クリスマスはみんなで一緒にMCU大集合…「Disney+」ドラマシリーズ『ホークアイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
シーズン1:2021年にDisney+で配信(日本)
原案:ジョナサン・イグラ
ホークアイ
ほーくあい
『ホークアイ』あらすじ
壮絶な戦いの後、人類を救ったものの、家族のように大切であった親友で同僚の仲間を失ったクリント・バートンは、ホークアイと名乗っていたヒーローの姿を捨てて、今は家族と一緒にクリスマス・シーズンを穏やかに過ごしていた。しかし、そこに現れたのはホークアイに憧れているケイト・ビショップという若者。しかも、とんでもない騒動までぶら下げており、これはまたあの弓矢を射抜くしかないのかも…。
『ホークアイ』感想(ネタバレなし)
MCUではこの男がクリスマスは不運に…
この冬のホリデーシーズンはクリスマス作品が業界に降り積もるのが恒例です。そのプレゼントはこのシリーズにも届きました。「マーベル・シネマティック・ユニバース」、通称「MCU」にもクリスマスが訪れたのです。かれこれ13年くらい続いているシリーズですけど、あの世界にもちゃんとクリスマスはあったんだな…。
そんなクリスマス気分なMCU作品、それが本作『ホークアイ』です。
タイトルのとおり、本作は世界を救うヒーロー集団「アベンジャーズ」のメンバーであった「ホークアイ(本名はクリント・バートン)」を描いた作品。ホークアイと言えば何かとネタにされてきた存在でした。主要ヒーローの多くが超人だったり、ハイテクメカを身にまとっていたり、神様だったりしているのに、ひとりだけ弓矢で戦うオッサンですからね。無理もない…。『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』に登場しなかったのも散々ネタにされたなぁ…。
そんなホークアイが初の単独主人公作品ですよ。今さらかよという感じもないですが、でもドラマシリーズ。しかも今作はいわゆる世代交代を描く立ち位置でもあります。
本作はクリント・バートンの他に、ケイト・ビショップという若い女性が新キャラクターとして登場し、ダブル主人公になっています。原作コミックでは「ホークアイ」の名を受け継ぐケイトが、このMCUではどう描かれるのか、そこが見どころ。
そして物語はクリスマス・シーズンのニューヨークが舞台で、ちょっと『ダイ・ハード』っぽいノリになっています。クリスマス時期に災難に見舞わされるオッサンと、その原因の若い女性…みたいな図。これまでのMCUドラマシリーズはわりとシリアス寄りでしたが、今回の『ホークアイ』はクリスマス作品ということもあって、だいぶ気の抜けた空気も漂う物語です。
でもシリアスになるときはなる。しかも今作はあんなキャラクターやこんなキャラクターまで参戦して…。今回のMCUもサプライズは盛沢山です。今後の展開に関わるであろう要素もあるので細部にも注目です。
クリント・バートンを演じるのはおなじみの“ジェレミー・レナー”。今回は補聴器をつけており、原作コミックの設定を踏襲しています。今作ではいろいろな弓矢戦闘スタイルを見せてくれます。こんなDIYで矢を作っていたのか…とわかる裏側も…。
そのクリント・バートンを慕うケイト・ビショップを演じるのは、『スウィート17モンスター』『バンブルビー』、ドラマ『ディキンスン 若き女性詩人の憂鬱』など、多方面で大活躍の“ヘイリー・スタインフェルド”。毎度絶妙に間の抜けた役が多いのですが、今回もいつもどおりです。でも今作ではタキシード姿を見せたり、ところどころカッコいいのがいいですね。
『ホークアイ』は「Disney+(ディズニープラス)」で全6話(1話あたり約50~60分)で配信中です。
『ホークアイ』を観る前のQ&A
