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ドラマ『作りたい女と食べたい女』感想(ネタバレ)…物語のままで終わらせない「つくたべ」

作りたい女と食べたい女

物語のままで終わらせない意思を感じる…ドラマシリーズ『作りたい女と食べたい女』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:作りたい女と食べたい女
製作国:日本(2022年)
シーズン1:2022年にNHKで放送
シーズン2:2024年にNHKで放送
脚本:山田由梨
児童虐待描写 LGBTQ差別描写 恋愛描写

作りたい女と食べたい女

つくりたいおんなとたべたいおんな
作りたい女と食べたい女

『作りたい女と食べたい女』物語 簡単紹介

料理が大好きだが、ひとり暮らしで少食のため、もっとたくさん作りたい!と日頃からモヤモヤした気持ちを溜め込んでいた野本ユキ。ある日、職場でのストレスから、とても食べきれない料理をつい作ってしまう。思い浮かんだのは、同じマンションに住んでいる女性・春日十々子。思い切って声をかけてみたことから始まる、2人の交流。一緒にささやかな料理で繋がる時間を過ごすうち、野本ユキは自分が抱いている感情に気づいていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『作りたい女と食べたい女』の感想です。

『作りたい女と食べたい女』感想(ネタバレなし)

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作って食べるのは「男社会」のためじゃない

私たちにとって欠かせないことのひとつ、それは「食べる」ということ。人間社会の大半はもう狩りとかしなくなったので、大半の人は「料理」を食べます。ということはその料理を「作る」ということも必要になってきます。作って食べる…これは日常の何気ない光景です。

しかし、この「作って食べる」という行為にさえも厄介で不平等な問題が圧し掛かってきます。それはジェンダーの観点、具体的に言えば、とくに「女性」ばかりが「作って食べる」という行為を「女らしさ」の色眼鏡でジャッジされやすいということ。

「こんなに料理が上手いんだね。良いお嫁さんになれるよ」

「そんなに食べるなんて、男顔負けだね」

「食べるの遠慮してるの? ダイエットしてモテたいのか~」

料理を作るのが上手かろうが下手だろうが、食べる量や種類がどうであろうが、常に女らしさで評されてしまう。女性というジェンダーで生きていると、そうした視線を避けるのはこの社会では極めて難しいです。家でも学校でも職場でもお店でも、女らしさというプレッシャーが純粋に「作って食べる」ということを不可能にさせてしまいます。

このような「食とジェンダー」に関する視点は研究などでも多数見られますが、創作においてはこの観点を意識していないと、かなり安易にこのジェンダーバイアスを助長しかねない表現が生まれてしまいます。

逆にこの観点を作り手が明確に意識していれば、これまでにない面白い視座の作品が作れることもあります。まさに作り方が変われば同じ食材を使っていても味は激変する。なんだか料理みたいですね。

今回紹介する日本のドラマシリーズは、「食とジェンダー」の視点をしっかり内包して、純粋に「作って食べる」という喜びを味わおうとする女性たちの物語です。

それが本作『作りたい女と食べたい女』

原作は“ゆざきさかおみ”による漫画で、当初は個人で公開していただけでしたが、話題が集まり、2021年からKADOKAWAのウェブコミック配信サイト「ComicWalker」内レーベル「COMIC it」にて商業連載開始。人気はさらに拡散し、めでたく2022年にドラマ化となりました。

この『作りたい女と食べたい女』(愛称は「つくたべ」)は、料理を作るのが大好きな女性と料理を食べるのが大好きな女性が関係を深めていくという、起きることとしては本当にそれだけの内容です。しかし、前述したとおり、この作品は「作る」「食べる」という行為に対して、家父長的な女性への抑圧から解放しようという意思が明確にあるのが特色。女性たちが作って食べて触れ合っていく物語ですが、それは男性が女性を愛でるためにあるわけではありません。女性が主体的な「作る」「食べる」を獲得する過程を心の機微も丁寧に映しながら描いていく。だからそんなストーリーに救われる女性の読者が大勢いて、それが本作の支持に繋がっていきました。

加えて本作はレズビアンというセクシュアリティも明確に描写しており、その描き方の誠実さも支持の理由になっています。

その熱烈なファンも多い原作がドラマ化するにあたって、待望の展開に喜びの声も上がりつつ、「本当にちゃんと原作の魅力を取りこぼさず映像化してくれるのか?」と不安の声も聞かれました。残念ながら嫌な先例もありますからね…。

