフル発揮する、今ノリに乗っている若手俳優のひとりです。
しかも、この『誰も助けてくれない』は“ケイトリン・デヴァー”が出ずっぱりでありながら、全然喋らないという…。それでも…いや、むしろそれだからこそ、その演技が過去最高に引き立つんですけどね。あらためて「ケイトリン・デヴァー、すごい…」ってなります。
ただ残念なのはこの『誰も助けてくれない』、劇場公開はされず、「20世紀スタジオ」作品ということで「Disney+(ディズニープラス)」の配信になっている点。そのため映画が目立たないし、視聴の機会も不安定で…。ディズニーも最近は平然と独占配信映画を配信キャンセルしたりするので、いっそ全ての動画配信サービスで広く販売するようにしてほしいのですけど…(これは2023年9月時点なのでいずれ扱いが変わることもあります)。
ともあれ『誰も助けてくれない』は、協調性ガン無視な癖のある珍妙な映画が好きな人には必見です。
以下の後半の感想からは普通にネタバレして書いているので注意してください。
『誰も助けてくれない』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :SF好きは要注目 |
友人 | :好きそうな人を誘って |
恋人 | :マニアックだけど |
キッズ | :子どもには説明不足か |
『誰も助けてくれない』予告動画
少しでもネタバレを避けたい場合はこの予告動画も見ない方がいいです。
『誰も助けてくれない』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):突然の侵入者
町外れの森に隣接する家。ブリンは鏡の前で笑顔を無理やり作っていました。しかし、溜息が漏れるばかり。屋根裏の自室で服を選び、お決まりの机で裁縫を始めます。こうやって作ったもので、少しばかりのおカネを稼いでいます。
完成品を小包みにしまい、それを持って家を出ます。なぜか家の前の草地がサークル状にはげていました。枯れてしまったのか…。
車に乗り込み、また表情を作るブリン。道中で近所の人に手を振るものの無視されます。街につき、郵便物をポストに投げ入れ、用事は終わりです。
途中で寄り道して、墓の横に座り込みます。その墓にはサラ・アダムスと刻まれていました。
またも作り笑いを浮かべてできる限り愛想よく墓地を去ろうとすると、ある夫婦を見かけて、思わず咄嗟に車の陰に隠れます。ひとりは警察署長です。
その後は、家の前の湖のほとりで親友モードへの文を書いて時間を潰します。そうこうしているうちに段ボール箱の荷物が雑に届き、少し胸が弾みながら新品の靴を室内で履いて音楽に合わせてひとり踊ります。ミニチュアハウスを箱から取り出し、飾って写真を撮るブリン。
ウキウキで料理をしていると電話がかかってきますが、そんな嫌がらせ電話も慣れた手つきで対処。
そして1日が終了し、就寝。ところがここから異変が始まります。
家の電気が突然一斉に点灯…と思ったらまた消えます。急な物音で起き、窓から見るとゴミ箱が動いています。動物だろうか…。
電気がつきません。しかも家の中に何かいるのに気づいて硬直。それは人…ではない気がします。
物音を立てないように様子を窺いますが、危険を感じて急いで部屋に籠ります。何がないかと探っているとうっかり音をだしてしまい、閉めたドアを見るブリン。
“それ”が部屋に入って来た気配がし、ベッドの裏に隠れながらなすすべく身を潜めます。とりあえずベッドの下にいくしかありません。
”それ”はベッドの上で飛び跳ねており、床に“それ”の足のようなものが見え、謎の声で”それ”は鳴き、窓から消えていきました。
すぐに窓を閉じて息を整え、そして玄関も閉めます。ところが家の電気が不気味に点滅し、テレビも不可解な表示に変わります。電話をしようとしますが、ノイズで使えません。
“それ”はまだ室内にいるようで、冷蔵庫のドアの裏に隠れるブリン。“それ”はゆっくりと顔を見せ…ブリンはその存在ともみ合いになり、うっかりその存在の頭にミニチュアハウスの一部を突き刺してしまい、“それ”は死んだかのように倒れて動かなくなりました。
放心状態で翌朝を迎えます。夢ではありません。あの存在の死体が床に転がっています。
どうしたものか、あまりにも現実離れした事態に頭が回りません。とにかく片付けて、外に出るしかない…。
これは…どう考えてもあからさまに…エイリアンなのでしょうか…。
誰も助けてくれなくてもいい
ここから『誰も助けてくれない』のネタバレありの感想本文です。
『誰も助けてくれない』はとにかくセリフの圧倒的な少なさが際立っています。別に主人公は喋れないわけではないですが、ああやって社会から孤立していると喋る機会が著しく無くなるんですよね。うん、わかる…。
会話の乏しさゆえに視聴者はその映像からだけで物語の背景を読み取らないといけません。
主人公のブリンは郊外の家にひとり暮らしです。どうやら母と暮らしていたようですが、その母は亡くなっていることが墓地のシーンでわかります。加えてもうひとりの亡き人の存在がこの主人公の人生を激変させたことが徐々に判明してきます。
