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ドラマ『地下鉄道 自由への旅路』感想(ネタバレ)…黒人差別の終着駅はどこなのか

地下鉄道 自由への旅路

バリー・ジェンキンス監督が奴隷制から逃げるアフリカ系を描く…ドラマシリーズ『地下鉄道 自由への旅路』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Underground Railroad
製作国:アメリカ(2021年)
シーズン1:2021年にAmazonで配信
監督:バリー・ジェンキンス

地下鉄道 自由への旅路

地下鉄道 自由への旅路

『地下鉄道 自由への旅路』あらすじ

南北戦争以前のアメリカ南部。とある農場でコーラ・ランドルは他の大勢の黒人と一緒に奴隷として労働に従事していた。ここでは理不尽な白人の地主による差別や暴力が横行し、鞭で打たれてボロボロになる者や、火で生きたまま焼かれる者など、日々が残酷に満ちていた。耐え切れなくなったコーラは噂の地下鉄道に救いを求めて逃げ出すことを決意する。そして本当に大地の下に実際の鉄道が走っていることを知る。

『地下鉄道 自由への旅路』感想(ネタバレなし)

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バリー・ジェンキンスが奴隷制を描く

世界のリーダーを自称するアメリカ合衆国にとっての負の歴史、それが「奴隷制」。その奴隷制を全く知らないのは歴史に無知だと言われてしまいますが、あらためておさらいとして整理します。

16世紀初頭にアフリカから労働者として大勢のアフリカ人が強制的に新世界であったアメリカの大地に連行されてきます。労働者と言っても実質は奴隷です。1790年の初期には約70万人の奴隷がいたそうですが、その数はみるみる膨れ上がり、1860年には約400万人のアフリカ系奴隷が存在したとのこと。当時のアメリカ全体のアフリカ系の人口は約440万とされているので、実にその約89%が奴隷だったわけです。

当然これはアメリカの話であり、他にも南アメリカにもアフリカ系奴隷は強制連行されましたし、船での移動中に亡くなった人もたくさんいます。推定1200万から1300万人のアフリカ人が奴隷として輸送されたと考えられています(この数字に途中で死亡した人は含まれない)。

奴隷となったアフリカ人は主にアメリカ南部にてプランテーションで綿花、砂糖、タバコの生産に関わることになります。奴隷の処遇は過酷で非人間的で、残忍な暴力で従わせることも認められていました。その傷は今なおアフリカ系アメリカ人の歴史に残る深いものです。

…と、文章で説明したはいいものの、やはりテキストだけの情報だとその凄惨さは伝わりません。ということで映像作品です。奴隷制の実態を描いた作品はいくつも生まれており、2013年にアカデミー作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』は有名です。ただやはり白人中心の業界ですから、なかなか黒人が受けた歴史を真正面から向き合う作品は積極的には生まれづらいのも現状。

そんな中で奴隷制の現場を描いた注目のドラマシリーズが2021年に登場しました。それが本作『地下鉄道 自由への旅路』です。

本作は何といっても監督の名が真っ先に話題にしないといけません。2016年に『ムーンライト』でアカデミー作品賞を始め、批評家から絶賛を獲得し、その後の2018年も『ビール・ストリートの恋人たち』といった素晴らしい良作を生み出すトップディレクターの“バリー・ジェンキンス”なのですから。

“バリー・ジェンキンス”監督と言えば、黒人差別の現実を捉えつつ、同時に生の喜びを美しい映像で物語とコラボさせていく巧みな才能が魅力。その“バリー・ジェンキンス”監督が奴隷制を題材にした作品、しかもドラマシリーズを手がけるとなれば、期待値はガンガン跳ね上がります。

で、実際に作品を観終わったうえでの感想を端的に書くなら、さすが“バリー・ジェンキンス”…と感嘆の溜息がもれる…。ネタバレにならない範囲で言っておくと、エンタメ要素はもちろんないです。「地下鉄道」というタイトルですけど、別にずっと列車内が舞台になる『スノーピアサー』とかとはまるで違いますからね。わかりやすい起承転結もカタルシスもなく、どっちかと言えば詩情的な静かな大河ドラマのような、上手く表現できませんけど、“感じ取る”ことを要求される物語です。

要するに“バリー・ジェンキンス”監督のこれまでの映画作品と同じテイストがそのまま全10話のドラマシリーズでたっぷり堪能できるのです。これは好きな人には堪らないですよ。まあ、題材が題材なのでかなり精神的にもツライのですが…。

役者のアンサンブルは最大の見どころ。俳優陣は、主人公を演じるのは『Is’thunzi』というシリーズでエミー賞にもノミネートされた“スソ・ムベドゥ”。今作でも素晴らしい演技を披露しているので今後の活躍も期待できるのではないでしょうか。

他にはドラマ『グッド・プレイス』の“ウィリアム・ジャクソン・ハーパー”、ドラマ『Krypton』の“アーロン・ピエール”、舞台劇で評価されている“シェイラ・アティム”など。

また、黒人狩りのハンターの役として終始執拗に登場するキャラクターを、『ある少年の告白』など最近は監督&製作業でも活躍を見せる“ジョエル・エドガートン”が熱演しています。

『地下鉄道 自由への旅路』は「Amazon Prime Video」で2021年から配信中。1話1話をじっくり嚙みしめながら鑑賞してみてください。

作品を観れます!

