主に海外の映画やドラマを観ているとき、「この作品は批評家の間でどう評価されているんだろう?」とか「一般の賛否はどうなのかな?」と疑問が浮かぶことはあると思います。
そんなときに便利なウェブサイトが「Rotten Tomatoes(ロッテントマト)」です。※正確に英語を日本語表記するなら「ロッテン・トマトズ」
しかし、「Rotten Tomatoes」は英語のサイトなので、なかなか日本語利用者にはわかりづらいです。でも基本さえ押さえておけばサイトを閲覧し、理解するのはそんなに難しいことでもありません。
そこでこの記事では、「Rotten Tomatoes」の見方を簡単に解説し、その特徴と気を付ける点を整理しています。
Rotten Tomatoes とは?
まず「Rotten Tomatoes」とは何か…その基本から説明します。
「Rotten Tomatoes」は1998年に開設されました。当時はカリフォルニア大学バークレー校の学部生3人が立ち上げた個人サイトで、自分の好きな映画の批評を収集するというファン向けのものでした。しかし、その後、サイトの人気と共に、大企業に買収され、各企業を転々とし、現在は「ファンダンゴ・メディア(Fandango Media)」が運営しています。
「ファンダンゴ・メディア」は映画館のチケットを販売する会社です。なので「Rotten Tomatoes」はそのまま映画のチケットの予約・購入も可能なサイトとなっています(アメリカ限定です)。
映画データベースのように作品の基礎情報も揃っており、一般ユーザーはアカウントを作成し、ログインすることで、自分の評価も各作品ごとに記録することができます。これは日本で言えば「映画.com」や「Filmarks(フィルマークス)」のような映画データベース兼レビューサイトと同じです。
加えて「Rotten Tomatoes」は、各メディアで批評家がレビューした結果も集約しており、こうした仕組みを「レビュー・アグリゲーター(review aggregator)」と呼びます。例えば、「Hollywood Reporter」「Guardian」「Variety」など、大手メディアがその作品をどうレビューしたのか、この「Rotten Tomatoes」の作品ページを見れば、ひとめでわかるのです。
日本ではなぜか「Rotten Tomatoes」のことを「辛口批評サイト」と紹介している事例が散見されますが、その説明は間違いです。「Rotten Tomatoes」自体が批評しているのではなく、批評を集約(キュレーション)しているだけだからです。
同様の英語圏のウェブサイトは「Metacritic」などがありますが、「Rotten Tomatoes」は映画、ドラマ、アニメ、ドキュメンタリーなど映像作品に特化しています。劇場公開作品だけでなく、配信作品にも幅広く対応しており、ラインナップは豊富です。ただし、あくまでアメリカ中心のサービスなので、アメリカからアクセスしづらい作品はあまり扱っておらず、扱っていても情報量が著しく少ないです。
このように「Rotten Tomatoes」は映像エンターテインメントを軸に、幅広くファンの需要に答えるサイトであり、今も非常に支持されています。
ウェブサイトの見方
では「Rotten Tomatoes」のウェブサイトの見かたについて、ここから詳しく説明していきます。
トップページにアクセスすると、ニュースや特集記事が上部に並んでいます。「Rotten Tomatoes」は、映画などの最新ニュースも独自に伝えています。
次に「NEW & UPCOMING MOVIES IN THEATERS」というセクションがあり、そこに作品のポスターサムネイルが並んでいると思います。これは”アメリカの”映画館で現在公開されている(もしくはもうすぐ公開予定の)新作映画の一覧です。
次に「NEW & UPCOMING ON STREAMING」というセクションがあり、こちらにも作品のポスターサムネイルが並んでいると思います。これは”アメリカの”配信サービスで現在配信されている(もしくはもうすぐ配信予定の)新作映画&ドラマの一覧です。
いずれも作品のポスターサムネイルをクリックorタップすると、予告動画が流れ、タイトルをクリックorタップすると、各作品ページに移動します。
さらに下には「POPULAR STREAMING MOVIES」や「MOST POPULAR TV ON RT」、「NEW TV THIS WEEK」と続いていますが、詳しい説明はないのですが、おそらく「POPULAR STREAMING MOVIES」は各配信サービスで現時点で最も再生されている作品の一覧を表示し、「MOST POPULAR TV ON RT」は「Rotten Tomatoes」内で現時点で最も閲覧されている作品の一覧を表示し、「NEW TV THIS WEEK」は今週に新作エピソードが配信されるドラマをピックアップしているのだと思われます。
