トゥループ・ゼロ
映画『トゥループ・ゼロ 夜空に恋したガールスカウト』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Troop Zero
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にAmazonビデオで配信
監督:バート&バーティ

トゥループ・ゼロ 夜空に恋したガールスカウト

あらすじ

1977年のジョージア州郊外。クリスマス・フリントという名の少女は周りに馴染めず、宇宙に憧れを抱いていた。ある大会で優勝すればNASAのゴールデン・レコードにメッセージを入れて、宇宙へ送ることができると知る。そこで大会に出場するガールスカウトのメンバーを急いで集めるべく奔走。それは宇宙に繋がる友情の始まりだった。

『トゥループ・ゼロ』感想(ネタバレなし)

女の子らしく? 知ったことか!

男の子は“男の子”らしく、女の子は“女の子”らしく

それは今も日本社会の家庭に染みついている古い固定観念です。私もそれが当たり前の世界で育ちました。でも現在の、そして未来の子どもたちにはそんな押しつけをする大人にはなりたくありません。一方で性別の“らしさ”の固定化をしがちなアレコレが充満している世の中なために、油断しているとそうなっちゃってたりします。

子どもは大人と対等にコミュニケーションする機会を得ることがありませんが、内心ではそういう押しつけにうんざりしたり、言葉にしないけど苦しんでいたり、そういうこともあるものです。だからこそ私たち大人がしっかりしないとダメだなと自己反省しないとですね。

そんなことを考えさせられる映画が本作『トゥループ・ゼロ 夜空に恋したガールスカウト』です。

この映画はおそらく認知は低く、映画好きの間でも知られていない作品だと思います。なぜなら本作はAmazonオリジナル映画であり、アメリカ本国でも劇場公開されずに配信スルーとなってしまった作品だからです。Amazonオリジナル映画は日本では、劇場公開されることなく配信のみだったり、配信後に劇場公開だったり、不安定な扱われ方でしたが、こういうアメリカでも配信だけの扱いになる場合もあるんですね。Amazonさん、おカネあるんだからちょっとそこは頑張ってよ…。

それはともかくこの『トゥループ・ゼロ 夜空に恋したガールスカウト』、なんともよくわからん邦題になっていますが、お話の中身はこう。宇宙に憧れる9歳の少女が、宇宙にメッセージを届けられるというNASAのプロジェクトに選ばれるために、ガールズスカウトの大会で優勝するべく頑張る…というストーリー。

この少女とその仲間たちは実に“女の子らしくない”女の子。でもガールズスカウトでは“女の子らしい”女の子が評価されるのが慣例で、その困難にどう立ち向かうか。それが肝になってきます。つまり、映画のジャンルはキッズ主人公のジュブナイルものですが、芯の部分にはフェミニズムがあるんですね。

なのに「夜空に恋したガールスカウト」なんて副題をつけたことは作品性と矛盾するだけであり、ほんとね…。「女=恋」というレッテルに立ち向かおうとしているのがこの作品の主人公少女たちなのに…。なお、本作の物語には恋愛の「れ」の字もないです。

グチはそれくらいにして、この『トゥループ・ゼロ』(副題はカットしました)は、キッズたちがじゃれ合いながら奮闘するジュブナイルが大好きな人にはたまらない映画ですので、マイナー作ではありますが、要チェックです。

主演は、『gifted ギフテッド』『アナベル 死霊博物館』などでインテリ少女の役が板についてきている“マッケナ・グレイス”です。小生意気な博識っぷりを全開にする姿がいつも“知的”可愛いですね。

大人勢も結構な名俳優が揃っており、『フェンス』でアカデミー賞助演女優賞を受賞した“ヴィオラ・デイヴィス”と、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でアカデミー賞助演女優賞を受賞した“アリソン・ジャネイ”が揃うというオスカー助演女優の共演で、しかも火花を散らすライバル同士の役。これは狙ったキャスティングなのかな…。


監督は“バート&バーティ”という人物で、私は監督作を観たのが『トゥループ・ゼロ』で初めて。ということで全然何も語れないのですが、本作を観るかぎり、語り口も痛快で子ども題材に手慣れており、私は好きです。

女の子が宇宙に夢中になって何が悪い!という高らかな宣言と、愛しい子どもたちの未来への眼差しが詰まった、とても温かい一作です。

Amazonプライムビデオで配信していますから、映画館鑑賞もいいですけど、少し時間があるときはこちらも鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(ジュブナイルが好きなら)
友人◯(気軽に暇つぶしでも)
恋人◯(ほどよい感動を)
キッズ◯(自分に自信が持てる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『トゥループ・ゼロ』感想(ネタバレあり)

女の子らしさゼロ?

