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『スラローム 少女の凍てつく心』感想(ネタバレ)…最後の一言が全てです

スラローム 少女の凍てつく心

最後の一言が全てです…映画『スラローム 少女の凍てつく心』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Slalom
製作国:フランス・ベルギー(2020年)
日本では劇場未公開:2021年に配信スルー
監督:シャーリーン・ファヴィエ
性暴力描写

スラローム 少女の凍てつく心

すらろーむ しょうじょのいてつくこころ
スラローム 少女の凍てつく心

『スラローム 少女の凍てつく心』あらすじ

フレンチアルプス地方で暮らしていた15歳の女子高生のリズはスキーの才能を認められて、未来のプロスキーヤーを育成することを目的にした寄宿制スキークラブに所属する。そこで彼女を指導する元一流スキーヤーのフレッドは、優秀なリズを徹底的に鍛え上げようと情熱を燃やす。しかし、厳しい練習は日に日に激しさを増し、肉体的にも精神的にも疲弊する中、さらなる追い打ちがリズの身に降りかかる。

『スラローム 少女の凍てつく心』感想(ネタバレなし)

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2021年に紹介しないといけないと思った

2021年は「性暴力」を題材にした映画も多数見られました。とくに印象的だなと思うのは、これまでも性暴力を主題に描いた映画はあったのですけどもっぱらインディペンデント系の作品だったわけです。それが2021年はかなり著名な映画監督が手がける作品でも観察できるようになり、さらには賞レースにあがるような作品もあったり、言ってしまえばこのテーマの作品がメジャーになってきているという感覚があります。どうしても性暴力というのはドラマをサスペンスを引き立てる悲劇性をともなう仕掛けとしてしか採用されないことが多く(邦画はまだこの傾向が強い)、性暴力自体を主要なトピックとして描くことはタブー的に避けられてきたのですが、やはり「MeToo」以降は映画界の認識も変わってきているのでしょうね。

日本で2021年に公開された性暴力が題材の劇場映画は、『プロミシング・ヤング・ウーマン』『最後の決闘裁判』『ラストナイト・イン・ソーホー』など。

ただ、その作品としての試みの意気込みは良いにしても、いずれも映画というフィクションを活かしたややトリッキーな描き方であり、その点について不満に感じた人もいたと思います。やはり題材が題材なだけにあまりエンタメの皮を被らせてしまうこと自体がよろしくないのではないか…そんなふうに思う人がいるのも当然です。

一方で過去には『アンビリーバブル たった1つの真実』『ジェニーの記憶』のように、エンタメ的な脚色をほぼ抜きにして、性暴力被害を真摯に主体的に描いた作品もあり、私もどちらかと言えばそちら側の方が好ましい印象を抱いています。

実は2021年もそういうタイプの映画が存在していたのですが、これがあまり目立つ感じでもなかったので知らない人も大勢いるんじゃないかなと思います。

ということで私が今回紹介する映画は『スラローム 少女の凍てつく心』です。

本作はフランスとベルギーの合作映画で、2020年の作品。2020年のカンヌ国際映画祭に出品されたのですが、あの時は新型コロナウイルスの影響で通常開催ができなくなったということもあり、オフィシャルセレクション「カンヌレーベル」作品(いつものコンペティションではない)というなんともパッとしない扱いに。『スラローム 少女の凍てつく心』は「初監督作」のカテゴリで扱われました。

そんなこんなで注目されづらい出だしだったのですが、日本では劇場公開はされずに、WOWOWで2021年9月に放映されるにとどまっています(2021年時点)。そういう事情もあって、日本の映画ファンでもこの映画を知らない人がたくさんいるのも無理ありません。

『スラローム 少女の凍てつく心』の原題は「Slalom」。これはスキー競技またはスノーボード競技のアルペン種目のひとつであり、スキーの場合だと日本では「回転」と呼ばれています。雪坂に設置されたポールの間を縫うように高速でスキーで滑り降りながら、そのゴールまでのタイムとミスの少なさを競い合うという、非常に高度で正確な滑走テクニックが要求されるスポーツです。

