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『わたしは最悪。(The Worst Person in the World)』感想(ネタバレ)…私は最悪?最低?

わたしは最悪。

私は最悪?最低?それとも…映画『わたしは最悪。』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Verdens verste menneske(The Worst Person in the World)
製作国:ノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク(2021年)
日本公開日:2022年7月1日
監督:ヨアキム・トリアー
性描写 恋愛描写

わたしは最悪。

わたしはさいあく
わたしは最悪。

『わたしは最悪。』あらすじ

30歳という節目を迎えたユリヤはいまだ人生の方向性が定まらずにいた。恋人であるアクセルはグラフィックノベル作家として成功し、最近しきりに身を固めたがっている。ある夜、心ここにあらずのまま彷徨い、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、そこで若く魅力的なアイヴィンに出会う。ほどなくしてアクセルと別れ、新しい関係に身をゆだねたユリヤは人生の新たな展望を見いだそうとするが…。

『わたしは最悪。』感想(ネタバレなし)

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ヨアキム・トリアー監督、疾走中

日本では『日本沈没』が大ヒットし、世界では年末に『ゴッドファーザー PART II』が一世を風靡した1974年。その年にデンマークのコペンハーゲンで“ヨアキム・トリアー”は生まれました。

“ヨアキム・トリアー”の家系は映画畑。父親は当時のノルウェーで史上最大のヒットとなったアニメーション映画『ピンチクリフ・グランプリ』の音響技術者であり、祖父は実験的な表現でノルウェーを代表する映画監督となった“エリック・ローヘン”でした。

“ヨアキム・トリアー”はノルウェーの首都オスロに移り住んで育ち、この街が馴染みの地となります。歴史ある街であり、大戦時には『OSLO オスロ』で描かれたように歴史の方向性を決める大きな出来事も起きました。そのオスロ出身の人を「オスロビアン(oslovian)」というらしいですけど、“ヨアキム・トリアー”はオスロ出身ではないけれど、このオスロに愛着があるのは明白です。

そして地元愛は作品として結実します。2006年、“ヨアキム・トリアー”はこのオスロを舞台にした映画『リプライズ』で長編映画監督デビューを飾ります。20代前半の男女の友人グループを描き、それぞれの葛藤が独特のタッチで映し出されていくこの映画は、批評家ら高い評価を受け、注目の新鋭監督のひとりとして脚光を浴びました。

続く2作目の『オスロ、8月31日』(2011年)もその名のとおりオスロが舞台で、リハビリ中の麻薬中毒者を主人公にするもの。こちらの映画も高評価を獲得し、もうこの時点で世界の最前線に立つ監督として立場を確立していきます。

“ヨアキム・トリアー”監督の作家性はわかりやすく、基本はメランコリックな人間模様や人間の内面を描いています。その登場人物のキャラクター性はワンパターンではなく、複雑で読み取りづらいものばかり。それをあえて題材にして、巧みに物語で表現していく。それこそがこの監督の持ち味です。

以降もその腕は発揮され続けます。2015年の『母の残像』はカンヌ国際映画祭でも話題となり、2017年の『テルマ』ではホラーなジャンルに足を突っ込んでみたりもしました。

そして2021年、“ヨアキム・トリアー”監督の最高傑作と絶賛される映画が誕生。それが本作『わたしは最悪。』です。

句点をつけてしまう邦題にはやや閉口ですが、英題は「The Worst Person in the World」。さすがに「ザ・ワースト・パーソン・イン・ザ・ワールド」とカタカナにするのもあれなので、もう少しマシな日本語独自のタイトルを考えてほしかったな…。

話を戻して映画の中身について。『わたしは最悪。』は久しぶりにまた舞台がオスロに戻ってきました。なんでも『リプライズ』と『オスロ、8月31日』に続くかたちで非公式に「オスロ三部作」と呼ばれているそうですけど(3作とも物語は関係ないです)。

『わたしは最悪。』は30歳を迎えたばかりの女性が主人公。その女性は人生に迷っており、いかにも30歳にありがちな浮き沈みの激しい内省的な物語が展開していきます。相変わらず“ヨアキム・トリアー”監督らしいテイスト満載です。今回は現代的なジェンダーを取り巻くあれこれも内包し、そんな女性らしさが揺らぎまくって余計に迷いやすくなってしまったかもしれない今を生きる30歳女性の生々しい葛藤に寄り添ったもので…。同世代の人は共感しやすいかもしれません。

