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『リコリス・ピザ』感想(ネタバレ)…2人の人生はウォーターベッドのように

リコリス・ピザ

2人の人生はウォーターベッドのように…映画『リコリス・ピザ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Licorice Pizza
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年7月1日
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
恋愛描写

リコリス・ピザ

りこりすぴざ
リコリス・ピザ

『リコリス・ピザ』あらすじ

1970年代、ハリウッド近郊のサンフェルナンド・バレー。高校生のゲイリー・ヴァレンタインは子役として活躍していた。一方のアラナ・ケインは将来が見えぬまま、カメラマンアシスタントをしていた。ゲイリーは、高校での写真撮影のためにカメラマンアシスタントとしてやってきたアラナに一目惚れする。強引なゲイリーの誘いが功を奏し、食事をする2人だったが、山あり谷ありの人生を経験していくことになり…。

『リコリス・ピザ』感想(ネタバレなし)

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ピザの映画ではありません

日本で2022年に公開される「美味しくなさそうなタイトルの映画」。『ガンパウダー・ミルクシェイク』に続いて、お次は本作『リコリス・ピザ』です。

うわ~ピザのあの高カロリーなボリュームを全て台無しにしそうだなぁ…と思ってしまいますけど、この奇抜なタイトルの映画、別にピザは関係ありません。じゃあ、なんでこんなヘンテコな名前なのかというと、1970年代にそういう名のレコードチェーン店がカリフォルニア州にあったらしいです。それはマニアックすぎてわかんないよ…。

でもこの『リコリス・ピザ』もマニアックなツボをつく映画なので、タイトルとしてはぴったりなのかもしれません。

本作の監督はあの大ベテランの“ポール・トーマス・アンダーソン”。「PTA」と略されるあの人です。『ブギーナイツ』(1997年)、『マグノリア』(1999年)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)、『ザ・マスター』(2012年)、『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)と優れた脚本を書くことでも有名で、アカデミー賞でも常連。最も直近の映画は2017年の『ファントム・スレッド』であり、こちらも高い評価を受けました。非常に批評家受けのいい、シネフィル好みの監督ですね。

その“ポール・トーマス・アンダーソン”監督の2021年の映画がこの『リコリス・ピザ』なのですが、今作はこれまでのフィルモグラフィーとは少し毛色が違います。“ジョージ・ルーカス”の『アメリカン・グラフィティ』を意識したような、“ポール・トーマス・アンダーソン”監督版の青春ドラマになっているのです。といっても監督本人の青春時代を描いているわけではなく、『リコリス・ピザ』は1970年代が舞台で、どちらかと言えば“ポール・トーマス・アンダーソン”監督が尊敬している先輩監督たちの過ごした青春を映像化しました…という感じのノリです(“ポール・トーマス・アンダーソン”監督自身は1970年生まれ)。『ブギーナイツ』にノリは似ている起業モノでもありますね。

なので『リコリス・ピザ』は時代背景が緻密に描かれており、マニア心をくすぐるネタがいっぱいちりばめられています。この小ネタにどれだけ気づけるかで本作へのハマり具合も大きく変わってくるんじゃないかと思うほどです。

舞台は1973年のロサンゼルスのサンフェルナンド・バレー。映画産業が盛んな地域です。実在の人物をモデルにしたキャラクターもバンバン登場し、わかる人は「あの人だ!」となるのですけど、わかんないと「誰?」って感じでぼんやり物語を眺めることになるのですが…。まあ、今回も案の定、業界人受けの良い映画を作りましたよ。

でも物語はシンプルなのでそんなに難しく考えて尻込みしなくていいですけどね。主人公は10代の高校生の男子と、20代の女性。この2人のロマンスのような、でもそうでないような、何とも言えない人間模様がこの時代の中で描かれていくというスタイルです。

この主人公2人を演じる俳優が良くて、10代の高校生の男子を演じるのは、監督とも仲が良い“フィリップ・シーモア・ホフマン”の息子である“クーパー・ホフマン”。そして20代の女性を演じるのは、ミュージシャンとして成功していた“アラナ・ハイム”。両名とも俳優としての演技経験は浅いのですが、今作でベストマッチな佇まいを披露し、新人としてブレイク作となりました。

共演は、『初体験/リッジモント・ハイ』の“ショーン・ペン”、『ナイトメア・アリー』の“ブラッドリー・クーパー”、シンガーソングライターでもある“トム・ウェイツ”、『アンカット・ダイヤモンド』の監督でもある“ベニー・サフディ”、『ナイト ミュージアム エジプト王の秘密』の“スカイラー・ギソンド”など。

『リコリス・ピザ』も当然のように大好評で、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞にノミネート。日本ではいつ公開するのかと待ち望んでいた人も少なくなかったと思いますけど、7月1日公開となるとは…。さすがに旬を過ぎてますよね。やっぱりアカデミー賞映画は春までに公開した方が話題性の観点からも絶対にいいですよ。まだ公開されてなかったの?感がどうしてって強い…。

