ノルウェーはトロールで緊急事態宣言!…Netflix映画『トロール』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:ノルウェー(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:ローアル・ユートハウグ
トロール
とろーる
『トロール』あらすじ
『トロール』感想(ネタバレなし)
ノルウェーにはトロールがいる!
「緊急事態宣言」という言葉もすでに懐かしい響きになってきましたね…。2022年12月は新型コロナウイルスも日本各所で第8波に突入しましたが、毎日200人くらい亡くなっていても気にならなくなっている世間。慣れとはこういうものです。
かたや家畜を襲いまくっている熊とかにはわりとノリノリでパニックになっていたりするので、人間社会とは矛盾を抱えた奇妙なものです。どう考えても毎日平均で1人も殺していない熊はそこまで危険視することもないだろうに…。
こういう突発的に出没する野生動物をときに「マスコット」的に、ときに「怪物」的にメディアや市民が騒ぎ立てるというのは恒例なのですが、あまりいい状況とは言えません。野生動物に対して科学的に対応するべきなのに、ゴシップ感覚で雑に扱ってしまうだけになりますから。
でもこんなふうに野生動物を怪物化するしかできないという世間の反応になってしまうのは、ひとつに映画などの表象が原因でもあると思います。実際に『ジョーズ』のせいで野生のサメが不必要に駆除されたりした事例もありますからね。映画好きとしてはこういう映画の責任も考えないといけないな…。無邪気なばかりじゃダメだよね…。
はい、ということで今回は巨大な生物が人々を襲う映画を紹介します。
え? 今までの前置きはなんだったのかって? それはそれ、これはこれです。巨大な生物が人々を襲う映画は楽しいんだもん…。
その映画とは『トロール』です。
今作はノルウェー映画です。ある日、ノルウェーの雄大な自然の中で、ビルの高さも上回る巨大な生き物が出現。それは人智を超えた存在で、悠々と大地を踏みしめ、人間の社会を瞬く間に震撼させます。
その正体とは一体何なのでしょうか…!?
まあ、しらばっくれてもどうせタイトルで丸わかりですね。そのとおりです。トロールです。
北欧の伝承で語られる妖精の一種のトロール。いろいろな描かれ方をされていますが、今作はそのトロールが本当に現実にいた!という設定です。
この設定を聞くと、2010年の『トロール・ハンター』という“アンドレ・オブレダル”監督のノルウェー映画を思い出します。あちらはノルウェーの政府機関「トロール保安機関(TSS)」に雇われたハンターがトロールを山中で管理している姿に密着したモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)でした。私も大好きな一作です。たまに見返したくなる…。
今回の映画『トロール』は巨大トロールが人間社会を襲う姿を描くモンスターパニック。要するに『ゴジラ』のトロール版だと思ってください。描かれる展開もほぼ『ゴジラ』です。対応に追われる政府、召集される科学者、出動する軍隊、混乱する住民…。トロール出現で緊急事態宣言状態です。
でもまさかこんな直球の映画が作られるなんて思いもしませんでしたよ。一部のマニアの夢を叶えてくれるような最高のオタク・ムービーですね。「シン・トロール」だよ…。
そんな映画『トロール』を実現させた監督は、岩盤崩落による湖での大規模津波を描いたディザスター映画『THE WAVE ザ・ウェイブ』(2015年)がノルウェー国内で大ヒットを記録した“ローアル・ユートハウグ”。2018年にはハリウッドで『トゥームレイダー ファースト・ミッション』を手がけましたが、またノルウェーに戻ってきました。
主演するのは、『妹の体温』の“アイネ・マリー・ウィルマン”で、本作の主人公である古生物学者を演じています。
映画『トロール』はとにかく単純明快な作品ですので、「うぉ~~! 現実世界にトロールがいる! ヘリをぶっ壊している! 軍隊も太刀打ちできない! やっほーい!!」みたいな人にはぴったりです(別に馬鹿にしてないですよ)。サッカーのワールドカップには興味ないけど、トロールなら興味あるよ!という人も大歓迎です。ほら、このトロールだってデカい岩をボールみたいに蹴れるし、実質サッカーだね(テキトーな解釈)。ノルウェーはFIFAワールドカップにしばらく全然出場できていないけど、『トロール』があるからいいんだ!
