「性スペクトラム」論争
性スペクトラムに反対する生物学者
「PART1(前編)」では、「性スペクトラム」は現在の生物学の基盤となりつつある学術的知見であることを、歴史的流れを追って整理しました。
しかし、それに公然と異を唱える生物学者もいます。
例えば、昆虫研究者の“コリン・M・ライト”(Colin M. Wright)と、発生生物学者の“エマ・N・ヒルトン”(Emma N. Hilton)。この2名は、“ヘザー・ヘイング”(Heather Heying)という進化生物学者と結びついています(Meidum)。
“ヘザー・ヘイング”は「抗寄生虫薬のイベルメクチンが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に有効である」と主張した人物のひとりです。イベルメクチンにそのような効果はないことが後の研究で明らかになりましたが、反ワクチン主義者や陰謀論者の間では今もその不正確な説が信じられています。この“ヘザー・ヘイング”は、夫が進化生物学者の“ブレット・ワインスタイン”で、一緒にポッドキャストをしており、そこでイベルメクチンの有効性をよく語っていました(Vice)。
次に“ジェリー・コイン”(Jerry Coyne)が挙げられます。この人物も大物で、進化を専門とする生物学者で、『Why Evolution Is True』というベストセラー著書が話題でした。もともと進化論を携えてそれを否定する宗教団体と舌戦を交わしてきた雄弁家であり、モノ言う科学ブロガーでもあります。
もうひとり、『T: The Story of Testosterone, the Hormone that Dominates and Divides Us』という著書を持つ人類学者の“キャロル・ホーベン”(夫の“アレックス・バーン”は反トランス活動家)は、性差を最重要視する立場です(Transgender Map)。テストステロンは男性の暴力の根源であり、殺人やレイプもそれで説明でき、それを否定したがる人たちは「自然は間違うはずがない」という自然主義的誤謬に囚われていると主張しています。
英語圏において目立つのは、この「ヘザー・ヘイング&ブレット・ワインスタインとその仲間たち」「ジェリー・コイン」「キャロル・ホーベン&アレックス・バーン」の3グループです。
あと、反トランス論者の心理学者“デブラ・ソー”を支持するコメントをだしたりもしている、著名な進化生物学者“リチャード・ドーキンス”もこの界隈の旗頭かもしれませんが、“リチャード・ドーキンス”は女性蔑視含めて数多くの問題発言を連発する人物であり(Salon)、今や生物学者として評価はがた落ちし、完全にお騒がせ者として世間に認知されている面もなくはないのでここでは論外としましょうか…。
生物学者ではないですが、心理学者で保守系論客として、はたまた反ポリコレの先導者として熱狂的なカルト的支持を集める“ジョーダン・ピーターソン”も「性差は大きく、生物学的である」と高らかに語っています(Aeon)。
反“性スペクトラム”と結びつく保守/右派の政治思想
「性スペクトラム」に異議を唱える生物学者もいる…と説明すると、「じゃあ、この性スペクトラムは科学では賛否が分かれているのかな」と思うかもしれません。
しかし、それは少し違います。状況はもっとややこしいです。
「性スペクトラム」に異議を唱える生物学者のほとんどにはいわゆる「反トランス」「政治的保守派」が深く結びついています。
背景に反トランス団体や政治団体がいることはすぐに観察できます。
例えば、“コリン・M・ライト”が性スペクトラムに反対する主張記事を投稿している「Reality’s Last Stand」というサイトには「サポート組織」として「Sex Matters」「Parents Defending Education」「Transgender Trend」「LGB Alliance」「Society for Evidence-Based Gender Medicine」「Fair Play For Women」「Counterweight」「Free Speech Union」「Heterodox Academy」といった反トランス団体、教育系の政治保守派のロビー団体、反Woke(反ポリコレ・反キャンセルカルチャー)団体の名がズラリと並んでいます(なぜか現在ではこのサポート組織リストはサイト上から削除されていますが…)。
「性スペクトラム」に異議を唱える一部の生物学者は、これらの反トランス団体・政治団体などと組むことで、いわゆる「インテレクチュアル・ダークウェブ(Intellectual Dark Web;IDW)」を構成していることが指摘されています(Scientific American)。
ごく一部の生物学者の中には、「性スペクトラム」という体系化され始めた学説に露骨に反動的な態度をみせ、学会で根拠を提示して学術的議論をするよりも、こうした保守/右派の強力な政治団体と手を組む方が得策と考える者もいるのが現状です。
「反“性スペクトラム”」の生物学者は保守/極右系のメディアの名物ご意見番です。例えば、“ジェリー・コイン”や“コリン・M・ライト”、“キャロル・ホーベン”は、あまりに不正確ゆえに英語版Wikipediaからさえも出典使用禁止措置を受けていることで知られるタブロイド紙「Daily Mail」に登場。保守系の「The Wall Street Journal」や保守系ウェブメディアの「The Daily Wire」にも“コリン・M・ライト”や“ジェリー・コイン”はよく顔を出します。
それら保守/極右系のメディアに起用される生物学者は、生物学の代表として発言し、「性スペクトラム」は「生物学の見解ではない」「疑似科学だ」と決まって言い切ります。「性スペクトラム」の研究事例を紹介することなどありません。それどころか「性スペクトラムなんて考え方が広まると女性にとって危険だ」など、その主張はどんどん数段飛ばしで飛躍していきます。その主張内容は生物学的見解というよりは、反トランス論者とほぼ同一です(TheTMPlanet.com)。
なぜ一部の生物学者は反“性スペクトラム”なのか?
