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『ホワイト・ノイズ』感想(ネタバレ)…Netflix;新年の不安は取り払いましょう

ホワイト・ノイズ

新年の不安は取り払いましょう…Netflix映画『ホワイト・ノイズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:White Noise
製作国:アメリカ(2022年)
日本:2022年にNetflixで配信、12月9日に劇場公開
監督:ノア・バームバック

ホワイト・ノイズ

ほわいとのいず
ホワイト・ノイズ

『ホワイト・ノイズ』あらすじ

他愛もない日常を過ごすごく平凡な家庭。しかし、その親しい家族の間柄であっても、何気ない不安が垣間見え、互いにそれを詮索しないで生きていた。ところが、家の近所で毒性のある化学物質の流出をともない大事故が発生したことで、この家族は試されることになる。この不条理な世界で、信頼だけを頼りに家族は団結することができるのか。それともこの得体の知れない不安感に飲み込まれてしまうのか…。

『ホワイト・ノイズ』感想(ネタバレなし)

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あの作家の作品をあの監督が…

「新年あけましておめでとうございます!」と清々しく新たな1年の始まりを迎えたいところですが、やっぱり今年の抱負とかそういうの以前に、いろいろな不安だって沸き上がってくるものです。人間だもの、しょうがない。

不安はひとりでも襲ってくるものですが、家族のように集団でいても不安は避けられません。むしろ他人の影響でますます不安は増大するかもしれません。一見すると平穏そうに佇んでいる家族でも、実はひとりひとり異なる不安を抱えていて、それはいつの間にか相手に波及して、不安が共鳴してしまって…。

そうなったら“おせち”を食べている場合じゃありません。この不安の三段重箱に真っ先に対処しなければ…。

今回紹介する映画も、そんな不穏が蓄積してぎゅうぎゅうに詰まっていく不安に対処しようとする家族の物語です。

それが本作『ホワイト・ノイズ』

本作はアメリカ映画で、とある家族に降りかかる出来事を描いています。その主要な出来事というのが、近くで起きた有害な化学物質の流出事故なのですが、これだけを聞くと企業サスペンスやポリティカル・スリラーのような社会派な雰囲気を連想すると思います。でもそういうタッチではないんですね。

どちらかと言えば、ブラック・コメディのような…。何というのだろうか、相次ぐ不安な出来事に少しずつ乱されていく家族という集合体をかなりトリッキーな演出込みで描いています

『ホワイト・ノイズ』はまず原作者に触れた方がいいでしょう。本作は原作があって、それは1985年の小説で、わりと古いです。その小説を執筆したのが“ドン・デリーロ”という人で、結構有名なニューヨークの作家です。現在では高い評価を獲得しています。

“ドン・デリーロ”の作品の特徴は、テロリズムでも何でもいいのですが、とにかく大きな出来事に揺れる大衆や社会の不安心理を独自の切り口で描いていくこと。そしてこの良くも悪くも社会不安というものが、世の中を次のステージへと突き動かしていくのではないか…そう思わせるストーリーテリングを漂わせています。あるときはケネディ大統領暗殺犯を題材にしたり、またあるときはアメリカ同時多発テロ事件、さらにイラク戦争、メディア、大企業文化…。さまざまな題材に手を付けているも、全てでその不安がどう作用するのかを描写しています。

“ドン・デリーロ”の作品の映像化と言えば、2012年に“デヴィッド・クローネンバーグ”監督によって『コズモポリス』という映画が公開されました。あれなんかも作家性がよくでていて、“ドン・デリーロ”的な社会不安に狂っていく主人公の物語ですよね。

今回の『ホワイト・ノイズ』も“ドン・デリーロ”本流の作品性ですから、当然単純にいくわけありません。しかも、今作では映画化において監督を任せられたのがあの“ノア・バームバック”ですよ。正直、“ノア・バームバック”は“ドン・デリーロ”と作家性が微妙にズレるんじゃないかなと思ったのですけど、『マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)』『マリッジ・ストーリー』と昨今も家族映画で成功している“ノア・バームバック”監督だからということなのかな。

『ホワイト・ノイズ』の俳優陣は、『マリッジ・ストーリー』でもナイスな演技をみせた“アダム・ドライバー”、そして“ノア・バームバック”とはパートナーの関係であり、最近は『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』と監督業で大成功している“グレタ・ガーウィグ”

他にもMCUのウォーマシン役でおなじみで、『クライム・ゲーム』などの映画でも渋い演技をみせる“ドン・チードル”、『ポップスター』の“ラフィー・キャシディ”など。

『ホワイト・ノイズ』を観て、不安な気持ちが収まるかはわかりませんが、ちょっと落ち着くくらいはできるかも。

『ホワイト・ノイズ』はNetflixで独占配信中ですので、家でのんびり視聴してください。

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『ホワイト・ノイズ』を観る前のQ&A

Q:『ホワイト・ノイズ』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年12月30日から配信中です。
✔『ホワイト・ノイズ』の見どころ
★俳優陣の演技のアンサンブル。
✔『ホワイト・ノイズ』の欠点
☆かなりトリッキーな演出や話運び。
日本語吹き替え あり
増元拓也(ジャック)/ うえだ星子(バベット)/ 各務立基(マーレイ)/ 内田秀(デニース) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:監督のファンなら
友人 3.5:俳優好き同士で
恋人 3.5:やや癖がありすぎるか
キッズ 3.0:子どもにはわかりづらい
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ホワイト・ノイズ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):誰が見てる?