『スラローム 少女の凍てつく心』の主人公はそのスラロームの選手として将来有望と期待されている15歳の女子。強化合宿のようなかたちで男性のコーチから厳しくトレーニングを受ける日々なのですが、その指導は高圧的かつ支配的なものになっていき、主人公の自由意志はスポーツという名のもとに奪われていきます。そして性暴力も…。

本作は実際に起きた具体的な事件を元にしているわけではありません。でもこうした若い女子アスリートがスポーツの指導という空間の中で性的暴力を受けるということは大きな社会問題になっており、現実です。例えば、『あるアスリートの告発』というドキュメンタリーでは体操競技の指導の業界で若い女子がマインドコントロールされて性的被害に遭っている生々しい実態がサバイバーの告発によって映し出されていました。

2021年は『Groomed』というドキュメンタリーもあってこちらは水泳の世界で同様のことが起きていることを取り上げています。

つまり、どの業界でも起きていること。別にスポーツ以外の場でも性暴力は蔓延していますが、スポーツだからこその主従的支配構造が性暴力を助長・隠蔽している…そういう性質があることは専門家も指摘済み。

『スラローム 少女の凍てつく心』はそのスポーツ界の負の構造をかなり真正面から突きつけています。

監督は本作が長編映画監督デビューとなる“シャーリーン・ファヴィエ”。キャリアの第一歩をこの挑戦的な題材にするあたり、覚悟が伝わってきます。

言うまでもないと思いますが、本作は性暴力描写、しかも未成年への性的被害がハッキリ直接的に描かれます(本当に直接的です)。なので相当に不快な映像ですし、当然、被害経験のあるような人はフラッシュバックなどの理由で鑑賞が厳しいこともあるでしょう。警告は明確に必要な映画です。

それでも私がこの映画を紹介したいと思った、なんだったら2021年の個人的映画ベスト10に加えたいと思った理由、それは2021年に東京オリンピックが開催されたからです。「スポーツで感動を!」という浮かれた言葉が飛び交ったこの1年、その男性主体的なスポーツ・イベントが全てを犠牲にしてまで開催強行されたこの1年。私たちは『スラローム 少女の凍てつく心』で描かれる事実をあらためて心に刻まないといけないのだと思います。

オススメ度のチェック

ひとり5.0:不快な内容だけど
友人4.0:題材に関心がある同士で
恋人2.5:ロマンスの怖さが…
キッズ2.0:性暴力描写あり
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『スラローム 少女の凍てつく心』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『スラローム 少女の凍てつく心』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):指導者と教え子

何人もの若者が足を小刻みに動かして息を切らしながら野外でトレーニングしています。その中に「リズ」と呼ばれる女子が。彼女は15歳。かなり有望とされている期待の選手です。このスキークラブでコーチしている男性、フレッドは「もっと速く」と指導しますが、とくにリズ・ロペスに対する指導には力が入っています。

その指導現場に女性がひとり。駆け寄るリズ。「なんでここにいるの?」…その人はリズの母であるカトリーヌでした。校長先生とお話ししたという母は、あまりリズのしているスポーツ競技「スラローム」に興味関心はありません。言葉も少なく頷いてリズはトレーニングに戻ります。

室内でコーチのフレッドは熱弁を奮い、若者たちに言葉をかけます。「目標はなんだ、オリンピックか、全てのアスリートの夢だ」とその熱意は止まりません。リズは隣の女子に話しかけられ、ちょっと言葉をかわすと、すぐさまコーチはリズを怒るのでした。

コーチと2人きりになったリズ。フレッドは「服を脱ぎなさい」と淡々と言い、そのとおり下着になるリズ。体重測定をし、「もっと筋肉をつけろ」とコーチは抜かりなく指摘し、体重コントロールのために役立つあれこれを渡してきます。