私は個人的にどうして一部の生物学者がここまで強固に「反“性スペクトラム”」に傾倒するのか不思議に思っていました。その人の政治思想が保守や右派だからでしょうか。でも私が観察する限りあまりその一部の生物学者たちの政治思想に顕著な保守・右派の血脈は見られないです。
反トランス団体や保守/右派の政治団体が「反“性スペクトラム”」に同調する理由は明快です。
この一派の言い分によれば、「性別は男と女の2つ」という考えこそ科学なのであり、「性スペクトラム」はジェンダー・アイデンティティなどのリベラルなイデオロギーの影響を受けて”目覚めた(woke)”もので、イデオロギーに基づく左派による科学への攻撃だと考えています。要するに、反“左派/リベラル”・反“ジェンダー”運動の延長線です。これはいつものやつです。
例えば、「ヘリテージ財団」という保守系シンクタンクに関連する「デヴォス生命・宗教・家族センター」所長の“ジェイ・リチャーズ”は「“生物学的な性別”を“主観的なジェンダー”に置き換えようとしている動きがある」と非難し、これを「ジェンダー・イデオロギー」と呼んでいます(The American Independent)。
保守的な宗教団体は「進化論」に反対するのがかつての定番でしたが、近年は「性スペクトラム」が狙い目になっています(PinkNews)。保守や右派の政治宗教思想を現代科学に持ち込む口実として、この「性スペクトラム」批判を巧妙に利用しているわけです。
例えば、保守的なキリスト教ロビー団体として知られる「Family Research Council」も「‘Sex’ means biological sex(性別は生物学的性別を意味する)」とコメントし(The New York Times)、得意げに「生物学」という言葉を用いています。宗教団体が「生物学」という単語を使いまくるのも変な話ですが、そういう時代になってしまいました。進化論の雪辱を果たす気満々のようです。
ではごく一部の生物学者が強烈に「反“性スペクトラム”」に傾く動機とは?
これらの「性スペクトラム」に異議を唱える生物学者の主張はだいたい以下のとおりにまとめられます。
「人間の全ては性別は二元論ではない(インターセックスの人は確かにいる)。でも二峰性なのは間違いなく、だから約99%の人間は“男”か“女”だ。ペニスがある人の約99%は生物学的に“男性”だろうし、ヴァギナがある人の約99%は生物学的に“女性”だろう」
↓
「だから性スペクトラムは間違っている。性別はバイナリーだ」
この主張は「性スペクトラム」に異議を唱えるごく一部の生物学者の立場をかなり明確に映し出しています。
つまり、「反“性スペクトラム”」のごく一部の生物学者たちは、「男と女の二元論」を何よりも絶対視しており、どんな生物学的な根拠が観察されようともその「男と女の二元論」は揺るがないのです。もう科学は答えを見つけ出し、完成していると考えています。よって必ず「だから性スペクトラムは間違っている。性別はバイナリーだ」という結論に結び付けます。
一方、「性スペクトラム」を支持する研究者や学会は、もっと柔軟な考え方をしています。
「人間の全ては性別は二元論ではない(インターセックスの人は確かにいるし、それ以外でも性的特徴にはバリエーションがある)。でも二峰性なのも観察できる」
↓
「ただし、従来の研究はジェンダーバイアスなどの影響も受けてきたし、不十分なデータや分析もある」
↓
「だから性スペクトラムという前提で、もっと多彩な視点で研究を進めていこう。より色々な新しい知見も明らかになるかもしれない」
以上のように、科学の不完全さを素直に認めたうえで、これからの将来的な発展性も期待しながら、科学の成長を見守っていく姿勢です。「性別」に対して科学もまだまだ答え探しの途中だということです。
無論、「性スペクトラム」はこの記事でも歴史を追って説明したように、生物学の変移の中でヒトを含めた多くの生物種の観察・実験・調査・分析によって導き出された結論であり、とくに特定の政治的思想によって押し付けられたものでありません。
「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちは、「ヘザー・ヘイング&ブレット・ワインスタインとその仲間たち」「ジェリー・コイン」「キャロル・ホーベン&アレックス・バーン」の3グループに分けられると先に説明しましたが、それぞれで「反“性スペクトラム”」に合流していく経緯と背景が違っているのも特徴です。
「ヘザー・ヘイング&ブレット・ワインスタインとその仲間たち」は反ワクチンで勢いづいた陰謀論界隈を根城にしています。「ジェリー・コイン」は進化論についての大物ご意見番としてのもともとのメディア発信力が武器です。「キャロル・ホーベン&アレックス・バーン」は“男性の権利”界隈(男は男らしくあれ)と仲がいいです。
いずれにせよ「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちのような考え方は、「科学原理主義」と呼ばれたりもします(Rik Peels 2022)。「科学は完璧で、間違えておらず、答えをだしきっている」という思考です。こういう「科学原理主義」的な姿勢をとる科学者はどの科学分野にも一定数いるとは思いますが…。
「科学原理主義」は「宗教原理主義」と構造が似ています。「神は男と女を作った。それを受け入れなさい」が「宗教原理主義」なら、「自然は男と女を作った。それを受け入れなさい」が「科学原理主義」です。「神=自然」が作った男と女の構造によって、差別や格差が生じても、それはそういうものなんだから善悪関係なくゴタゴタ抜かすなという論調になります。だから一見すると正反対な生物学者と宗教信仰者が立場の一致をみることができるのでしょう。
「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちは「性スペクトラム」を裏付ける知見が目に入っても、それをリベラルなイデオロギーの影響だと政治問題にすり替えてしまうので、ある意味で「無敵バリア」を手に入れたも同然です。「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちは、「性別二元論」の知見をずっとひたすらに言い並べるだけで、新しい知見を組み込むことはありません。
