トランプ勝利の今だからこそ観るべき…ドキュメンタリー映画『マイケル・ムーア イン トランプランド』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2016年に配信
監督:マイケル・ムーア
まいけるむーあ いん とらんぷらんど
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『マイケル・ムーア イン トランプランド』物語 簡単紹介
『マイケル・ムーア イン トランプランド』感想(ネタバレなし)
マイケル・ムーアがどうしても語りたかったこと
世界中が大注目のアメリカ大統領選挙。共和党のドナルド・トランプ氏と民主党のヒラリー・クリントン氏の一騎打ちは、メディアや専門家の予測を大きく裏切って、トランプ氏の勝利に終わりました。
アメリカ大統領選挙は8日、全米で一斉に投票が行われました。アメリカのABCテレビによりますと、トランプ氏は中西部ウィスコンシン州など28州で勝利を確実にし、当選に必要な過半数を超える278人の選挙人を獲得し、民主党のクリントン氏に勝利しました。過激な発言で話題を集めてきたトランプ氏は、「アメリカを再び偉大にする」というスローガンを掲げ、現状に不満を抱く有権者から支持を得ました。引用:NHK
過激な言動を繰り返し、メディアからはときに馬鹿にされていたトランプ氏でしたが、以前から指摘されていた保守的な白人層だけでなく、実際は予想以上に多くの人々からしっかり支持されていることが証明された形になります。
アメリカ映画業界にもトランプ氏の支持を示す人はいました。『ハドソン川の奇跡』の“クリント・イーストウッド”は支持するという発言を匂わせ、アンジェリーナ・ジョリーの父親で名優の“ジョン・ヴォイト”も評価の声をあげています。
ただ、やっぱりというかトランプ氏を不支持する映画業界人のほうが目立っていたように思います。“ジョージ・クルーニー”、“ジョニー・デップ”、“ジェニファー・ローレンス”などなど…ときに手厳しい批判のコメントが発せられたこともありました。
しかし、この人を忘れてはいけない。その人物とはドキュメンタリー映画監督の“マイケル・ムーア”です。これまでの作品では一貫してアメリカの負の側面をぶった切ってきた彼。『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)では蔓延する銃の問題、『華氏911』(2004年)ではブッシュ政権による戦争、『シッコ』(2007年)では医療問題、『キャピタリズム マネーは踊る』(2009年)では経済混乱を招いたウォール街…。
そんなマイケル・ムーア監督も近年ではアプローチを変えてきた気がします。最近の『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(2015年)では、ダメダメなアメリカが見習うべき先生としてヨーロッパに答えを求め、アメリカは変われるんだ!と期待を込めて映画を締めくくっていました。きっとマイケル・ムーア監督もアメリカの問題点をただ批判しているだけではダメだと思い、改善していく方向へ進めようとしているのでしょう。
そのマイケル・ムーア監督がこのアメリカ大統領選挙をターゲットにしないわけがない。マイケル・ムーア監督はかねてからトランプ氏を痛烈に批判はしてきましたが、映画では言及ありませんでした。ところが、大統領選を直前に控えた今年10月18日に電撃発表され、翌日に公開されたのが本作『Michael Moore in TrumpLand』。「ついにマイケル・ムーアがトランプに牙をむけるのか!?」と話題になりましたが、気になる中身は意外なものでした…。
マイケル・ムーア監督は7月の時点でトランプ氏が勝つと予想していたともいいます。なぜ、大半のメディアや専門家はトランプ氏は負けると予測していたにもかかわらず、マイケル・ムーア監督は的中できたのか。本作を観ればわかるかもしれません。
「アメリカ大統領選挙? なんか騒がしいけど、私は興味ないし」という日本の人は少なくないかもしれませんが、アメリカ大統領選挙の結末は、全ての日本人にとって影響があると言って過言ではないのではないでしょうか。なんていったて世界トップの国家の方向性が変わるんですから。
