実写とカートゥーンの融合『スペース・ジャム』の続編!…映画『スペース・プレイヤーズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年8月27日
監督:マルコム・D・リー
スペース・プレイヤーズ
すぺーすぷれいやーず
『スペース・プレイヤーズ』あらすじ
プロとして活躍するバスケットボールのスター選手のレブロンは、ゲーム開発を夢見る息子のドンに手こずっていた。ある日、映画会社ワーナー・ブラザースのAIスーパーサーバーの中に広がる無限のバーチャル・ワールドへと迷い込んでしまう。息子と再会するためには究極のeスポーツバトルに参戦しないといけない。しかし、そこにはいるチームメンバー候補は自由奔放なカートゥーンのキャラクターたちしかおらず…。
『スペース・プレイヤーズ』感想(ネタバレなし)
カオスな祭典(映画でじゅうぶんです)
放映権を手にしたテレビ局の熱烈な番組構成ラッシュもあって、かつてない感染者大激増のニュースもほどほどに、2020年東京オリンピックは(一部の)人々を熱狂させました。私は五輪期間中は相変わらず映画を観ていましたけど。でも耳には入ってきましたよ。雑で愛のないゲーム曲採用の開会式、来るなと言っているのに沿道やらに押し掛ける観客たち、他人のメダルを無断でかじりたがるオッサン、メダル獲得速報ボットと化す首相官邸SNSアカウント、どんなスポーツよりもルールが守られていない選手や報道陣の行動規制、簡単に破ることができる感染対策バブル、定期検査なしで働かされるボランティアスタッフ、亡命希望者を平気で無視する倫理観のなさ、最適な気温という大嘘、オリンピックは悪くないと頑なに主張する論者たち…。うん、世紀の祭典だった。確かに記憶に残る。
まさにこういうのをカオスって言うんだと思います。とりあえずメダルを獲っておけばいい…みたいな。
こんなリアルでカオスな祭典を目にしてしまった後ならもういいよとうんざりかもしれませんが、この映画もハチャメチャなスポーツ・イベントなんです。
それが本作『スペース・プレイヤーズ』。
本作は邦題だけ見ても「なんのことやら」だと思いますが、原題は「Space Jam: A New Legacy」。そう、あの1996年に公開された、当時は伝説的すぎるほどに話題騒然だったバスケットボール選手の“マイケル・ジョーダン”が、なぜか『ルーニー・テューンズ』のカートゥーンのキャラクターたちとバスケをすることになるという、カオスにもほどがある奇想天外映画『スペース・ジャム』。その25年ぶりの続編なのです。
だから邦題も「スペース・ジャム ニュー・レガシー」とか「スペース・ジャム2」にすればいいのですが、たぶん『レディ・プレイヤー1』を連想させて観客を集める狙いなのかな。
確かにこの『スペース・プレイヤーズ』は『レディ・プレイヤー1』に似ています。1作目と同じくまたバスケをするのですが、今回は一応は「eスポーツ」ということになっており、バーチャルな世界でワーナー・ブラザースの歴代の作品やキャラクターたちが大量に総出演して夢の共演を果たします。
ま、早い話が映画オタクを狙い撃ちしているわけですよ。
名目上のメインはバスケです。前作はバスケットボールの神様こと“マイケル・ジョーダン”を主役にしていましたが、今作はNBAのロサンゼルス・レイカーズに所属する愛称「キング」の“レブロン・ジェームズ”が主演・製作です。さらに他にも著名なバスケ選手が登場しています。ただ、なぜか日本では“レブロン・ジェームズ”以外のバスケ選手の吹替をサッカーとフィギュアスケート選手が担当しているんですよね。バスケ選手、いなかったんですか…?