A:本名はクリント・バートン。「S.H.I.E.L.D.」のエージェントでしたが、後に「アベンジャーズ」のメンバーのひとりとなり、アイアンマンやキャプテン・アメリカと一緒に弓矢で戦いました。妻と3人の子どもがおり、家族を大事にする男です。ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフとは仕事仲間であり、やがて家族同然の信頼関係に。『アベンジャーズ エンドゲーム』では大切な人との壮絶な別れを経験し、その出来事が心に深く傷跡を残しています。
A:『アベンジャーズ』(2012年)での出来事が物語の起点のひとつになり、『アベンジャーズ エンドゲーム』での大きな喪失が本作にも影を落とします。主な物語自体は『アベンジャーズ エンドゲーム』後の話です。そして『ブラック・ウィドウ』(2021年)に登場したあのキャラクターが再登場し、実質、続きのストーリーが語られることに。『ブラック・ウィドウ』を事前に鑑賞することはとくに推奨します。
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に観やすい |
友人 | :初心者も誘って |
恋人 | :わいわいと気楽に |
キッズ | :クリスマスにどうぞ |
『ホークアイ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):弓と矢、2つでひとつ
2012年のニューヨーク。エレノア・ビショップは夫と口喧嘩していました。それ盗み聞きする娘のケイト。引っ越しは嫌だと父に訴えますが、父はそんなケイトをなだめ、出かけます。そのとき、部屋が揺れ、外で爆発。親を探すもいません。天窓には巨大な怪物のような存在が空を漂い、ひとりパニック。崩壊した壁から外は大混乱になっていることがわかります。そしてケイトも宙を飛ぶ謎の襲撃者に襲われそうになったとき、矢が飛んできて敵は爆発。自分を助けてくれた弓矢使いの男を称賛の眼差しで見つめるケイト…。
ケイトの父は亡くなりました。葬儀で母の隣で涙を流すケイトは「私がママを守らなきゃ。弓と矢が欲しい」と告げます。
それから年月が経過して…。弓矢を背負ったケイトが夜の建物の屋上に登り、時計塔の鐘楼に向けてボールつきの矢を放ちます。鐘を上手く鳴らすことに成功。でも鐘自体が落下し、塔は半壊。警備員に見つかってこっぴどく怒られてしまい…。
ニューヨークの街はクリスマスムード一色。アベンジャーズを題材にしたミュージカルを鑑賞していたクリント・バートンとその子どもたち。劇の最中、ブラック・ウィドウの紹介で心ここにあらずなクリント。またあの大切な存在を失ったことを整理しきれていません。クリスマスまで6日、今は家族を優先しないと…。
お金に困ったケイトはニューヨークに母のアパートに戻ってきます。母はチャリティーオークションがあるのでオシャレな格好。今は裕福な生活を満喫し、なんとジャック・デュケインという再婚相手も隣に。父の存在を忘れてしまったようでケイトの心中は複雑。
母に言われてしかたなくパーティに参加。でもジャックの存在が受け入れがたく、外で風にあたることに。すると目の前に片目の犬を見かけます。
その後、ケイトは母とアーマンド・デュケインが言い争いをしているのを目撃。さらにワインセラーで密かに行われているオークションを覗くと、アベンジャーズ本部の残骸から発見された品々が競売にかけられていました。ローニンの刀とスーツが競り落とされそうになったとき、急に壁が爆発。襲撃者は時計を探しながら、そのさなかにケイトはローニンのスーツを見つけ、刀はジャックが持って行きます。
ローニン姿で身元を隠したケイトが襲撃者と戦闘。野外の道路でやり合います。
