シュガー・ラッシュ オンライン
映画『シュガー・ラッシュ オンライン』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Ralph Breaks the Internet
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年12月21日
監督:リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン

あらすじ

好奇心旺盛なレーサーでプリンセスのヴァネロペと、心優しい悪役キャラクターのラルフは大親友。ある日、ヴァネロペが暮らすアーケードゲーム「シュガー・ラッシュ」の危機を救うため、2人はインターネットの世界に足を踏み入れるが…。

ネタバレなし感想

時代の波に乗るディズニー

今の10代の若者たちはレンタルビデオ店を利用したことがあるのでしょうかね? すっかり過去の時代のレガシーになってしまいました。映像記録方式も「2インチVTR」に始まり「VHS」「DVD」「Blu-ray」とどんどん進化。ドキュメンタリー『VHSテープを巻き戻せ!』などを観るとよくわかりますが、新しい映像記録方式の普及はエンタメ体験そのものを革新的に変えてきた歴史があります。

そして2010年代ももうすぐ終わる今、最も勢いがあるのはネット上の「動画配信サービス」です。今は物理的なメディアではなく体験そのものを売る時代になりました。こうした古きものが廃れる潮流を憎々しげに思う人もいるでしょうし、その気持ちもわかりますが、でも「2インチVTR」が始まったのも今からたったの60年くらい前の話です。それくらいの歴史なのです。つまり、今の成功者である動画配信サービスだって、あと数十年したら過去の時代のレガシーになるんですよ。もうこれは必然の流れですね。

そんな動画配信サービスにいよいよ映画業界の王者「ディズニー」が2019年に乗り出すことになり、いろいろざわついています。「Disney+」と呼ばれる独自の動画サービスがどんなインパクトを与えるかは不透明ですが、なにせ「ディズニー」「ピクサー」「マーベル」「スター・ウォーズ」「ナショナルジオグラフィック」とビックメンバーが揃っていますから、もはやサノス5人でチームを結成したくらいには強敵ですよ

一方でディズニーはそんな古いコンテンツと新しいコンテンツの変化の移り変わりを風刺するようなアニメーション作品を作っていました。それが2012年に公開された『シュガー・ラッシュ』です。

ゲームセンターのアーケードゲームを題材に、ゲームの中のキャラクターたちの悲喜こもごもをユーモラスに描いた魅力的な世界観が特徴のこの作品。ディズニー版『トイ・ストーリー』のようでありながら、ディズニーは昔にも『トロン』というデジタル世界を擬人化した作品を作っていますから、どこかディズニー感も感じられる、バランスの不思議な映画でした。他社のキャラを出演させてしまうあたりに、昔の保守的だったディズニーの時代では考えられないような遊び心もあって、お祭りっぽさもありましたね。

その『シュガー・ラッシュ』の続編『シュガー・ラッシュ オンライン』が、インターネットが舞台になると聞いたときも、“なるほど、当然そうくるよね”と思ったと同時にますます可能性が広がる世界をどう収拾つけるのかと心配にもなりましたが、まあ、絶好調のディズニー・アニメーション・スタジオですから、上手くやるでしょう。

今回は予告動画でも散々アピールされているように、歴代プリンセスやらスター・ウォーズやらマーベルやらキャラが総出演しており、まるで今のディズニーコンテンツのパワーを象徴するような映画です。『レディ・プレイヤー1』みたいなことを1社で実現できるって考えると凄まじいことですよね。
『レディ・プレイヤー1』感想(ネタバレ)…少年よ、オタクでも大志を抱け!
とにかく「楽しい」の一言に尽きる映画ですので、前作を振り返りつつ、気分をリフレッシュするつもりで鑑賞してみると良いのではないでしょうか。これが今のディズニー・コンテンツの全力です。

鑑賞前のおすすめ PiCKUP!
↑『シュガー・ラッシュ』…1作目。クッパなど日本のゲームキャラクターがゲスト出演しているのも話題になりました。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