そこからさらに下にも作品がリストされていますが、ここは時期によって特集されている内容が違います。例えば、6月のプライド月間には「BEST LGBTQ+ MOVIES OF ALL TIME」として高評価なLGBTQ映画をピックアップしています。
新作以外の作品を探したいときは、サイトの最上部にある「検索窓(検索ボックス)」に作品タイトルを入力して調べることができます。
評価の仕組み
トップページの解説はここまでにして、お次は、各作品ページの説明をします。
「Rotten Tomatoes」の各作品ページにて、一番に注目するのはやはり評価スコアでしょう。「Rotten Tomatoes」では、評価を「0」から「100」の「%(パーセント)」で示しています。
そして「Rotten Tomatoes」らしい特徴のひとつですが、この「%」評価が2つ並んでいます。ひとつは「Tomatometer」と書かれていて、これは批評家のレビューを集計した結果のスコアです。もうひとつは「Audience Score」と書かれていて、これは一般ユーザー(観客)の評価を集計した結果のスコアです。当然、この2つのスコアは大きく食い違うことがよくあります。レビュー不足なときは評価スコアが表示されません。
もうひとつの「Rotten Tomatoes」の特徴が、批評家スコアである「Tomatometer」の追加カテゴライズ。「FRESH」とトマトマークに表示されたものもあれば、単に赤いトマトマークしかないものもあれば、ベチャっと緑の液体がついたマークの場合もあり、各作品で違います。これはその批評家スコアが高い(60%以上がポジティブ)と赤いトマトマーク、低いと緑の液体(トマトが潰れた)マークとなるわけです。そして、さらに高評価のレビュー数が一定以上あると「FRESH」と認定されます。つまり、「FRESH」の作品は「じゅうぶんに高評価なレビューがあり、評価スコアが一定の信頼できる安定的高さを示している」と「Rotten Tomatoes」側がわかりやすく表現しているのです。
では、批評家スコアと観客スコアはどうやって集計しているのでしょうか。
「Tomatometer」(批評家スコア)においては、どんなウェブサイトのレビューでも集約しているわけではありません。トマトメーターが承認した出版物でなければならず、基準を満たす必要があります。ウェブサイトだとアクセス数などの条件があるようです。申請でき、承認されるか判断されます。批評家を個別に承認することもあり、そちらも基準があります。そのうえで、「Rotten Tomatoes」側のキュレーターがこれらのレビューを読み、レビューが「Fresh」か「Rotten」かを確認し、代表的な引用文を選択し、掲載されます。各作品ページの「%」の下に表示されている「***(数字)Reviews」をクリックorタップすると、集約された各批評家のレビューの引用とリンクの一覧が表示されます。
「Audience Score」(観客スコア)においては、「Rotten Tomatoes」でアカウントを作成したユーザーのレビューを基にして算出されます。一般ユーザーは星の最大5までの評価です。少なくとも60%のユーザーが3.5以上の星評価を付けると、「Fresh」ステータスを示し、各作品ページに「赤いポップコーンバケツ」のマークが表示されます。各作品ページの「%」の下に表示されている「***(数字)Reviews」をクリックorタップすると、ユーザーレビューの一覧が表示されます。
さらに、これも意外に知られていないですが、「Rotten Tomatoes」は「Tomatometer」(批評家スコア)と「Audience Score」(観客スコア)の2種類があると先に説明しましたが、さらにそれぞれで別に2つに分類されます。つまり、「Tomatometer」(批評家スコア)は2種類の「%」の評価があり、「Audience Score」(観客スコア)も2種類の「%」の評価があるのです。
具体的には「Tomatometer」(批評家スコア)は「Top Critics」と「All Critics」の評価があり、「Top Critics」はトマトメーター認定の批評家(トップ批評家)だけで集計した評価です。「Audience Score」(観客スコア)は「Verified Audience」と「All Audience」の評価があり、「Verified Audience」は「Rotten Tomatoes」のシステムで映画チケットの購入が確認されたユーザーの評価だけを集計したものです。
