ヒュー・ジャックマン&レベッカ・ファーガソン共演…映画『レミニセンス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年9月17日
監督:リサ・ジョイ
性描写 恋愛描写
レミニセンス
れみにせんす
『レミニセンス』あらすじ
人の奥底にある見えないはずの記憶に潜入し、その記憶を時空間映像として再現する「記憶潜入(レミニセンス)」を実現する技術を開発したニック。彼はある日、ひとりの美しい女性に出会う。その気品溢れる魅力に目を奪われたニックだったが、その出会いは予期せぬ波乱を生む。瀕死の状態で発見された新興勢力のギャング組織の男の記憶。そこに映る衝撃の光景。陰謀に巻き込まれていったニックは深みにハマっていく。
『レミニセンス』感想(ネタバレなし)
濃厚に漂うノーランの系譜
「回想法」というものを知っているでしょうか。
これはアメリカの精神科医ロバート・バトラーによって編み出された心理療法のことで、その人の思い出を呼び覚ますような会話を軸にコミュニケーションして相手に刺激を与えます。主に高齢者の認知障害の対応として用いられるそうですが、それ以外にもメンタルヘルスのケア全般にも活用されるとか。心理療法といっても警戒することもない、言ってみれば昔話に花を咲かせるようなものです。高齢の方にはちょうどいいのかもしれませんね。
でもこの回想法とLGBTQに関するレポートを読んだのですが、セクシュアル・マイノリティ当事者の高齢者には回想法は有用ではない事例もあるとのこと。例えば、トランスジェンダーを対象にするケースを考えると、過去の移行前の記憶というのは当人にとっては思い出したくもないものであり、それを呼び覚ますというのは心理的安定においても逆効果なのは当然で…。
記憶というのは常に良いものとは限らない。なかなかに厄介です。
そんな回想法は英語では「reminiscence」と言うのですが、今回の紹介する映画はまさにこの単語をタイトルに持ってきています。それが本作『レミニセンス』です。
ジャンルは記憶をめぐるSF映画になっており、ネタバレすると元も子もないので無論核心部分には触れませんが、主人公が他人の記憶を探っていく系のミステリー要素の強いサスペンス・ストーリー。
そして『レミニセンス』を監督するのが“リサ・ジョイ”で長編映画監督デビューとなります。知っている人は知っている、あの話題のSFドラマシリーズ『ウエストワールド』を率いたクリエイターです。こちらのドラマはマニアックな層にしかウケないことが多いSFとして考えてもかなりの大成功だったと思います。
実はこの“リサ・ジョイ”、配偶者の意味でのパートナーでもあり、この『レミニセンス』の製作にも名を連ねているのが“ジョナサン・ノーラン”なんですね。わかったと思いますが、“ジョナサン・ノーラン”はあの“クリストファー・ノーラン”の兄弟です。つまり、ノーラン・ファミリーなんです。
で、“リサ・ジョイ”もまたしっかりノーランっぽい作家性のある人でもあり、なんだろう、類は友を呼ぶのか、家族になっちゃったのか。付き合う人は創作の方向性が同じ人ってことかな。
なにせ「記憶・SF・ノーラン」の3つで連想するとなれば、それはもう『インセプション』ですよ。そっちも記憶に潜入していくスタイルでしたが、こちらも記憶に入り込んでいきますからね。ただ『レミニセンス』は予告動画で推しているイメージと違って、実際の本編はそこまでダイナミックな映像の洪水はないので抑え気味です。『インセプション』の小規模バージョンというべきか。
キャスティングは豪華。主人公を演じるのは“ヒュー・ジャックマン”。ノーラン関連だと『プレステージ』(2006年)のとき以来ですね。ヒロインを演じるのは“レベッカ・ファーガソン”であり、“ヒュー・ジャックマン”とは『グレイテスト・ショーマン』で共演しました。
他の俳優陣は、ドラマ『ウエストワールド』で鮮烈に大活躍した“タンディ・ニュートン”、『ジオストーム』など近年はハリウッドで仕事もしている“ダニエル・ウー”、『MEG ザ・モンスター』の“クリフ・カーティス”、『ジョーカー』の“ブレット・カレン”、『テッド・バンディ』の“アンジェラ・サラフィアン”、ドラマ『I-Land 戦慄の島』の“ナタリー・マルティネス”など。