1作目は役割からの脱却を描く

『絵文字の国のジーン』のようにインターネットというデジタルな世界をアニメーション化した作品はこれまでもありましたが、今の私たちにとって最も身近なテクノロジーを面白おかしくビジュアル的に風刺した世界観は確かに見ているだけで楽しいものです。

本作も、最初にインターネットの世界にラルフとヴァネロペが訪れた瞬間から、もの凄い情報量の嵐で目がチカチカしてきます。どれだけ小ネタに気づけるかで、あなたのネット知識が試される感じですね。ラルフが落としたメダルを探している暗いネットの底のゴミ場みたいな場所に転がっていた「GeoCities」とか、懐かしいなぁ…。

一方で、本作はネタありきのお祭り映画要素だけで楽しませるものではありません。メインとなるテーマは一作目と同じであり、それをさらに深い追及によってブラッシュアップしていました

監督の“リッチ・ムーア”と“フィル・ジョンストン”は、当時はベストだと思っていた前作のエンディングに今思えば引っかかるものがあったことが、続編となる本作のストーリーの動機にあるとインタビューで語っています。

前作は、ラルフとヴァネロペという2人の主人公をとおして、自分に与えられた設定の“役割”とどう向き合うかを問いかける物語でした。結果、ラルフは悪役だけど自分を大切に想ってくれる人(ヴァネロペ)がいればそれも悪くないという考えに落ち着き、ヴァネロペは実はプリンセスであることが判明するもレーサーとして好きなことで生きる道を選びます。

とくにヴァネロペというキャラの存在は、ディズニー映画としては異例でした。これについて言及するうえで情報として知っておいたほうがいいのは、ヴァネロペのキャラクターがオリジナル版と日本版ではかなり違うということ。日本版だと小生意気で可愛い少女という感じでおさまっていますけど、オリジナル版は毒舌なんてもんじゃない、アブノーマルな問題児。なんていったって、オリジナル版の声を担当しているのがあのセックス・人種・宗教なんでも過激に風刺するコメディアンで有名な“サラ・シルバーマン”ですからね。

そんなヴァネロペが1作目のラストで「プリンセスなんて自分のガラじゃない」と“可愛らしい”、“煌びやかな”ドレスをぽいっと捨てる行為は、つまり、従来のディズニーが歴史的に推進してきたことになる「女性の理想はプリンセス」というイメージへの明確な決別でもありました。

このプリンセス問題は、よくリアルでも議論されることがあります。最近もある女優が「自分の娘に過去のディズニーのプリンセス・アニメ作品は見せない」と発言したことがクローズアップされたように、ディズニーのプリンセスはどうしても古い女性観の象徴。フェミニズムや多様性を重視する今の価値観ではむしろ“悪”。そう捉える動きは少なくありません。それをディズニー側も意識しているからこそ、最近のディズニー映画、例えば『くるみ割り人形と秘密の王国』では戦うクールなヒロインを描こうとしている意図が見えます。
『くるみ割り人形と秘密の王国』感想(ネタバレ)…ディズニーだからね

選択の価値を学ぶヴァネロペ

過去の古いステレオタイプ(女性で言えばプリンセス)を否定する…それはそれで大切なことなのですが、そう単純な話でもありません。「ステレオタイプは良くない」と批判するのは簡単ですけど、じゃあ、どうしたらいいの?という問いへの絶対に正しい答えなんてあるのか。

逆に意図的にステレオタイプと真逆な方向でキャラを描写することも最近は多々ありますが、あれはあれでアンチテーゼが濃すぎてわざとらしく思えたりも…。歴史的に男性だったキャラを女性に変えたり、その逆も然り…狙いすぎでは?と不快に思う人も実際にいます。プリンセス問題で言えば、昔、『シュレック』というアニメ映画があり、あれも当時は斬新で「怪物でもプリンセスのようなヒロインになれる」ことを示した作品でしたが、今の価値観で見ると「女性は美人かブスかの二択」のようで違和感も感じます。

そうした多様性時代によって指標を失った時代、本作『シュガー・ラッシュ オンライン』が描いたのは、「どういうキャラになるのが正しいのか」ではなく「どんなキャラになりたいかを自分で選ぶこと」の大切さでした。

