お間違えの無いように乗車してください…映画『ブレット・トレイン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・日本(2022年)
日本公開日:2022年9月1日
監督:デヴィッド・リーチ
ブレット・トレイン
ぶれっととれいん
『ブレット・トレイン』あらすじ
『ブレット・トレイン』感想(ネタバレなし)
なんかスゴイ映画化になっちゃった…
日本を象徴する列車「新幹線」が初めて開業したのは1964年10月1日。東京駅と新大阪駅間を結ぶ東海道新幹線でした。200km/hを超える高速運転を安定して実現し、毎年3億人をはるかに超える乗客を運んでいます。路線は伸び続け、今では鹿児島から函館までが連結。さらに札幌まで延伸する計画が進行中です。
この日本の新幹線は巷では「世界一安全」などという自他認める評判が連結してくることが多いのですが、確かに事故発生統計的には安全な状況は比較的観測できるのかもしれないですが、とくに超厳重なセキュリティがあるわけではありません。2015年には東海道新幹線車内で男が焼身自殺を図り、火災が発生した事件が起きましたが、こうした人為的な事件はいくらでも起き得ます。新幹線でトラブルを経験した人なんて普通にいっぱいいるでしょう。新幹線の安全性は偶発的な引き金ですぐに崩壊するかもしれないことは肝に銘じておかないと大きな油断になります。
そんな日本の新幹線に喧嘩売っているのかどうかは知らないですが、なかなかにとんでもないことをしでかす映画がハリウッドから突っ込んできました。
それが本作『ブレット・トレイン』です。
本作は“伊坂幸太郎”の2010年の小説「マリアビートル」を映画化したもの。“伊坂幸太郎”の作品はこれまでも「重力ピエロ」「アヒルと鴨のコインロッカー」「グラスホッパー」「フィッシュストーリー」「ゴールデンスランバー」「アイネクライネナハトムジーク」などで、すでにいくつも日本で映画化したこともあるほどなのでおなじみです。
しかし、今回はひと味違う。なぜなら『ブレット・トレイン』はハリウッドで映画化されたのです。しかも、『ジョン・ウィック』シリーズの“デヴィッド・リーチ”が監督して、主演は“ブラッド・ピット”。一体何が起こったんだ…。
そんなとんでもない映画化になったこの『ブレット・トレイン』。中身も盛大にハジけています。
まず俳優陣が異様に豪華であるということ。先ほど言ったように“ブラッド・ピット”が主演。そこに『キングスマン:ファースト・エージェント』の“アーロン・テイラー=ジョンソン”、『エターナルズ』の“ブライアン・タイリー・ヘンリー”が共演し、『ザ・プリンセス』でカッコいいアクションを決めまくっていた“ジョーイ・キング”も参戦。
加えて『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』で大役を演じた“アンドリュー・小路”、『モータルコンバット』の“真田広之”も投入です。
他にもサプライズなゲスト出演枠が何人かいるのですが、これは観てのお楽しみということで…。「お前かよ!」とツッコみたくなるネタ要員が豊富ですよ。
そして『ブレット・トレイン』のハジケまくり要素のもうひとつが、日本描写。本作は日本が舞台で大部分が新幹線の車内で展開されるのですが、案の定、「なんだこれ!」というヘンテコなジャパンになっています。なんでしょうかね。ハリウッドって日本を正確に描く気は全くないんですかね。いや、最近の映画ではちゃんと描けているものもあるので、今作だけがとくにふざけまくっているというべきか。これを良しとするかどうかは日本人観客の判断に委ねられますが、本国アメリカではアジア系俳優コミュニティからは本作に対してホワイトウォッシングだと批判が起きています。これはアジア系俳優にとってはキャリアに関わることなので怒りも当然です。個人的には“ブラッド・ピット”は脇役にして、アジア系主役メインでやってもよかったと思うのだけど…。
あと、この『ブレット・トレイン』、日本では東海旅客鉄道(JR東海)側が宣伝に協力しているのですが、よくそれをJRが許容したなと…。映画を観ると一目瞭然なのですが、完全にJRには不都合すぎる映像が山盛りなんですけど…JR側はこの映画を観ていないんじゃ…。
また、ここも気になるところですが、本作の原題は「Bullet Train」。で、邦題は「バレット・トレイン」ではなくて「ブレット・トレイン」なんですね。たぶん『バレット・トレイン』という邦題の映画が既に存在しているのでそれを避けたのかなと思うのですけど、日本人は「ブレット」と耳にしたら「ブレッド」だと勘違いして「パン」を連想しそう…。いいな、パン列車…私も乗りたい…。
とにかくネタの大渋滞を引き起こしているなんともせわしない映画ですので、『ブレット・トレイン』に乗車する際はあっけにとられないようにお気を付けください。
『ブレット・トレイン』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優ファンなら |
友人 | :単純なエンタメを見るなら |
恋人 | :ロマンス要素はほぼ無し |
キッズ | :やや残酷描写あり |
『ブレット・トレイン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):降りられない!