一応はジャンルとしてはロマコメということになるのでしょうけど、ロマコメのようではあるのですが、アンチ恋愛伴侶規範的な方向性もあって、従来どおりメランコリックではありますが、そこに新時代の価値観の模索するリアルさがあったりも…。この感じは最近だと『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』にも近いものがあり、やはり今のトレンドなのかなとも思います。

『わたしは最悪。』で主人公を演じた“レナーテ・レインスヴェ”はこの好演でカンヌ国際映画祭で女優賞を獲得。『オスロ、8月31日』でデビューした俳優ですが、“ヨアキム・トリアー”監督に背中を押されてここまで到達したのは見事ですね。

米アカデミー賞でも、国際長編映画賞だけでなく、脚本賞にもノミネートされた『わたしは最悪。』。脚本家として長年手を組んでいる“エスキル・フォクト”と共に、キャリアも絶好調で疾走している“ヨアキム・トリアー”監督です。

まだその監督の世界を知らない人は本作からでも飛び入り参加してみてはいかがでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:人生について考えたくなる
友人3.5:何でも語れる相手と
恋人3.5:恋愛気分があがるわけでは…
キッズ3.0:やや性描写あり
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『わたしは最悪。』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『わたしは最悪。』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):愛しているけど…愛してもいない

オスロの大学で医学生のユリヤは今日も講義を受けていました。成績は悪くないです。模範的ですらあります。でもユリヤは迷っていました。この学問を本当に学びたいのだろうか…。

ある日、ふとカメラマンになろうかと思い立ち、進路を変えます。

なんとなく出会った男性と恋愛関係を築いていたこともあったユリヤでしたが、アクセルというグラフィックノベル作家との出会いが彼女の心を動かします。体の関係を持ち、まだ実感はないですが、でも良い感じ です。これでいいのかもしれない…。2人は同居し始め、実に楽しい時間を過ごすことができました。

しかし、そんな良好だった関係にも亀裂がすぐに見え始めます。アクセルは「もう30歳だし、子どもを持ってもいいんじゃないか」とユリヤに意見を言うのですが、それにユリヤは苛立ちます。

「私も子どもは欲しい、いつかはね」とユリヤも語るも、母親になる自信はなく、かといって具体的にはわからないことだらけで、もっとやりたいことがある気がするけど、それさえも説明できない…。

そんなモヤモヤばかりが明確に言葉にできずに溢れ出し、口論は続き、終わりは見えません。切り上げるために立ち去るユリヤ。

アクセルはグラフィックノベル作家として成功し、パーティが開かれます。しかし、ユリヤは気まずさを感じ、ひとり抜け出して、夜の道路を歩きます。そして招待されていない他人のパーティに紛れ込んでみるのでした。そこでは見知らぬ女性に「母性は人を狂わせるという医学的見地がある」と好き勝手に語って険悪なムードにさせたり、自由にやりたい放題のことをします。

ふと座っている男の隣に落ち着き、話し込むことに。彼の名はアイヴィン。話しているうちに意気投合した2人は、腕を噛んだり、汗の臭いを嗅いだり、互いに変なことをしてテンションがあがります。秘密を暴露し合ったかと思えば、互いのおしっこをしているところを見せ合ったりも…。

そうして気兼ねなく楽しんで、朝に別れました。

ユリヤは30歳の誕生日を迎え、母のもとへ行きます。自分はまだやりたいことが定まりません。

ある日、本屋の店員として働いていると、アイヴィンと出会って動揺します。彼は妻を連れていました。そしてまた出会ってわかりました。互いに忘れられないということに…。

ユリヤはアクセルと暮らす家から走りだし、アイヴィンの働く店へ駆け込みます。そしてキスをし、愛を確かめ合いました。

その後、アクセルに別れを切り出します。彼はかなり動揺しており、2人はわからなくても、もう以前のような関係は維持できないのだと悟ります。

いつかまた一緒になれるのか…。そんなことを思いつつ、ユリヤはアイヴィンとの人生を新しく始めることにします。アイヴィンもアクティビズムに目覚めた妻とは見切りをつけました。

それでも人生の迷いは完全に消えたわけではなく…。

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出会いはあるけど…出会えていない

『わたしは最悪。』はプロローグとエピローグを除いても全12章というかなり細かい構成になっており、早いテンポで物語が進んでいきます。「Chapter 1: The Others」「Chapter 2: Cheating」「Chapter 3: Oral Sex in the Age of #MeToo」「Chapter 4: Our Own Family」「Chapter 5: Bad Timing」「Chapter 6: Finnmark Highlands」「Chapter 7: A New Chapter」「Chapter 8: Julie’s Narcissistic Circus」「Chapter 9: Bobcat Wrecks Xmas」「Chapter 10: First Person Singular」「Chapter 11: Positive」「Chapter 12: Everything Comes to an End」の全12章。この12章構成というのは、おそらく“ジャン=リュック・ゴダール”監督の『女と男のいる舗道』(1962年)への目配せなんでしょうね。