本作の物語は前作で居場所を見つけたと思ったヴァネロペが再び居場所に悩むことから始まります。これは子どもの成長のメタファーともとれます。子どもは成長に応じて遊ぶおもちゃも趣味嗜好も変わるように、ヴァネロペも今の「シュガー・ラッシュ」のあの世界では自分に合わないような、そんな気分にモヤモヤしています。

そのヴァネロペに新しい道を提示したのが、「スローターレース」という明らかに対象年齢高めのバイオレンスなゲームのカリスマレーサーであるシャンク。ヴァネロペは見た目は設定上変わらないのですが、精神面はハッキリ子どもを卒業しようとしているんですね。

そしてシャンクの他にヴァネロペが新しい一歩を踏み出す背中を押したのが、誰であろうディズニーの歴代プリンセスたち(ピクサーのメリダも混ざってる)。

プリンセスルームの場面は、本作で一番カオスで笑えるトークのオンパレード。個人的には部屋に侵入したヴァネロペを見たプリンセスが全員臨戦態勢に入っているのがシュール。とくにシンデレラは自分のガラスの靴をあえて割って鋭利にして攻撃力をあげているという、明らかに致命傷を与える気満々なのがやりすぎで好き。カジュアル衣装のプリンセスも昔の保守的だったディズニーなら絶対に認めないですね…。

そのプリンセスの助言(?)でヴァネロペはなんとミュージカル・ソングによって自分の新しい道(「スローターレース」の世界で生きること)を決めるという、まさかの展開。これは、プリンセス的な方法で非プリンセス的な人生を謳うというギャップの面白さはもちろん、プリンセスは確かに古い価値観の象徴だけど、決して全否定するのではなく、生き方の選択を応援はできるんだというメッセージにも感じます。

本作でヴァネロペは、プリンセスに反発していた反抗期の少女から、自分らしさを確立した大人の女性へと新しいステージに踏み出したのではないでしょうか。

シュガー・ラッシュ オンライン

行為の責任を学ぶラルフ

対するラルフですが、1作目のエンディングも綺麗にまとまっていましたが、今度はヴァネロペに依存した性格をこじらせてしまうという、いわゆるヒロイズムの暴走とどう向き合うか、それが『シュガー・ラッシュ オンライン』の彼の課題になっていました。

本作のラルフは“役割(ロール)”の問題を飛び越えて、“行動の責任”を問う内容になっており、前作ほど単純化された構造はありません。悪役であろうとなかろうと、行為を間違えれば相手を傷つける。それを自らインターネット・ミームになったことで誹謗中傷コメントを見て痛感するラルフ。そのラルフも行為が行き過ぎてしまい、インターネット世界を脅かすことになってしまう(原題のとおり「Ralph Breaks the Internet」です)。

ラルフの存在は、私たちインターネット・ユーザーに近いですよね。自分らしく生きようとする人間を応援するのか、非難するのか。これは今のネット社会で常に起こっている現象です。

そんなラルフの負を象徴するモンスターとして終盤で登場するのは非常にビジュアルが気持ち悪いラルフ集合体。デザインが完全に「キングコング」であり、キングコングは女性に暴力をふるう男性の象徴とも言えますから、そう考えると意味深。しかし、本作は映画『キングコング』と違って、キングコングと最終的には和解し納得し合うというのが、実にディズニーらしい着地です。

結果、別れた世界で暮らすことになったラルフとヴァネロペ。でもいつでも連絡は取り合える。ここでインターネットの良さをさりげなく見せるのも上手いですし、あれだけインターネット世界の派手な映像を見せておいて最後はゲームセンターに入り込む日の光の陰影で幕を閉じるのも哀愁あって良いと思います。

本作を観た子どもたちが、家族や友人、ネット世界の人々の“選んだ人生”を素直に応援できる、そういう人間になれば、今よりも優しいインターネットが楽しめるはずです。

あと、検索ブラウザさん、いつもありがとうございます。でも、たまに全然情報の薄いサイトが検索表示されることがあるのはなんとかならないんですかね。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 68%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

(C)2018 Disney. All Rights Reserved.