ゆえに「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちに対して科学的議論はあまり意味をなさず、いつまでも平行線をたどってしまいます。オマケに「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちは「性スペクトラム」をイデオロギーだと言うわりには、自分たちのほうが明らかに保守/右派の政治界隈と密接にほいほいと近づいていっているので、どう考えても「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちのほうがイデオロギーっぽくなってしまっています。
そうなってくると「反“性スペクトラム”」の一部の生物学者たちは学会から居場所を失います。さすがに生物系の学会で差別主義的な主張全開で研究発表しようとしてもリジェクトされるだけです。もちろん科学はオープンな議論を前提とする場ですが(Aeon)、何でも放言できるわけでもなく限度もあります。
最終的にはやっぱり保守/右派メディアにご意見番として席を用意してもらうしかなくなり、その主張はさらに保守/右派っぽさを増します。負の連鎖です。学術界で辿り着くのは「Journal of Controversial Ideas」(The Wall Street Journal)とかでしょう。
結局、保守/右派政治界隈、原理主義的な宗教、反トランス、そして一部の生物学者…これらは元はバラバラでしたが、「反“性スペクトラム”」で思惑と利害が一致してしまったのです。
だからこそ「反“性スペクトラム”」で結集する一派に属する生物学者は(重宝してくれる保守/右派メディアがどんなに生物学者として扱ってくれようとも)世間からは「サイエンティフィック(scientific)」ではなく「インテレクチュアル(intellectual)」と呼ばれるわけで、自分たちの信じる狭い世界での有識者でしかありません。
「進化論」のときは対立構図がわかりやすかったのですが、「性スペクトラム」はややわかりにくいです。過去の科学的知見と宗教的信仰と政治的思惑が混ざり合って「反“性スペクトラム”」として結集し、「自分こそが真の科学だ」と主張しているからです。
「インテレクチュアル(intellectual)」な集団が結果的に反科学の立場となるというのは、これまでも「気候変動」「ワクチン」「トランスジェンダー・ケア」の分野で起きていましたから、今回の「性スペクトラム」への反発もそれらのパターンと同じと言えます。「反“性スペクトラム”」は「反トランス」と接続するのは想像しやすいですが、関係者や団体を見てみると「反ワクチン」や「地球温暖化懐疑論者」ともちゃんと繋がっているのがわかります。
どういう流れであれ、こうして一部の生物学者がある意味で保守/右派の政治界隈に「生物学」のお墨付きを与えたことは現実であり、それは取り返しのつかない事態の悪化を招いてしまい…。
「性別の定義」が政治問題に舞台を移す
「I know what a woman is(私は女性が何であるか知っている)」
2022年、アメリカの保守や右派の政治集会で突如このフレーズが急に流行りだしました(SAPIENS)。きっかけは、保守系議員の“マーシャ・ブラックバーン”が米国最高裁判事候補“ケタンジ・ブラウン・ジャクソン”の承認公聴会でなぜかいきなり「女性の定義は何ですか?」と質問したことです(SAPIENS)。
どうやら保守や右派に一部議員は「性別なんて簡単に定義できる!」と、まるで掛け算の九九を覚えて最強の気分になった小学生のような感覚でいたようです。右派コメンテーターの“マット・ウォルシュ”だって「What Is a Woman?」というドキュメンタリーを装ったプロパガンダを制作し、大はしゃぎです(Science-Based Medicine)。
ただ、すぐにボロがでました。
共和党の“ジョシュ・ホーリー”上院議員は、記者から逆に「女性」の定義を尋ねられ、「子どもを産むことができる人、すなわち母親が女性だ。子宮がある人は女性です」と堂々と“答え”を言い放ちましたが、子宮摘出をした人や元々子どもが産めない人は女性ではないのかと追及され、困り果てていました(The Washington Post)。
同じく共和党の“マージョリー・テイラー・グリーン”下院議員はもっと思い切った発言をしました。この議員(この人は女性です)は自信満々に「これは簡単な答えです。私たちは神の創造物です。私たちはアダムの肋骨から来ました。私たちは“弱い”性別です。そして夫の妻です」と言い切りました(The Washington Post)。
………“アリストテレス”が「女は劣った男である」と言っていた時代や、“ダーウィン”が「女は男よりも知的とは言えない」と口にしていた時代よりも、はるかに酷い時代が2020年代に到来するとは私も思いませんでした。
日本でも「性別は変えられない」と性別二元論を前提に主張する政治家は普通に現れています(朝日新聞)。
「性別は2つしかない」と性別の定義を持ち出す行為は今や政治のネタと化しました(Serena Bassi & Greta LaFleur. 2022)。「生物学」という言葉が政治の世界で連呼されるようになりました(Slate)。
つまり、「生物学的性別(biological sex)」という言葉の誕生です(Katrina Karkazis 2019)。
一見すると「生物学における性別」という意味の普通の用法に思えますが、この言葉は極めて恣意的で乱暴です。この言葉は「生物学」とついているくせに生物学界隈で学術的に用いる際の精細さは微塵も無く、もっぱら「ジェンダー」と対比させたいときに一般的に安易に使われる傾向があります。