『わたしは最悪。』は30代の女性を主軸に、いわばミレニアル世代のメランコリックな人生葛藤が終始炸裂します。

このフェミニズムを基底とする現代において、「女の幸せは恋人を作ることである、男性との結婚である、子どもを持つことである」という認識が時代遅れなのはわかっている。でも、じゃあだったら何が幸せなの?…という最も肝心な問いに対する答えの不在。その答えを見つけることは結局はイチ個人の女性に丸投げされてしまうわけで、その悶々とした日常の迷宮を彷徨っているのがこの主人公のユリヤです。

ユリヤは別にモテないわけでもなく、案外と恋人はできます。出会いはある。でもそれが最良の出会いなのかがわからない。

幸せな家族像なんて見えないし、「子どもを持つ」って何なんだ?という漠然とした疑問ばかりが浮かびます。将来設計をじっくり練って子どもを持つ人なんているのか、でも勢いで子どもを作るのも違う気がする…わからない、わからない、わからない…。

そこで出会ったのはアイヴィンという男性。彼は別にキャリアで大成功しているわけでもない(バリスタみたいです)。ただ気が合う。このフィーリング。そこに身を委ねます。

その初めての出会いのシーンで、ユリヤはアイヴィンとちょっとインモラルな行為を共有して仲良くなります。この「現代社会に鬱屈を抱えているからその規範から脱することをして楽しむ」という感覚はわかる人も多いと思います。たとえ気休めであっても…。

中盤(第5章)で自宅のスイッチをトリガーに自分以外の全ての人物の動きが止まり、ユリヤが外に駆け出してアイヴィンに会いに行くシーンはエモーショナルです。ここで終わっていたら典型的なロマンス映画でハッピーエンドなのですが…。

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未来は見えないけど…後悔もしていない

『わたしは最悪。』は前半はそう見えても最終的にはロマンス映画にはなりません。

やはり恋愛伴侶規範が答えにはならない。アイヴィンとの生活も現実逃避にはなるかもだけど、すぐに現実問題が突きつけられます。

ユリヤはやがては妊娠をしてしまうのですが、最後は流産します。その直後での何とも言えないホっとした感じにも思える表情も印象的。

ラストではカメラマンとして働くユリヤがまるで昔の自分のように自信なさげな顔を見せる女優と対面します。その人には赤ん坊がいて、夫はあの…。

ここでユリヤは恋愛伴侶規範をちょっと客観視できるようになった感じもあり、ほんの少しの前向きさを感じさせますね。以前は他の家庭を目にして不安を抱いていたわけですから…。

一方、この『わたしは最悪。』のもうひとりの主人公とも言えるのがアクセル。彼はユリヤよりもひとまわり年上の40代で、かなり過激なグラフィックノベルを創作しています。その内容と評判を見るかぎり、アクセルはいわば現代の価値観についていけてない典型的な中年男性であり、その鬱屈をあのコミックにぶつけている感じでしょうか。

自分の手がけた作品が家族向けのクリスマス映画にマイルド化してしまったりと、全く自分が社会に肯定されないことに不満を溜め込み、気鋭の女性批評家にやりこめられていっぱいいっぱいだったり…。

そんなアクセルは唐突に膵臓癌という命の終わりを突きつけられ、それまでの“男らしさ”の鎧を脱ぎ去って、弱々しさを見せていく。ユリヤとアクセルという2人を見ていると、男女の関わり方として恋愛や夫婦だけではない、別の有意義な相互作用を生み出す余地があることを提示しているような気もします。

“ヨアキム・トリアー”監督は、憂鬱で哀愁が漂い、鋭いユーモアを尖らせ、独善的な沼に足が抜けない人間をずっと描きつつも、今のジェンダーをしっかり捉えている。これほど向こう見ずなエネルギーを発散しつつも、その的確さを保持しているという、やはり才能があるんだなと実感する映画でした。

『わたしは最悪。』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 86%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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作品ポスター・画像 (C)2021 OSLO PICTURES – MK PRODUCTIONS – FILM I VAST – SNOWGLOBE – B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA 私はさいあく

以上、『わたしは最悪。』の感想でした。

The Worst Person in the World (2021) [Japanese Review] 『わたしは最悪。』考察・評価レビュー