オススメ度のチェック

ひとり4.5:必見のドラマシリーズ
友人4.0:関心ある者同士で
恋人3.5:重たいテーマだけど
キッズ3.5:歴史を学ぶ
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『地下鉄道 自由への旅路』予告動画

Amazon Original『地下鉄道 ~自由への旅路~』|フルトレーラー
↓ここからネタバレが含まれます↓

『地下鉄道 自由への旅路』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):この国を知るには列車に乗れ

母が最初と最後にくれたのは謝罪だった…。

アメリカ、ジョージア。「北へ行く、一緒に逃げよう」とシーザーに言われるコーラ。彼女はランドル農園で他の大勢の黒人とともに奴隷として労働していました。その生活は過酷極まりないものです。しかし、コーラは「私は誰かの幸運のお守りではない」と言い放ち、その誘いを断るのでした。実はコーラの母であるメイベルは昔にこの農園から逃げ出し、逃げ切ったと言われていました。

奴隷黒人たちが仕事を終えた夜にみんなで歌い踊り、つかの間の時間を過ごしていると、ジェイムズテランスという白人農場主がやってきます。彼らは「独立宣言を暗唱できる少年マイケルを連れてこい」と命令しますが、「6~7カ月前に死にました」と言われ、次に他の子が代わりに前に出ることに。けれどもその子は全然言えません。するとそれを見た白人農場主は教えてやると言わんばかりに自分で語りだします。

「人の営みにおいてはある人民が他の人民との政治的絆を解消すべき時がある。そして自然と自然神の法により与えられる独立平等の地位を得るべき時がある」

答えられなかった少年が焦ってしまい、白人農場主が持っていた飲み物を本人にかけてしまいます。キレた白人はステッキでぶん殴ります。すかさずコーラが前に出てかばいます。そのまま2人とも鞭打ちに。

夜中ずっと野外に放置され、シーザーはコーラを抱えます。あらためて「今すぐにでも脱出すべきだ」と誘います。シーザーは女と交われと指示されますが頑なに拒んでいました。

翌日、ジェイムズが倒れたことで農園は一括してテランスの統治下になります。全奴隷を管理し、宴は一切なし、交配も監督すると言ってのけます。

そんな中、ランドル家にひとりの黒人男性を収容した檻つきの馬車が到着。その場所を率いるのは逃げ出した黒人を捕まえるハンターのアーノルド・リッジウェイです。屋敷内で会話するテランスとリッジウェイ。

「このあたりに地下鉄道が走っているとか」「なぜ逃げて戻らないのか」「ニガーは実にずる賢い生き物ですから」

リッジウェイは過去に唯一逃げるのを止められなかったメイベルを覚えており、その娘のコーラに関心を持ちます。食事会でリッジウェイはこう言います。

「ニガーを人間だなんてまず間違いです。人間というのは考え判断し愛することができる。ニガーにその能力はありません。だから振る舞いを教えないといけないのです」

奴隷たちが集められ、目の前で逃亡黒人男性が火炙りに。暴力は果てしなく陰惨になるばかり。

ついにシーザーとコーラは夜中に逃げ出すことを決意。しかし、ラヴィーがついてきてしまい、さらに白人たちに襲われ、パニック。コーラは10代の白人少年と揉み合いになり、殴りつけ、斧を振り下ろそうとしますがシーザーが止めました。2人はなんとか逃げきります。

目的の場所に到着。手引きする者の案内で地下へ続く梯子を降りると、名簿に書く決まりなのだとか。そしてこう告げられます。

「もうすぐ地下鉄道が来る」

その言葉どおり、揺れを感じ、暗い洞窟の奥から光が近づいてきます。それは紛れもなく列車でした。

「この国を知るには列車に乗れ。外の景色を見ていれば真のアメリカがわかる」

2人は乗り込み、暗闇へ消えていきます。

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地下鉄道は実在するのか?

『地下鉄道 自由への旅路』を鑑賞するうえで歴史的な背景の理解は必須です。奴隷制は知っていて当然として、もうひとつ知っておきたい重要事項は作中でも鍵となる「地下鉄道」です。

奴隷制の時代のアメリカにて、密かに奴隷黒人を北に逃がす支援をする奴隷制廃止論者や北部諸州の市民たちからなる組織がいました。それが「地下鉄道」です。いわゆる秘密結社であり、相当な数の黒人がこの「地下鉄道」のおかげで地獄のような世界から逃げ出せたと言われています。

最近だと『ハリエット』という映画にて主題として描かれていました。

この「地下鉄道」は実際に地下に鉄道があったわけではありません。あくまで組織の名前です。逃亡奴隷の隠れ家を「stations(停車駅)」、手引きする人を「conductors(車掌)」と呼んだりしましたが、本物の列車は存在しません。たいていの移動は馬車などです。