当然、とてもスケールのバカデカい迫力のある映像が満載ですので、劇場で観たくなる…のですが、残念ながらNetflix独占配信。しょうがないのでここは自分の用意できる最大の画面で視聴するしかありません。トロールが一番映える視聴手段をセットしてください。
『トロール』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年12月1日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :単純明快なエンタメを |
友人 | :ジャンル好き同士で |
恋人 | :ロマンス要素無し |
キッズ | :怪獣好きな子に |
『トロール』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):本当にいる!
ノルウェーのロム峡谷。トロールの壁と呼ばれている険しい断崖絶壁を登っているひとりの若い女性ノラ・ティーデマンは足を滑らせて落ちかけます。でも上から父トビアスが声をかけて、それに答えるように登り切りました。
頂上で2人休んでいると、父は「おとぎ話を覚えているか」と語りかけます。トロールにまつわるおとぎ話です。ノラはその話を信じていませんが、父は「真実を含んでいるんだ」と口にします。ただの山だと思っていたノラも、思い浮かべると山肌がトロールに見えてきて、少し恐怖します。
20年後。ノルウェー北西部の海岸沿い。古生物学者となったノラはチームと一緒に化石を発掘していました。成果ゼロで大学からも資金も消えそうでマズいです。けれどもついに大きな恐竜の骨を発見し、歓喜します。
一方、ドブレ山脈ではトンネルの延伸工事が行われ、自然破壊となるので反対運動も近くで起きていました。それでも工事実行者は爆破し、作業を開始。
ところがトンネル内部に入ると中で揺れが起き、地響きで崩れ始めます。退避しますが、作業員は瓦礫に埋まり…。
オスロの軍作戦本部は慌ただしくなっていました。不自然な地震を観測したのです。オーランド空軍基地からは戦闘機が緊急発進。現場に向かわせると、そこには崩壊したトンネル現場がありました。
首相官邸に連絡がいき、国防相から報告。巨大な崩落で、付近には大きなくぼみがいくつも続いていました。まるで足跡のようで…まさかと笑います。とりあえず専門家を集めることになります。
有頂天で祝っていたノラのもとに軍のヘリが舞い降りてきて、国家の安全に関わるということで有無も言わせず連れて行かれます。
首相補佐のアンドレアス・イサクセンが出迎え、物々しい地下施設へ。重鎮ばかりの会議の空気に圧倒されつつ、ある地域で多くのくぼみが見つかったと画像で説明されます。他の専門家は陥没穴だとか鉱床ではとか持論を述べますが、まだ状況を把握できていないノラでしたが、上空からの画像を見て「何か通った跡では?」とあっさりコメント。「ではなんの足跡だと?」
そこにデモ参加者の撮った映像が届き、それを視聴すると、地面が一気に割れ、大きな岩の下敷きになる人たちが映っていました。映像を巻き戻してみると、動物のような唸り声が聞こえ、停止すると巨大な人型の存在が確かに視認できます。
会議は紛糾。腕と足が2本ずつあり、40~50メートルの大きさ。信じがたいですが記録には残っている…。
ノラはイサクセンとともにドブレの現地へ確かめにいきます。現場付近では半分が倒壊して消えた家がヘリから見え、特殊作戦軍の大尉クリスが待機していました。住人はメロディーのような唸り声を聞いたそうです。
20キロ南で急に消えているという痕跡を目にし、頭に古い詩がよぎります。
ノラはスタインブ峡谷のヨートゥンハイメンで隠居している民俗学者の父のもとへ寄り道します。彼は空想上の存在を信じ、気がおかしくなったと思われており、ノラとも距離ができてしまっていました。
そんな父も引き連れて調査を再開。しかし、痕跡が消えた地点に降り立つと、背後に巨大な目が…。“それ”は立ち上がります。
紛れもなくトロールでした…。
トロールはノルウェーの郷土愛
トロール、いたね…。
そんな感想しかでてこない、映画『トロール』ですが、それも無理ないでしょう。この映画がまず伝えているのは「トロール、いるんですよ!」ってことですから。
でもあらためてノルウェーのあの壮大な自然風景の中にトロールがデンと立っている映像を見せられると、トロールくらいいてもおかしくないなって思いますけどね。非常に高さのある山脈が急に切り立ったかたちで連なっているので、高さのある巨大生物を配置すると映えるんですよ。こんな怪獣映画にぴったりな自然地形のある国は羨ましいです。
日本だと山脈はあるんですけど、狭すぎるので田舎ではあまり巨大怪獣を活かせないことも多いですよね。どうしてもビル街のような都市部の方が映像映えは勝る…。
