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『リズム・セクション』感想(ネタバレ)…復讐のリズムはここから始まる

リズム・セクション

復讐のリズムはここから始まる…映画『リズム・セクション』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Rhythm Section
製作国:アメリカ・イギリス(2020年)
日本では劇場未公開:2020年に配信スルー
監督:リード・モラーノ

リズム・セクション

りずむせくしょん
リズム・セクション

『リズム・セクション』あらすじ

3年前に愛する家族を飛行機事故で失ってからというもの、ステファニー・パトリックはドラッグや売春に溺れていき、何にも幸せを感じることはできない自堕落な生活に沈んでいた。しかし、接触してきたある男から、あの飛行機事故が単なる事故ではなく、何者かによって仕組まれたものであることを知らされる。そこから彼女の心の中で復讐の音が鳴り始める。

『リズム・セクション』感想(ネタバレなし)

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短髪ブレイク・ライヴリー

ハリウッド屈指の仲良し夫婦と言えば…“ブレイク・ライヴリー”“ライアン・レイノルズ”がよく挙げられます。最近、第三子となる赤ちゃんが生まれたばかりのこの夫婦はいつもラブラブで、無邪気なデート風景の写真を上げたり、互いをおちょくったネタ画像をアップしたり、その傍らでときどきヒュー・ジャックマンをいじったり…。とにかく楽しそうですし、そのプライベートな姿を公に見せることに全然抵抗感もないようです。

かたや仕事となると出演している映画の傾向はかなり対極的で、近年の“ライアン・レイノルズ”はご存知アホっぽい作風でやりたい放題しまくっているわけですが、一方の“ブレイク・ライヴリー”は夫と同様のアホさは薄く、どちらかといえばクールだったりシリアスな作品によく出演しています

“ブレイク・ライヴリー”はもともとドラマ『ゴシップガール』で大ブレイクしたのですけれども、今後はどんな路線をいくのか、ちょっと読めませんね。

そんな中、新しい一面を見せてくれる主演作が登場しました。それが本作『リズム・セクション』です。

本作はアクション映画であり、家族を殺されたごく普通の女性が憎き相手に復讐するべく動き出していくというリベンジ系でもあります。まあ、“ブレイク・ライヴリー”は『ロスト・バケーション』でサメ相手に大勝負を仕掛けていますからね。今さら人間ごとき敵ではないでしょう。でもあの時はずっと海の上でしたけど、今回はカーチェイスもあるし、あちこちを舞台に暴れまわります。こういう主演作は初めて…なのかな?

そして見た目もガラッとチェンジ。なんとショートヘアなスタイルなのです。一見すると別人に思えてしまうくらいのイメチェン状態。『シンプル・フェイバー』みたいにゴージャスな装いでサラッと長髪をなびかせるのもいいですが、『リズム・セクション』の短髪なワイルドモードもなかなか似合っています。彼女のまた違った魅力を引き出しているだけでも本作は観る価値があるでしょう。

監督は“リード・モラーノ”という女性のフィルムメーカー。彼女のキャリアのスタートは撮影でした。2008年の『フローズン・リバー』という作品自体が高評価だった映画で撮影を手がけ、その後も『リトル・バード 164マイルの恋』(2012年)、『最高の人生のつくり方』(2014年)など多くの映画で撮影を任せられます。そしてしだいに監督業にも進出。2015年の『ミッシング・サン』で監督デビューを果たし、最近もピーター・ディンクレイジとエル・ファニングが共演する『孤独なふりした世界で』という異色作を手がけるなど、ユニークな活動が目立ちます。ただ、“リード・モラーノ”の一番の功績は監督兼製作総指揮のひとりを務めたドラマ『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』でしょう。ショッキングかつセンセーショナルな物語で性差別に切り込むこのディストピア作品はドラマ業界を震撼させ、数多の賞に輝きました。

『リズム・セクション』の原作は“マーク・バーネル”が2000年に上梓した小説「堕天使の報復」なのですが、映画の際の脚本も原作者である“マーク・バーネル”が担当しています。

また、製作会社にも注目です。「Eon Productions」なんですね。ご存知でしょうか、あの「007」シリーズを手がけているイギリスの会社です。そのためプロデューサーにクレジットされているのも「007」シリーズでおなじみの“バーバラ・ブロッコリ”“マイケル・G・ウィルソン”のいつもの二人です。あの巨大フランチャイズだけでじゅうぶん儲かっているはずですけど、こんな小粒な作品にも手を出すんですね。いろいろと模索でもしているのかな。『リズム・セクション』も半分はスパイ映画みたいなものですし…。

なお、“ブレイク・ライヴリー”以外の出演陣としては、『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』など大作でも活躍中の“ジュード・ロウ”が重要な役で登場し、他にも“リチャード・ブレイク”、“スターリング・K・ブラウン”など。