ともあれ“ポール・トーマス・アンダーソン”監督の70年代青春ムービーをぜひご堪能あれ。このジャンルとしてはちょっと長い133分もあるので、映画上映時間の関係でスケジュール調整が大変かもだけど。

後半の感想では時代背景のネタも交えて少し解説風味に語っています。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:シネフィルは要注目
友人3.5:映画好き同士でネタを語り合う
恋人4.0:異性愛ロマンスあり
キッズ3.5:やや人間模様が複雑
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『リコリス・ピザ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『リコリス・ピザ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):声をかけて、かけられて

とある高校で撮影が行われていました。そこで俳優としてもう仕事している15歳のゲイリー・ヴァレンタインは、同じ現場でカメラのアシスタントをしていた年上の女性アラナ・ケインに惚れこんで、しきりに声をかけて誘います。「どこに住んでいるの?」としつこくずっと付いてくるゲイリーに10歳年上のアラナはお子様を見るような態度で呆れ顔。「あなたこそどこ出身?」と聞くと「シャーマン・オークス」と答えてきて、やっと離れてくれました。ゲイリーはまたアラナが会いに来てくれると自信満々のようです。

その夜、バーにいたゲイリーのもとにアラナがふらっとやってきます。とりあえず相手をしてあげようと思っただけですが、息づかいが荒いゲイリーをやめてとアラナは制止。そのまま食事をすると、「ビジネスをしない? 女優は? 僕はショーマン、天職なんだ」と無邪気にゲイリーは口が止まりません。

帰り道、「電話番号を聞いてもいい?」とゲイリーが聞いてくるので、やむを得ず教えてあげて、「恋人じゃないんだからいつも電話してこないで」と釘を刺します。

アラナは帰宅します。彼女の家はユダヤ系の厳格な家庭で、居心地が悪いのでした。

ゲイリーの母親アニタはジェリーという男とその日本人の妻の相手をしており、レストラン「ミカド」の経営に関するあれこれを喋っています。それを面白おかしそうに眺めるゲイリー。

ある日、ゲイリーはニューヨークで仕事があったのですが、付き添いがないといけません。母は忙しいので、そこでアラナをお目付け役として同行してもらうことに

その移動中の機内でゲイリーと共演したことのあるランスが話しかけてきて、アラナと親しくなります。

俳優仕事の現場は「ルーシー・ショー」です。ステージで他の子どもたちと一緒に演じ、2人は帰途に。

その後、ゲイリーは、アラナがランスとデートをしているのを目撃し、気分が下がります。ランスのふりでアラナへ電話をすると、アラナのウキウキした声を聞き、何も喋らずに電話を切るのでした。

アラナはランスを家族との夕食に招待しますが、家族の態度にキレて怒鳴り散らし、2人の関係はそこで終わりました。

一方のゲイリーはウォーターベッドの魅力に憑りつかれ、売り込む従業員になります。そこへアラナがやってきて、事業に意気込むゲイリーを揶揄います。するといきなりゲイリーは警官に押さえつけられて連行され、パトカー内の無線でどうやら殺人の容疑者と誤解されて捕まったらしいとわかります。アラナが警察署まで追いかけてくると、警官は誤認逮捕とわかったのか無言で手錠を外して釈放。なんだったんだとキョトンとするゲイリーですが、外でアラナと抱き合い、そのまま走りだす2人でした。

そしてゲイリーとアラナはビジネスパートナーとしてウォーターベッドを売る事業を本格化。アラナは商才もあるようで事業は上手くいきます。

ところが今度はアラナは演技に目覚め、俳優になると言い出します。ゲイリーのコネもあってエージェントへ顔を見せにいくと、「ヌードにならないと仕事にならない」と言われ、だったらヌードになると息巻くアラナでした。

そうこうしているうちに意外な業界の大物と対面することができ…。

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元ネタは監督の知り合い繋がり

前述したとおり『リコリス・ピザ』は1970年代の映画産業と密接なサンフェルナンド・バレーを舞台にしており、実在の人物をモデルにしたキャラクターがかなり唐突に登場しまくります。

そもそも本作の主人公のひとりであるゲイリーだって、“ゲイリー・ゴーツマン”という、後に『フィラデルフィア』(1993年)などの製作総指揮でプロデューサーとして大活躍する人物がモデルです。“ゲイリー・ゴーツマン”はもともと子役として業界で仕事していたんですね。

『リコリス・ピザ』内でもゲイリーはアラナを連れて「ルーシー・ショー」という作品に出ますが、これの元ネタは“ルシル・ボール”の『Yours, Mine and Ours』(1968年)であり、実際に“ゲイリー・ゴーツマン”も出演していたそうです。“ルシル・ボール”は最近は『愛すべき夫妻の秘密』という伝記映画も作られたのでそちらも参照にどうぞ。