各作品ページでは、「Tomatometer」(批評家スコア)は「All Critics」、「Audience Score」(観客スコア)は「Verified Audience」を表示していますが、各評価数字をタップorクリックすると、それぞれの細分化された2つの評価を切り替えて表示してくれます。
こんな感じで見た目以上に複雑なシステムであることがわかったと思います。
問題点
「Rotten Tomatoes」はアメリカを中心にハリウッドのエンターテインメントでは存在感が強く、影響力をなおも持っています。
しかし、かなり致命的な問題点もいくつも指摘されています。
ここからはその「Rotten Tomatoes」の問題点を説明していこうと思います。
批評家スコアの問題
まず「Tomatometer」(批評家スコア)の問題点です。
運営が中立ではない
「Rotten Tomatoes」は、「ファンダンゴ・メディア」によって運営されていると説明しましたが、この「ファンダンゴ・メディア」は独立系の組織ではなく、「ワーナー・ブラザース・ディスカバリー」が25%、「コムキャスト/NBCユニバーサル」が75%の株主となっています(Collider)。ハリウッド大企業の傘下なのです。
親会社の作品だけを贔屓することは露骨にはないと思いますが、マーケティング宣伝契約などで特定の作品がサイト内で目立つようにPRされることはあります。
完全に独立した中立的なサイトではありませんので、キュレーションの評価自体の信頼性はどうしたってやや疑わしいものとなります。
上映を利用したスコアの間接的な操作
観客の中には批評家スコアを確認して映画を観に行くかどうか決めることもあり、公開直前の批評家スコアは宣伝上において重要です。
この公開直前の批評家スコアを左右しやすいのが「プレミア上映」という一般公開前に一部の批評家を招待して行う上映イベントです。たいていの大手企業の映画はプレミア上映を実施し、一般公開前に批評家スコアがでることがあります。
このプレミア上映に招く批評家を選別し、映画を肯定的にレビューしてくれそうな批評家だけを集めて、初動の批評家スコアをなるべく高くしようという宣伝戦術が業界では横行していると言われています(NPR)。そのため、「批評家スコアは最初は高く、日付が経つとだんだん低下する」…という傾向が観察されています。場合によっては、プレミア上映時の批評を禁止し、批評家スコアをださせないというコントロールをかけることもあります。
批評家へのインセンティブによる評価操作
もっと露骨に批評家スコアを操作する問題も指摘されています。それは映画配給会社による批評家へのインセンティブ行為です。
自社の映画を肯定的にレビューしてくれそうな批評家に狙いを定め、もしくは肯定的にレビューしてくれるように働きかけ、報酬を与えるという不正も告発されています(Vulture)。
当然、これは明確な不正行為で、「Rotten Tomatoes」側も禁じているのですが、完全に防ぐ手立てはないのが現状です。
レビューや批評家の不透明な選定
「Rotten Tomatoes」は、キュレーションするレビューや批評家を独自の基準で選定していますが、この選定も不透明で、問題視されています。
なぜこのメディアのレビューを選定することにしたのか、なぜこの人を「トップ批評家」に選んだのか…その判断は結局は「Rotten Tomatoes」内の恣意的なコントロール下にあり、その選定されたラインナップしだいで、評価スコアが大きく左右されることになってしまいます。
評価の質が作品によって異なる
「Rotten Tomatoes」は評価材料となるレビュー数が全てなので、評価スコアはレビューの数に著しく影響を受けます。
例えば、ディズニー映画の『ズートピア』(2016年)は「Tomatometer」(批評家スコア)の「Top Critics」と「All Critics」ともに「98%」です。全レビュー数は「297」もあります。一方、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』では「Tomatometer」(批評家スコア)の「Top Critics」は「91%」、「All Critics」は「98%」。「All Critics」のスコアは『ズートピア』と同じですが、レビュー数は「49」しかありません。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』も一応は「Certified Fresh」とされていますが、レビューに恵まれた有名作と比べると差は歴然です。
つまり、有名作ほどレビューされやすく、結果、評価の質が高まるのですが、アメリカの批評家界隈においてマイナー作品であると、レビューが乏しく、評価が不安定なのです。評価が不安定だと極端に高評価となるか低評価となるかの二極化が起きやすいです。
観客スコアの問題
次に「Audience Score」(観客スコア)の問題点です。