大学では新期の入学生がぞろぞろと集まっており、新しい1年の始まりを告げていました。それをいつもの光景を眺めるように窓から見つめるのは、ここで教授をしているジャック・グラドニー。彼はヒトラーを専門とする人物です。

ジャックは家に帰り、妻のバベットに「ワゴン車の日を見逃したね」と愛想よく語ります。バベットは「忘れていた」と残念そうです。

騒がしいリビング。子どもたちは普段どおり元気です。お互い4度目の結婚で、連れ子が混じり合っているので賑やかなのです。ジャックの前の結婚で生まれたハインリッヒステフィ。バベットの前の結婚で生まれたデニース、そしてジャックとバベットの間に生まれたまだ幼いワイルダー

デニースは母が何か薬を飲んでいるのに気づきます。ゴミ箱に捨てたその錠剤のケースを見ると「ダイラー」と書かれていました。

ジャックはバベットとベッドでイチャイチャしつつ、「私が先に死にたい」と呟く妻。一方のジャックは「子どもが全員巣立ったら僕が先に死ぬ。君が先に死んだら人生はどん底だ」と言い、互いに互いの死の虚しさを囁き合います。「永遠に生きよう」

翌日、ジャックは講義でヒトラーの映像を流し、「人は不安なとき、神秘的な人物に惹かれがちだ」と解説します。

ジャックはヒトラーの専門でしたが、ドイツ語を話せず、それを気にしていました。そこで内密にドイツ語のレッスンを受けており、ヒトラー学会までにマスターしないといけないと焦っていました。

ある日、家族でスーパーマーケットで買い物していると、新任教授のマーレイが話しかけてきます。彼はジャックを褒め、「君と同じことをエルヴィスでやりたい」と語り、エルヴィスの研究が進められるように力添えしてほしいと頼んできます。

一方でバベットは自分が物忘れが増えているような気がすると口にし、ジャックは子どもから聞いた薬の話を問いかけますが、バベットは頑なにそんなものは飲んでいないと言います

しかし、バベットの不審な行動は続きます。別の日、バベットが車で出ていくところを見つめるデニース。なぜあちらの方向に車を走らせるのか。デニースは薬の話を父にまた報告するも、騒ぎたくないジャックは「誰にでも秘密はある」と無視します。

ところがジャックは夜中に目覚め、隣に妻はおらず、見知らぬ誰かの気配を感じ、それは悪夢だったと気づきます。どうやら自分も何か不安にかられているようです。

マーレイの頼みを聞き入れ、彼の講義に参加して、ヒトラーについて高らかに語るジャック。学生は大拍手で称賛してくれます。

その頃、有害な化学物質のタンクを積載した列車に可燃性タンクローリーが突っ込み、悲惨な事故が起きていました。液が漏れ出し、大爆発。黒い煙がものすごい勢いで空高くまで上がっていきます。

この事態がいかに深刻なのか、事故の直後はまだ誰も理解していませんでした。ジャックの家族の住む家からも事故現場は見え、遠くで黒い煙が登っているのがわかります。ジャック以外の家族は心配しますが、ジャックだけはたいしたことはないだろうと冷静です。

けれどもサイレンが鳴り響き、全住民に避難命令がだされると状況は緊迫してきました。

これはもしかするとヤバいのか、それほどに危機的なのか、でも具体的にはどれくらい? わからないことだらけの中、ジャックの家族は車で退避をしようと出発しますが…。

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空媒毒物現象の言葉は“こけおどし”

『ホワイト・ノイズ』は毒物の流出事故という環境汚染をリアルに描く作品ではありません。

作中では「空媒毒物現象(airborne toxic event)」「ナイオディンD」などという何とも聞きなれない用語が連発しますが、その全ては抽象的で登場人物の不安をいたずらに煽る効果しか与えません。これはあくまでそういう不安助長のために仕掛けられた用語にすぎないです。

ちなみに余談ですけど、「空媒毒物現象(airborne toxic event)」ですが、この原作の言葉から名前をとった「The Airborne Toxic Event」というロックバンドが実在するんですね。死の予兆だからかっこいいと判断して採用したのかな。