言ってしまえば、“ジョン・マネー”が1950年代に「生物学的な性別(sex)」と「社会・文化的に影響を受けて生じる性別(gender)」を位置づけた考え方の再流用です。
ただ、“ジョン・マネー”のときと21世紀の「生物学的性別」が違うのは、この21世紀版「生物学的性別」は、「ジェンダー」を咎める、もっと具体的に述べると「社会・文化的な性別などいい加減なものだ」と矮小化する目的で用いられることが多いという点です。つまり、ジェンダーへのバッシングの一貫です。とくにトランスジェンダーやノンバイナリーをめぐるジェンダー・アイデンティティを否定したい「反トランス論者/団体」の間で多用されます。
保守や右派の政治集団は「生物学における性別」を「生物学的性別」という“政治用語”に改変してしまいました。政治学&ジェンダー研究の第一人者である“ペイズリー・カーラ”が著書『Sex Is As Sex Does: Governing Transgender Identity』で述べているように、「sex」はあらゆる政治のフィールドで影響力を持つ単語となりました。このように非常に政治的な場で政治的な狙いを持った用法で「生物学的性別」という言葉が使われているのが今の21世紀です(Maayan Sudai et.al. 2022)。
定義ハラスメントは差別の始まりだと歴史が証明している
こんな時代において、「性別の定義は何か?」という質問にまともに考えるよりも、まずはその「性別の定義を何に用いるのか?」という背景を考える方が大事です。そしてそれが「誰を排除するのか?」ということも重要です。
2023年、共和党の“テッド・クルーズ”は上院公聴会で人権団体「Human Rights Campaign」の会長に「女性と男性の違いはありますか? YESかNOで答えてください」と質問をし続けました(LGBTQ Nation)。純心に疑問に思って教室で手を挙げて先生に質問する小学生とはわけが違います。この“テッド・クルーズ”の狙いは、明らかに「論破」であり、質問自体が相手を困らせることを意図したハラスメントです。
カジュアルに「定義ハラスメント」と呼んでいいのかもですけど、これはただその場の嫌がらせでは済まない事態を引き起こしています。
2020年代に入って、アメリカの一部の州では「Bathroom bill」と呼ばれる法律で、公衆トイレを利用する際に「性的特徴に基づいた二元論的な性別」(法律支持者はそれを「生物学的性別」と呼んでいる)で分離することを義務づけようと試みています(LGBTQ Nation)。
しかし、ここまで読んできた人ならわかるとおり、実際の性的特徴はスペクトラムなので、詳細に性別を定義して二元論的な性別運用を徹底しようとすればするほど困ったことになります。ひとたび性別を疑われたら、自分の性的特徴を調べ上げられ(それも自分すら把握していない複雑な性的特徴を…)、立証しないといけないハメになるのですから。
「性的特徴に基づいた二元論的な性別」が運用されることは、とくに脆弱な立場の人には大打撃です。まずジェンダー・ノンコンフォーミングな人や、なにより典型的な容姿ではない女性(髪が短い、体型が大柄、乳房切除術を受けているなど)にとって居心地は悪いです。当然、トランスジェンダーやノンバイナリーの人たちにも不利益ですし(Aeon; Julia Serano)、インターセックスの人にも悪影響があります。インターセックス擁護団体である「interACT」の“シルバン・フレイザー”は「インターセックスの人が病理的な異常を示す例外として扱われることを助長する」と懸念を示しています(FiveThirtyEight)。
スポーツの現場でも「性別の定義」は持ち出されます。保守的な言動で知られるスポーツ・パーソナリティーの“クレイ・トラヴィス”はトランスジェンダー・アスリートの参加について「女性のスポーツが男性の生物学的支配(male biological domination)の時代に向かっている」とまで言ってのけました(Slate)。どうやら彼は、プロスポーツの歴史において女性アスリートは常に女性であることを証明させられる責任を課せられ、一時は外性器を目視でチェックされる通称「ヌード・パレード」という屈辱的な検査が行われてきた事実(岡田桂 ほか 2022)には目を向けていないようです。そもそも女性を排除してきたプロスポーツの世界は、女性を身体で定義することで女性差別に第一線で手をつけてきました。今やプロスポーツの場のみならず、9歳の女の子すらもこの「性別定義ハラスメント」を受けている現状です(ハフポスト)。
こうした「性別の定義」を持ち出して政治的な意図で人を区分しようとする社会の実情について、インターセックス当事者の社会学者“キャリー・ガブリエル・コステロ”は、かつてヨーロッパで行われた「人種の定義」と同様だと問題提起しています(Cary Gabriel Costello)。具体的には「ワンドロップ・ルール」と呼ばれるものです。これは「その人に一滴でも黒人の血が混ざっているならば、その人は黒人である」と判断する考え方です。これは奴隷制度を維持するのに都合がいい考え方であり、表向きは人種を生物学的に定義しているだけという正当性を確保しています。“キャリー・ガブリエル・コステロ”は、保守や右派の一派が中心になって進めようとしている「性的特徴に基づいた二元論的な性別」は「新たなワンドロップ・ルール」だと述べています。
ときに「定義」は差別の正当化に何よりも貢献します。「生物学」はその悪行と相性が良かった過去がありました。
差別に「生物学」が用いられるのはこれが初めてではありません。前述のとおり、“アリストテレス”から始まった生物学による女性差別の歴史もそうです。また、頭蓋骨の分析によって白人の優位性を示すなど優生思想にも生物学は過去に手を貸してしまいました(Advocate Channel)。
「種の保存は生物にとって当然だ」という生物学の(それも極めて不正確な解釈の)概念をピックアップして、同性愛カップルの結婚の権利を否定したりする人もいます(13世紀の神学者“トマス・アクィナス”から現代の日本の政治家までいろいろ;The Washington Post)。「生物は繁殖する本能がある」と言い放って、アセクシュアルを否定する人もいます。