一方のアラナはオリジナルのキャラクターですが、当時の映画業界のど真ん中に飛び込んでいきます。その過程で出会うジャック・ホールデンという男。彼は『サンセット大通り』『第十七捕虜収容所』『戦場にかける橋』『麗しのサブリナ』など1950年代に一世を風靡した俳優“ウィリアム・ホールデン”が元ネタ。そんな彼との出会いの場でレックス・ブラウという監督が乱入し、流れのままスタントを再現しろと勢い任せで騒ぎになっていくのですが、このレックス・ブラウはおそらく『ワイルドバンチ』の“サム・ペキンパー”とか、もしくは“ジョン・ヒューストン”あたりが元ネタなんじゃないかなと思います。

そしてウォーターベッド事業の最後の顧客として登場するのが、あの名プロデューサーの“ジョン・ピーターズ”『スター誕生』で映画プロデューサーとしてデビューしたことで有名ですが、その彼を本作ではリメイク作『アリー スター誕生』を監督&主演した“ブラッドリー・クーパー”に演じさせているという遊び心。

ここまではまあ、わかりやすいのですが、後半で登場するのは“ジョエル・ワックス”という政治家で、彼は実在のロサンゼルス市議会議員です。映画じゃなくて政治に話が移り、何の関係があるのだろう?と思ったりするのも無理ないですが、これも“ポール・トーマス・アンダーソン”監督に繋がりがあります。

まず当時の“ジョエル・ワックス”のテレビ広告を手がけていたのはあの“ポール・トーマス・アンダーソン”監督の師でもある“ジョナサン・デミ”監督なんですね。その“ジョナサン・デミ”監督作の有名映画と言えば、ゲイとエイズの闘いを描いた『フィラデルフィア』。この“ジョエル・ワックス”もこの時点ではクローゼットな同性愛者であり、ゲイの権利のために活動した政治家でした。

さらに本作のジョエル・ワックスは、もうひとりの著名なゲイの政治家である“ハーヴェイ・ミルク”にも通じる描かれ方をしており、この“ハーヴェイ・ミルク”の伝記映画『ミルク』で主役のハーヴェイ・ミルクを演じたのは“ショーン・ペン”。そしてその“ショーン・ペン”は本作ではジャック・ホールデンを演じていて…という、ややこしすぎる関係図ができあがる…。実在の“ハーヴェイ・ミルク”は暗殺されてしまうのですが、本作のジョエル・ワックスもどことなく一抹の不安を感じさせる不吉な展開もあって、サスペンスになっています。

こうやって『リコリス・ピザ』全体が“ポール・トーマス・アンダーソン”監督の知り合いワールドで埋め尽くされている。あらためて交友関係の凄さにもびっくりだけど…。

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そんな2人にも映画のようなラストを

時代背景のネタはさておき、『リコリス・ピザ』は男女のドラマとしてもユニークでした。

あのアラナとゲイリーの2人が、典型的なハリウッドが好む美男美女ではない容姿をしているのがまたいいですね。

ゲイリーはいかにも調子づいている10代という感じで、ハリウッドではこういうティーンが少なくとも当時は実際にいたんだろうなという生々しい空気か漂っています。見た目はずいぶん大きいですけど、とにかくナンパするクセがあるだけで、性根はガキという…。石油危機を全然わかってないシーンとかも面白かったです(ちなみに“ポール・トーマス・アンダーソン”監督は石油業界を描いた『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を手がけているので、その対比によるおバカさを強調する場面でもあります)。

対するアラナは実はかなり多才で、ユダヤ系家庭で父が元軍人ゆえにイスラエルのマーシャル・アーツまで身につけていて、作中では見事すぎる大型トラックのバック走行というドライビング・テクニックを披露するし…。絶対にスタントの仕事するべきだよ…。彼女がスキルに見合った仕事に巡り合えないのは、もちろん当時の社会の女性差別もあるわけで…。

そんな2人のぎこちなさと初々しさが入り混じった青春の交流。ラストは走り寄っての、かなり王道なロマンス。なんか日本のアニメみたいだったなぁ…。でもあの2人、1週間後とかに別れてそうだな…。

この2人の関係を過度に理想化されたものと捉えるか、それともフィクションの中にあるさらなるフィクションとしての映画的に計算された意図的な嘘と捉えるか、そこは観客しだいなんでしょう。

2人の人生はウォーターベッドのようにプカプカと気持ちよさだけを与えて、時代とともに過去の遺物として終わってしまうように思わせて、最後は映画のような展開を迎える。このへんは“ポール・トーマス・アンダーソン”監督流のマジックですかね。

『リコリス・ピザ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 65%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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作品ポスター・画像 (C)2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved. リコリスピザ

以上、『リコリス・ピザ』の感想でした。

Licorice Pizza (2021) [Japanese Review] 『リコリス・ピザ』考察・評価レビュー