私たちもコロナ禍を経験したばかりなので聞きなれない単語で不安だけが増幅する気持ちを理解できるのではないでしょうか。「mRNAワクチン? なにそれ? 安全なの?」…そんな感じでよく理解できない用語に警戒心を持ってしまうのはある種の必然です。説明不足だとなおさら不安になります。不安になると余計にデマなどに騙されやすくなり、さらに立場は不安定になってしまいます。

この『ホワイト・ノイズ』でもジャックたちあの地域一体の住民はパニックに陥ります。雨にうたれたらヤバイのか、外に出ただけで危険なのか、「え? 自分はもう長生きできないの?」…そういう極度の真偽不明な憶測が恐怖を増大させる。人々の不安でざわざわしている描写は既視感がありますよね。

いかにも恐ろしそうな稲光雲が出現して、道路の車列にいた人々がそれを茫然と見上げるシーンは、ものすごく意味深でこの世の終わりを告げているかのようです。でも実際は単に天候が悪いだけかもしれないのですが…(というか事実はそうなのでしょう)。

何もかもが「ふ・あ・ん」という漠然とした概念でしか語れない。でも人間はそれに怯えるしかできない。無力で、無能。地球上で繁栄を極めた最も知能の高い生物を自負する存在の素の姿がこれです。

本作ではその発端となる事故と重なるように、ヒトラー専門家であるジャックが勢いのある講義で学生たちを感心させるシーンが挟まれます。あれ自体も毒物流出事故とはまた異なる、社会不安の火種を暗示させます。ドイツ語が話せなくても、第2、第3のヒトラーはいくらでも生まれるだろうという…。

そして本作の冒頭では「映画の車のクラッシュはアメリカの伝統だ」「複雑な人間感情よりも炎や爆発を描くようになった」「バイオレンスの向こうに無邪気な喜びがあるんだ」と、ちょっと映画を観ている観客を挑発するような言葉も設置されます。

私たちは不安を恐れるけど、ときに不安をエンターテインメントとして消費もしている。とても映画というものを捉えつつ、複雑な関係性を示唆する始まり方です。

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希望をでっちあげてでも…

『ホワイト・ノイズ』を見ている私たち観客は、何か不安を煽ることが起きるたび「映画がもっと面白くなりそうだ」と少し期待してしまいます。

幸か不幸か、この『ホワイト・ノイズ』の主人公であるジャックの家族たちは、どのメンバーも不安を煽る要素のある人間です。

ジャックは落ち着いているようでどこか頼りない。“アダム・ドライバー”が演じることで余計にダメそうな空気が滲んでいてまた最高です。こう言っては失礼だけど、ヒトラーの専門家として研究するのに向いてなさそうだ…。

バベットは「飲んでないよ?」で誤魔化していましたが、実は私的な治験に参加して、恐怖を薬で克服しようと追い詰められていたのでした。ミスター・グレーと体の関係で薬を手に入れたことも告白するも、その後にジャックもだいぶ滅入ってしまい、やはり今作は“アダム・ドライバー”が全然家長的に振舞えなさそうなくらいによわよわなのが大きな効果になってる気がします。

子どもたちも不安とセットな子ばかり。いつもバイザーをつけているデニースは環境物質の話題に敏感ですし、ハインリッヒは凄惨な事故が好きという不謹慎な趣味があり、ステフィは人形がないとことさらパニックになりやすいです。

“ノア・バームバック”監督はこの家族模様の描写に関してはやはり得意分野だからか上手かったですね。あの家族をもう少し眺めていたいくらいには楽しいです。

ただ、一種の映画的なフィクショナルな演出が折り重なって多層的に不安感を与え、そこから一気に映画なりのオチをつける持っていき方については、やや散漫だったかなとも思います。とくにバベットの薬の真相が明らかになるパートからの展開は感情の行き場として、結局は安易に家族の団結で片付けてしまったようにも思えるし…。

もちろん原作も考えると、この「ノリノリで買い物しながらエンドクレジット」オチは「人間というのは何かしら“開き直り”という最強の武器を使って不安をやり過ごしている」というあられもない事実と、「でも本当にそんなやり方でいいんですか?」という一抹の別の不安を投げかけているとも思うのですけど、まあ、コロナ禍の後の私たち(後なのかな?)、こんな有様だしな…。

2023年の私たちはもう不安はこりごりなので、なおさら開き直り的な楽観主義に傾倒しやすくなっていると思います。それこそ不安よりも怖いものかもしれないよと心にとどめて1年を生きていきたいですね。

『ホワイト・ノイズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 44%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix ホワイトノイズ

以上、『ホワイト・ノイズ』の感想でした。

White Noise (2022) [Japanese Review] 『ホワイト・ノイズ』考察・評価レビュー