アクション全開というよりは、殺しなんて無関係の世界で生きてきた素人が徐々にそっちの世界に染まっていく過程をじんわり描いた作品ですので、かなり“通”好みなのは確か。我こそはというマニアの皆さん、もしくは俳優ファンの人は観ることを考えてみるのはどうですか。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(リベンジ系のアクション好きなら)
友人 ◯(映画好き同士の暇つぶしに)
恋人 △(恋愛気分的な作品ではない)
キッズ △(暴力描写がたくさん)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『リズム・セクション』感想(ネタバレあり)

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心臓の音はドラム、呼吸の音はベース

ある建物に侵入する女性。それは遊びに来たわけではなく、殺意のこもった緊張感をまとっています。そして、銃を手にターゲットである相手の背後に。その相手は椅子に座り、じっと動きません。これならば気づかずに事を済ませることができる。ゆっくりと銃を向けます。

8か月前のロンドン。

じっと部屋で佇む短髪の女性がいます。感情を押し殺すも漏れ出してしまうような悲痛の表情を浮かべながら。今、この女は昔の楽しかった記憶を振り返っていました。家族5人、みんなでトランプして無邪気に遊んでいたあの団欒のひととき。自分の髪はまだ長かった…。

「リサ」と名前を呼ばれ、現実に戻ります。彼女は今は売春業に身を費やしていました。お客としてやってきた男。「キース」と自己紹介してきますが、興味ない女は先払いでカネを払うように言い、淡々と仕事に取り掛かります。
しかし、このキースは風俗目当てではないようです。「君の家族は飛行機墜落事故で死亡した」といきなりプライベートな過去を言い当てます。そして「ジャーナリスト」であると名乗ります。なんでも記事を書いているらしく、しかもあれは世間で報道されている燃料タンクの事故ではなく爆弾によるテロ行為の結果であると言うではありませんか。にわかには信じられない衝撃の話。女はその言葉を受け流し、店に頼んでキースを強引に追い出すのでした。

このリサ、本名はステファニー・パトリックは確かに3年間の航空機の墜落事故で家族を一度に失ってしまい、孤独の中にいました。それももともと自分のせいで搭乗便を変更し、さらには自分は乗らなかったため、自責の念を感じているようです。留守電に電話し、残った家族の声を聴くしかできない。ドラッグに溺れ、意識が混濁していく中、後悔だけが残留する、何の希望もない日々。

ステファニーは思い立ったように出ていきます。あの男に話を聞いてみよう、と。その男、キース・プロクターはあの事故に関して単独で相当に調査しているようで、家に行くと壁には犠牲者の写真がびっしり貼られていました。

彼曰く「モハメッド・レザ」という男の写真を見せながら、こいつがテロの容疑者だと説明されます。それはすぐ身近にいる男でした。「なぜ特定しているのに逮捕しないの?」と聞くと、泳がせているのかなんなのかキースもよくわかっていないようです。「情報源は信用をできるの?」と問い詰めると、「裏をとっている」と繰り返しますが、後に「B」という情報源ファイルを発見。「B」というのが情報の出どころなのかと聞くと、跳ね返されてしまいます。

こうなってはジッとしていられないとステファニーは独断で行動を開始します。まず銃を手に入れ、大学の食堂へ。レザのそばに座り、銃の引き金を引こうとしますが、例の男を前に銃を突きつけることすらできませんでした。そしてバッグがないことに気づきます。

キースのアパートに戻ると、キースは無残にも殺されているのを発見。これは自分のせいなのか…。

追い込まれたステファニーは手がかりとなる「B」の居場所らしき地点へ向かいます。そこはバスでたどり着いた辺鄙なところ。ブラブラしていると、いきなり何者かに強襲され、建物に軟禁されます。「何しに来た」と聞かれ、レザを殺す意図を話すステファニー。この彼女を捕まえた男こそ「B」でした。

ステファニーは復讐するだけの力を身に着けるために、「B」ことイアン・ボイドに訓練してくれと頼みこみます。そうしてトレーニングが開始されるのでした。ランニングや極寒の水泳、格闘、銃の使い方、運転テクニック…いろいろなノウハウを叩きこまれるステファニー。

あの事件の黒幕はイスラム教原理主義で、レザは使いっぱしり、主犯は「U17」と呼ぶ存在だと判明。アブドゥルという敵対者を殺すためにあれは起きたそうで、その父スルマンがキースを雇って報復を考えているようでした。

銃の訓練の最中、ステファニーは教え込まれます。「体のリズム・セクションを意識すること」「心臓の音はドラム、呼吸の音はベース」…沈んでいた彼女の人生はリズムを取り戻しました。全てを奪った憎き存在を葬るために…。

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よし、基礎訓練からだ!

