感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『マーベルズ』感想(ネタバレ)…ガラスの崖はみんなで飛び越えろ!

マーベルズ

ガラスの崖はみんなで飛び越えろ!…映画『マーベルズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Marvels
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年11月10日
監督:ニア・ダコスタ

マーベルズ

まーべるず
マーベルズ

『マーベルズ』あらすじ

驚異的なパワーと不屈の心を兼ね備え、ヒーロー不在の惑星を守るために広大な宇宙で活動していたキャプテン・マーベル。そんな彼女のある過去を憎み、復讐を企てる謎の敵が出現する。時を同じくして、キャプテン・マーベルに憧れる地球の若き新米ヒーローのミズ・マーベル、そして強大な能力を覚醒させたばかりのモニカ・ランボーの2人が、ある謎の現象に巻き込まれ、キャプテン・マーベルと運命を共にすることに…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『マーベルズ』の感想です。

『マーベルズ』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

ガラスの崖に立つMCUの女性たち

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は岐路に立っているのかもしれない…そう思わせぶりなことを書くのは誰でもできます。だからどのメディアでも好き勝手に伝えています。

どんなシリーズでもそうですが、作品数が増えればフランチャイズ全体を統制するのは大変です。VFXなどの労働環境の問題もありますし、直近では脚本家&俳優ストライキがハリウッド全体で行われていました(先日に暫定合意を達成)。

しかし、だからといって「ほら見たことか」と今作の『マーベルズ』を引っ提げる女性たちがその運命を決めるのだ…と言わんばかりの論調には同意できません。

こういうように組織が経営不振や不正などで危機的状況のときほど「女性」がトップに置かれて注目されやすい…という現象を「ガラスの崖(glass cliff)」と呼びます。矢面に立たされるのは業界を裏で牛耳る「男性」ではなく、名目上の看板となる「女性」で、少しでも上手くいかなければ、「だから女は…」という視線を向けられる。そんな経験をしたことのある女性は現実でもいくらでもいるはず…。

『マーベルズ』は「キャプテン・マーベル」が主人公の映画シリーズとしてはその続編の2作目となります。前作の『キャプテン・マーベル』MCU初の女性単独主人公映画ということで、ミソジニーな集団に目を付けられ、レビュー荒らしの被害に遭うなどしました。

残念ながら今回の『マーベルズ』も先のMCUに対する批判…の装いをしながら、中身では女性差別や人種差別丸出しな人たちが思っている以上に大量に隠れている状況ですThe Mary Sue。『キャプテン・マーベル』公開時の2019年と比べて、「woke」などという有害な中傷を向ける輩の増大など、世間の雰囲気はむしろ悪化しています。

まさしくキャプテン・マーベルは作品内のフィクショナルな悪役と戦うだけでなく、現実の有象無象の悪意を持った敵とも対峙しなければならない…多重にプレッシャーを背負ったヒーローとなってしまっています。

それでも本作『マーベルズ』は堂々としていて、ときにあえてバカバカしく、爽快に暴れています。女性たちがむやみやたらに重荷を抱える必要はないんだ…とその身で証明してくれるように…。大切なのは興行収入でも、男性の批評家の反応でも、男性観客の盛り上がりでもない。今回の『マーベルズ』も間違いなくエンパワーメントを与えてくれます。そしてそのエンパワーメントの包括力を上げてきています。

冷笑家気取りのアイツらではなく、あなたのための映画なのですから。

スポンサーリンク

『マーベルズ』を観る前のQ&A

Q:「キャプテン・マーベル」ってどんなキャラクター?
A:驚異的なパワーを有するようになったキャロル・ダンヴァースの別名です。『アベンジャーズ エンドゲーム』ではサノスを押し切る強さを見せていました。元アメリカ空軍パイロット時代にマリア・ランボーという同僚がいました。
Q:『マーベルズ』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:基本的に本作から観ても問題ないですが、『キャプテン・マーベル』を鑑賞するとスムーズです。さらに今回はドラマ『ミズ・マーベル』『ワンダヴィジョン』で登場したキャラクターも主要メンバーとして参戦します。
✔『マーベルズ』の見どころ
★爽快なアクションとテンポのいい物語展開。
★魅力的なキャラのアンサンブル。
✔『マーベルズ』の欠点
☆シリアスさはあまり求めても意味なし。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:爽快な気分で
友人 4.0:MCUファンと
恋人 4.0:エンタメ満喫
キッズ 4.0:子どもでも楽しく
↓ここからネタバレが含まれます↓

『マーベルズ』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(前半):光の3人が集う

「キャプテン・マーベル」とも呼ばれているキャロル・ダンヴァースは広大な宇宙を駆け巡り、自身の驚異的なパワーを武器に、困っている人たちを助けてまわっていく日々を送っていました。 その忙しさから母星である地球には全然帰れていません。

