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『ヤング・ウーマン・アンド・シー』感想(ネタバレ)…女は泳げる、男よりも

ヤング・ウーマン・アンド・シー

女は泳げる、男よりも…映画『ヤング・ウーマン・アンド・シー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Young Woman and the Sea
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にDisney+で配信
監督:ヨアヒム・ローニング
恋愛描写
ヤング・ウーマン・アンド・シー

やんぐうーまんあんどしー
『ヤング・ウーマン・アンド・シー』のポスター。大海原を前に主人公がひとり立つデザイン。

『ヤング・ウーマン・アンド・シー』物語 簡単紹介

1900年代初頭、アメリカのニューヨークで生まれ育ったトゥルーディ・イーダリーは、病弱ながらも負けず嫌いで簡単に諦めない努力家だった。そんな彼女がハマり込んだのが水泳。しかし、女性が泳ぐことに多くの偏見があり、トゥルーディは世間から白い目で見られる。姉や母、献身的なコーチらに支えられながら、屈強な男だけが達成できると言われた英仏海峡を泳いで渡ることに挑戦しようと決意するが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ヤング・ウーマン・アンド・シー』の感想です。

『ヤング・ウーマン・アンド・シー』感想(ネタバレなし)

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女に泳ぎは無理?

「スポーツにおいて女性は男性よりも不利だ」…そうした言説が当然の真理であるかのようにこの2024年も社会に染み込んでいます。その根拠とされるものは女性の”身体”男性の”身体”よりも運動面で劣るからだという通念です。

でも実際は身体の性別はスペクトラムなので二元論では語れませんし、トランスジェンダー女性の筋力はシスジェンダー女性と同等かそれより部分的に低いという科学的研究結果もあるくらいですLGBTQ Nation。私たちの身体的運動能力を性別だけで論じるなんて愚行もいいところです。

結局は偏見の根源にあるのは男性のマッチョイズム。「男は女よりも強い(そうであるはずで、そうでなければいけない!)」という絶対的規範にしがみつく人たちが社会の多数派です。

そんなミソジニーな規範を吹き飛ばす事実はいくらでもあります。ある種の運動競技などは、明快に男性よりも女性が有利だったりします。その一例が、オープン・ウォーター・スイミング。海や湖、池、河川といった自然の中で、あるゴールを設定して泳ぎ切ろうとする過酷な水泳です。

この身体の限界に挑むことになるオープン・ウォーター・スイミングが女性に有利とされている理由として、女性の体脂肪率の高さ持久力に繋がる筋繊維の多さなどが挙げられますTopend Sports。スポーツ学の観点からしっかり説明できるんですね。

しかし、それにもかかわらずやっぱりこの運動競技でも女性は過小評価されていて…。それどころか昔は女性は「泳ぐ」ことすらも論外で、排除されていました。

そんな歴史がわかる映画が2024年にお披露目となりました。

それが本作『ヤング・ウーマン・アンド・シー』です。

本作は伝記映画であり、1905年生まれのアメリカ人、「トゥルーディ」というあだ名で知られる「ガートルード・キャロライン・イーダリー」の半生を主題にしています。

子どもの頃から水泳が好きで、オリンピックにも出場するほどアスリート人生を送るのですが、そんなトゥルーディは英仏海峡を泳いで渡るという挑戦に挑みました。映画ではそのチャレンジをメインで描いています。

この英仏海峡は1875年に“マシュー・ウェッブ”という男性が初めて単独で泳ぎ切り、オープン・ウォーター・スイミングの先駆けとなりました。その後、1911年に”トーマス・ウィリアム・バージェス”という男性が2人目の横断者となるのですが、それでも大勢の男性が挑戦しては失敗をし続けていました。

そういうわけで「女性ができるわけない」と思われていました。トゥルーディはその社会認識を覆そうとしたんですね。

そんな挑戦者を映画化する企画は前からあったそうで、当初は「パラマウント」が進めていましたが、「ディズニー」に渡り、やっと映画が完成。パリ・オリンピックに合わせた時期での公開となりました。ただし、日本では「Disney+(ディズニープラス)」の独占配信で、劇場公開されませんでしたが…。海域での水泳で、映像的にも見ごたえがある映画なのにな…。

『ヤング・ウーマン・アンド・シー』を監督したのは、『コン・ティキ』『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』など”海”映画と縁がある“ヨアヒム・ローニング”

脚本は、CG版『ライオン・キング』”ジェフ・ナサンソン”

主演するのは、『スター・ウォーズ』新3部作でハリウッドに飛び込んだ“デイジー・リドリー”です。『オフィーリア 奪われた王国』など、フェミニズムな作品に積極的ですが、今作でもその姿勢はブレません。

共演は、『I Am Woman』“ティルダ・コブハム=ハーヴェイ”『ある画家の数奇な運命』“ジャネット・ハイン”『ボイリング・ポイント/沸騰』“スティーヴン・グレアム”、ドラマ『トゥルー・ディテクティブ ナイト・カントリー』“クリストファー・エクルストン”、ドラマ『キリング・イヴ/Killing Eve』”キム・ボドニア”『クリーン ある殺し屋の献身』”グレン・フレシュラー”など。