『リズム・セクション』は前述したとおり、殺しなんて無関係の世界で平凡に生きてきた素人が徐々にその危険な世界に染まっていく過程をじっくり描くもの。
同様のタイプで女性が主人公と言えば、最近は『ライリー・ノース 復讐の女神』がありました。

でもあちらはリアリティよりもカタルシス重視の派手めなリベンジ系で、本当にコイツは素人だったのか?と思うほどに、奇抜かつ大胆な復讐という名の処刑が実行されていくのが売りでした。それはそれで楽しいのですが、もはやリアルはないです。

一方の『リズム・セクション』はそういうジャンル的な派手さを抑えて、極力はリアルでありそうな導入になっています。まずはジャーナリストに接近して、アンダーグラウンドな世界を知り、元諜報員の力で体力トレーニングから始める。なかなか基礎訓練を大事にするリベンジ系はないですよ。走り込みから開始ですからね。部活かな…。

ここの訓練シーンはなんか微妙に面白く、突発的に始まる格闘訓練といい、ちょっとなんなんだこれ感があってシュール。

そしていざ本番なのですが、おカネがないので、経費を得るために資金援助してくれそうなところに頼みに行くという、これまたやたらリアルなステップを挟みます。

で、やっと資金もゲットでターゲット探しに行くわけですが、マドリードからのタンジールでは冒頭のシーンにつながって初の殺害に挑戦するも揉み合いになり、あげくにカーチェイスへ。ここの場面は、本当にパニックになりながら運転している感じが臨場感もあって良かったです。車内視点の撮影が地味に貢献していました。確かに一般人はあれくらい混乱しながら運転にてんやわんやになるだろうな…。

終盤のマルセイユでのバスの中でのレザとの揉み合いも生っぽく、リアルで…。ステファニーは某映画の女性スパイのようにビジュアル的にカッコいいアクションなんてできません。それが普通ですから。その絵的につまらなくなってしまうという欠点もありながら、本作ではそこを大事にして描こうとする姿勢は好感が持てる部分ではあります。

なお、それでも本作では“ブレイク・ライブリー”の手による怪我で撮影が中断するくらい、役者本人は体を張って頑張っていたみたいですけどね。

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復讐と雑な男には価値はない

その『リズム・セクション』のリアル重視のコンセプトは理解できる一方で、もう少し上手い見せ方も欲しかったなと思う点もいくつか。

例えば、序盤の訓練シーン。あれが後半に活かされるという展開があればカタルシスになるのですが、本編ではそんなことはありません。あれじゃあ、何のために走ったり、泳いだりしたのか、苦労が水の泡な気がします。カーチェイスは多少活かされていましたけど…。

せめてタイトルにもあるリズムを整えた射撃がここぞと決まるシーンが欲しいところ。てっきりそういうシーンがあると思って期待していたのですが…。

あと、「B」こと“ジュード・ロウ”演じるイアン・ボイドの存在感といい、ステファニーの周囲にいる男たちの物語上の機能がイマイチな気もして…。一応、本作は男たちに振り回されるステファニーが最後は自分の足で自立して前に進んでいけるようになるという、そこに静かなカタルシスがある作品です。それはわかってはいるのですが、描き込み不足なのか、描写が単発的すぎるのか、ステファニーと男たちの関係性がどこまで深く依存しているのか、よく伝わってこなかったかな、と。

“ジュード・ロウ”が教官になっている立ち位置的にも本作は『キャプテン・マーベル』との類似性もあるのですが、あれみたいに最後にわかりやすい一発のお見舞いがあって立場の逆転を描いてくれるといいのですけどね。

理想はラストにイアン・ボイドに対して射撃の腕前で圧倒するシーンがあること…だったのかもしれない。それがあって勝利の笑みに現実味がでるというものです。
でも“ジュード・ロウ”は胡散臭い役をするのが上手いなと思いました。今作でも意味わからん訓練をやり始めたり、ターゲットの子どもまで爆破で殺したり、見た目は偉そうに実力者ぶっている割には仕事が雑じゃないですか。たぶんコイツ、本当に役たたず過ぎてクビになっただけじゃないのかという…。

“ブレイク・ライブリー”の演技は抜群にいいですし、あとは物語面でのフォローアップがもっと欲しかったなというのが総合的な感想です。

また、作中で家族を失ったステファニーは風俗をしているわけですが、あれはセックスワーカーを悲劇に堕ちた女性の象徴に使っているとも言え、あまりそういうのはいかがなものなのかなと思ったり…。別に悲劇を表すだけなら、虚脱感なままに大学の授業に出ているとかでもじゅうぶん伝わるでしょうし、その方がむしろリアルでしょう。そもそも喪失感で心が麻痺した状態で風俗の仕事は務まらないのではないか…。セックスワーカーへのスティグマは映画では気を付けないとね…。

そんなこんなで気になる点は多々ありましたけど、“ブレイク・ライブリー”の儚げの中からクールさが芽生える瞬間を見れただけで、ファンと“ライアン・レイノルズ”はニンマリと大満足じゃないでしょうか。

『リズム・セクション』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 28% Audience 44%
IMDb

5.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

作品ポスター・画像 (C)Paramount Pictures リズムセクション

以上、『リズム・セクション』の感想でした。

The Rhythm Section (2020) [Japanese Review] 『リズム・セクション』考察・評価レビュー