1977年のジョージア州ウィグリー。

この田舎町で夜空に光る流れ星を見てニンマリしている少女がいました。別に「星の輝きってロマンチック~」みたいに乙女の心をキラキラさせているわけではありません。この子はそれこそ宇宙関連の本を何冊も読破するくらいに、ガチで宇宙にハマっている宇宙オタク少女なのです。

この夜も懐中電灯をパチパチと点灯させて宇宙人に合図を送り、友達になれることを夢見ています。

そんな宇宙大好き少女クリスマス・フリントは翌日、図書館で土星・水星・冥王星・木星・火星・天王星・金星のそれぞれの本をドサッと返した後、いつもどおり遊びに行こうとします。

母は亡くなり、今は弁護士をやっている父ラムジーと、一緒に働くレイリーンに囲まれて暮らしています(あとフラッフィーという小型犬も)。狭いトレーラーハウス暮らしですが、クリスマスなりに楽しく過ごす毎日。

「私って宇宙人かも」とレイリーンにノロけつつ、お気に入りのSFテレビドラマ『アウター・リミッツ』を見ないか?とレイリーンを誘ったりも(『アウター・リミッツ』は1963年から放送されたドラマで、UFOとか超常現象を取り上げています。日本の『ウルトラQ』にも影響を与えました)。

どうやらクリスマスには同年代の友達はいないらしく、また今日の夜も屋根で夜空を見上げるだけ。

例外がいるとすれば、お隣の少年ジョセフ。彼は女の子っぽい男の子であり、厳格な父に“男らしく”なるべくいつも体力トレーニングでしごかれているのをよく眺めています。

ある日、ジョセフと学校に行くと、同年代のガールズスカウトたちがマッシー校長のもとで何かの説明を受けていました。現れたのはNASAから来た博士で、なんでも地球の情報を宇宙に送るゴールデンレコードに子どもたちのメッセージを録音するらしく、今度の「ジャンボリー」(スカウトの大会です)で優勝するとその代表の子どもになれるのだとか。それを聞いていたガールズスカウトたちは「宇宙人なんていません」と呟くくらいに宇宙に興味なしですが、クリスマスは違います。木の上に座って話を聞いた彼女は居ても立っても居られません。

さっそくガールズスカウトのグループリーダー格のパイパーにジャンボリーに出たいと申し出るも、「底辺のあなたは無理だ」と冷たくあしらわれ、ロッカーに閉じ込められるだけ。

こうなったら自分でチームを作ろう!と決意。仲間集めに駆け回ります。

まずはジョセフは当然仲間に。イエス様にご注進な片目が見えないアン・クレア。人間火山(ヒューマン・ボルケーノ)の異名を持つ怒りっぽりヘル・ノー。何でもぶち壊す動物のように手が付けられないスマッシュ。とりあえず5人が揃いました。

あとは団長です。クリスマスが頼りになる大人の女性といえばひとりしかいません。レイリーンに声をかけ、最初は渋った彼女ですが、なんとか同意を得て、条件は完璧。

レイリーンは幼なじみで因縁があるらしいマッシーに書類を叩きつけ、いよいよ本格スタート。

「第0団」(原題の「Troop Zero」)となり、活動を始めます。まず目指すはジャンボリーに参加できるだけの実績を作ることです。

明らかにガールズスカウトらしくないこの子たちにガールズスカウトは務まるのか…。

宇宙人も倒せそうな最強チーム結成

『トゥループ・ゼロ』は何よりもあの個性豊かな主役の子どもたちが魅力的。シリーズ化してしばらく見守っていたい気分です。

クリスマスは髪もボサボサで全く容姿を気にしていない、確かにあのガールズスカウトたちに「トラッシュ」と言い放たれてもおかしくない、浮いた存在です。もちろんそこには経済格差などの事情もあるのですが…。

ただこのクリスマス、そしてそれを演じる“マッケナ・グレイス”の天真爛漫な魅力もあって、本当に輝いています。あの随所で現れる変人オーラがいいですね。マッシー先生が皮肉で「0(ゼロ)」という数字を団に与えたのに、「0は無限を意味するんだ」とグヘヘと笑って満足そうな姿とか。そりゃあマッシーもドン引きします。個人的にはケーキ作りのシーンで、全く意味もないのにステンレスざるをさりげなく頭にかぶっているのが好き。