2024年のフェミニズム映画の見逃せない一作ですので、ぜひ鑑賞リストに加えてください。

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『ヤング・ウーマン・アンド・シー』を観る前のQ&A

Q:『ヤング・ウーマン・アンド・シー』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2024年7月19日から配信中です。
✔『ヤング・ウーマン・アンド・シー』の見どころ
★偏見に挑んだ実話の物語のエンパワーメント。
✔『ヤング・ウーマン・アンド・シー』の欠点
☆劇場公開されていないので目立っていない。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:シンプルに感動
友人 3.5:元気を共有して
恋人 3.5:支え合える相手と
キッズ 3.5:夢を応援
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ヤング・ウーマン・アンド・シー』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

1914年、アメリカのニューヨーク。トゥルーディ・イーダリーは窓から遠くでモクモクと黒煙をあげて炎上する蒸気船を見つめます。しかし、すぐに姉のメグに寝ていろと言われ、にも心配されます。

トゥルーディは病気がちで今日は弱っていました。それでも母にあの船のことを質問します。母いわく、あの船には多くの女性が乗っていたものの船に残って亡くなったそうです。「なぜ?」と聞くと、母は女性は泳げないからだと説明します。新聞では847人が犠牲になったと書かれていました。

医者はトゥルーディは”はしか”で先は長くないと診察。今夜の命だと家族に告げます。夜、家族はただ時間が過ぎるのを待つだけでした。

母は唐突に子どもに泳ぎを教えると言います。精肉店の「ヘンリーはいいがメグはダメだ、女の子だぞ」と拒否反応。

そのとき、トゥルーディは階段を降りてきて、「お腹がすいた」と呟きます。回復したようです。家族は奇跡を喜びます。

しばらく後、コニーアイランドのプールで家族は楽しんでいました。メグも泳いでいましたが、トゥルーディは禁じられて観ているしかできません。不満なようで「泳いでやる」と息巻きます。

願いが叶うまで歌い鳴らしまくって抗議。父は渋々認めてくれましたが、プールは病気の子は禁止なので、海で泳ぐことになります。父は娘に紐をくくりつけ、トゥルーディは波打ち際に歩みを進め、最初の水泳を体験します。

こうして年月が経ち、トゥルーディは成長しました。よく食べ、よく泳ぎます。男子がプールで水泳競技をしているのを眺めながら、メグと眺めます。あれなら勝てるとトゥルーディは強気です。でも女子は男子と同じプールを使うことはできません

娘たちの才能を伸ばそうと母は「女子にもちゃんと泳がせたい」とディナー時に提案。父はそんなものはあり得ないと笑い飛ばしますが、母は本気でした。

母とメグと3人で女性水泳協会に足を運び、そこでエッピーという指導者から泳ぎを本格的に学ばせます。現状は犬かきしかできない2人。トゥルーディはとくに不格好です。

父はカネは払わないと言うので、母は自分で払うと宣言し、稼ぎ始めます。出来の悪いトゥルーディは協会で石炭仕事もさせられますが、しだいに上手くなっていきます。

ある日、オーストラリアの女性水泳選手団が街に来て、男性用プールで特別に泳いて対戦できることになります。トゥルーディにもチャンスです。スタートで出遅れたものの、驚異の粘りで1位となりました。まさかの結果でした。

どんどん成長し、トゥルーディは州記録を達成。更新を連発し、全米記録も塗り替えます。メグは男性との恋に夢中になりますが、トゥルーディは泳ぎ一筋。ついには世界記録を達成。

そして、全米オリンピック連合のジェームス・サリバンがパリ・オリンピックに出ないかと声をかけてきて…。

この『ヤング・ウーマン・アンド・シー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/07/28に更新されています。
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史実と何が違い、何が同じなのか

ここから『ヤング・ウーマン・アンド・シー』のネタバレありの感想本文です。

『ヤング・ウーマン・アンド・シー』は、全てに史実に忠実な伝記映画がまず存在しないように、今作でも史実と大きく異なる部分が主に2か所あります。いずれも主人公であるトゥルーディの物語をドラマチックに盛り上げ、葛藤をシンプルに視聴者にわかりやすくアレンジするものです。

ひとつは、トゥルーディが1924年にパリ・オリンピックに出場しますが、作中では全く成績をだせずに失望して帰国することになっています。しかし、実際はトゥルーディは4x100m自由形リレーで金メダルを獲得しています。映画内では船から降りて故郷に戻ってきても拍手喝采を受けるのは男性選手だけで、トゥルーディの孤立が強調され、その図式がラストの英仏海峡成功後の帰国と綺麗に対比されるようになっていました。

もうひとつは、英仏海峡の挑戦。作中では1回目に失敗した後、失意の中でもすぐに再起して奮い立ち、帰国の船の窓から飛び降りて浜に戻り、数日後に再挑戦するというスピーディーな展開になっています。実際は1回目の挑戦は1925年8月18日(当時19歳)で、2回目の挑戦は約1年後の1926年8月6日です。つまり、屈辱的な気持ちを1年間は耐えていたんですね。