まあ、あまりバスケ層が見に来る映画じゃないと思っているのかな。確かに明らかに映画オタク層しか見に来なさそうですけど、このリアルのバスケへの扱いの低さ、どうなんだろうか…。
他の俳優陣は、MCUでウォーマシン役として有名な“ドン・チードル”が今作ではヴィランをノリノリで熱演しており、ただただ楽しそうです。
また、『スタートレック ディスカバリー』でおなじみの“ソネクア・マーティン=グリーン”、『ゲット・アウト』『ファザーフッド』で笑いをとる“リル・レル・ハウリー”、さらに“サラ・シルヴァーマン”、“スティーヴン・ユァン”がちょこっとだけ出演。
でも結局は人間よりも『ルーニー・テューンズ』の面々が今作でも目立ちまくりですけどね。
監督は『バーバーショップ3 リニューアル!』『ガールズ・トリップ』の“マルコム・D・リー”。
とりあえずハチャメチャな映像を目に流し込みたい人にはオススメです。
『スペース・プレイヤーズ』を観る前のQ&A
A:ワーナー・ブラザースが製作するアニメシリーズで、1930年から続く歴史の長い、まさにワーナーの顔です。とくに「バッグス・バニー」というウサギのキャラクターが有名。口癖は「どったの、センセー?(What’s up, Doc?)」。その他にも黄色い小さな鳥(ヒヨコじゃなくてカナリアです)の「トゥイーティー」など人気キャラクターをどんどん輩出しました。
A:前作の『スペース・ジャム』を観ないとストーリーがわからないということはありませんので、あまり気にしないでください。
オススメ度のチェック
ひとり | :キャラが好きなら |
友人 | :賑やかに楽しんで |
恋人 | :気軽なエンタメ |
キッズ | :ネタがわかるかな? |
『スペース・プレイヤーズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):どったの、センセー?
1998年、オハイオ州アクロン。レブロン・ジェームズ少年は友達からゲームボーイを渡され、その面白さにハマりそうになるも、バスケのコーチに怒られて、ゲームとは縁を切りました。
そしてバスケに人生を捧げた結果、今やプロ選手としてアメリカのスターにまで上り詰めます。人は彼をこう呼びます。「キング」と…。
そんなレブロンの息子たち2人が家のコートでバスケをしています。上のダリウスはいいのですが、心配なのは下のドム。ドムはゲームに夢中でバスケも楽しければそれでいいという安易な態度。その反応にレブロンはどうも納得いかずついつい厳しいことを言ってしまいます。
ドムは自室でゲーム開発に没頭。部屋に入ってきたレブロンにバスケのゲームを見せます。コントローラーを取り上げ、自分でプレイしてみるレブロン。しかし、操作キャラがバグってしまい、ドムが直そうとしますがシステムクラッシュで強制停止。
一方、その頃、ワーナー・ブラザースのサーバールーム…の中の世界では、アルG・リズムというAIが私利私欲を企み、大人気のレブロンに目をつけていました。あのスーパースターを罠に陥れてやろう…。
こうして何も知らないレブロンはワーナーのスタジオにドムと一緒に訪れます。会議室でワーナーの幹部に説明されたのは、レブロン自身のアバターが「バットマン」「ゲーム・オブ・スローンズ」「ハリー・ポッター」などの世界で活躍できるという企画。
けれどもレブロンは興味を示しません。しかし、ドムはアルゴリズムに興味を持ち、話を続けます。それに対して冷たい言動をとってしまったレブロンのせいで、ドムは部屋を出ていってしまい、すぐにレブロンは追いかけます。
それを監視していたアルG・リズムはレブロンとドムをバーチャル空間に拉致。さらにレブロンに対して息子を返してほしければ、バスケの試合で勝てと命じます。メンバーはこのバーチャルな世界で集めないといけません。
そしてレブロンが強制的に送り込まれたのが、トゥーン・ワールド。自分もカートゥーン姿になっていました。街には誰もいません。そこへ地面を突き進んでくる“何か”。あの子どもの頃から知っているバッグス・バニーです。ここにはバッグスしかいないようで、アルG・リズムのせいで仲間を失ったのだとか。
バスケットボールチームを編成して勝つしかない。2人はマービン・ザ・マーシャンから宇宙船をかっさらい、ワーナーの各世界へ飛び立ちますが…。
ローラ・バニーの変化に思うこと
『スペース・プレイヤーズ』の印象を持っていくキャラクターはやっぱり『ルーニー・テューンズ』。この作品も歴史が長いですから、アメリカにおける表象の変移をまさしくその身を持って辿ってきた存在。時代の変化を映す鏡です。
とくに今作で話題になっていたのは「ローラ・バニー」です。このローラ・バニーは何を隠そうあの『スペース・ジャム』で初登場したキャラクターであり、比較的新顔です。この最新作『スペース・プレイヤーズ』ではローラ・バニーの胸のサイズが小さくなったと一部の人間が反応し、さらに日本の一部の界隈が「ほら、これだからアメリカはポリコレのせいで表現の幅が狭くなったんだ」となぜか得意げになるという現象が起きました。
