1997年から追いつきます!…「Disney+」アニメシリーズ『X-MEN ’97』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にDisney+で配信
原案:ボウ・デ・マヨ
恋愛描写
えっくすめんきゅうじゅうなな
『X-MEN ’97』物語 簡単紹介
『X-MEN ’97』感想(ネタバレなし)
この「X-MEN」しか勝たん!
この企画が発表されたとき、「本当に!?」とかなりびっくりしましたが、2024年、本当に配信が始まりました。
何がって…『X-MEN ’97』の話です。
1992年に『X-MEN(X-MEN: The Animated Series)』というアニメシリーズが放送されました。これはマーベルの人気ヒーロー「X-MEN」のアニメーション版です。当時は「Fox」の下で製作が進められ、ファンにも支持され、シーズン5まで継続したのですが、1997年に終了しました。それでもカルト作として語り継がれる作品になりましたし、このアニメシリーズの成功があったからこそ、「20世紀フォックス」が『X-MEN』の実写映画化に着手したと言われています。今のマーベルの実写映像作品の礎を築いた偉大な作品ですね。
そんなアニメ『X-MEN』の続編が本作『X-MEN ’97』。凄いのが、リメイクとかではなくて、本当に続編なのです。あの1997年の最終話から物語がそのまま続きます。27年ほどの年月を超えて、平然と物語が続きだすというのはなかなかですよ。しかも、ちゃんと90年代の絵柄を受け継いでアニメ化していますから(厳密にはちょっと今の技術も使われているけど、目立たないようにしている)。
こんな直球で超ノスタルジーな作品あるか?って感じです。往年のファンは嬉しいでしょうけど、新規の人は入りづらいですよね…。前作は76エピソードもあるし…。
ということで、すっごく簡単に前作のあらすじを整理しておきましょう。アニメ『X-MEN』の軽いネタバレをしますよ。
ミュータントという特殊な能力を持つ人たちがいて、人間社会に混ざりあって生活しています。そのミュータントの一部が集まって結成されたのが「X-MEN」というヒーロー・チームです。
メンバーは、以下のとおり。
目からビームをだせるサイクロップス(スコット・サマーズ)。そのサイクロップスと結婚しているのが、テレパシーとテレキネシスを使いこなすジーン・グレイ。稲光や風雨など天候を操れるストーム。飛び出す鋭い爪と強靭な肉体で戦うウルヴァリン(ローガン)。触れた人の記憶やエネルギーを吸収できるローグ。青い人獣のような風貌で科学者としても貢献するビースト(ヘンリー・“ハンク”・マッコイ)。エネルギーをチャージできてキザなガンビット。独特な銃を使いこなし、未来を知っているビショップ。花火のような爆発を駆使する最年少のジュビリー。見た目を自由自在に変身できるモーフ。
この「X-MEN」をまとめるのがプロフェッサーX(チャールズ・エグゼビア)で、磁気を操る強力なミュータントで人類との共存を信じていないマグニートー(エリック・“マグナス”・レーンシャー)と敵対したり、ミュータントを狩るセンチネルという高性能ロボットと戦ったり、多くの試練を潜り抜けてきました。
しかし、ミュータントを敵視するヘンリー・ピーター・ガイリックの策略でプロフェッサーXを失い、「X-MEN」はかつてない窮地に立つ…そんなラストでアニメ『X-MEN』は一旦幕を閉じていました。
はい、これだけわかっておけば大丈夫です。あとはなんとかなる(責任はとらない)。
オリジナルの声優もほぼ続投(一部の亡くなられた方や、より適切な人にバトンタッチを望んだ人もいます)、あのメインテーマも全開、いつものアニメ『X-MEN』ワールドです。
「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」のほうでも「X-MEN」のキャラクターはちらちら登場しつつも、本格開幕はしておらず(それは権利的な事情もあるのだろうけど)、2024年7月に『デッドプール&ウルヴァリン』で何か進展あるかもですが、やっぱりメインの始動はまだ時間がかかりそうです。
なのでしばらくはこの『X-MEN ’97』がノスタルジーのスーパーパワーで現代に「X-MEN」を接続してくれることでしょう。『X-MEN ’97』はMCUと関係ないですし…(でも、ある意味、MCUより世界観は混線しているけども…)。
『X-MEN ’97』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中。シーズン1は全10話です。
『X-MEN ’97』を観る前のQ&A
A:時間があるなら前作にあたるアニメシリーズ『X-MEN』を鑑賞すると世界観を満喫できます。
オススメ度のチェック
ひとり | :ファンなら注目 |