一般ユーザーのレビューの不透明さ
観客スコアは一般ユーザーのレビューに基づいているので、批評家スコアと比べてレビュー数がはるかに多く、レビュー不足に困ることはあまりありません。一方で、そのレビューの膨大さが逆に問題を引き起こすことがあります。
「Rotten Tomatoes」内で投稿されたユーザーレビューが評価の元データとなっていますが、このレビューは実は作品によって、とくに年代によって大幅に変わっています(Screen Rant)。なぜなら「Rotten Tomatoes」側がメディア等の買収によって別のレビューを統合したためで、これによってレビューの均質な公平性は失われてしまっています。
このため、十数年前の過去の作品と最近の作品の観客スコアは、安易に比較できるものではなくなっていることに注意しなくてはいけません。
レビュー爆撃の起きやすさ
さらに観客スコアに深刻な問題となっているのが、いわゆる「レビュー爆撃(review bomb)」です。
レビュー爆撃とは、何かしらの対象に対して大勢で低評価をつけまくる嫌がらせの行為を指します。オンライン・ハラスメントの一種です。映画等のレビューサイトの場合は、自分の気に入らない作品に対して低いレビューを大量に与えます。
「Rotten Tomatoes」では最近もレビュー爆撃は頻繁に起きており、主に「多様性」に反発する人々から嫌がらせを受ける事例が多いです(例えば、女性が主役、黒人が主役、LGBTQが目立つなど)。
「Rotten Tomatoes」側もレビュー爆撃への対策を講じており、その結果、「Verified Audience」(承認された観客)という独自のスコアを設定するようになった背景があります。
しかし、この「Verified Audience」も不十分で、これはあくまでチケットの購入が確認されたユーザーだけを対象にしているので、劇場公開作にしか効果がでません。配信作はなおもレビュー爆撃に酷く晒されており、常態化してしまっています。
評価システム全体の問題点
上記で「Tomatometer」(批評家スコア)と「Audience Score」(観客スコア)のそれぞれの問題点を説明しましたが、これらの2つのスコアは問題点もそうですが、評価システムが根本的に違います。
にもかかわらず「Rotten Tomatoes」のページ内では同じような「%」表示をされるため、批評家スコアと観客スコアは同等に導き出されたものなのだと勘違いしやすいです。
よく「この映画は、批評家スコアは低いのに観客スコアは高い。これはなぜか?」と論点を提示することがありますが、これはその論点自体が正確ではなく、そもそも本来は批評家スコアと観客スコアは別物なので、単純に比較できないのです。
また、「Rotten Tomatoes」の根本的な問題として、作品の評価を「良い」か「悪い」かの二者択一を前提にしすぎている…との批判があります(NPR)。批評家スコアも観客スコアも、それぞれの基準で「良い」か「悪い」かに分類され、評価スコアの算出に活用されています。批評家スコアにいたっては「Rotten Tomatoes」のキュレーター側がかなり勝手に分類しています。実際の批評家のレビューをみると、そんな単純な良し悪しで評価していないにもかかわらず…です。
「Rotten Tomatoes」は「わかりやすさ」のために、批評の複雑さを犠牲にしているとも言えるかもしれません。
批評(レビュー)との上手な付き合い方
ここまで整理しましたが、今回の記事で「Rotten Tomatoes」はあてにならないです!…と単に言い切りたいわけではありません。
「Rotten Tometoes」だけをダメだと言っているのではなく、今回取り上げた問題点の多くは(日本を含めて)他のレビューサイトも同様に生じています。一般投稿型レビューサイトでなくても、映画系メディア全般に言えるかもしれません。スポンサー関係にある映画は目立つ形で称賛し、そうじゃない映画にはネガティブなニュースを平然と扱うなど、情報の公平性はこうした商業ウェブメディアには期待できません。
近年の「生成AI」の急速な普及は、インターネットのあらゆるスペースを「レビュー・アグリゲーター化」させる構造変化を生むでしょう。「この映画の評価は?」と質問すれば、テキトーにレビューがいくつかピックアップされて”まとめ”として提示されます。「Rotten Tometoes」よりもさらに雑なキュレーションです。
どんな時代になっても忘れないでほしいのは、感想や批評の面白さです。「傑作」や「駄作」の2通りではない…「問題作」なんて煽り言葉でもない…。その人の独自の視点でのレビューがたくさんあります。自分にはない視点のレビューは視野を広げてくれます。作品に出会えるのも楽しいですが、レビューに出会えるのも刺激的です。
レビューの文化が今後も多様に育まれていくことを願っています。