羅小黒戦記
映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:罗小黑战记
製作国:中国(2019年)
日本公開日:2019年9月20日
監督:MTJJ木頭

羅小黒戦記

あらすじ

この世には妖精が実在し、彼らの中には人間の格好をして社会に溶け込んでいるものいれば、山の奥で隠れて暮らすものもいた。森で楽しい日々送っていた猫の妖精・小黒(シャオヘイ)は、人間たちによって森が切り開かれてしまったことから、暮らす場所を探して各地を放浪する。その旅の途中で妖精の仲間と出会うが、それは大きな体験の始まりに過ぎなかった。

『羅小黒戦記』感想(ネタバレなし)

2019年のネコ映画と言えば…

2019年のラジー賞(その年の最低映画をネタ的に決める賞)はパンデミックのせいで授賞式が中止になってしまったのですけど、このたび受賞作だけは発表され、某「猫が踊り狂う映画」が最低作品賞を含む最多受賞となりました。まあ、知ってた。


あの映画は猫人間の猫人間による猫人間のための映画だったのがニッチすぎたのであって、ちゃんと届いている人には届いているので良かったと思うのですが、やっぱりオーソドックスな“猫”映画が観たかったのに…という人はいたと思います。一般的な猫の可愛さというのを眺めたい需要ね…。

しかし、2019年は理想的な“猫”映画が存在していたのでした。私としては2019年“猫”映画ベストどころか、歴代“猫”映画ベスト級の一本だと考えるくらい。そうですよ、こういうところでしょう、猫の可愛さって。そんなふうに頷きたくなるほどの正真正銘の“猫をわかっている”映画。

それが本作『羅小黒戦記』です。

本作は中国のアニメーション作品。もともとWebアニメシリーズとしてショート作品というかたちで2011年より公開。中国国内では人気に火がつき、絶大なファン層を獲得していました。その劇場版となる映画が2019年に製作された…という経緯です。

しかし、日本ではこの『羅小黒戦記』というコンテンツは全然知られておらず、それこそ日本で映画が極めて限定的に最初に公開された2019年9月から、コアなアニメファン層の口コミで熱狂が拡大。一気に知る人ぞ知るタイトルになった感じです。それを示すデータとして「Googleトレンド」で「羅小黒戦記」のネット検索の推移を調べてみると、2019年9月、そして2019年11月と12月に爆発的に検索されており、逆に2019年9月以前はまるで検索されていないのがわかります。いかに突発的に認知が浸透したかがわかります。今のSNS時代、こういう現象がマイナー作品では不意に起きるから口コミは侮れませんね。

で、話を『羅小黒戦記』の中身に移しますが、この作品の魅力はとにかく猫の可愛さです。主人公が猫の妖精なのですが、ポスターにもあるように異様に目が大きい相当にデフォルメされたデザインになっています。この静止絵だけ見るとなんか不気味っぽさも否めないのですけど、これが動くとたまらなく可愛い。間違いなく作り手は猫の可愛さというものを徹底的に理解していると断言できる。ただひたすら可愛さに身悶えする約100分を過ごすことになります。

その猫の可愛さを支えているのが質の高いアニメーション。『羅小黒戦記』を観て「中国のアニメってこんなにも凄いのか~」と感嘆の声も聞こえてきますが、『詩季織々』の感想でも書きましたが、日本と中国は大昔からアニメという芸術を介する交流がなされており、そこに国境などなく、技術が行き来してきた歴史があります。


今だって表向きには「日本のアニメ」としてどこかのお偉いさんがクールジャパンだなんだと持ち上げている作品でも、実際は中国を含む東アジア圏のアニメーターに支えられて成り立っています。あの『君の名は。』だってクレジットを見ていればわかりますが日本人以外のアニメータースタッフの名が並んでいます。もう技術に関しては日本だ中国だとカテゴライズする意味もないくらいに。

ただ違うとすれば作品を取り巻く環境なのでしょう。日本のアニメ業界も良くも悪くも発展したことで商業主義に傾倒しすぎてしまい、カネになるコンテンツを生み出すことが全てになり、ゆえに似た作品群が乱発されたり、原作ものありきになったり、労働者が酷使されたりしているわけで…。

対して中国はまだアニメーションを芸術として愛する余地が残っている感じもする(あくまで私の所感ですけど)。だからこそ猫の可愛さを描くことに特化した『羅小黒戦記』も生み出せるのかな。

『羅小黒戦記』を観て日本のアニメファンが心躍らせるのも、そういうどこか懐かしい、今の日本が失くしかけている「アニメーションそのものの感動」が伝わってくるからなのかもしれません。