それがモード・コリンズという人物で、ブリンにとっては同年代くらいの親友だったようで、家にある写真からも子どもの頃から親しくしていたのが推察できます。ところが今はそのモードは亡くなっており、それが原因でブリンは町の人々から冷たい目で見られ、除け者扱いになっています。モードの父は警察署長らしく、地域の有力者だからこそ、より嫌われてしまっているようです。モードの両親にばったり出会ったときもその母に唾を吐かれるほど…。
この亀裂の根本の詳細については映画の終盤で明らかになります。ブリンはモードと口論した際に思わず石でモードの頭を殴ってしまい、そのまま帰らぬ人に…。とくに罪に問われなかったようですが、憎しみは一身に受けるハメになりました。
この町から出ないのは他に行くあてもないのでしょう。もしくは人間関係はあれだけど、この住処としての愛着はあるから離れたくないか…。
序盤はそんな境遇のブリンがどうやってこの町で生きているのかが淡々と描かれます。裁縫で作った品を売って、あとはおそらく貯金で生活しているのかな。ほぼ引きこもり状態ながらもなんとか生活していけている…。一応は趣味もあるし、嫌がらせにも適応してしまって、自己流のライフスタイルを確立できてしまっているあたりがユーモラスに描かれています。
ブリンには『ぼっち・ざ・ろっく!』とかが性に合うと思う…。
序盤からブリンのなんだかんだいって意外にたくましいメンタルと生存能力が映し出されているわけですが、これがこの映画のオチに直結してくるという…。
そんな結末でもそれでいい
そんなひとり完結生活をほとんど実践できている主人公が直面する相手。それは…地球外生命体…UFOから現れるエイリアンでした。『誰も助けてくれない』は宇宙侵略SFです。
このエイリアンの描写がまたいかにもコテコテなエイリアンの見た目で、わざとらしいくらいなのですが、ブリンはこのテンプレな侵略シチュエーションにひとりで立ち向かうことになります。
普通はこのジャンルなら「家族と力を合わせて…」とか「友達たちと一丸になって…」とか、そういう構図になるのですが、ブリンは“ひとりぼっち”ですからね。必然的に自分のみです。
こうして珍妙な「ひとり宇宙戦争」が勃発するのですが、ここでも思わぬ奮闘をみせてくれます。戦闘スキルは何もないですけど、家に侵入したエイリアンとの格闘は、まるで家にでたゴキブリ相手に頑張って対処しているような姿にすら思えてくる…。
“ケイトリン・デヴァー”の一挙手一投足の何気ない所作がその緊迫感に味を加えますし、安易に叫ばないのも逆にリアルでいいですね。
エイリアン側も遠慮なしに次々現れるので飽きません。「そんな手足長い奴いるのかよ!?」とか、「え? なにその謎のYポーズ…」とか、ところどころで笑っていいのかわからない空気をともなうのがまたおかしいです。
このエイリアンも何か喋っている感じでしたが私たちには意味がわかりません。そういう点では喋らない主人公と同じで、視聴者としてはここでも察するしかできません。
エイリアンは既に相当な広範囲を侵略済みで、町の住人も支配され、しかもそれは口から出入りする得体のしれない触手生物が本体のようです。ここでもわざとらしく嫌悪感を煽ってきます。
結局、ブリンはトラクタービームに捕捉され、UFOに拉致されましたが、そこで脳内の記憶を探られ、なぜか何もされずに地球に帰されます。
そしてブリンは何事も無かったかのようにこの侵略された地元で穏やかに暮らす人生を歩み、支配された人たちと仲良く踊って楽しむ…そんな結末で映画は終わります。ちょっとクラシカルな映画風の「The End」演出まで追記して…。
こういう「バッドエンドだけど主人公はハッピーエンド」みたいなラストは個人的に好きなので、私は本作にも大満足ですけど、“ブライアン・ダフィールド”監督は社会的に孤立した人への包容力が本当に独特ですね。
本作の終わりは解釈の余地がありますし、考えようによってはあれは主人公の妄想の世界でしかないようにも見えますが、監督はそうは考えておらず、あれは現実であり、トラウマに向き合った結果としてのひとつの答えと捉えているようです。
私の感想としては、要するに「人間はひとりでも案外と生きていけるし、他人への繋がりもこれくらいでちょうどいい」という、かなり冷めた人間関係への批評が含まれていると思います。それは現実的には理想とされない対応かもしれませんけど、でもそうやって考えることで生きていける人もいるならそれでいいじゃないか…そんな開き直り。
今の世の中ってこういうスタイルも必要なんじゃないかなと私も思います。無理して完璧である必要はない、全ての他人と上手く付き合う必要もない、欠点や失敗を受け止めて自分の居場所さえ見つかればそれでいい…。
『誰も助けてくれない』は2023年の最高の”ぼっち”映画の一本でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 60%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)20th Century Studios ノー・ワン・ウィル・セイブ・ユー
以上、『誰も助けてくれない』の感想でした。
No One Will Save You (2023) [Japanese Review] 『誰も助けてくれない』考察・評価レビュー