つまりこの『地下鉄道 自由への旅路』はその「地下鉄道」という組織が本当に地下に鉄道を走らせていたら?という歴史改変SFというわけです。列車がお披露目となるシーンは壮観でしたね。

一方で、現実歴史にポッと「if」を投入しつつ、そんなわかりやすい構図でもないのが本作のややこしいところ。そもそも作中ではあの地下鉄道の実在性がどうもあやふやです。車体は描写されますが、内部はわかりませんし、どういう運営なのかも不明。肝心の移動シーンは描かれません。なので「本当に地下鉄道がある…んだよね?」というどうにも決定打に欠ける曖昧さの中で観客は眺めることになります。

これはおそらく作り手は意図したことで、すごく抽象的な存在にあえてしているのだと思います。例えば、第7話でノース・カロライナの家の屋根裏に隠れ潜んでいたグレース(ファニー・ブリッグス)は火事で死亡したかに見えましたが実際は裏から逃げて列車に乗ったことがわかります。でもどうも現実味がない。それはまるで死者をあの世に送る列車とも解釈できるような…。

コーラも何度か地下鉄道に乗るのですが、それは物理的に移動したというよりも、心理的に彷徨っていると捉えることもできるでしょう。

私は本作の地下鉄道は「銀河鉄道の夜」みたいだなと思ったりもしましたけど…。

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どこへ停まっても最悪

主人公のコーラは第1話の終盤で地下鉄道に乗り込み、奴隷の地から逃げ出せます。しかし、これでめでたしめでたしにはなりません。停車駅ごとに最悪が待っています。

サウス・カロライナでは表面的には見違えるような普通の生活を手にしたように見えましたが、裏では「黒人の改良」と称して人口抑制と人体実験が行われているのを身を持って体験。これも実話。ジョージアでは野蛮な白人が元凶でしたが、知識人の白人も同列におぞましいのでした。

続くノース・カロライナではいわゆる「sundown town」になっており、奴隷であろうとなかろうと黒人は狩られるという世界に迷い込み、絶望を目撃します。これも実話(ドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』でも描かれていました)。

一度はリッジウェイに捕まりつつ、なんとかまたも地下鉄道に乗り込み、到着したのは第8話のインディアナ。ここでは黒人だけのコミュニティが存在し、とても平穏で理想郷のようです。しかし、そこにも白人の魔の手が…。南北戦争の到来を予感させる、戦場と化す一帯。

このようにコーラは全然逃げられません。この旅はまさしくこの世界における黒人の扱いをまざまざと体感させるものになるだけ。

シーザーは冒頭で「ガリヴァー旅行記」を愛読していましたが、それはコーラの旅路とまさに重なるものでした。

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グレート・スピリット

そのコーラを本当に執拗に、不気味なくらいに執着して追い詰めるスレイヴ・キャッチャーのアーノルド・リッジウェイ。

彼のテネシーで暮らしていた若い時代も第4話で描かれます。そこでは父は平等な世界を夢見ていたようですが、しだいにアーノルド・リッジウェイだけが奴隷支持に染まり、やがては「根絶はアメリカの至上命令」と言い切るまでの人間として確立する、その過程が映し出されることに。

リッジウェイの考える「グレート・スピリット」が一種のアメリカ的な愛国心であり、信仰心でもありますが、そんなアメリカ人なら誰しもが持っているものが歪めばここまで恐ろしくなるということを描く。差別主義者をモンスターとして描くだけなら簡単ですが、本作はその加害者も人として誠実に描くあたりがとても“バリー・ジェンキンス”監督らしいなと思います。

それにしてもあのリッジウェイがいつも連れているホーマーという黒人少年がまた不気味でしたね。忠実な猟犬のようであり、言い換えれば完全に従属した黒人の未来を暗示するようでもある。あれはアフリカ系当事者からしてみれば相当な心理的恐怖なんだと思います。

最終話ではコーラの母のメイベルの顛末が描かれます。伝説的に語られていた彼女もまた実際はちっぽけな人間にすぎませんでした。

そう考えるとコーラはいつの間にか母すら成し得なかった旅に成功していました。でもゴールは見えない。

終盤は地下鉄道が出てきません。そこが何よりも本作の趣だと思います。トロッコを押し、やがてはとあるキャラバンに拾ってもらう。要するに史実どおりの逃避行のかたちに戻るわけです。フィクションからリアルへと移行した彼女はやっとその心の不安定さからも解放されたのかもしれません。

雄大な叙事詩を見たような気分になりつつ、ふと今のアメリカ社会に立ち返れば、アフリカ系アメリカ人の戦いはまだ終着駅を見い出せていません。奴隷の時代から200年以上が経過。いつになったら列車は休めるのでしょうか…。

『地下鉄道 自由への旅路』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 57%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

バリー・ジェンキンス監督の映画の感想記事です。

・『ビール・ストリートの恋人たち』

・『ムーンライト』

作品ポスター・画像 (C)Plan B Entertainment

以上、『地下鉄道 自由への旅路』の感想でした。

The Underground Railroad (2021) [Japanese review]