2003年、心理学者“J・マイケル・ベイリー”が『The Man Who Would Be Queen』という本をだしました。その本はセクシュアル・マイノリティの人たちを「進化上の間違い(evolutionary mistakes)」と切り捨てました。この本はあろうことか米国科学アカデミーの出版社である「National Academies Press」の傘下にある「Joseph Henry Press」が出版していました。
この差別を生物学で正当化しようと試みた本に真っ先に抗議したのが、“ベン・バレス”(1954–2017)というトランスジェンダー当事者の神経生物学者でした(Transgender Map)。そして同じくトランスジェンダー当事者で進化生物学者の“ジョーン・ラフガーデン”も抗議の声をあげました(Transgender Map)。
“ジョーン・ラフガーデン”はその問題の本をこう批評しています。
全体として、この本は政治的に間違っているだけでなく、科学的にも間違っています。
今の「性的特徴に基づいた二元論的な性別」が乱用される時代も全く同じ言葉が言えるでしょう。
あらためて「性別とは何か?」
さあ、振り出しに戻ります。
「性別」とは何でしょうか。
「性別(sex)」は生物学的に性的特徴を分析すればスペクトラムです。しかし、昔から西欧中心では二元論的に扱われてきました。なぜなのでしょうか。
やはりその理由はもうひとつの「性別」概念である「ジェンダー(gender)」が教えてくれます。「性別(sex)」と「ジェンダー(gender)」は別物として互いに排他的な印象を与えていますが、本来はそんな単純なものではありません。
ジェンダー研究の第一人者である“ジュディス・バトラー”は、著書『ジェンダー・トラブル』の中で、ジェンダーだけでなく「性別(sex)」もずっと文化的に生み出されてきたことを指摘しています(Aeon)。人類学者の“エミリー・マーティン”も、「性別(sex)」を含めて既存の科学は文化的にパターン化された方法で生み出されていると解説しています(Aeon)。
多くの人間社会は赤ちゃんが生まれるとその子の性別を主に外性器に基づいて判定します。この「出生時に割り当てられる性別」は出生証明書などに記され、その子はその性別を背負うことになります。「出生時に割り当てられる性別」は「生物学的性別」と思われやすいですが、ここにも多分に社会や文化の影響が入り込みます。クィア理論の研究者である“キャスリン・ボンド・ストックトン”は新生児の性別決定は「gender socialization」の始まりだと取り上げています(The MIT Press Reader)。
思えば、あの“アリストテレス”だって、生殖の仕組みを科学的に考えようとしたとき、明らかに無自覚に「ジェンダー」の影響を受けていました(女性は男性に劣ると考えてしまったことはその先例)。進化生物学の生みの親である“チャールズ・ダーウィン”も、進化生物学的にメスは「恥じらいがあり、受け身である」と考えていました(Malin Ah-King 2023)。これもいかにもステレオタイプなジェンダー観であり、典型的な「性的対象化(sexualization)」の一例です(Julia Serano 2022-book)。
「ジェンダー」という言葉は後から誕生したものですが、その概念は人類の歴史から古く根付いていた性別への認識と全く無縁ではありませんでした。
「性別は男と女の2つである」というこの何気なく浸透している認識は、純粋に生物学に基づくものではなく、実際は道徳的観念だったり、西欧中心主義、白人至上主義、植民地主義、異性愛家父長制などと結合してきた歴史があるわけです(CJ Jones & Travers 2023)。
一方で、ジェンダー・アイデンティティ(「性同一性」や「性自認」とも表記される)は生物学的に説明できると考える研究者もいます(The New York Times)。これは「ジェンダー(gender)」を「性別(sex)」で説明しようとする試みです。
別に「sex」と「gender」はどっちが正しいか…みたいな話ではありません。「WHO」でも、「sex」と「gender」は異なるものではあるものの、相互作用することがちゃんと説明されています。この2つは切り離せない関係です。
インターセックスかつノンバイナリー当事者の活動家として知られる“ヒダ・ヴィロリア”が著した、インターセックスを中立的に包括した初の生物学専門書と言われている(Intersex Campaign for Equality)2020年の書籍『The Spectrum of Sex: The Science of Male, Female, and Intersex』で述べられているように、「sex」と「gender」はどちらもバイナリーではなくスペクトラムです。
スペクトラムで複雑な「sex」とスペクトラムで複雑な「gender」。この2つが相互作用してさらに複雑になる。私たちの知る性別は複雑さの塊です(Current Affairs)。
生物学者の“ジュリア・セラーノ”も性別を解説するエッセイに対して「適切な女性の定義を説明しろ」と反応をもらったようですが(Julia Serano)、たぶんこの記事を見つけた人の中でも、「結局、性別の定義は何なんだ! はっきり言え!」と文句をぶつけてくる者もいるでしょう。
でも私はこの拙文で頑張って一貫して説明してきたつもりです。
生物学における性別の意味は不変ではなく、歴史的に変化してきたこと。そこにはジェンダーの観点で偏見が混じってきたこと。現在は生物学では性別をスペクトラムとして認識していること。「生物学的性別」という言葉でその定義を政治的に乱用する現象が目立っていること。人間は簡潔さを求めがちですが、これからも性別を「わかりやすく簡単に定義なんてできない」ということ。
もちろんその「性別」の複雑さを解明しようという人類の好奇心は今後も続くでしょう。
