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『EMMA エマ(2020)』感想(ネタバレ)…アニャ・テイラー=ジョイ主演で映画化

エマ

アニャ・テイラー=ジョイ主演でジェイン・オースティンの名作をまたも映像化…映画『Emma. エマ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Emma.
製作国:イギリス(2020年)
日本では劇場未公開:2021年に配信スルー
監督:オータム・デ・ワイルド
恋愛描写

EMMA エマ

えま
エマ

『EMMA エマ』あらすじ

裕福な家に生まれ育ったエマ・ウッドハウス。優雅で気品があるエマにはささやかな生きがいがあった。それは男女の仲を取り持ち、愛を成就させること。すでに結婚にいたるまでの架け橋になることにも成功しており、エマは自信満々だった。そして今度は友人であるハリエットの花婿探しに乗り出すことにする。今度も余裕で私の思ったとおりに上手くいくはず。しかし、実際は想定から外れることになり…。

『EMMA エマ』感想(ネタバレなし)

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ジェイン・オースティンの名作を

世界で最も有名な女性作家と言えば誰を挙げるでしょうか。

メアリー・シェリー、シャーロット・ブロンテ、ヴァージニア・ウルフ、エミリー・ブロンテ、アガサ・クリスティ…。

もちろんこれらの人物は「女性」なんてカテゴリにせずとも、世界で最も有名な「作家」として名を並べるにじゅうぶんな才能を持った人たちばかり。

今回スポットがあたるのはそのひとりである「ジェイン・オースティン(ジェーン・オースティン)」です。1800年代の初期に活躍したイギリスの作家であり、一番の代表作は「高慢と偏見」でしょうか。他にも「分別と多感」「マンスフィールド・パーク」「ノーサンガー・アビー」「説得」など手がけた小説は多数。いずれも名家の娘が結婚に至るまでの道のりを描いたものですが、その文学的価値や批評は世間に転がる無数の論評とかを読めばいいのでそちらにお任せします。

ちなみにジェイン・オースティン自身は未婚で生涯独身だったので現在では「レズビアンだったのでは?」と案の定囁かれたりもしています。当然、アセクシュアル/アロマンティック・コミュニティにおいても「A-spec当事者だったのでは?」と勝手にアイコン化されたりしているのですけど…。

まあ、そのセクシュアリティの話は今回はそこまで重要ではないのです。本題はジェイン・オースティンの名作のひとつ「エマ」のこと。

この「エマ」は1815年に発表された長編小説ですが、何度も映像化されてきました。例えば、1948年にジュディ・キャンベル主演でBBCが映像作品にしていますし、1954年にはフェリシア・モンテアレグレ主演でNBCが映像化、1960年にはCBSがナンシー・ウィックワイア主演で映像化。

比較的近年のもので有名なのは1996年のダグラス・マクグラス監督の『Emma エマ』でしょうか。この作品での主演はグウィネス・パルトローですよ。当時は王道ヒロインを突っ走る女優でした。まさかこの23年後に戦闘アーマーを着て飛び回りながら強敵をボコボコにする役を演じるとは予想もつかなかった…(『アベンジャーズ エンドゲーム』の話)。

そのもう見飽きるくらいに映像になっている「エマ」が2020年にまたもまたも映画化。それが本作『EMMA エマ』です。

正直、私も「さすがに映像化を繰り返しすぎでは?」と思ったのですけど、主演が“アニャ・テイラー=ジョイ”と聞いたら無視はできない…。

2015年の『ウィッチ』で強烈なインパクトをぶっこみ、2016年の『スプリットや2017年の『サラブレッド』でも印象的な演技を披露し、2020年には『クイーンズ・ギャンビット』でさらに世間に広くその魅力が知れ渡ったあの“アニャ・テイラー=ジョイ”。私もそのなんとも言えないクセの強い佇まいに魅了されたひとりですが、その“アニャ・テイラー=ジョイ”が古典的とも言える恋愛文学の名作の映画化で主人公を務めるなんて意外にも思います。

ところがやはりそこは“アニャ・テイラー=ジョイ”の魔力。この俳優が中心に立つことで、あのちょっと古臭いかなとも思われかねない王道のラブストーリーがガラっと変化。なんとも言い難い個性の強い『EMMA エマ』が出来上がっています。

本作で“アニャ・テイラー=ジョイ”はゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされたのですけど、なんでミュージカル・コメディ部門?と私は疑問に思ったのですが、作品を観たらすぐにわかりました。この『EMMA エマ』、すっごいコミカルです。ほぼ30~60秒に1回は笑わせにくるような構成で、英国貴族モノのラブコメです。

監督は“オータム・デ・ワイルド”という人で、聞いたことないな…と思うのですが、ミュージックビデオの仕事を主にしているクリエーターなんだそうです。今回で長編映画監督デビュー。とんでもない逸材が映画界にやってきた…。