『羅小黒戦記』は猫好きだけでなく、憔悴した日本のアニメファンにも活力を与えてくれる漢方薬みたいなものです。老若男女問わず楽しめる作品ですので、ぜひ機会があれば鑑賞してみてください。

以降の後半感想では劇場版だけでなくWebアニメシリーズの感想も含めて語っています。

オススメ度のチェック
ひとり◎(アニメファンなら必見)
友人◎(暇つぶしにも見やすい)
恋人◎(猫好き同士でも楽しんで)
キッズ◎(子どもも無邪気に楽しめる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『羅小黒戦記』感想(ネタバレあり)

小黒の運命が始まる

子猫の妖精「小黒(シャオヘイ)」は住処である森で今日ものんびり暮らしていました。しかし、ある日のこと、その日だけはいつもと違いました。急に大地が揺れ、木々を根元から倒すように地面が崩れ始めます。奈落に落ちる小黒の目の前には、森を切り開く人間の重機が映り…。

居場所を失った小黒は人間たちの住む街のゴミ袋の上。あちこちを放浪し、人間の厨房から魚をとったりして飢えを凌ぎつつ、完全に野良猫生活。以前のような暮らしには戻れません。

街の暗がりをウロウロしていると、3人の人間に追いかけられます。ジリジリと近寄られ、ドラム缶を投げられて怒った小黒は巨大化して怪物のような化け猫に変身。ところが誰かがその悪い人間を追っ払って助けてくれました。

その助け人は「人」ではありませんでした。小黒と同じ妖精である「風息(フーシー)」です。

風息に仲間のいる場所に連れていってもらう小黒。そこには洛竹、虚淮、天虎といった個性豊かな風息の仲間がいて、どうやらそれぞれが固有の得意な能力を持っているようです。小黒は猫耳の生えた子どもの姿になることはできますが、特別な戦闘に適したスキルは持っていません。放浪の身である彼らは小黒のように身勝手な人間のせいで故郷を失い、それゆえに人間にあまり良い感情は持っていないらしく…。

ところがそこへ乱入者が。それは人間…のようですが、妖精と互角、いやそれ以上に卓越した能力を持った存在で風息たちを追い詰めていきます。

風息と離れ離れになった小黒はその人間…「無限」と行動することになっていきます。彼は妖精のための組織「妖精館」で働いている執行人だそうで、明らかに風息たちと敵対していました。当然、小黒はそんな無限を信用はできません。

しかし、いかだで海を渡っている最中、小黒は無限から能力の使い方を教わっていきます。能力を発動させようと頑張る小黒は、初めのうちは全く上手くいきません。しかし、泳げもしなかったのが泳げるようになっているのと同じように、少しずつ自分の力に気づいていく小黒。そんな調子に乗っている子猫をクールに監視する無限。

凸凹コンビな二人は陸地に到着。歩いては野宿、歩いては野宿を繰り返す旅路。その過程でも無限を信頼しきっていない小黒は幾度となく反抗を試みて、脱走をしてみるも、そのたびにあっけなく捕まるだけ。

その旅の途中、無限の仲間たちにも出会います。執行人の中には妖精もいて、その妖精たちも普通に人間の道具を使ったりと、人間の世界に馴染んでいました。人間たちと共存し合える生き方もある…そう知った小黒。

ところが人間たちが大勢いる大きな街を探索していると、またもや妖精たちに襲われます。そこからあの風息と無限の一騎打ちが開始。人間の排除か、それとも人間との調和か…。

そして小黒が選ぶ道とは…。子猫の運命はここから始まるのでした。

Webアニメシリーズがすでに楽しい

2019年公開の映画『羅小黒戦記』は、2011年から始まった同タイトルのWebアニメシリーズの前日譚にあたるストーリーです。おそらくWebアニメシリーズの2年くらい前の話なのかな? 

なので本来はWebアニメシリーズを観てから映画へ移るのが想定している物語の楽しみ方です。でも大半の日本人は(私も含めて)映画から入ったでしょうし、それもそれでそこまで体験を損なうわけではないので大丈夫なはず。ただ、ぜひ映画を気に行ったらオリジナルであるWebアニメシリーズも観てほしいですね。ちなみに私は映画も良かったのですがWebアニメシリーズの方が好きです。

Webアニメシリーズは2020年3月時点で全28話(いくつかのオマケエピソードが別にあるけど)。かなり遅いペースで製作されています。

物語は人間世界で暮らす小黒が「小白」という人間の女の子に拾われて暮らし始めるところからスタート。序盤はなにかとその小白の家から脱走を試みるも失敗続き(このへんは映画の無限との最初の関係性で同じく繰り返されていますね)。だんだんと打ち解け合います。