こういう時間を短縮し、起承転結にメリハリをつけるのは、伝記映画ではよくあることです。その点、本作はかなり王道な作りです。

一方、「これは史実なの?」とびっくりするような展開が意外に実際の出来事と結びついているものもあります。

その最大のポイントが、英仏海峡スイミングでもコーチに抜擢されるジャベツ・ウォルフの件。作中では彼はトゥルーディの記録達成を止めようと妨害工作したように描かれています。実は史実でも真偽はハッキリしていませんが、このウォルフはトゥルーディの挑戦の邪魔をしていたのでは?という疑惑があり、当時から物議を醸していました。

作中では紅茶に薬を盛ったという具体的な妨害工作が示唆されています。ウォルフを悪者にするというよりは、「男に従わない女性の成功が憎たらしい」という社会に蔓延るミソジニーの代表みたいな存在の位置づけでした。

男性は悪く描かれてばかりいるわけではなく、2回目でコーチしてくれるビル・バージェス(トーマス・ウィリアム・バージェス)は作中では変人ながら頼もしいです。彼も16回目の挑戦でやっと英仏海峡を達成しているので、トゥルーディの成功は彼以上にスゴイのですが、ビル・バージェスは指導好きだったようで、トゥルーディ以外にもいろんな人を教えていました。水泳時に本格的にゴーグルを使用した初の人物とされており、すっかりゴーグルがトレードマークです(用いたのはオートバイ用ゴーグルだったので水漏れしていました)。

本作のビル・バージェスは全体では短い出番ながら(短いシーンにしているからこそか)、男女の指導関係で生じやすい有害性を感じさせないものになっていましたね。

ちなみにトゥルーディは98歳で亡くなるのですが、誰とも結婚はしませんでした。

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泳ぐことは闘うこと

『ヤング・ウーマン・アンド・シー』のメインテーマとして濃く浮かび上がってくるのは、やはり「女に水泳はできない」という女性差別な運動能力規範とどう闘うかということです。

こうした偏見は本当にこの1900年代初頭の時代には蔓延しており、作中でも「女には運動は毒」だとか「心臓が破裂する」だとか、好き勝手言いまくっていましたが、この程度の認識でした。「女は弱い=男が庇護してやらないといけない」という認識の連鎖がまかり通っており、無論、それは家父長制の正当化へと繋がっていました。

また、これも作中では描かれていましたが、女性は服装の保守的な制限が厳しく、足をみせてはならないとされ、トゥルーディの水泳スタイルも「破廉恥な水着」と散々に貶されていました。

だからこそ、女性水泳協会でもあんな薄暗い地下のプールで人目を気にして泳ぐしかないわけです。まさに「女性スペース」に押し込められる女性たち…。

作中ではトゥルーディの周囲の女性である母、姉のメグ、コーチのエッピーなど、家父長制の中で同様に苦しんでいる者が描かれます。メディアは女性らしい写真を欲しがり、「ボーイフレンドは?」と交際の質問ばかりをぶつけ、父はお見合いを強要する…。そんな社会でできる限りの抵抗と、そして屈辱を噛みしめての迎合を余儀なくされる女たち…。

その無念を背景にしたトゥルーディの英仏海峡チャレンジの決断。ただの自己満足ではなく、女性の命運を背負って(本当は背負わされるのも理不尽なのだけど)、トゥルーディは泳ぐ。「溺れた娘」の評価を覆すには「泳ぎ切る」しかない…失敗すれば「女の欠陥」として烙印を押される。このプレッシャーは男性には味わないものです。

結果、成功します。男性よりも良い記録で…。ジェンダーの観点が本作では際立ちますが、聴覚障害者のディサビリティとしてもトゥルーディは闘うアスリートでしたよね。

“デイジー・リドリー”の表情の少なめの毅然とした顔つきがまたドラマを引き立たせます。

シンプルな感動がシンプルな答えを私たち観客に教えてくれます。「女は男よりも運動能力が劣る」なんて考えはくだらない、と。

こんなの昔の話だ、今は「女は水泳できない」なんて馬鹿げた主張はない…そう思う人もいるかもしれませんが、性別に固執する運動能力言説は冒頭で紹介したとおり根強く現在でも耳にできます。これは今も「スポーツの問題」です。

トゥルーディの挑戦は、『ナイアド その決意は海を越える』で描かれたように年齢差別と闘う女性スイマーに繋がったり、闘いのバトンタッチが続いています。

今日だってこの世界のどこかで誰かが「性別と身体的運動」の偏見と闘っています。

トゥルーディの偉業を映画で振り返るにはちょうどいいタイミングでした。私はスポーツには全然興味ないけど、偏見と闘う人は応援しますよ。

『ヤング・ウーマン・アンド・シー』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)Disney ヤングウーマンアンドシー ヤング・ウーマン・アンド・ザ・シー

以上、『ヤング・ウーマン・アンド・シー』の感想でした。

Young Woman and the Sea (2024) [Japanese Review] 『ヤング・ウーマン・アンド・シー』考察・評価レビュー
#水泳 #伝記