ちなみに『レミニセンス』の舞台は気候変動の海水面上昇で水没しかけているマイアミの街なのですけど、“タンディ・ニュートン”は同じく自然災害で滅茶苦茶なことになってしまう人類を描いた『2012』にも出演しているんですよね。ドラマ『ウエストワールド』といい、ディストピアな世紀末世界が似合う人なのか…。
SFでワーナー配給と言えば、2020年は“クリストファー・ノーラン”の『TENET テネット』が「難解だ」「難解じゃない」だと映画マニアに盛んにもてはやされて、ややオタクだけしか盛り上がっていなかった感もありましたけど、この『レミニセンス』はそこまでの小難しさはない…と思います。
時期的に大作がひしめき合っているせいで、映画館でも『レミニセンス』の扱いは決して優遇されている方だとは言えないですが、なるべくスクリーンが巨大で綺麗な方が体験としての没入感は増すでしょう。“ヒュー・ジャックマン”の顔も大画面で拝みましょう。
オススメ度のチェック
ひとり | :SFが好きなら |
友人 | :俳優ファン同士で |
恋人 | :ロマンスが物語の主軸 |
キッズ | :子どもにはやや退屈か |
『レミニセンス』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):記憶の中にいる彼女
近未来。風景は一変していました。気候変動による海面上昇によって各地の海岸沿いの都市は水没。このマイアミも例外ではなく、さながら海中からビルが生えているかのような光景になっています。堤防が巨大な海を遮り、かろうじて陸上の居住エリアも確保。そうではない場所は船で移動するしかありません。人々はそれでもこの街で暮らしており、街灯りが夜の海上都市となったマイアミの世界を照らします。
そのマイアミの街、水浸しの道路を歩くひとりの男。彼の名前は、ニコラス・”ニック”・バニスター。もとは退役軍人なのですが、今は全く違う仕事をしています。ニックは建物に入り、身なりを整えます。出迎えたのは仕事仲間であるワッツです。
2人が手がけているその仕事はかなり特殊です。ある装置を開発したのでした。それは人間の特定の記憶を追体験させ、しかも外部に可視化させることができるというマシンです。このテクノロジーを活用して、依頼者の記憶を探り、要望に応えるという事業をひっそりと展開していました。
今日もクライアントの男がタンクに横たわります。タンクは水が少しだけ溜まっており、装置に繋がるとその人の記憶がホログラムで投影され、ニックとワッツには見えるのです。今は犬とボール遊びをしている記憶が再生されていました。
毎日いろいろな人が訪れます。記憶は人を突き動かすのです。それぞれの想いがあります。
こうして今日の仕事は終わりと受付を閉めたところ、美しい赤いドレス姿のひとりの女性がやってきました。メイという名だそうで、遅れてしまったけれどもどうしても記憶を探ってほしいとのこと。目的は鍵探しです。
しょうがないのでニックは了解。メイは裸になり、イヤリングのアクセサリーも外し、頭に装置をつけて、液体がある専用のタンクに横たわります。
すぐに記憶がホログラムとなり、鍵の場所は判明しました。しかし、それでもなおも記憶を見続けるニック。神妙な面持ちのメイは表情をスッと切り替えて、ステージに立ち、歌い上げています。彼女はクラブの歌手のようです。聞き惚れるようにうっとりと見つめるニックですが、ワッツはやや警戒しています。
そんな出会いがあり、忘れられないニックはメイのクラブへ通うようになりました。この日はメイは青いドレスで歌っています。
2人は小舟に乗り、水上都市をお出かけ。部屋で一緒になり、2人はぐっと近づき、キス。そのまま体を重ねます。屋上のベッドでのんびり…。
と、その瞬間。目が覚めるニック。例のあのタンクの中です。今までのは記憶の追体験でした。ワッツに怒られるもニックは懲りていません。実はメイはいつからか行方知らずになっていました。連絡もなく、どこに行ったのかは見当もつきません。ニックは何が何でもメイに会いたくて記憶装置を私的に利用してしまいます。それが危険なことだとわかっていてもやめられず…。
そしてメイの手がかりが予想外の人物の記憶から見つかりました。犯罪組織に関与した男の記憶。そこに映っていたメイの姿は自分の知るものではなく、気品は欠片もない、薬物依存者のようで…。
ライバルに負けてない?