ときおり旧知の仲であるニック・フューリーとは連絡をとってはいます。現在、ニック・フューリーは「アベンジャーズ」の指揮官のポジションをやめ、地球を離れて、地球の近くの宇宙を漂う「S.W.O.R.D」のステーションに滞在していました。ここで地球に危険をもたらしかねない存在が宇宙からやってこないかを監視しています。

ある日、ニック・フューリーはある星で異変を察知したと知らせてきます。それはキャロルのいる近くだったので、さっそく現場を見に行ってみます。そこには何かが掘り出された跡が残っていました。

同時刻、「S.W.O.R.D」のステーションではモニカ・ランボーが宇宙服で漂い、異常を起こしている時空の歪みを調査していました。モニカはある事件に遭遇したとき以来、光を視認し吸収する能力を有するようになっていました。

キャロルがクリー人に囲まれて戦闘になり、自身の能力を使おうとした瞬間、なぜか自分自身は地球のとある家の部屋に移動していました。その部屋はキャプテン・マーベルのグッズやイラストでいっぱいです。

一方、モニカの装着していた宇宙服の中には、カマラ・カーンという少女がおり、パニックになりつつも、ニック・フューリーを目にして「アベンジャーズのテスト!?」とやけに興奮しながらハシャいでいます。

そしてモニカはさっきまでキャロルがいた場所に飛ばされており、また次の瞬間、もとの「S.W.O.R.D」に戻っていました。

この謎の現象はどうやら3人が能力を発揮すると起きるらしく、3人が入れ替わってしまいます。

しかも、クリー帝国の首都ハラ出身のダー・ベン「量子バングル」のひとつを入手し、ジャンプポイントを繋ぐという画策をしており、一大事でした。どうやらその量子バングルのもう片方はカマラが持っているもののようです。

この危機に3人はどう連携できるのか…。

この『マーベルズ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2023/11/12に更新されています。
スポンサーリンク

初代『アベンジャーズ』をさらに爽快に

ここから『マーベルズ』のネタバレありの感想本文です。

『マーベルズ』はMCUとしては結構久しぶりとなる全く異なる作品のキャラクター同士のチームアップがメインとなっています。ほんと、それこそ『アベンジャーズ エンドゲーム』以来で4年ぶりじゃないかな? そのせいか、実はかなり原点回帰のノリを感じる作品になっていました。

キャプテン・マーベルことキャロル・ダンヴァース(演じるのは“ブリー・ラーソン”)と、『ワンダヴィジョン』で能力会得が描かれたモニカ・ランボー(演じるのは“テヨナ・パリス”)と、『ミズ・マーベル』でたっぷり描かれたミズ・マーベルことカマラ・カーン(演じるのは“イマン・ヴェラーニ”)。

これだけ異なるキャラが揃ってごちゃごちゃわいわいしているこの感覚…初代『アベンジャーズ』を思い出します。最初のアベンジャーズってこんな雑なまとまりかただったな…。明確に違うのは今回はホモソーシャルな空気がゼロってことです。

しかも、本作『マーベルズ』は映画時間がたったの105分ですごくコンパクトになっており、それでいてキャラクターのアイデンティティをおざなりにすることなく、しっかり活写していて見事だなと思いました。

ちゃんとキャロルの苦悩(「大いなる力には大いなる責任がともなう」という定番のやつ)を描きつつ、惑星アラドナでのヤン王子(演じるのは“パク・ソジュン”)とのプリンセスごっこなお茶目なシーンも盛り込んだり…。モニカは仕事人間なのかと思いきやユーモアもあって、マリアとキャロルという2人の母との確執もサラっと描いて…。さらにカマラのあの愛嬌全開で場を和ますパワーと、家族周りの民族的アイデンティティを軽妙に笑いへと変えるセンス…。

キャロルのあの「クリー人に酷いことしちゃったな…」っていう後ろめたさもね、『ソー ラブ&サンダー』を見せてあげたいくらいですよ。そしたら「あ、こんなバカがいっぱいいるなら後悔しても意味ないな」ってなるのに…。

ともかく3人の女性がしっかり主体性があって、相互に作用し、ステレオタイプに陥らない。今回ばかりはニック・フューリーも「女に命令する男」という嫌なポジションになってないので、なんだかのんびりムードで微笑ましいです(猫に目をやられた後でも猫好きなんだなとわかったり)。

その3人の関係性がアクションとしても映像的に面白く描かれており、今回のあの入れ替わりアクションはなかなかに複雑なことをしていましたけど、きっちりアクションとストーリーが噛み合っていました。

愉快な3人のトレーニング・モンタージュまで用意してくれるなんて…。

本作を監督した『キャンディマン』“ニア・ダコスタ”の手腕が完璧でしたね。『エターナルズ』“クロエ・ジャオ”監督に続いての有色人種女性のオタク監督の起用であり、私はやっぱりこういう普段日の目を浴びてこなかったオタク的作家性が迸っている作品が好きです。