しかし、このドラマ『作りたい女と食べたい女』、いざ放送されるとおおむね好評で、ファンのほっとひと安心する姿があちこちで観察できました。

キャスティングも脚本も原作をしっかり意識していますし、セクシュアリティなどの考証もつけていて、万全の体制を完備。LGBTQ考証をつけるのもこなれてきた感じがありますね。脚本を手掛けるのはドラマ『17.3 about a sex』“山田由梨”です。

放送するのはNHK「夜ドラ」の枠です。これは以前は「よるドラ」と呼ばれていたもので、2022年初めにはアセクシュアル・アロマンティックの男女を描いてこちらも界隈では話題となった『恋せぬふたり』を放送してもいました。基本的に若い視聴者層を意識した番組作りを狙っているそうで、先進的な内容のドラマをよく展開しています。

ドラマ『作りたい女と食べたい女』は1話あたり約15分全10話(シーズン1)のドラマで、ボリュームが少ないのが残念ですが、たった15分でも純粋に「作って食べる」という喜びを分かち合える。今の日本社会に足りないものがその時間に詰まっています。

なお、NHKの放送ドラマは放送日から1週間程度までは「NHK+」でインターネット視聴できます。また、その見逃し視聴期間が終わってしまったときは、今度は「NHKオンデマンド」で有料配信しています。鑑賞したい人はそちらからご覧ください。

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『作りたい女と食べたい女』を観る前のQ&A

✔『作りたい女と食べたい女』の見どころ
★いろいろな女性たちの静かな連帯。
★レズビアン・ロマンスの丁寧な描写。
✔『作りたい女と食べたい女』の欠点
☆短い。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:届けるべき人に届けたい
友人 4.0:紹介し合って
恋人 4.0:同性愛をしっかり描写
キッズ 3.5:子どもでも見られる
↓ここからネタバレが含まれます↓

『作りたい女と食べたい女』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

料理が得意な野本ユキは、自分で好きに料理を作るのが趣味で、料理の写真を投稿したりもしていました。決して絶大な影響力があるインフルエンサーというわけではないですが、多くはないものの反応もあり、嬉しかったります。

そんな野本の悩みは自分自身は小食だということ。これでは料理をたくさん作っても余らせるだけです、今はひとり暮らし。地元から離れて就職し、仲のいい友達も近くにはいない状況。もっと大盛りの料理を作りたい…作ったところでひとりでは食べきれない…料理も食べるまでがないと成立しない…。そんなモヤモヤを抱えていました。

ある日の夜、同じマンションに住んでいると思われる女性がエレベーターの前にいました。横に立って「こんばんは」と挨拶し、横目でチラっと見ると、尋常じゃない量の食べ物を買った袋を両手にぶらさげています

エレベーター内で思わず見つめすぎてしまい、「あ、なんかパーティとかですか?」と声をかけます。

「いえ、ひとりで食べます」…そう言って降りていくその人。部屋は近くだったようで、野本は「あれをひとりで…」と驚きました。

野本は職場にて、あのたくさん食べてくれそうな人を思い出していると、同僚の男性から手作りの弁当を褒められ、「いいお母さんになるタイプですよね。俺も彼女に弁当を作ってもらいたいな」と言われます。そのときはとりとめのない対応で済ましましたが、それを耳にして嫌な気持ちになった野本。

思わず割引していたブロック肉を衝動買いし、大量のルーロー飯を無意識に家で作ってしまいました。これは確実にどうしようもない…。

そのとき外の廊下のあの人が歩く音が聞こえます。思わずその人のインターホンを鳴らす野本。

数時間前、春日十々子は唐揚げ定食を店で注文していました。しかし、ご飯が隣の男性客より少なめになっており、「普通についでください」とお願いします。店の男は「やってしまった」という感じで慌ててご飯をつぎなおします。

