スペンサー・コンフィデンシャル
Netflix映画『スペンサー・コンフィデンシャル』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Spenser Confidential
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ピーター・バーグ

スペンサー・コンフィデンシャル

あらすじ

元警察官のスペンサーは職務にあるまじき暴力事件を起こしたことで逮捕。5年の刑期を終えて出所後、静かに人生を再出発させるつもりだった。しかし、ひょんなことから同居人となったホークと共に、自身が投獄されるきっかけとなった殺人事件の謎を調査する。やがて2人は、その裏に潜む巨悪の存在を突き止めることになり、正義感だけで挑んでいく。

『スペンサー・コンフィデンシャル』感想(ネタバレなし)

バーグウォールバーグ、いかがですか?

私は「びっくりドンキー」に行ったら必ず「チーズバーグ」を頼みます。え?「バーグウォールバーグ」? そんなメニュー、知らないですね…。なんだろう、ハンバーグが壁のようにそそり立っているのかな。

はい、そんな戯言はさておき、今回は映画界の「バーグウォールバーグ」の話です。

だからそれは何なのか?

要するに監督の“ピーター・バーグ”と俳優の“マーク・ウォールバーグ”がタッグを組んでいる映画のことです。この二人はよく一緒に映画を作っており、『ローン・サバイバー』(2013年)、『バーニング・オーシャン』(2016年)、『パトリオット・デイ 』(2016年)、『マイル22』(2018年)と近年は立て続けに映画を連発。プライベートでも仲が良いらしく、もうすっかり良きパートナーみたいな感じ。ゆえに英語圏では「Berg/Wahlberg」と表記されたりしています(カップリング風に)。


そしてもまたもやこの二人の映画が生まれちゃいました。それが本作『スペンサー・コンフィデンシャル』です。

『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』『パトリオット・デイ 』くらいの時期は、社会派ドラマとアクションサスペンスを上手く合体した比較的硬派に寄った映画を生み出していましたが、『マイル22』でその傾向を方向転換。割とド派手アクション重視のジャンルムービーになり、一般ウケはしやすく、批評家は沈黙…みたいな雰囲気に。まあ、どうしてそんなハンドルを切ったのかはわかりませんが、当人たちの自由です。それで映画にカネを出してくれる人がいるんですから幸せなものですよ。

そしてこの『スペンサー・コンフィデンシャル』ではさらに遊びまくっています。

原作はロバート・B・パーカーが創り出したハードボイルド小説「スペンサー・シリーズ」のひとつ「Robert B. Parker's Wonderland」(こちらの作者はエース・アトキンス)だそうですけど、映画の方はハードボイルドというか、ほぼ“マーク・ウォールバーグ”の自虐ネタ映画みたいなものです。彼のプロフィールをわかっていればいるほど「遊んでるなぁ」と思える、そんな作品(詳しくは後半の感想で)。

主演はもちろん“マーク・ウォールバーグ”で、ほぼ彼のためのワンマンショーです。ちょっとルックはバディ映画っぽい空気を醸し出していますが違います。いや、“マーク・ウォールバーグ”のバディパートナーは“ピーター・バーグ”監督だから、バディ映画なのか。うん、あれ?

最近の“マーク・ウォールバーグ”は、こういう「俺、最強!」みたいなバリバリの男性向け自己満足アクション映画に出つつ、『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』みたいなお茶の間にウケやすいファミリー映画にも交互に出るという、二面性で売っているのですが、この“二股”スタイルが案外上手くいっているのか。この変化の激しいハリウッドでなんだかんだで立ちまわってますね。


こうやって旨い具合に立ちまわっているからこそキャリアが続くのでしょう。そういえば『ゲティ家の身代金』のギャラ騒動時もなんだかんだで自分に批判が来ないように対処していたし…。“マーク・ウォールバーグ”、お調子者そうですが意外とちゃんと考えているのか、それともエージェントの仕事が的確なのか…。

他の出演陣は『アメリカ上陸作戦』(1966年)でおなじみの名俳優“アラン・アーキン”がひょっこりと登場。なんか元気そうで良かったです。また『ブラックパンサー』のエムバク役で知っている人も多いでしょう“ウィンストン・デューク”も出演し、一緒に暴れます。さらに『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』でシングル女性の脇役で笑いを誘った“イライザ・シュレシンガー”が今度は“マーク・ウォールバーグ”演じる主人公の妻役で出ています。

意外なゲスト出演的な人もいて、ラッパーの“ポスト・マローン”が割といきなり登場します。知らない人は「誰?」って感じですけど、知っている人は「おおー!」ってなるやつですね。コメディアンの“マーク・マロン”は作中で真面目な役で出ているのですが、演じている当人を考えると若干のアホっぽさも感じないではないというか…。残念なことに日本人にはあまり刺さらないキャスティングですが。