また、脚本を手がけるのは“エレノア・キャットン”で、小説家として高く評価されているニュージーランド人で、映画のキャリアはほぼゼロ。にもかかわらずこのストーリーテリングの上手さ。なんだこの映画のチーム…凄すぎて怖いぞ…。

そんな文学&映画ファンなら大注目すべき新鋭が揃っている『EMMA エマ』なんですが、全然劇場公開される気配がない! 実はジェイン・オースティンの近年の映像化作品と言えば、2016年には「レディ・スーザン」を映画化した『Love & Friendship』という作品があったのですが、こちらも日本劇場未公開で配信スルーさえされていない…。もしかして『EMMA エマ』も同じ運命をたどるのか…と憂鬱になっていたら、唐突に2021年5月にデジタル配信されました。劇場で観たかったけど、まあ、納得するしかないか…。

ということで“アニャ・テイラー=ジョイ”版の本作『EMMA エマ』。隠れた名作として必見です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:隠れた良作として
友人 4.0:趣味の合う同士で
恋人 5.0:恋愛映画としてピッタリ
キッズ 4.0:性的なシーンはほぼなし
↓ここからネタバレが含まれます↓

『EMMA エマ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):恋のキューピッド?

早朝。パチリと目を開けるひとりの若い女性。彼女の名前はエマ・ウッドハウス。裕福な家柄であり、気品に溢れています。エマは菜園の花を指示して摘ませ、それを花束にしてとあるドアの前に。ノックすると、女性が出てきて、その花束を渡し、抱き合います。

エマは父(ミスター・ウッドハウス)と2人で暮らし。けれども暇ではありません。エマには夢中になっている生きがいがありました。それは他人の男女の仲を深め、結び合わせ、愛を実らせること

実は先ほどの花束を渡した女性、母親同然だった家庭教師のテーラーにも良い相手を見つけ、今日めでたく結婚式に至ったのです。

教会へ行き、近所の一同が集まる中、花嫁姿のテーラーが前に。お相手はウェストン。牧師のエルトンが祝福の言葉を述べます。

こうして恋愛の橋渡しとしての役割への味をしめていくエマ。そんなエマを、昔から家族ぐるみの付き合いでよく家にもやってくるジョージ・ナイトリーはどこか心配そうに案じていました。そういうふうに人のプライベートに首を突っ込んでばかりでいいのか、と。

しかし、エマ自身はお節介だとも微塵も思っておらず、今度は友人のハリエット・スミスをあの牧師のエルトンとくっつけようと画策しだします。ハリエットはまだ初心な若い女性であり、礼儀作法も疎く、どこかあぶなかっしいので多少の教育は必要そうです。

ミスター・エルトンに合わさると彼はやけに明るく元気なので、事を着実に進めれば上手くいくはず。

ところが想定外の事態が。クリスマス食事会の帰り道。エマとエルトンは同じ馬車に乗ったのですが、そこで彼はハリエットではなく、エマにアプローチしていたらしいことが発覚します。顔が固まるエマ。

自分がノリノリで立てていた計画は脆くも崩れ、そのことをエマは正直にハリエットに話します。ハリエットは良い子で、あまり気にしていないようです。でも男女を愛で結ぶことに関してプロフェッショナルを自負していたエマの自尊心は傷つきました。

しかし、諦めないエマ。今度はハリエットをフランク・チャーチルとくっつけようとあれこれ動きますが…。

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恋愛や結婚をバカにしている?

『EMMA エマ』の物語は現代から見ればありふれたベタなラブストーリーです。他人の恋愛をコーディネートしているつもりがその相手が自分に好意を寄せてきたとか、自分まで恋愛が芽生え、しかも友人と同じ相手を好きになってしまったとか。この王道の土台を作ったのがジェイン・オースティンの偉大さなわけですが…。

ただ、現代の価値観から言っても(もしかしたら原作当時からなのかもですが)、エマという主人公とやっていることはかなり迷惑千万になりかねないですよね。あんまり学校のクラスにいてほしくないタイプの女子なんじゃないだろか。私みたいなアセクシュアル/アロマンティックの人間には有害でしかないですし。

しかし、この2020年の『EMMA エマ』はそういう主人公の自己中心的なお節介さを無批判に肯定することはもちろんせず、しっかりコミカルに嘲笑うくらいのタッチで描いています。ある意味で、恋愛や結婚という保守的な規範のバカバカしさを風刺しているとも言えるような…。私はこういう作品が大好きなんですよね。ドラマ『ブリジャートン家』ほど感動を売りにせず、『女王陛下のお気に入り』ほど痛烈にシニカルにはしない…それくらいのバランス。

今作のエマは恋のキューピッドというよりは、結婚の毒を仕込む小悪魔みたいな感じであり、私に言わせれば恋愛指南してくる鬱陶しいiPhoneのSiriみたいなものです。