ヘル・ノーとスマッシュのコンビはとくに強烈。こいつらがインパクト強すぎて、すっかりアンとジョセフのキャラが霞んでいるのがあれですが…。年上であろうが攻撃性を発揮する狂犬のヘル・ノーと、飢えたら危なくなるらしいスマッシュ。ほぼ野生動物です。もうこの二人は宇宙人並みに異色な存在じゃないですか。下手したら人間に化けた宇宙人ですよ。クッキー売りのバッジを手に入れるべく、ヘル・ノー&スマッシュ組がドアを足蹴り「2箱を買え!」と脅迫するシーンが楽しいです。

しれっと女の子ではないジョセフもツッコまれつつも混ざっているのもユーモアたっぷり。ジョセフも最終的には認められている感じで、もしかしたら本作で一番得をしたのはあの子かもしれないですね。

とにかくよくこんな“女の子らしくない”女の子が結集したものです。

トゥループ・ゼロ

宇宙のママに会いたい

そんな“女の子らしくない”女の子たち第0団が、“女の子らしさ”を振りまく第5団とどう立ち向かっていくのかがストーリーの流れになっていく『トゥループ・ゼロ』ですが、そこは割と雑。

そもそも私はスカウト経験がないのでわからないのですが、少なくとも作中のスカウト活動はルール条件もあやふやなので、全体的に茶番に見えなくもない。まあ、子ども向けの活動なのでこの程度のノリでいいのかもしれませんが、映画としてのロジックが見えてこないので、どうせ頑張ればバッジが手に入るんじゃないかという気分にはなります。

もちろん第0団はそれぞれの能力を活かして課題をクリアしていく姿は素直に楽しいものです。

美容では、ジョセフの得意分野が輝き、町の女性たちを大変身させたり、耐久力ではヘル・ノーのアグレッシブな体力が活躍し、組み立てが得意なスマッシュがラジオを直したり、何かと一芸に秀でた良いチーム。

その能力が最後のジャンボリーでのステージ発表でも活かされていくと最高に良かったのですが…。あの発表も何をどう審査しているのかさっぱりすぎて観客側は置いてけぼり感がありましたけど。

ただ、物語は最終的にはクリスマスが不安を克服して前向きになる姿を描く成長にフォーカスしていきます。彼女の不安の根底にあるのは、母の死。それ以降、お漏らしをするようになり、おそらくだから寝ることができずに夜空を見上げるようになったと推察できます。そして、宇宙の向こうに母がいるのではないかという空想に耽ることに。

家族の欠落を抱える主人公が宇宙に逃避を抱くという構造は、ちょっと『ファースト・マン』と同じです。あちらは父が亡き娘を仰ぎ見て宇宙へ行くという話ですが、この『トゥループ・ゼロ』は逆で娘が亡き母を仰ぎ見て宇宙に手を伸ばすストーリー。このあたり、日本みたいに毎年墓参りしてなんだかんだ明確な“あの世”という概念を共有しているのとは違って、アメリカだからこそ宇宙と死後の世界を重ねてしまうものなのでしょうか。

そんなクリスマスが友達を手に入れて自信を持つという姿はストレートに胸を打ちます。まあ、人前でお漏らしをするだけならまだしも、あの第0団揃ってお漏らしをするのはいささか強引でしたけど(あんなに任意のタイミングで放尿できるんですか…)。

とりあえずNASAのペルサード博士が良い人でめでたしめでたし。

「地球の子どもたちから こんにちは」

ここからは『トゥループ・ゼロ』の補足というか、やや脱線したトリビア。

少女が宇宙に想いを馳せることを奇異に捉える世間の目がある本作でしたが、実際のところ、天文学の世界で活躍する女性はかなり昔からいました。例えば、王立天文学会の初の女性会員となった「メアリー・サマヴィル」。彼女はあのコンピュータの歴史に影響を与えた女性「エイダ・ラブレス」に数学を教えたらしく、メアリー・サマヴィルがいなかったらこのブログも存在しなかった…かもしれません。また、他にも彗星を発見した最初の女性となった「カロライン・ハーシェル」や、恒星の分類法を確立した「アニー・ジャンプ・キャノン」などなど多数。

どうせならこれら女性天文学者が作中で上手く活かされていくと良かったのですけどね。

また、作中で重要な存在となる「ゴールデンレコード」。これは1977年に打ち上げられた2機のボイジャー探査機に本当に搭載されました。エンディングで流れたような55種類の言語のあいさつの他にも、音楽や画像などが記録されています。

今もゴールデンレコードは宇宙のどこかを漂っていると思われます。いや、そうだといいですね。

純粋な子どもたちの声をこれからも発していきたいものです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 81%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

関連作品紹介

マッケナ・グレイスの出演した映画の感想記事の一覧です。

・『gifted ギフテッド』


・『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』


・『アナベル 死霊博物館』


作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios トゥループゼロ