全く難しくはない、脳みそに入れておくべきことは何もない、完全なるポップコーン・ムービー。もぐもぐするだけの鑑賞体験。Netflixオリジナル作品なので家でのんびりと暇つぶしで観るのがいいと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◯(暇つぶしで選択肢に)
友人◯(超単純娯楽作を欲するなら)
恋人△(他に観るものがないなら)
キッズ△(暴力しまくりです)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『スペンサー・コンフィデンシャル』感想(ネタバレあり)

ボストンのバットマン

3月20日の出来事をうんざり気味で答えるスペンサーという男。

ボストン警察の警官だったスペンサーは相棒ドリスコルと一緒にパトカーで上司であるボイラン警部の家へ尋ねました。グロリア・ウィスニウスキー殺害事件に関して聞きたいことがあって…。玄関のドアをノック、出てきたボイランはこんな家まで押しかけてきて不機嫌そう。それでも捜査について問いただそうとし、少し家の中に入ると、なぜか室内は散らかっており、ボイランの妻らしき女性は頭から血を流していました。家庭内暴力でもしたのかと憤ったスペンサーはボイランと口論になり、思わず馬乗りになって上司を殴りつけてしまいます。 

5年後。刑務所で刑期を過ごしていたスペンサー。目の前にスクイーブという人相の悪い男が座って話しかけてきます。所内ではスペンサーは警官ということもあってかなり嫌われているようです。どうやらスペンサーはもう出所するらしく、今日がその最後の日。そんなスペンサーに一発ぶちかましたいのか、わらわらと集まってくる物々しい男たち。しかし、「ボストンから出ていけ」と言われ、少し意味がわかりません。すると乱闘開始。スペンサーは刃物が刺さって怪我するもお構いなしで堂々と出所するのでした。

刑務所を出て久しぶりに空の下、新鮮な空気を吸ったスペンサー。彼を出迎えてくれたのは、仲が良いボクシングジムのコーチであるヘンリーという老人。車に乗ってさっそく出発と思った矢先、猛スピードで別の車が来ます。思わず身を隠すスペンサー。そこから降りてきたのは女性。彼女、シシーはスペンサーの妻らしいですが、今は険悪な関係の様子。

妻から逃げ、地元であるボストンのサウジー(南の地域)へ到着。警察時代の同僚であったドリスコルに挨拶し「お帰りブラザー」と歓迎されます。スペンサーはずっとここにいるつもりもなく、アリゾナでトラックに乗りながら自由に暮らして心機一転するつもりのようです。

ただしばらくは準備が必要なので、ヘンリーのアパートで一時生活することに。愛犬のパールと戯れながら、自分の狭い部屋でゆっくりしようと思っていると…。隣にもうひとつベッドがある…。実はホークという男も住んでいるらしく、ルームメイトだとヘンリーに言われてしまい、渋々従うしかありません。

次の日、ニュースで他人事ではいられない衝撃の情報が飛び込んできました。あのジョン・ボイラン警部が何者かに殺害されたというのです。しかも処刑のような残忍な方法で。スペンサーのもとにさっそく警察が来ますが、アリバイはあるので何もできません。

アリゾナでのセカンドライフのためにトラック教習授業を受けるも身が入らず、誰がボイランを殺したのかが気になるスペンサー。

ジムへ行くと、ホークは粗削りだが才能はあるとのことですが、暴走すると止まらない性格らしく、かなりてこずっています。「ボクサーなら自制しろ」「パンチの基本がなっていない」となんだかんだで教えるスペンサーでした。そこへ怒れるシシーが襲来。「もう会わない」と絶縁を告げられます。

また別の日。例のボイラン殺害事件に進展が。停めてあったSUVでグレアム巡査の遺体が見つかり、ボイラン殺害の第一容疑者として捜査されているとか。麻薬課だった彼は、ボイランを殺した後に自殺したと推測されていました。グレアムを知るスペンサーはアイツらしくないと明らかに違和感を感じます。

やめておけと忠告するヘンリーをよそに、自らグレアムの妻に会いに行くスペンサー。「真実を暴きたい」と思いをぶつけ、独自の捜査を開始することに。

ボストンに渦巻く闇。この正義感と筋肉しかない男はその闇に立ち向かうことはできるのか…。

スペンサー・コンフィデンシャル

正義しかない筋肉バカは止まれない

『スペンサー・コンフィデンシャル』を最初に観た時の私の感想は「なんだこの中学生男子が考えたみたいなストーリーは…」

いや、確かに起こっている背景はシリアスですよ。女性は残忍に殺され、警察を含めて街は汚職した権力が暗躍するようになっているのですから。カジノ建設地で莫大な利権の源流となっている「ワンダーランド」というネーミングがなんとも皮肉です。なおジャーナリストのコスグローブが言う「健全なカジノはあるか?あんなものは不正の温床だ」というセリフは日本のカジノ(IR)賛成派にぜひ言い聞かせたい言葉ですね。