次の日、ウェアに着替え、凍てつく外へ。雪上を滑り、滑り終わるとコーチにまた指導され、その繰り返しです。上手くいかないこともあり、苛立つリズ。

プールで泳ぎ、次にランニング。さらにバランスボール。誰よりもリズのトレーニングは厳しいです。他の同年代の仲間は談笑していてもいいですが、リズはそうはいきません。このときさえもコーチは後ろにいて指導に余念がありません。

週末。家に帰りますが、親は遠くにいるのでひとりです。リズは筋肉を電気で刺激する器具で脂肪を落とそうとします。

いよいよ本番の滑りの時間に。「ベストを尽くせ」とコーチの言葉が飛び、リズの身体をバンバン叩いて刺激し、リズは滑走します。そして…帰りの車を降りるリズの首はメダル。

滑りの映像をみんなで確認した際は、コーチは「無心なのがいい」とリズを褒めてくれました。また、コーチはリズだけに高価なスキー版をくれたりもします。リズは自信をつけていき、次の機会では優勝してコーチも大喜び。

コーチと2人で夜に車で好き勝手に走りまわり、喜びを発散。しかも、運転させてくれたりもして、リズも上機嫌でハイテンションに。

しかし、その高揚感はコーチの次の行動で消滅することになり…。

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マインドコントロールの実態

『スラローム 少女の凍てつく心』で描かれるのは、スポーツの世界で生じる指導者と教え子のマンツーマンの中にある支配構造。それをひたすらに生々しく描いています。

表面的にはリズとフレッドの関係は良好です。きっと他のあのクラブの若い子から見たら、あのリズはコーチから特別に目をかけてもらっていてズルいと思われるくらいでしょう。しかし、その特別扱いがむしろリズの立場を孤立させ、同年代の仲間からさえも浮いてしまう存在になり、余計にコーチとの関係は強く逃れられないものになりうる理由に。

また、リズは家庭においても疎遠になっており、これも合宿などが多いスポーツならではのよく起きがちな出来事でしょう。家族との時間を作れなくなるわけですから。

そうした構造に乗っかるかたちであのフレッドはリズの支配構造を強化していきます。リズも従順です。服を脱げと言われたら素直に従うし、これを食べろと言われたらよくわからなくても口にするし…。作中ではフレッドによるリズへの身体接触が露骨に強調されることなく自然と描かれており(例えば滑走の前に気合いを入れるために体をバンバン叩くとか)、そうした積み重ねがリズの中にあるプライベートなバリアをいつのまにか壊していく過程として描かれていた気もします。

個人的に(直接的性暴力シーンを除いて)最も不快だったのはあの生理の場面です。プールで泳いだ後、生理で出血してることに気づいて慌てて洗い落とそうとするリズ。ここでベタな展開だと同い年の同性友人とかがやってきて助け船をだすものです(そういうのは映画でもよくあります)。ところが本作ではここでも後ろにきたのはあのコーチですよ。

「タンポンを使わないのか」とか「生理を恐れる必要はない」とか表面上は優しい言葉をかけてきてリズも心を許してしまっているのですけど、「ダメだ!」と私みたいに映像内のリズに言葉をかけたくなった人はたくさんいたんじゃないだろうか。主従的に上にいる側、しかも生理を経験していない側が、あんな「生理は美しいんだ」と発言するのは普通に気持ち悪いだけだし(女性からの言葉だったとしても気持ち悪い)、こんな生理さえもあのコーチにコントロールされたみたいなものですからね。私的には2021年で最もキモい映画のシーンのワースト1位だった…。

またあのフレッドを演じる“ジェレミー・レニエ”(フランソワ・オゾンとかダルデンヌとかオリヴィエ・アサイヤスとか著名監督作品によくでているベテラン)の演技力が憎たらしいほどに高く、このコーチをわかりやすい悪人として表現していないのが嫌らしいのですけどね。自分では熱心な指導をしていると思っている。それこそリアルなんですけど。