そこはやはり異性愛で保守的な結婚を描くなら今はこれくらいしないと…というクリア条件なんじゃないかなと思います。

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みんな面白い

『EMMA エマ』はとにかく全編がコミカルでシュールな笑いの連続です。着替えひとつで笑わせにきますからね。

その笑いの立役者は当然ながら個性豊かな登場人物たち。

ハリエット・スミスは“ミア・ゴス”が演じており、いかにも自力で恋愛を切り開けることができなさそうに見える女性です。その素朴な感じもまた楽しいです。この女性にふさわしい相手をエマは見つけられるのかというハラハラもあります。でも実はエマは自分で恋愛を切り開けるパワーをちゃんと持っていました。『マローボーン家の掟』や『サスペリア』では割と酷い目に遭ってばかりだった“ミア・ゴス”が幸せそうな役柄を最後は見せてくれて、なんだかホっとしました。

そのハリエットの最初の相手としてエマの中で白羽の矢が立つのがミスター・エルトン。演じているのは『ゴッズ・オウン・カントリー』、そしてドラマ『ザ・クラウン』でチャールズ皇太子役を熱演した“ジョシュ・オコナー”です。この『EMMA エマ』では勘違い野郎的なお調子者をとても楽しそうに演じており、他作品とのギャップに戸惑うくらい。このエルトンのウザさというのもエマに共通している部分ではあるのでしょうけどね。

そのエルトンが妻とする相手がオーガスタであり、この夫にしてこの妻、ヘンテコな夫婦の登場でまた笑いを誘ってくれます。オーガスタを演じているのはドラマ『セックス・エデュケーション』でおなじみの“タニヤ・レイノルズ”で、やっぱり魅力的な俳優だなと思いました。

エマにとっても「スゴイ女」枠になっているジェーン・フェアファクス。「めっちゃあの女、弾くの上手いじゃん!」っていう顔が爆笑ものです。そんな彼女を演じるのは『私立探偵ストライク』の“アンバー・アンダーソン”

一方で、ハリエットの次の相手候補になるのがフランク・チャーチルであり、『さよなら、僕のマンハッタン』『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』の“カラム・ターナー”。このチャーチルとナイトリーの絡みも愉快で、本作の男子貴族萌えみたいなものをガッシリ掴んでくる狙いの良さがたまりません。

ハリエットの真のお相手、ロバート・マーティンを演じるのがこちらも『セックス・エデュケーション』で素晴らしいラブストーリーを見せてくれている“コナー・スウィンデルズ”。なんかひと昔前のプリンセスみたいなポジションをよく務めますよね。

他にもミス・ベイツを演じた“ミランダ・ハート”や、ミスター・ウッドハウスを演じた“ビル・ナイ”も良かったです。“ビル・ナイ”は歩いているだけで面白い…。“ジョニー・フリン”演じるジョージ・ナイトリーとの椅子の座り合いシーンならずっと見ていられる。

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鼻血ネタという必殺技

『EMMA エマ』の最大の功労者はもちろん“アニャ・テイラー=ジョイ”。

私は“アニャ・テイラー=ジョイ”の良さはどことなくクィアっぽさを醸し出せることにあると思います。本作でも恋愛(異性愛)というものを達観しており、その姿勢がクィアに通じる気がするというか。“アニャ・テイラー=ジョイ”じゃなかったら下手するとベタに恋に恋する乙女みたいな感じになってしまいますし…。

恋をさせることに生きがいを見い出すある種の狡猾さを引き出せるのは“アニャ・テイラー=ジョイ”ならではかな。幼さと大人っぽさを同居させているゆえに本心が掴みづらい、この雰囲気も良い味になっています。

そしてやっぱりラストの鼻血ですね。あそこで鼻血ネタを全力投球できるのは“アニャ・テイラー=ジョイ”らしさでしょう。シーンが王道ロマンスに近づいた瞬間にぶち壊すかのようにあれを決める、あれは必殺技だった…。

“アニャ・テイラー=ジョイ”本人は今までの「エマ」映像作の名だたる主役女優と比べて自分は美人でもなんでもないし…とすっかり撮影初期は自信喪失していたらしいですけど、あなたなしで完成しえない映画になっていましたよ!とこちらの満足度を最大級に届けてあげたいところ。

こういうように昔の名作を映画化するなら今後ともガンガンやってほしい…。全部、“アニャ・テイラー=ジョイ”主演でいいかな…。

『EMMA エマ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 87% Audience 72%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

アニャ・テイラー=ジョイ出演の映画の感想記事の一覧です。

・『ウィッチ』

・『スプリット』

・『マローボーン家の掟』

・『ニュー・ミュータント』

作品ポスター・画像 (C)Working Title Films

以上、『EMMA エマ』の感想でした。

Emma.(2020) [Japanese Review] 『EMMA エマ』考察・評価レビュー