今回のアクションも“ニア・ダコスタ”監督は『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』が好きでそれを参考にしたと語っていましたけど、確かに映像センスが似ていて、非常に漫画やアニメっぽさがあるんですね。

スポンサーリンク

カマラのスーパーパワーはMCUの革命

私が『マーベルズ』でとくに好きなのは、いちいち女性キャラ同士を対立させたりしないってところです。

前半は確かにキャロルとモニカはギクシャクしています。でも本作はそんなシリアスな雰囲気になりかけた瞬間、カマラがずいずい割り込んできて「辛かったね。大変だったね。ハグしよう?(ギュっ)」で解決するんですよ。だからうじうじした重苦しいシーンに続かず、テキパキ進みます。カマラ自身も自分の悩みを素直に口にするし、とにかく感情を溜めさせません。

本作をあらためて見て思いましたけど、MCUにおけるカマラの登場はやはり革命ですね。単純にオタクっ子が混ざって大興奮になっている姿だけでも可愛いのですが、これまでのヒーロー大人勢や“トム・ホランド”版スパイダーマンができなかったこと…つまり感情の気軽なシェアを一瞬でやってのけているのが凄い。これこそカマラのスーパーパワーなんですよ。

これまで女性キャラというのは「“女性らしい”心理的葛藤」を見せるために存在していたり、子どもキャラは「大人の庇護を受けるかどうか」で議論題材になったりしていました。例えば、女性キャラなら『ブラック・ウィドウ』であれば男性による加害支配に苦しむ姿を描いたり、『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』であれば母親としての後悔を描いたり…。

でも、カマラはそのステージをもう軽々と飛び越えています。いや、これからそんな経験をするのかもですけど、そんなのカマラにはどうでもいいんです。この空間を楽しみたいという欲求が先走っているので…。

文句なしの次世代ヒーローとしてカマラは実力を証明しました。

エンディングではニック・フューリー気分で、ケイト・ビショップを勧誘しに行って、ヤング・アベンジャーズのフラグをたてていましたけど、ものすごく期待したくなります。この子なら新しくてくだらないことをやってくれる、と。

スポンサーリンク

猫はたくさん、クィアはちょっぴり

『マーベルズ』はものすっごく軽い映画なので、直面する事態の解決も「え?それでクリア?」ってくらいにあっさりです。グースとその仲間の猫たち(フラーケン)の群れを使った人命避難とかハチャメチャですが、とてもコミックらしくてアホで良かったです。

ダー・ベン(演じるのは“ザウイ・アシュトン”)のあの母星快適化計画も、物質循環の法則を全無視した相当に強引なことをしているんですけど、でもトニー・スタークとかなら生きてたら思いつきそうではある…。

個人的な欠点は、相変わらず同性愛はほんのり匂わせなワンシーンしかないことかな。ヴァルキリーがクールに登場してキャロルとすっごく意味深にいちゃつくのはもちろん最高でしたけど、まあ、そこで止まるか…とは思うし…。だいたい本作はキャロルとマリア・ランボーの関係だって実質上は熟年レズビアン・カップルみたいなもので、MCU史上でこれでも最もサフィックな作品ではあるのです。ただ、そのレプリゼンテーションの飛行機は低空飛行すぎる…。もっと高く飛んでくれ…。

それにしてもヴァルキリーがニュー・アスガルドにスクラル人を受け入れてるあたり、やっぱり私がドラマ『シークレット・インベージョン』の感想で言ってたように、これで良かったんじゃないか…。

カマラのヤング・アベンジャーズ準備というオチも初期MCUらしい盛り上がりを届けてくれますが、今回の映画はワクワクのクリフハンガー・クレジットがもうひとつ。モニカが目覚めた世界、そこにはまさかのビースト(今回はちゃんと医師)、そして母マリアっぽいけど「バイナリー」と名乗る人物、さらにチャールズの示唆。ついにMCU版「X-Men」の本格始動か!?という、サプライズなオチで幕引きでした。

今後のMCUの長期的な作品ラインナップはどうなるかわかりませんが(たぶんストライキもあったのでスケジュールを再考するはず)、とりあえずカマラを中心軸にしたシリーズを一本作り上げるなら、私は大満足です。

次の映画は『Deadpool3』、こっちは別の意味でもっとやりたい放題でふざけまくり確定だろうな…。

『マーベルズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 59% Audience 85%
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
スポンサーリンク

関連作品紹介

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品の感想記事です。

・『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』

・『アントマン&ワスプ クアントマニア』

・『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』

作品ポスター・画像 (C)Marvel Studios 2023

以上、『マーベルズ』の感想でした。

The Marvels (2023) [Japanese Review] 『マーベルズ』考察・評価レビュー