「性別」という概念は人間が作りだしたものであり、だからこんなにも人間は「性別」を気にする。この関係だけはこれからもずっと変わりないのではないでしょうか。
「生物学的性別」という言葉とどう向き合うべきか
まとめに入りましょう。
冒頭からずっと説明してきたとおり、「性別」は科学においてその扱われ方は常に変化してきました。不変だったことはありません。おそらく今後も「性別」の概念は変わり続けると思います。
現在の科学の立場はこうです。
「全米アカデミーズ」では人間の性別を扱う際、それは単に生物学の産物ではなく、社会文化的および心理的経験にも影響されることを強調しています(Yale School of Medicine)。「sex」と「gender」は別の概念ですが、現在の科学ではそれを包括的に扱っています。「“sex”が正しく、“gender”は非科学だ」と排除するようなことはしません。「WHO」でも「sex」と「gender」は相互作用することが述べられているように、科学はその複雑な作用の研究に勤しんでいます。研究の質のうえでも「sex/gender」を考慮することは当然のように求められています(Nature; Lilian Hunt et.al. 2022)。
生物学では、性別を「二元論(binary)」や「二峰性(bimodal)」ではなく、「多峰性(multimodal)」で扱う方が、より生態の理解につながると指摘されています(J. F. McLaughlin et.al 2023)。生物の「性スペクトラム」の実態は今後も続々と明らかになるでしょう。
もちろん、分子生物学者の“リザ・ブルスマン”も述べているように、性別がスペクトラムであると科学者が納得するだけでは意味はありません(Massive Science)。一般の人に認識を広げ、教育や社会を変えていかないといけません。
生物学を専門に学ぶ大学などでは、性スペクトラムを前提とした講義や学習の方法が議論・蓄積されており、教育も少しずつ改善しています(ASBMB Today)。これは公平な教育の提供のみならず、学生が研究課題を発見し、研究結論を導くうえでも大きなプラスです。
一般の庶民レベルだと、まだ生物学の最前線の知見はなかなか浸透していません。「性スペクトラム」だと聞いても困惑すると思います。
勘違いしてはいけないのは、生物学における「性スペクトラム」はあくまで性的特徴の話なので、一般にいうジェンダーのことを直接言及するものではないということ。「性スペクトラム」であるからといって、トランスジェンダーやノンバイナリーの概念が肯定されるわけでもないですし、そもそも生物学に関係なく、トランスジェンダーやノンバイナリーは肯定されます。
「性スペクトラムということは、男と女の区分は無くなっちゃうの?」と不安になった人もいるかもしれません。落ち着いてください。生物学者はそんなことを要求していません。
ただ「生物学的性別」という言葉は注釈無しに安易に使うべきではありません。具体的にもっと説明をするべきでしょう。そして繰り返しますが、現在の生物学において、ヒトであれ他の生物であれ、性別はスペクトラムとみなされていることも忘れてはいけません。「身体男性/身体女性」「遺伝的男性/遺伝的女性」、あげくには「生物学的男性/生物学的女性」という粗雑な言葉が飛び交うのは論外です。
では「性スペクトラム」の知見は私たちの社会に何をもたらすでしょうか。
以下のようなことが考えられるでしょう。
- 多種多様な野生生物の生態がより解明しやすくなり、生き物の知られざる姿がわかるかもしれません。動物保護にも役に立つでしょう。
- 医療的なケアやサポートがより個人の特性に適したものにアップデートできます。副作用などのリスクも低減できるかもしれません。
- 性差別の解消にまた一歩前進できます。これまで社会に認知されてこなかったインターセックスの人たちの平等や人権にも貢献できます。
どうでしょうか? 多くの人にとって恩恵となる可能性に溢れています。
この記事を読んで、生物学の差別的な歴史や、差別的な一部の生物学者の存在を知って、生物学自体が嫌になった人もいるかもしれません。とくにクィアな人はなおさら…。
でも最後にこれだけは言っておきたいです。今の生物学には見苦しい問題点はたくさんあります。でも改善しようと多くの人が尽力しています。
科学分野でもセクシュアル・マイノリティの人たちの多くはいまだに差別に晒されています(Scientific American; Cech and Waidzunas 2021)。STEM(科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する語)にはもっとセクシュアル・マイノリティの人たちが参画しやすくする必要があり、それは科学の創造性を高めます(PinkNews)。
生物学をより良いものにしようと努力してきた科学者はいます。すでに紹介したトランスジェンダー当事者の生態学者の“ジョーン・ラフガーデン”は生物学で従来用いられてきた生物学用語にトランスジェンダー差別的な言い回しがあることを指摘し、それを見直すためにも声をあげてきました(Transgender Map)。数多くのジェンダーやフェミニズムの良著をだしながら(Julia Serano)、横断的に生物学にも寄与しているトランスジェンダー当事者の生物学者“ジュリア・セラーノ”も代表的人物です。
ジェンダーやLGBTQにネイティブなリテラシーを持つ新しい世代の若い研究者も続々と科学に参加しています。クィアな研究者の顔ぶれを見て元気をもらいたいなら「500 Queer Scientists」をぜひご覧ください。「The International Society of Nonbinary Scientists」のようなグループもあります。そこには仲間がいます。
生物学を研究したくなった? ならぜひ頑張ってください。応援しています。
生物学と性別の付き合いが、実りのある未来になりますように…。
【ネット】
●2012. Men Are From Mars, So Are Women. Forbes.