ノルウェーの大自然ならあの巨体なトロールが擬態できるのも納得です。横になって風景に溶け込んでいたトロールがノソっと起き上がるシーンは本作の白眉。これぞトロールらしい仁王立ち。
絵面は二足歩行なので『キングコング』ですけど、トロールの方が自然の妖精感はやっぱりある。キングコングは絶対に擬態できそうにないし…。
そしてそのトロールが最初に人工地に出現するのが遊園地であるというのがまたいいですね。おとぎ話と現実の繋ぎ合わせの場であるエンターテインメントの世界に本物のトロールが現れてしまう。あの子どもの視点でトロールを見上げるシーンは本作のトロールの実在感を上手くステップアップして観客に見せているなと感じました。
そんな中、対トロールの戦術を考えないといけなくなるノラたちですが、ちゃんとトロールのおとぎ話に準拠しようとしているのもオタク心をくすぐる展開です。
鐘をヘリに吊り下げる作戦とか、すごいバカバカしいけど、ノルウェー映画でこんな映像が見られるとは…。
首相補佐のアンドレアス・イサクセンと作戦本部のハッカーのシグリットがしっかり「スタートレック」オタクであり、作家になるのが夢だったんだというイサクセンの奮闘などもあって、トロールを倒せるのは科学とオタクの融合技だけなんだという姿勢が貫かれています。
ちょっと話は逸れますけど、最近はネット上で迷惑行為をする人を「トロール(troll)」と呼ぶようになっており、それはそれで本来のトロールが可哀想だなと個人的には思っていたところで…。
この映画はそんな現代においてもう一度古き良きトロール愛を思い出させるパワーがありました。愛国主義なんかよりも、だったらトロールを大切にしろよ!というノルウェーの郷土愛です。
ノルウェーの加害史(トロール風味)
映画『トロール』の欠点をあげるなら、あまりシミュレーション作品としてのリアリティは満喫できない感じだったかな。
とくに終盤に行くにつれてわりと雑になり、どうやって緊急事態としてノルウェー社会が混乱していくのかとか、そういうのも見たかったんですけどね。やっぱりノルウェー国民と言えどもトロールが実際に迫ってきたら怖いのかな…。
世界のニュースが流れる中で、日本の番組が「ノルウェーのゴジラでしょうか」と報じているあたりは微妙にあり得るなというラインだったけど…。
それでも前半部はワクワクさせてくれます。基本的にこういうモンスターパニックものは、政府がこっそり専門家を招いて事態の把握にあたらせようとするあたりのパートが一番面白い気がする…。
ただ、本作は政府側を原則として無能に描いています。そこは距離を置くことで愛国心喚起の作品にしないようにしていました。あの序盤の会議でもグレタ・トゥーンベリを小馬鹿にするような発言をする者がいたり、ノラを女性研究者ゆえに見下すミソジニーな男性年配学者がいたり…。ノルウェー軍もミサイルシステムがハッキングされたりと、面目丸つぶれでした。
しまいにはノルウェー王族のとんでもない秘密が王宮の地下で明らかになります。ノルウェーの王家はもともとこの地にいたトロールの王族たちを虐殺し、殲滅していたのでした。たぶんオーラヴ2世による強制的にノルウェーを最終的にキリスト教に改宗させた歴史(ホールファグレ朝あたり?)に基づいているのでしょうけど、なかなかにぶっ飛んだ歴史解釈を持ち出してきたもんだ…。
ここで植民地主義的な加害史に立ち返らせるというのを、トロールを駆使して堂々とやってみせるとは思いませんでしたよ。ノルウェーがトロールを使って『ゴジラ』をやるなら、こうするしかないなというアイディアなのかもですけど。
最後はあのトロールは日の出とともに崩れ倒れてしまいましたけど、こうやってノルウェーの大地はトロールの体でできている。そしてエンディングで示されたとおり、トロールはまだまだいそうです。ノルウェーはトロールととともにこれからもあるのです。
映画『トロール』を観ていたら、こんな調子で各国で巨大生物パニック映画を作ってほしいなと思いました。私が求めているのはこういうやつですよ。怪獣ワールドカップをやってほしいんです。きっとそれぞれの国ごとに何かしら巨大生物はいるだろう…(雑な考え)。
この映画『トロール』が気に入った人でまだ『トロール・ハンター』を見ていないなら、ぜひそちらも鑑賞してみてくださいね。ノリは同じですから。兄弟映画みたいなもんです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 60%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『トロール』の感想でした。
Troll (2022) [Japanese Review] 『トロール』考察・評価レビュー