なによりも、もうすでに選挙結果が出てしまった今、本作を観るとまた違った見方ができると思います。残念なことに本作は日本では劇場未公開で、Amazonなど動画配信サービスでオリジナルの英語版しか観ることはできませんが、観れる人はぜひどうぞ。繰り返しますが、今、観ることに価値があると思いますよ。
『マイケル・ムーア イン トランプランド』感想(ネタバレあり)
マイケル・ムーア監督がいつになく必死な理由
本作は明らかにこれまでのマイケル・ムーア監督作品とは違います。
いや、もちろんいつもの毒っ気は健在でした。会場で客席のメキシコ人を囲む壁をつくって見えなくしたり、客席のイスラム教の人にドローンを飛ばしたり、パフォーマンスのキレは相変わらずです。
でも、なんか切実なんです。
本作は、マイケル・ムーア監督がオハイオ州の劇場で開催しようとしたワンマンショーを扱ったもので、全編を通してマイケル・ムーア監督が観客を前に語りとおすという構成。70分近く、ずっとトーク&トーク、いつもの軽妙な語り口でしゃべりまくりです。
しかし、ギャグもふんだんに盛り交ぜていますが、主張は明確。
簡単に言ってしまえばこうです。
「トランプを支持している人、気持ちはわかるけど、それでいいの?」
「ヒラリーにも悪い点は確かにある。でも、良い点もあるから!」
「とにかく、とりあえず、騙されたと思って、間違えてしまったとかでもいいから、ヒラリーに投票してください!」
こんな直接的なメッセージを言うとは思いませんでした。ちなみにマイケル・ムーア監督は、民主党の指名争いではバーニー・サンダース上院議員を支持していたので、トランプ氏もヒラリー氏も反対な人だったのですが。
本作を観る前はトランプ氏の汚点をひたすらさらけ出し、叩くのかと思いましたが、違いました。むしろ、全ての人種や宗教の人に向けて冷静な議論を促していました。そして、ヒラリー・クリントンを支持しましょうと呼び掛ける…ほとんどヒラリー・クリントン応援演説でした。
劇中に映る聴衆には、ゲラゲラと笑う人もいれば、真面目に聞く人もいる、神妙にうなずく人もいる、涙を流す人もいる、立って拍手を送る人もいる、不満そうな顔を浮かべる人もいる…これが今のアメリカの縮図だなとなんだか実感しました。大統領選挙の結果はああなりましたが、テキトーに投票したからとかでは決してない。皆、悩んで苦しんで選んだ結果なんだと思います。後はどう生きるかです。マイケル・ムーア監督はもうすでに先を見ているのではないでしょうか。
正直な感想として、マイケル・ムーア監督もかなり焦っていたように見えます。それでもなんとかして理解し合おうという意思がひしひしと伝わってくる作品でした。
トランプ勝利が確定したとき、マイケル・ムーア監督は以下のコメントをしていました。
Michael Moore@MMFlint
However this ends, that’s where we begin.
2016/11/09 14:30:45
よく考えると、マイケル・ムーアとドナルド・トランプは似ています。
マイケル・ムーア監督も過激でド直球な突撃精神で支持を集めていった人物であり、エンターテイメント型のパフォーマンスを得意としています。
そもそもハリウッドだってエンターテイメント型のパフォーマンスで政界に進出した人を輩出してきた歴史があります。俳優から大統領にまで登り詰めた“ロナルド・レーガン”や、人気俳優からカリフォルニア州知事に転身した“アーノルド・シュワルツェネッガー”とか。
今回のドナルド・トランプ氏の大躍進はこれこそ映画的です。間違いなく映画化されます。
だからこそ、エンターテイメントの力で大統領になったトランプ氏に対抗できるのは、同じくエンターテイメントの力で名監督になったマイケル・ムーアなのかもしれません。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 53% Audience 46%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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以上、『マイケル・ムーア イン トランプランド』の感想でした。
Michael Moore in TrumpLand (2016) [Japanese Review] 『マイケル・ムーア イン トランプランド』考察・評価レビュー