●2014. Atheism’s shocking woman problem: What’s behind the misogyny of Richard Dawkins and Sam Harris? Salon.
●2015. What Do Snails Think About When Having Sex? National Geographic.
●2015. Aristotle’s Masterpiece. The Huntington.
●2016. Human sex is not simply male or female. So what? Aeon.
●2015. Everybody’s a Little Bit Sexist: A Re-evaluation of Aristotle’s and Plato’s Philosophies on Women. Lake Forest College.
●2017. Debunking “Trans Women Are Not Women” Arguments. Medium(Julia Serano).
●2017. Transgender People and “Biological Sex” Myths. Medium(Julia Serano).
●2017. The Science Of Gender: No, Men Aren’t From Mars And Women From Venus. NPR.
●2017. The Hormone Myth. Science-Based Medicine.
●2017. Beyond XX and XY: The Extraordinary Complexity of Sex Determination. Scientific American.
●2017. The Gender Binary Is a Dumb, but Relatively New Concept. Vice.
●2018. Nonbinary identity is a radical stance against gender segregation. Aeon.
●2018. The macho sperm myth. Aeon.
●2018. Diseases Of Virgins And Spinsters: The Gynephobic History Of Chlorosis And Hysteria. Lady Science.
●2018. US proposal for defining gender has no basis in science. Nature.
●2018. The Third Gender and Hijras. Religion and Public Life at Harvard Divinity School.
●2018. What Our Skeletons Say About the Sex Binary. SAPIENS.
●2018. Policy: Letter RE: Scientific Understanding of Sex and Gender. Society for the Study of Evolution.
●2018. Hindu scriptures always speak of the third gender. The New Indian Express.
●2018. Anatomy Does Not Determine Gender, Experts Say. The New York Times.
●2019. The gender wars will end only with a synthesis of research. Aeon.
●2019. Sex isn’t binary, and we should stop acting like it is. Massive Science.
●2019. 4 Myths about Testosterone. Scientific American.
●2019. Discrimination Drives LGBT+ Scientists to Think About Quitting. Scientific American.
●2019. Stop Using Phony Science to Justify Transphobia. Scientific American.
●2019. Gender Differences in Training. The Muscle PhD
●2019. Julia Serano: The Science of Gender Is Rarely Simple. The New York Times.
●2020. Trumped-up charges of ‘feminist bias’ are bad for science. Aeon.
●2020. All Female Spotted Hyenas Have Penises They Use To Mount, Pee, & Give Birth. Gender-Inclusive Biology.
●2020. Transgender, Third Gender, No Gender: Part II. Human Rights Watch.
●2020. Women at the Hearth and on the Hunt. SAPIENS.
●2021. A biography of the penis in the animal kingdom. Aeon.
●2021. Why All The Anti-Trans Arguments Are Bogus. Current Affairs.
●2021. Medicine, Myths, and Mystification: On Elinor Cleghorn’s Unwell Women. Lady Science.
●2021. Transgender People, Bathrooms, and Sexual Predators: What the Data Say. Medium(Julia Serano).
●2021. Stop Trying to Out-Science Transphobes. Slate.
●2021. What Do We Mean By Sex and Gender? Yale School of Medicine.
●2022. Creating cell biology courses inclusive for people who are intersex and/or have queer genders. ASBMB Today.
●2022. Breaking Human Rainbows into Binaries. Cary Gabriel Costello.
●2022. An Intersex Affirming Biology Textbook is Finally Available! Intersex Campaign for Equality.
●2022. Nature journals raise the bar on sex and gender reporting in research. Nature.
●2022. Biological Science Rejects the Sex Binary, and That’s Good for Humanity. SAPIENS.
●2022. In What Is a Woman?, Matt Walsh asks a question, but doesn’t like the answers. Science-Based Medicine.