友人 | :オタク同士で |
恋人 | :語り合える相手と |
キッズ | :とっつきにくいかもだけど |
『X-MEN ’97』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
生まれつき特殊な能力を有しているミュータントと呼ばれる存在。ミュータントは科学的に危険であるとみなされ、社会では危険視する空気が蔓延していました。とくに反ミュータント団体「フレンズ・オブ・ヒューマニティ(人類の友)」はミュータントを首輪で無力化し、1人1万ドルで購入し、残酷に扱っています。
そんな人権を無視した現場に、稲光と共にストームが出現。反ミュータント団体のメンバーはミュータントに有効なセンチネル銃で迎え撃つも、ビショップが援護に入り、リーダーのサイクロップスが目から放つオプティックブラストで敵を薙ぎ倒し、鮮やかに殲滅
しました。
彼らは「X-MEN」と称するミュータントのヒーローチームです。世界各地で活動し、ミュータントが人類社会に貢献できることを証明してきました。
しかし、そんな「X-MEN」も難しい立場にありました。本拠地の邸宅では、ガンビットはいつもどおり調子が軽く、モーフも気軽に変身し、ウルヴァリンやローグなどの顔触れもここで過ごしています。ビーストは相変わらず研究熱心で、若いジュビリーも気楽そうです。
反ミュータント団体に捕まっていたロベルトは保護されており、同年代のジュビリーが世話しています。ロベルトはミュータントとして公に活動するのは嫌なようです。
一方、ジーン・グレイは妊娠し、育児に専念しようとしていました。
そのジーンの夫であるサイクロップスは悩んでいます。今や「X-MEN」のリーダーであったプロフェッサーXと呼ばれてきたチャールズ・エグゼビア教授はもういないのです。このチームの生みの親を失い、方向性も見失いつつありました。
世間にはチャールズ・エグゼビア教授は死亡したと認知されており、「X-MEN」の進退にメディアも注目しています。
ジーンは「X-MEN」以外の人生もあるのではとサイクロップスに問いかけます。「X-MEN」はもう必要ないのでしょうか。答えはでません。
ひとまず、国家安全保障担当大統領補佐官のヴァレリー・クーパー博士とテレビ通話します。反ミュータント用の攻撃ロボットであるセンチネルはすべて国連によって廃棄処分されたはずでしたが、なおもセンチネルは流通しており、どうやらその背後にはボリバル・トラスクが関わっているようです。
そこでトラスクの行方の手がかりを集めるため、現在は逮捕されているヘンリー・ガイリックのもとへ向かいます。ガイリックは「つかの間の融和。寛容は絶滅を招く」と、なおもミュータントの排除という考えに染まっていました。ミュータントと人間の戦争の時代が来ると…。
トラスクは捕まえることに成功しましたが、本拠地に帰還すると予想外の人物が待っていました。
それは…プロフェッサーXの遺言を読むマグニートー。人類とミュータントの融和はあり得ないと信じるミュータント側の筆頭であったマグニートーになぜ教授は「X-MEN」を託したのか…。
シーズン1:X-MENはもう古い…?
ここから『X-MEN ’97』のネタバレありの感想本文です。
「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」も『ホワット・イフ…?』でアニメ展開をしていますが、あちらはいかにも現代アニメーションらしい実験的かつ挑戦的な絵作りや展開で押し出していました。
対するこのアニメ『X-MEN ’97』は「堂々とクラシックでいってやろうじゃないか!」という宣言のように、古さを気にせずにコミックらしさを全開にしています。
象徴的なのが第4話で、ジュビリーとロベルトが「モテンドー」というゲームの世界に迷い込み、そこを支配するモジョーが「X-MENはもう古い」と言い切るというメタなセリフも飛び出します。ビッド風の映像表現が手が込んでいるエピソードなのですが、自虐的でありながらも、この2024年に『X-MEN ’97』を作ることの価値を問うかのようです。
シーズン1ではプロフェッサーXを失った「X-MEN」の面々がアイデンティティ・クライシスに陥りますが、それは「今の時代に続編作ってどうするの?」という本作の葛藤を表しているとも言えます。
その葛藤が極まり(理想の楽園と期待されたジェノーシャの壊滅や、ガンビットなど仲間の死も経験し)、最終戦でこの「X-MEN」は再結集し、あのクラシックな見た目スタイルで繰り出す。これは本作にしかできないアツい見せ場でしたね。
全体的にこのキャラクターデザインがよりコミック寄りになっているのもファンには嬉しい部分で、ある意味で驚かされたのがモーフ。今回からレギュラーキャラ化しているのですが、ちゃんと毎回戦うたびにいろいろなキャラに変身するのです。ファンは楽しいけど、作画泣かせだろうな…。