でも主人公がやることと言えば、殴る、殴る、セックス、殴る、脅す、殴る、爆走する、殴る…みたいなノリです。ラストなんて意味もなくタイマン勝負が始まりますからね。「正義なんてねぇんだよ、あるのは強い者と弱い者だ」のセリフなんて完全に中学生男子の考えそうなやつですよ…。なんだこの地域、中学生が警察やってるのか。

そんなんで「ロス・オスキュロス」と呼ばれる悪の連帯組織を打倒できるの?と誰もが思う、超シンプル・イズ・ベスト。作中でバットマンに例えていましたけど、バットマンももう少し考えるのではないか。

しかしそれでいいのです。なぜなら本作は“マーク・ウォールバーグ”の自虐ネタ映画なのですから。

そもそも主人公のスペンサーと“マーク・ウォールバーグ”はキャラが丸被りしています

まずボストン出身で地元愛が強いということ。“マーク・ウォールバーグ”は若い時は素行が悪く、しょっちゅう警察沙汰になり、実際に暴行の罪で児童自立支援施設にいたこともあるくらい、喧嘩っぱやい人間でした。さすがに今は落ち着きましたが、肉体改造にはドハマりしており、ほぼ趣味です。本作でも全く意味はないですが、上半身の鍛え上げられた肉体を見せつけるシーンが無駄に挟まれます。

そして愛国心に溢れており、正義感が暴走しがち。アメリカ同時多発テロのときは「俺なら防げた」と豪語し、問題になったこともありました。信仰心もアツいせいか、たまに前に出すぎますね。

まあ、要するに若干の誇張を含めて表現すれば、愛国正義で突っ走る筋肉バカなんです。

加えて、車が趣味であり(会社を持っている)、それは本作でスポーツカー「シボレー・コルベットZ06」が場違いに登場したり、デカいトラックで大暴れするシーンでも如実にアピールされています。

そんな隠し切れない“マーク・ウォールバーグ”成分を、この『スペンサー・コンフィデンシャル』はあえて小馬鹿にするシーンも多く…。空回りして犬に襲われたり、クラウドの意味がわからなかったりはもちろん、最後にやっぱり地元で困っている人を放っておけない姿で終わるオチといい…。

そういう自虐は自虐でどうぞご勝手に…という話ではあるのですが、いかんせん自虐が前に出すぎているため、ホークとか元凶の事件とかが完全に添え物なんですよね。“マーク・ウォールバーグ”をたてるための味付けに過ぎません。あの「猫を殺す野郎はクソだ」でおなじみのホークなんて、もう少しプロットを練れば活躍できそうなものなのに…。マチェテを振り回すギャング団とか、良いアクションが撮れそうなものなのに…。

それにしても一体どこらへんが「コンフィデンシャル」だったのだろうか…。

ロブスターバーグ

うん、もう語るべき感想が無くなってしまったなぁ…。よし、ロブスターの話でもしましょうか。

ロブスターは名前は知っていると思います。海にいるデカいザリガニみたいな奴です。ロブスターは「ヨーロピアン・ロブスター」と「アメリカン・ロブスター」の2種類がいて、食用として漁獲することは北米では主要な産業になっています。

『スペンサー・コンフィデンシャル』のエンディングでもみんなでロブスターを食べてましたね。ちなみにロブスターという単語は英語のスラングで「バカ」を意味します。だからラストシーンでデカデカと「ロブスター」と表示されているあたりといい、作中のスペンサーの描写といい、もうこれは確信犯なんじゃないかな。

ロブスターって無駄にごっつくで気性も荒く、だから漁獲されたらすぐにハサミを固定されてしまうくらいです。つまり、スペンサーみたいな手の付けられない男の象徴みたいな生き物ですよね。ロブスターはマッチョイズムを体現したムキムキ生物だったのです。まあ、食べられるのですけどね。

一方でメスとの関係は淡白。オスはメスを見つけると精莢という精子の入ったカプセルみたいものをメスに渡し、あとはそれをメスが使って卵に授精するだけ。こうやって考えるとかなりドライな関係性。そのあたりも作中のスペンサーに似ている…気がしないでもない。

もう“マーク・ウォールバーグ”がロブスターに見えてきた…。

これからも“ピ-ター・バーグ”監督がロブスター“マーク・ウォールバーグ”を調理する映画をずっと見続けることになるのか。一体いくつまで続くのだろう。まさか20年後も変わらずこのペアで映画が生れていたりしないよね…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 41% Audience 58%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★

関連作品紹介

ピーター・バーグ監督作品の感想記事の一覧です。

『バーニング・オーシャン』
…マーク・ウォールバーグが人災に立ち向かう話。


『パトリオット・デイ 』
…マーク・ウォールバーグがテロリストに立ち向かう話。


作品ポスター・画像 (C)Original Film, Closest to the Hole Productions スペンサーコンフィデンシャル