雰囲気としては4コマギャグマンガをコミカルに映像化したような、まったり癒しストーリーです。コメディ要素はかなり多く、それこそパロディも結構ガンガンにぶっこみます。第1話では『ハウルの動く城』のオマージュがもろに挟まれ、日本作品への目配せも随所にあるほどです。要するに遊びまくりな作品なんですね。

そののんびり物語の中でも、しだいに小黒がただの猫ではないことが小白にも視聴者にもわかってきます。しっぽの一部が分離して「嘿咻」という独自の生命体になったり、巨大な猫モンスターに変身したり、他の妖精たちとの関係がわかってきたり、そして少年の姿に変身したり。ちゃんと映画に繋がる種明かしが徐々にされていく展開。このへんの小出しにしていく構成も上手いです。

そしてこのWebアニメシリーズの時点からとにかくよく絵が動きます。映画よりも線が単純化されキャラのデザインもデフォルメが効いているのですが、それでもヌルヌルと動く動く。ダイナミックな動きも、ちょっとした小さな動きも、どれも丁寧に動かしているのが本作の間違いなく魅力です。これがあるからなんかずっと見ていられる心地よさがありますね。

羅小黒戦記

これぞ理想の映画化

そんなWebアニメシリーズから映画へのバトンタッチ。媒体の変化にともなって雰囲気はかなり変わりました。コンセプトは同じですし、小黒が主軸にいるのも共通。

一方で、作品のジャンルはギャグアニメというよりは完全に「能力者バトルもの」にシフトチェンジしています。Webアニメシリーズでも能力を使ったバトル展開はあったのですけど、それでもまだコミカルでした。対してこの映画版『羅小黒戦記』は映画らしく迫力重視。

さらにはキャラクターデザインや背景の作画もボリュームアップ。背景はかなりリアルに描き込んでいます。結果的に戦闘シーンの激しさも見ごたえがアップしましたし、背景もリアルさによって妖精たちが人間の環境に溶け込んでいる異質さも強調されています。

ただ言っておきたいのはだからとってWebアニメシリーズがチープに見えるわけではないということ。あくまで映画版とは方向性というかアプローチが違うだけで、作品性は一緒で魅力そのものに変化はないんですね。

これってすごく大事なことだと思います。劇場版にしたからといって安易にこれまでの絵のクオリティを同じままにただ長尺で描くわけでもなく、しっかり映画としてどう魅せるかを再検討してみせているのですから。正直、こういうことができずに安易に劇場版を連発してしまっている部分が日本のアニメ業界にはあって、アニメファンも「う~ん」と顔をしかめた経験はあるのではないでしょうか。

『羅小黒戦記』並みにWebアニメシリーズと映画とで、アプローチをガラッと変える決断ができるというのは案外簡単ではないと思います。つまりそれだけこの『羅小黒戦記』の製作陣には挑戦できる自由と能力の双方が与えられているんでしょうね。

まあ、映画のお話は『平成狸合戦ぽんぽこ』みたいなものでありきたりですし、この作品的にはあまりシリアスな問いかけもできないので若干のとってつけた感は否定できないのですけども…。ストーリーはもう少し攻めてほしかったなと個人的には思うけど、中国の検閲事情的には制約が多すぎるか…。

小動物を描かせたら天下一品

でも、いいんです。『羅小黒戦記』の魅力は可愛さですから。とくに小動物的な愛くるしさを描かせると天下一品です。

ギャグ的な漫画コマのオチのようなユーモアも多いですが、ちょっとした絵の動きで見せる可愛さが私は好きですね。主人公は小黒は些細な細かい動作までよく作られていて、例えば海の波をちょっと舐めて後ずさるとか、手足を拘束されてニョロニョロいもむし風に動くとか、そういう部分の遊びに全力を注いでいるアニメーターの腕前たるや。

映画では小動物ポジションが小黒だけなのですけど、Webアニメシリーズでは「比丢」というモルモットみたいな動物で、何でも食べてなぜか食べたものに応じて色が変わる生き物がいたり、正真正銘の猫である「皇受」(小黒にベタ惚れしている)がいたり…。あと幕間劇のように挟まれる小鳥カップルのあれこれとか。全部が小動物的な愛くるしさで満たされています。

そのせいかなんなのか無限みたいなキャラでさえ小動物っぽさがありますものね。

この作品の生みの親である“MTJJ木頭”という人、小動物を描かせたら右に出るものはいないな…。

繰り返しになりますが映画を気に入った人はWebアニメシリーズも観てみてください。中国の動画サイト「bilibili」で視聴するのが一番確実だと思います(以下にリンクを掲載)。


キャラクター紹介なんかは「Baidu」のサイトページが詳しいです(以下にリンクを掲載)。


第2弾の劇場版も計画しているとのことで、日本でも『羅小黒戦記』旋風がまた起こりそうですね。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)北京寒木春華動画技術有限会社