もうひとつ特徴を挙げるなら、かなりドロドロした大人の恋愛模様が錯綜する点。
とくに不憫なのが、サイクロップスことスコット・サマーズで、妻のジーン・グレイに赤ん坊ネイサンが産まれ、父になろうとし始めた瞬間、そのジーンは実はクローンで(後にマデリン・プライヤーと名乗る)、本物のジーンが登場。「どっちを愛しているんだ…自分は…」と大混乱状態になります。
そのジーンへの密かな愛情をウルヴァリンは押し隠しているのですが、「スコット ⇔ ジーン・グレイ ⇔ マデリン・プライヤー ⇔ ローガン」の四角関係で終わりません。
さらにあのモーフがウルヴァリンに好意があることが随所で示唆され、ちゃんと公式で製作者からその設定が確かなものだと明らかになりました(PinkNews)。モーフは終盤にジーンに変身してウルヴァリンに愛の告白じみたことをするのですが、それは芝居ではなく本心である、と…。
モーフは今作から正式にノンバイナリーもキャラクターとして設定されるようになり(声を演じる“JP・カーリアック”もノンバイナリー当事者)、ローガンへのクィアなロマンスは実るのでしょうか…。
シーズン1:90年代と現代の差別の接点
『X-MEN ’97』は絵柄は昔ながらの味がありますが、テーマ自体は全く古くありません。これは「X-MEN」というフランチャイズの人気の理由でもありますが、なぜなら「X-MEN」は「差別を受けるマイノリティ」をヒーローにするという作品の根幹があるからです。
1960年~1970年代にコミックから登場して土台を築いた「X-MEN」。この時期は、まさに公民権運動やゲイ・パワー運動など、権利を求めて声を上げる人たちの闘いの時代でした。「X-MEN」はいつも何かのマイノリティと重ね合わせることができます。
『X-MEN ’97』も現代の人種差別やLGBTQ差別などとオーバーラップさせる解釈をして全然良いのですが、本作の舞台はタイトルどおり、1997年がメインで始まっています。なので1990年代の差別問題を意識しやすいんじゃなかなと思います。
とくに現実においてこの1990年代は今の激化する差別攻撃の手口が確立し始めた時期であるということも重要じゃないでしょうか。例えば、「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」という言葉が多様性を敵視する一派によって悪用されだしたのも1990年代です。
作中でも、ガイリックが「Tolerance Is Extinction」を掲げ、「ミュータントを受け入れることは人類の破滅だ」と煽りますが、すごくそのレトリックはそっくりです。
シーズン1の黒幕は、ミュータントとセンチネルを掛け合わせたバスチオンであり、反ミュータント感情を原動力に匿名の大衆を生体兵器に変えていきます。身近なあの人さえも実は差別感情に染まっている…。「OZT(オペレーション:ゼロ・トレランス)」と名付けられたその混乱は、現代を生きるマイノリティ当事者には既視感がありすぎるものですよね。
ロベルトの母親がカミングアウトを受け入れてくれても世間には公表するなとしれっと言い放つ仕草なんかも、90年代っぽいなと思いました。
年代とのリンクを考えても、これからこの「X-MEN」には過酷な運命が待っていることを暗示させます。
『X-MEN ’97』のシーズン1は、前作の仕切り直しからの集大成という感じでしたが、その最終話でいよいよ新章の開幕を告げてくれます。紀元前3000年の古代エジプトと西暦3960年の未来にタイムスリップしつつ、最古のミュータントであるアポカリプスことエン・サバ・ヌールさんのご登場です。実写映画『X-MEN アポカリプス』のリベンジマッチですよ…。
個人的には2000年代以降にコミックで登場したミュータントたちもガンガン出してほしいけど、『X-MEN ’97』は「X-MEN」映像作品史上の究極のオールスター・コンプリート作になるというファン最大の願望に到達することはできるのかな?
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 98% Audience 95%
IMDb
9.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
「X-MEN」シリーズの作品の感想記事です。
・『ニュー・ミュータント』
・『X-MEN ダーク・フェニックス』
作品ポスター・画像 (C)Marvel Studios Animation XMEN97 エックスメン97
以上、『X-MEN ’97』の感想でした。
X-Men ’97 (2024) [Japanese Review] 『X-MEN ’97』考察・評価レビュー
#アメコミ #マーベル #ノンバイナリー