『レミニセンス』、いきなりこんな話で申し訳ないのですが、本国では興行的に大惨敗。かなり致命的な大赤字となりました。ワーナーがどれくらい本作に期待していたのかは知りませんが、上層部はいい顔しないでしょうね…。これは別にコロナ禍だったから…とかではなく、そうでなくてもこの結果に終わっていたと思います。
というのも本作はエンターテインメント要素が非常に低く、トーンの低い感傷的な地味さがあるからです。本作を観てしまうと、あの『TENET テネット』が滅茶苦茶な設定ながらもなんだかんだでエンタメとしての娯楽性はきっちり提供していたんだなというのがわかりますね。
『レミニセンス』は構成自体はシンプルです。ハリウッド映画の定番を守っています。
例えば、主人公の立ち位置を考えれば、これはいわゆる「私立探偵モノ」。古くは『マルタの鷹』と同じ。記憶潜入エージェントという肩書を宣伝では推してますけど、このニックの活動は地味な個人事業レベルです(それにしては使用するテクノロジーは超画期的なのだけど)。
そしてそのニックがメイに一目惚れで魅了されていくのですが、そのメイの立ち位置は「ファムファタール」そのもの。演じる“レベッカ・ファーガソン”のスタイルもかなりコテコテのファムファタール感を醸し出しており、全体的に男女の大人のロマンスとしてもイマドキ珍しいくらいにベタです。
一応の捻りとして実はメイには秘密の正体があり…と物語は二転三転されていくわけですが、いかんせんあの主役男女のロマンスがベッタベタに続いていくので、観客としてはやや食傷気味というか、これだけ独創的な世界観やツールが出てきておいて、見せられるのは真新しさのない情熱的ラブロマンスなのかとややテンション下がる部分も否めない…。
あとやっぱりこういうシチュエーションとなると、男女の年齢差はどうしても気になりますね。別に年齢差のある恋愛関係は構わないのですが、男が常に年上で女が年下という構図で固定されるのはいかがなものか。これがあくまで男側の妄想で、実際はそうは上手くいかないというオチならいいのですが、本作の場合は悲恋でありつつも、メイの人柄は詳細にはわからずじまいで、一方的にニックの視点で片付けられてしまいますからね。
『フリーガイ』はそのへんを上手に回避してみせていたのだけど…。“ヒュー・ジャックマン”さん、ライバルの“ライアン・レイノルズ”の方が一枚上手だったよ…。
エンタメが水没している
肝心の映像技術もイマイチ面白みを活かせていないような…。
技術的に凄いことはしています。例えば、あの記憶マシンの投影映像。VFXによる後付けに見えますが、実際は「ホロメッシュ」と呼ばれる技術で本当に現場に用意されたものらしく、かなり精密に計算されたうえで映像が構築されています。
しかし、それがエンターテインメント的に面白いのかというと…う~ん…。『インセプション』だったら夢の世界ゆえに上下がひっくり返ったりするのを実際にセット自体を回転させてやってみたり、『TENET テネット』だったら時間の逆行を撮影上でそのまま反映させたり、創意工夫がそのまま映像体験として観客の刺激に変換されてダイレクトに直撃してくるのですけど、この『レミニセンス』は空振りしている…。
せっかくの水没した街という設定なのだから、もっとそこも最大級に活用してほしかったなとも思います。あのピアノ挟まれ水中シーン以外にも、応用ができる場面はいくらでもあったろうに…。
例えば、記憶に潜入すればするほどに危険だというなら、その繰り返しごとに水位があがって記憶の中の街の風景が変わるとか、記憶の改変はリスクがあるなら、それをしてしまうと記憶の中の街の水中にサメが泳ぎ出すとか、視覚的に「これはヤバイ」と一発でわかるものを用意すれば、観客ものめり込みやすいと思ったりも。
手から爪が生えた“ヒュー・ジャックマン”、歌って踊る“ヒュー・ジャックマン”を観すぎたのか、セクシーアイコン化している“ヒュー・ジャックマン”はもういいかな…。
『レミニセンス』はすぐに水没して忘却されそうですが、“リサ・ジョイ”監督の今後のキャリアは順調にスイスイ進んでいます。今度は人気ゲーム「Fallout」のドラマシリーズ化だそうで、そちらを楽しみにしていきましょう。ドラマ『ウエストワールド』をまだ観ていない人は視聴してみてね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 37% Audience 40%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
記憶をめぐるSF映画の感想記事です。
・『記憶の夜』
・『クリミナル 2人の記憶を持つ男』
・『セルフレス 覚醒した記憶』
作品ポスター・画像 (C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
以上、『レミニセンス』の感想でした。
Reminiscence (2021) [Japanese Review] 『レミニセンス』考察・評価レビュー