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スポーツ特有の“勝つ”という体験の怖さ

『スラローム 少女の凍てつく心』はトリッキーな演出はほぼしておらず、スポーツ指導の過程をそのまま描いているだけです。それでもその過程というものが支配構造に加担するという点を逃さず描いているので抜かりありません。

とくに観客の目を奪うのが、スラロームの滑走シーン。見事な躍動感をダイレクトに伝える映像の迫力。きっと撮るのも大変だったであろう、カメラが追尾するあの競技シーンはカタルシスがあります。

でもそれこそこの映画の怖さ。つまり、あのリズはあそこで滑走の快感と勝利の満足によってそれまでの支配的圧力を忘れられるわけです。一種のドラッグみたいですよね。辛いことがあっても、その後に来る最高のアドレナリンで払拭されて、また辛いことが身に繰り返されても、次のアドレナリンが来れば忘れられて、また辛いことが…という永遠に続く負のスパイラル。

スポーツの怖いところはそこです。勝つ体験という餌を与えられてしまうともう逃げられない。私は勝ち続けたい、そのためにはあのコーチがいないとダメなんだと思わせられる。

そんな中でコーチからのレイプを受けながら、リズの心は傷つき、迷いが生まれ、でも自分では逃げ出せない。あんなにスキーで速く滑れても、支配から滑って逃げることはできない。

そのリズの動揺や葛藤がわずかなシーンで映し出される構成も本作では上手くて。リズを演じた“ノエー・アビタ”も抜群に名演でした。『アヴァ/Ava』のときはかなりヘンテコな役柄でしたけど、今回の繊細な表情演技もいいですね。

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最後の言葉は、次の苦悩の始まり

『スラローム 少女の凍てつく心』のエンディング。ついに選手権で優勝し、インタビューに囲まれるもその場から離れるリズ。友人と抱き合い、ひとりで立ち去ると、追ってくるコーチ。「どこでも一緒だろう?」という言葉に「No!」と返して去る。

このラストでリズは負の連鎖を断ち切ったように見えます。この最後の言葉が全てです。初めて自分の意思を明確にした瞬間。神妙な表情でぽつんと立ち、空を見上げるリズは気づいたのかもしれません。自分が性犯罪の被害者(abusee)であるということを。「No!」と拒絶しないといつまでも搾取と暴力を繰り返すこの世の残酷さを。

もちろんこれでハッピーエンドにはなりません。リズが支配から脱したとも言えません。状況は相変わらず絶望的です。でもそれが今の社会の隠しようがない現実だろうとこの映画は訴えているようにも思います。

ちなみにフランスでは性的同意年齢は15歳なので、リズは性的同意年齢としては合法です(無論、だからといって性暴力は性暴力であることに変わりないです)。『スラローム 少女の凍てつく心』はやっぱり15歳は同意年齢として不適切ではないかという問題提起にもなっているのでしょうね。

スポーツにせよ学問にせよ、指導というのは容易に相手の心につけこみやすい構造があり、それはいとも簡単に最低なことを平然と実行できる環境を作ってしまう。その恐ろしさが嫌というほどに伝わる映画でした。

作中であのコーチも言っていましたがオリンピックのようなスポーツ大会はこうした暴力を正当化する口実に利用されます。2022年は北京で冬季オリンピックが開催されます。また獲ったメダルの数をカウントして速報しているだけのお祭り騒ぎでいいのでしょうか。

『スラローム 少女の凍てつく心』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 70%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0

作品ポスター・画像 (C)charlie bus production

以上、『スラローム 少女の凍てつく心』の感想でした。

Slalom (2020) [Japanese Review] 『スラローム 少女の凍てつく心』考察・評価レビュー