さすがにウサギのキャラのバストサイズにしか関心がいかないのはどうかと思うのですが、ただ、これはローラ・バニーの変化の歴史を知ると面白いものが見えてきます。
初登場の『スペース・ジャム』ではローラ・バニーは明らかにバッグス・バニーのお相手役として作られており、作中ではバックスがローラのグラマラスな魅力にメロメロになり、追いかけます。なのでセックスシンボル的なキャラクターだったのは確かです。
でもこの新キャラの挿入に全ファンが納得いっていたわけではありません。私もモヤモヤしたものがありました。というのも『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』でも少し触れられていたと思うのですが、バッグスというキャラは実はクィアな人たちから密かに支持を集めていたんですね。バッグスがあまりにも正々堂々と女装をしていたりしたのがその理由なのですが、私もバッグスがステレオタイプなマジョリティっぽいモーションをする(美女を追いかける)というのはイマイチしっくりこないと思ったもの。
しかし、この『スペース・ジャム』の後、バッグスとローラの関係性は様変わりします。ローラは美女的立ち位置ではなくなり、バッグスをアグレッシブに追いかけ回すキャラに逆転。一方のバッグスは相変わらずのマイペース。たぶんこっちの方がコメディとして面白いし、バッグスらしさを損なわないと作り手は考えたのではないかな(もちろんこの時点でセクシーボディなキャラではなくなりました)。決してポリコレありきではないのです。
ではこの最新作『スペース・プレイヤーズ』ではローラはどうなったのかと言うと、“ゼンデイヤ”が声を担当したこともあって、今まで以上にZ世代に親しみやすい存在になっていました。ワンダーウーマンに憧れつつも、やっぱりいつもの仲間の和気あいあいに混じっていく、あの自然体がいいですね。
まあ、今作の最強女性ポジションはグラニーおばあちゃんだったから…。
うちの会社の商品自慢
とまあ、そんなキャラクターの変化に感慨にふけりつつ、『スペース・プレイヤーズ』全体はかなり勢い任せです。
私は実写とカートゥーンのハイブリッドというスタイルは基本的に大好きで、2021年の実写映画『トムとジェリー』も楽しんだのですが、この『スペース・プレイヤーズ』はその企画自体がやや散漫だった気もします。
他のワーナー作品とのコラボレーションも正直に言えば雑だなと思ったり。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とか、『カサブランカ』とか、『オースティン・パワーズ』とか、実写映像にカートゥーンのキャラクターを組み込むのも、もう少し面白くできたのではないか。あれだとファンメイドのコラージュとたいして変わらないし、それは公式でやることでもない気もするし…。
『リック・アンド・モーティ』のような最近の作品も登場させていましたが、あれで終わりというのは…もっとポテンシャルのある作品なのに…。
「アイアン・ジャイアント」も「キングコング」も単なる顔見せだけですからね。これではワーナーの「うちの会社の商品」自慢みたいじゃないか…。
さらに『ルーニー・テューンズ』の面々が後半はCGになってしまうのが個人的には魅力大幅減でした。そこはカートゥーンの意地をずっと突き通してほしい…。
肝心のバスケの試合も最後の「グリッチを駆使して勝つ」というのもeスポーツにあるまじきチート奨励なのはさておき、これまで散々バグ以上に意味不明なプレイスタイルを見せられてきた観客にしてみれば「今さらそんな裏技とか言われても…」って感じです。もうたぶんこの作品はそもそも論でテクニックで勝利するというロジックを見せるものじゃないと思うのです。ドラマ面の底上げがないとゴールにボールが届かないでしょう。
どこぞの五輪組織委員会のように強欲だけでスポーツ・イベントを強行開催する“ドン・チードル”だけが唯一のオリジナリティ。次回作は彼の主催でオリンピックを支配しようとする(IOC会長になってノーベル平和賞とってやるぜ!みたいな)というネタで攻めてほしいです。絶対に無理か…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 27% Audience 80%
IMDb
4.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights スペースプレイヤーズ スペースジャム2
以上、『スペース・プレイヤーズ』の感想でした。
Space Jam: A New Legacy (2021) [Japanese Review] 『スペース・プレイヤーズ』考察・評価レビュー