その頃、部屋に帰ったクリントはテレビのニュースを目にして固まります。かつて裏社会を震わせたというローニンがまた暴れているというのです。そのかつてのローニンの正体は何を隠そうクリント自身。これはじっとしていられません。
一方、ケイトはデュケインの家に潜入して事件の謎を解こうとしていました。しかし、そこにあったのはアーマンドの死体。さらに路上で荒くれ者たちに囲まれ、ピンチ。
そこに助太刀に入ったのは、あの憧れのホークアイ、クリントです。「君は誰だ?」
こうして2人の弓使いは出会ってしまったのでした。
いろいろなクリスマスの過ごし方
『ホークアイ』はクリスマス作品らしいテイストなのですが、いろいろ各人のクリスマスの過ごし方が登場するのが面白いです。
まずクリント・バートンはかなりベタです。家族と水入らずの温かいクリスマスを満喫しようとします。オーソドックスなクリスマスの日々ですね。ただ、その実現が邪魔されてしまうのですが…。
一方のケイト・ビショップ。彼女は表向きは本人も健気に振舞っていますけど、現実的にはかなり不幸な立場に追い込まれます。シングルマザーの母は実は犯罪者と繋がっていたことが判明し、最終的には逮捕されるし、自分の家であった唯一の場所も火炎瓶で大炎上して住めないほどに真っ黒になるし…。要するにこのホリデーシーズンにホームレスになってしまったんですね。ちなみに原作コミックのオリジンでは性的暴行を受けるなどとにかく悲惨な設定なのですが、このMCUのケイトはそこまで酷くはないにせよ、やはり裕福な家庭出身ながら自分のモノを持ち合わせていない寂しさを抱えた境遇のキャラになっています。
また、本作で初登場するマヤ・ロペスこと「エコー」。このキャラは父を失って犯罪集団だけが家族同然となりますが、自分がハメられたと知って失望。相棒だと思っていたカジとの切ない戦闘を交えつつ、こちらもクリスマスらしからぬ孤独に沈むことになります。
さらに『ブラック・ウィドウ』からあのナターシャ・ロマノフの妹であるエレーナが参戦。最終話のクリントとの対決の中で姉の愛を共有し、涙する姿は心苦しい…。そんなエレーナですが、クリスマスに関してはお一人様ライフをわりと満喫しているようで相変わらずサバサバしています。ちなみにエレーナは原作コミックではアセクシュアルだと制作者が言及しているのですが、このMCUのエレーナも色恋に全く興味なさそうですし(第5話でエレーナが指パッチンで消滅して戻ってきた際に同僚ウィドウは規範的な家庭を築いていて誘われるもなびかないあたりも象徴的)、そんなアイデンティティの人間のクリスマス・スタイルを体現しているんじゃないでしょうか。
クィア的と言えば、何かと協力してくれた警官の女性。セリフでさらっと「妻がいる」と言っており、同性パートナーがいることがわかります。このキャラは本作ではモブなのですが、原作コミックではボムシェルというヴィランなんですよね。
また、その警官の女性も所属する「ライブアクション・ロールプレイ同好会(LARP)」。本作ではブロードウェイといういかにも品の良い趣味のクリスマス・ライフも見せつつ、ここでしっかりオタク全開な奴らのクリスマス・ライフも見せるという…。
要するに、みんな思い思いのクリスマスの向き合い方がある!という家族規範ありきではない多様な描き方になっていて、そこは『ホークアイ』のクリスマス作品としての良さだと思います。
マーベル大人気のあの悪者がついに!
『ホークアイ』は前半はいかにもあのジャック・デュケインが黒幕のような雰囲気を醸し出していましたが、蓋を開けてみればただの剣を振り回すのが好きなオッサンでした(原作コミックではソードマンというキャラクター)。
そして第5話のラストでついに衝撃の黒幕の存在がエレーナからリークされます。それが…なんと「キングピン」。ウィルソン・フィスクです。しかも、演じているのは“ヴィンセント・ドノフリオ”!