そんなこともあって帰宅した春日は、廊下を歩いているとき、ルーロー飯の美味しい匂いに気づいていました。

その直後です。春日の家に訪問者が現れます。「夜分にすみません。あの夕飯はお済でしょうか」…それは野本です。

こうして衝動的にルーロー飯をおすそわけすることにした野本。

「本当に私が食べていいんですか?」「もちろん」「ではありがたくいただきます」

淡々と対応していた春日は無言で口に料理をもっていきます。その姿は野本の心を満たしていきます。

全部食べ切った春日は「ごちそうさまでした。ありがとうございます。美味しかったです」と感想と感謝を述べました。

このとき、野本は気づきました。「探していたんだ、一緒にお鍋を空っぽにしてくれる人を…」

作りたい女と食べたい女の出会い。互いを満たしてくれる、もしかしたらこれは理想のパートナーなのかもしれない。そんな2人が初めて食卓を囲んで向かい合った日…。

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シーズン1:作る。食べる。それだけを肯定してくれる

『作りたい女と食べたい女』は原作の時点で2人の構図がとてもよくできていて、作品の味わいとしてはじゅうぶんです。ドラマ化するにあたっては、いかにこの安心感を映像でも表現できるか、そこが大事になってきます。

多くのファンが当初は気にしていたのがキャスティングでした。とくに春日十々子を演じる俳優に対する注目が高かったです。なぜなら春日は平均的な女性よりも体格ががっしりしたキャラクター造形になっており、ドラマ化において、このキャラクターそのままな俳優を本当に起用できるのかと心配されたからでした。

女性は男性よりも役柄としての幅、ことさら体型に関しては非常に範囲が狭いのが問題でした。女性はスタンダード(これは平均的という意味ではなく、規範として普通と見なされやすいということ)な体型の役柄ばかりを用意され、自然と俳優として成功するのもそういう人だけに偏ります。若い年齢層の場合はその傾向は明らかです。

別に日本だけでなく世界的に同様の問題があるのですが、今回の春日を演じた“西野恵未”は今作では俳優デビュー。やはりこういう役柄に似合う人を既存の俳優業界で探すのは至難の業なのでしょうね。でも“西野恵未”は春日にぴったりハマっており、体型だけでなく、雰囲気までもフィットしており、このキャスティング以外あり得ないという説得力がありました。

一方の野本を演じた“比嘉愛未”もマッチしており、“西野恵未”演じる春日と並んだ時の相乗効果も抜群。キャスティングは大成功だったと思います。

実写映像化すると2人の掛け合いも自然と豊かに見え、作中では最初はよそよそしい2人ですが、野本はしだいに敬語とため口が混ざり合ったり、春日は感情を口に出すようになったりと、そういうささやかな変化もより魅力的に映っていました。

でもあらためて実写化された2人を見ていると、2人ともチート級に凄い人だなって思いましたね。野本も本当に趣味の熱意だけで何でも調理するし、春日も嫌いなもの無しでひたすらに食べてくれるし…。需要と供給の理想形ですよ。

これが15分ドラマではなく、30分だったら、もっと料理を作る部分にマニアックにフォーカスして、原作以上に2人の関係性をじっくりことこと煮詰めることもできたのでしょうけど…。

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シーズン1:現実社会に目を向けてくれる意義

『作りたい女と食べたい女』はこの互いを肯定してくれる理想形の2人の関係性をさらにレズビアンとしてステージを移して描いていきます。こういうのをさりげないクィア・リレーションシップの暗喩としてとどめることもできますが、作品としてレズビアンという描き方に踏み込む。そこがこの作品の姿勢です。

ドラマでは第7話から野本は同僚の指摘で自分の中にある春日への感情を恋愛として意識し始め、「女性同士 恋愛」で検索しながら、レズビアンという言葉に行き着きます。野本の幼い頃から感じていた異性愛規範への違和感も回想で描きつつ、性的指向(もしくは恋愛的指向)の自覚を短い時間で丁寧に展開させていました。

本作がとくに当事者にエンパワーメントを与える理由は、ドラマが創作物としての消費で終わるのではなく、しっかり現実社会に目を向けていると感じ取れるからだと思います。もともと原作も同性婚の法制化の運動に支持を表明したり、アクティビズムへと手を広げることに積極的でした。

ドラマでもその姿勢が後退している感じはとりあえずはしません。実写化されたことでより切実に、これをフィクションで終わらせてはいけないという感情を鼓舞してきます。

こういう作り方ができるのは、やはり同性愛を主題にしているからならではだとも思います。同性愛は昨今のLGBTQ運動の中でも最も目標が明確なグループのひとつです。それはもちろん「同性結婚の実現」。別に同性愛者にとってそれだけがトピックではないですが、同性婚の法制化は重要で、パートナーシップ制度だけでは平等は成し遂げられず、ゴールはそこにあります。