●2022. Biological Sex and Gender in the United States. The Embryo Project Encyclopedia.
●2022. Gender Has a History and It’s More Recent Than You May Realize. The MIT Press Reader.
●2022. Queer Animals Are Everywhere. Science Is Finally Catching On. The Washington Post.
●2022. Republicans thought defining a ‘woman’ is easy. Then they tried. The Washington Post.
●2023. Aristotle on making babies. Aeon.
●2023. Misleading claim that pelvic bone ‘reveals binary sex’ shared in anti-LGBTQ posts. AFP.
●2023. Queer ecology – embracing diversity in the natural world. British Ecological Society.
●2023. When State Law Defines ‘Man’ And ‘Woman,’ Who Gets Left Out? FiveThirtyEight.
●2023. Meet the groups behind the right’s campaign against trans rights. The American Independent.
●2023. 10 must-know facts about transgender history that you didn’t learn in school. LGBTQ Nation.
●2023. Montana governor signs bill saying trans people don’t legally exist. LGBTQ Nation.
●2023. Ted Cruz badgers HRC president about gender during Senate hearing on LGBTQ+ rights. LGBTQ Nation.
●2023. What causes high testosterone in women? Medical News Today.
●2023. Christian group questions why we should use ‘transgender pronouns’ like ‘he’ and ‘she’. PinkNews.
●2023. Queer Cambridge professor on why a lack of diversity is ‘unhealthy for science’. PinkNews.
●2023. Outside The Binary: Navigating A Career In STEM As An Intersex Person. Pride in STEM.
●2023. Here’s Why Human Sex Is Not Binary. Scientific American.
●2023. Two Myths Fueling the Conservative Right’s Dangerous Transphobia. SAPIENS.
●2023. The Trans Athletes Debate Is Not Really About “Fairness”. Slate.
●2023. 井谷聡子 – LGBTQ+とスポーツ. セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会.
●2023. 9歳の女の子に男性がトランス嫌悪のハラスメント。競技場で「性別を証明しろ」. ハフポスト.
●2024. What is ‘sex’? What is ‘gender’? How these terms changed and why states now want to define them. PolitiFact.
●2024. 「性別は変えられない」 埼玉・富士見市議が発言、人権侵害との指摘. 朝日新聞.
●The Galli: Breaking Roman Gender Norms. English Heritage.
●Ben Barres and transgender people. Transgender Map.
●Carole Hooven vs. transgender people. Transgender Map.
●Emma Hilton vs. transgender people. Transgender Map.
●Joan Roughgarden and transgender people. Transgender Map.
●社会における心理学の誤用とどう向き合うか. 心理学ワールド(日本心理学会)
【本】
●Robert Mayhew. 2004. The Female in Aristotle’s Biology: Reason or Rationalization. University of Chicago Press.
●Joan Roughgarden. 2009. The Genial Gene: Deconstructing Darwinian Selfishness. University of California Press.
●Joan Roughgarden. 2013. Evolution’s Rainbow: Diversity, Gender, and Sexuality in Nature and People. University of California Press.
●Giuseppe Fusco and Alessandro Minelli. 2019. The Biology of Reproduction. Cambridge University Press.
●Hida Viloria and Maria Nieto. 2020. The Spectrum of Sex: The Science of Male, Female, and Intersex. Jessica Kingsley Publishers.
●Julia Serano. 2022. Sexed Up: How Society Sexualizes Us, and How We Can Fight Back. Seal Press.【著者紹介】
●Paisley Currah. 2022. Sex Is As Sex Does: Governing Transgender Identity. New York University Press.
●Malin Ah-King. 2023. The Female Turn: How Evolutionary Science Shifted Perceptions About Females. Palgrave Macmillan.
●シモーヌ・ド・ボーヴォワール. 2023. 決定版 第二の性 I 事実と神話. 河出書房新社.
●シモーヌ・ド・ボーヴォワール. 2023. 決定版 第二の性 II 体験(上). 河出書房新社.
●シモーヌ・ド・ボーヴォワール. 2023. 決定版 第二の性 II 体験(下). 河出書房新社.
●諸橋憲一郎. 2022. オスとは何で、メスとは何か?「性スペクトラム」という最前線. NHK出版新書.
●岡田桂、山口理恵子、稲葉佳奈子. 2022. スポーツとLGBTQ+. 晃洋書房.
●坂口菊恵. 2023. 進化が同性愛を用意した: ジェンダーの生物学. 創元社.
【論文】
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●Joanne Meyerowitz. 2008. A History of “Gender”. The American Historical Review. 113(5):1346-1356.
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●Christia Mercer. 2018. The Philosophical Roots of Western Misogyny. Philosophical Topics. 46(2):183-208.
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●Peter Hegarty & Annette Smith. 2023. Public understanding of intersex: an update on recent findings. International Journal of Impotence Research. 35:72-77.
●J. F. McLaughlin, Kinsey M. Brock, Isabella Gates, Anisha Pethkar, Marcus Piattoni, Alexis Rossi & Sara E. Lipshutz. 2023. Multivariate models of animal sex: breaking binaries leads to a better understanding of ecology and evolution. Integrative And Comparative Biology.※一部の図のイラストは「性教育いらすと」の素材を利用しました。