これ、事情がわからない人には「なんで騒いでいるの?」とキョトンとされるだけですが、このとんでもない展開を解説すると、キングピンはマーベルでも屈指の人気ヴィランで、裏社会を牛耳る大ボス。これまでMCUには登場していなかったのですが(『スパイダーマン スパイダーバース』には出てきましたね)、マーベル系列だと『デアデビル』というドラマシリーズには登場しており、“ヴィンセント・ドノフリオ”が演じていました。
この『デアデビル』というドラマシリーズの立ち位置を説明しないといけないのですが、MCUを展開するマーベル・スタジオ制作ではなく、マーベル・テレビジョンが制作していた作品。なので正規のMCU作品ではなかったのです。今は組織再編でマーベル・テレビジョンが事実上消え、マーベル・スタジオに一本化されて、ファンにして見れば「あのマーベル・テレビジョン作品は無かったことになったのかな」と思っていたら…。
まさかのMCU世界線に平然と登場。でも世界観がクロスオーバーしたわけではなく、あくまでキャラクターの要素をサンプリングしただけみたいですけど。でもまたあの“ヴィンセント・ドノフリオ”のキングピンが見れるなんて…。『デアデビル』でも魅力的な悪役として存在感を発揮していましたからね。
今作『ホークアイ』では原作おなじみのステッキを持ち、相変わらずの貫禄。そして異様な頑丈さ。最終話ではエコーに撃たれて死んだかのように見える閉幕でしたが、たぶん死んでないでしょう。そもそも人気キャラなのであんなあっさり死なせるわけないですし、しぶとさが取り柄のキャラですし…。
それに今後はエコーを主役にしたドラマシリーズも発表済み。さらにあの『デアデビル』でデアデビルことマシュー・マット・マードックを演じた“チャーリー・コックス”が再登板するとマーベルも事前に発表しており、これはまたキングピンとの一大対決をしてくれるのは確実じゃないでしょうか。スパイダーマンとの対決も原作ファンなら当然観たいですよね。
ケイト・ビショップが何を受け継ぐのか
フェーズ4に突入したMCUはとくにドラマシリーズでは過去の清算と世代交代を描いている印象ですが、『ホークアイ』も同じ。でもそこで提示されるヒーロー論はとてもピュアです。
「ヒーローはどんな犠牲を払っても正しいことをする人」
クリント・バートンやナターシャ・ロマノフの生き方を自然に学んで受け継ぎ始めたケイト・ビショップ。彼女の根幹には2人のヒーローがおり、これはまさにホークアイとブラック・ウィドウを合わせたヒーロー像です。
そんなケイトがこれからどんな活躍を見せるのか。作中では原作コミックにある「ウエストコースト・アベンジャーズ」を結成する伏線のようなものがあちこちにあり、例えば「Rogers: The Musical」でいきなり視聴者の心を魅了したあのブロードウェイ・ミュージカルもあの初代アベンジャーズが今ではニューヨークの文化になったことを暗示しています。ケイトのおば(モイラ・ブランドン)の存在も気になります。つまり、次は西海岸を拠点とするアベンジャーズが来てもおかしくない…。
だとしたらケイトが新アベンジャーズのリーダーになるのでしょうか。もしそうなったらどんなメンバーを揃えるのか。どんなヒーロー像で世界にエンパワーメントを与えるのか。
MCUは世代交代を経て、ますますこの新時代をリードできるヒーローを見せようとしています。その矢の1本は放たれましたね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 90%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
トリビア
★ケイトを演じた“ヘイリー・スタインフェルド”のアクショントレーニングのパーソナルトレーナーは“ヘイリー・スタインフェルド”本人の父親。
★作中のミュージカルを手がけた“マーク・シャイマン”の夫は大のMCUファン。
★カーアクションのシーンでは役者の人は実際に運転しておらず、車の上部に取り付けられた特殊な運転席でカースタントの人が運転している。
※情報源:『アッセンブル ホークアイの裏側』
関連作品紹介
MCUドラマシリーズの感想記事です。
・『ワンダヴィジョン』
・『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』
・『ロキ』
作品ポスター・画像 (C)Disney
以上、『ホークアイ』の感想でした。
Hawkeye (2021) [Japanese Review] 『ホークアイ』考察・評価レビュー
#MCU