『作りたい女と食べたい女』の場合はそこに家父長制の打破(もしくはそれからの解放)という女性差別の問題意識が追加され、それもまた明白なゴールポストです。どう変えたいのかという未来像はこのドラマでまさに描かれているとおり。

こういう風に現実の運動の目標も明確だと、創作物にもプラスの影響を与えやすいでしょう。逆にトランスジェンダーやアセクシュアルの表象は、現実の運動とシンクロさせづらい難点が現状はある気がします(これは一種のLGBTQ内の格差でもあるのですが…まあ、その話はさておくとして)。

本作もあくまで同性婚の法制化が実現していない日本の時代に作られたドラマであり、もし同性婚の法制化が実現したらこのドラマは過去の時代を描いたことになります(ぜひそうなってほしいものです)。

物語のままで終わらせない意思を感じる『作りたい女と食べたい女』ですが、これはあくまで作り手は…という話。放送しているNHKがどう思っているのかは知りませんし、もちろんこのドラマだけで世の中が変わるわけでもないです。この後に異性愛規範だらけのドラマが大量に量産されるなら、作り手の努力もあっけなく無駄になってしまいます。

これは別のところでも書いた気もするけど、レプリゼンテーションはバトンを繋がないと意味ないですから。

料理だけでなく、理想の社会も作って食べたいですね。

まだまだ物足りない!とお腹を空かせる視聴者も多いでしょうし、ドラマ『作りたい女と食べたい女』はシーズン2を待望する人は大勢いるんじゃないかな。

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シーズン2:作品の持ち味がさらに染み出る

※シーズン2に関する以下の感想は2024年3月2日に追記されたものです。

ドラマ『作りたい女と食べたい女』、好評だったからなのか、第2期(シーズン2)が始まってくれました(第11話から第30話までのボリュームアップ)。

シーズン2は野本と春日がついに互いに納得のうえ交際する関係(最終話ではハグやキスまで)に上り詰めます。このカップルが成立する過程を、本当にじっくり丁寧に描いているのが本作の良さでした。出会う!キス!カップル成立!…みたいなそんなインスタントラーメンみたいな手早さではいきません。

なぜならこの日本社会は異性愛規範がこびりついていて、同性結婚もできず、そのうえ女性蔑視で…ろくでもないことだらけだからです。

本作はこの異性愛規範ゆえに必要以上に慎重なステップを踏まないといけない同性カップルのリアルが非常に誠実に描かれていて良かったですね(もちろんデミセクシュアルやデミロマンティック当事者の可能性もあるけど)。レズビアンの情報が不足しがちなこともあり、「友達から恋人への感情に繋がる基準は?」などと余計に考えこみやすかったり、バレンタインのチョコを買うときでさえも異性愛規範が混入したり、同性をシェアハウスとしてしか捉えない不動産などのせいで一緒に住む引っ越し先も見つけづらかったり…。

野本と春日でそれぞれのセクシュアリティの自覚の過程が少し違うのもいいです。人それぞれで、正解はないですから。

そんな野本側のメンターとして今回登場する矢子可菜芽。良いサポートでした。レズビアン&アセクシュアルということで、セクシュアリティの表象が増したのも良いところ。ただ、矢子の学生時代を回想するシーンで、「キスできない」「手を繋げない」といった言葉でアセクシュアルが暗示されるのは、やや粗雑ではありましたけど(レズビアンの描写の丁寧さと比べると…)。

また、会食恐怖症(社交不安症のいち形態)で他者とご飯ができない南雲世奈のキャラクターの新規追加で、食べることのテーマの表象も包括性が増しました。どうしてもトラウマ的なシーンがでてきてしまいますが、最後は病院にも足を運び、前向きに描かれていて安心。

他にも、野本の同僚である佐山(結婚に関する無神経な発言を自覚するシーンもあって良かった)や、春日の仕事場のスーパーで働く藤田(あの年齢の女性の離婚をポジティブに捉えるシーンが良かった)など、周囲の女性たちが適度に盛り付けられていて…。

シーズン2はこの作品の原作から持っていた味がついに最大限に煮込まれて、そこに他のステキな具材も追加され、一番美味しい状態になった感じでした。

これを食べたらまた食べたくなるものです。シーズン3のおかわりを待っています。

『作りたい女と食べたい女』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)NHK

以上、『作りたい女と食べたい女』の感想でした。

『作りたい女と食べたい女』考察・評価レビュー