日本のとある病院のベッドに子どもが寝ています。それを見つめる父親のキムラ(木村雄一)。そこに木村の父が見舞いに来て、「わしの孫の容体は?」と聞いてきます。「父親の役目は家族を守ることだ」と言われ、木村雄一は言葉がでません。息子のワタルが屋上から突き落とされて意識不明になってしまったのに自分は何もできなかった…。そしてこんな目に遭わせた犯人を突き止めるために東京に繰り出すことに決めます。
その東京では、レディバグというコードネームを持つ男がマリアビートルから電話を受けていました。新しい仕事があるというのです。東京から京都に向かう新幹線「ゆかり号」にお金の入ったアタッシュケースがあり、それを回収するだけ。でも銃も用意されます。レディバグはどうせいらないだろうと思い、単身で新幹線に乗り込むのでした。自分の運の悪さを自覚せずに…。
その新幹線のとある車両。レモンとタンジェリンという殺し屋兄弟が向き合って座っていました。2人は裏社会を仕切る犯罪組織のボスのホワイト・デスの誘拐されていた息子と身代金1万ドルのアタッシュケースを京都まで送り届ける最中です。といっても息子は確保済み。もう暇で、どうでもいい駄話をするくらいしかありません。
一方、その車両に乗り込んでいたのは木村雄一も同じでした。ところが木村は若い女性にスタンガンで気絶させられてしまいます。目を覚ますとその若い女はプリンスと呼ばれており、組織は木村をおびき寄せるためにワタルを落としたというのです。そしてホワイト・デスを殺してほしいと頼んできます。
その頃、レモンとタンジェリンは自分たちのアタッシュケースが無いことに気づきます。それはレディバグが持っていってしまっていました。しかも、あの息子まで目から血を流して無惨に殺されています。これは暇とか言ってられない事態です。
レディバグの方はと言えば、呑気に次の停車駅で降りるつもりでした。しかし、ここでも予想外の事態が…。ウルフという殺し屋が猛然と襲ってきたのです。一瞬で交戦状態になりますが、なんだかんだでウルフはナイフが刺さって死亡。でもレディバグは列車を降りるチャンスを失いました。
なんとか次の駅で今度こそ降りようと試みますが、レモンを見かけて警戒しているうちにまたしても降り損ないます。
レディバグとレモンは一触即発の状況に。列車内では静かにしないといけないので、やや控えめの音量で揉みあい、結果、レディバグはレモンを失神させます。ついでにテーブルに置いてあったペットボトル飲料の中に睡眠薬を入れてレディバグは立ち去ります。
けれどもこれでも終わらない。この列車は殺し屋だらけで、おまけに動物園から盗まれた猛毒の蛇までいる…。レディバグの災難はノンストップで高速前進し続けることになり…。
お友達を集めた列車パーティ状態
『ブレット・トレイン』の感想は、このネタ盛沢山の内容にどこまで乗っかれるかで決まってくるんじゃないかな。
「ついてないぜ」的なやれやれポーズで場を乗り切っていく“ブラット・ピット”は相変わらずですが、「きかんしゃトーマス」大好き殺し屋である(この設定は原作どおり)“ブライアン・タイリー・ヘンリー”演じるレモンの豪快な活躍は最後のオチまで含めて勢いがあって楽しいです。やっぱり「きかんしゃトーマス」は最高なんですよ。
本作は製作陣のお友達ネタがふんだんに盛り込まれています。お友達を集めた列車パーティ状態です。
まずは“デヴィッド・リーチ”監督の戦友枠。着ぐるみ「モモもん」の中に入って潜入していたのはホーネットを演じるのは“ザジー・ビーツ”。監督とは『デッドプール2』で一緒に仕事しました。
そして本命の殺し屋だったはずのカーバー役でチラっと顔見せするのは、誰であろう“ライアン・レイノルズ”。顔だけで笑いをとれる奴ですね。
“ブラット・ピット”の知り合い枠としては、『ザ・ロストシティ』で共演した関係で持ちつ持たれつの友情出演となった“サンドラ・ブロック”と“チャニング・テイタム”。なんだかんだでこういうくだらない役でもでてくれるのがハリウッド・フレンドリーシップの良いところです。
それ以外の目立つ出演者としては、やはり悪役であるホワイト・デスを演じた“マイケル・シャノン”…いや、なんだこの“マイケル・シャノン”…って思いましたよ…。こんなわけのわからない見た目で、かつロシア人って設定ですからね。ロシア人要素ある?
また、車掌は“マシ・オカ”で、乗務員売り物担当はドラマ『ザ・ボーイズ』の“福原かれん”でした。“福原かれん”もアクション・シーンがあればよかったな…。
こんな感じで「これほどハリウッド俳優だらけな新幹線なら私もぜひ乗りたいよ!」と映画ファンなら思ってしまいそうな豪華すぎる充実度。まあ、最終的には全部脱線して街に突っ込むんですけどね…(京都、ごめんね…)。
文化的に正確な描写で悪ふざけも両立できるはず
『ブレット・トレイン』は海外の評価などを見ると“クエンティン・タランティーノ”っぽいとか言われていることもあるみたいですが、私は正直、タランティーノ的ではさすがにないだろう…と。
タランティーノは日本リスペクトなネタを入れがちですし、『キル・ビル』なんて作品も作りましたが、基本は映画史に対する土台を前提に映画を組み上げていく人ですからね。対する『ブレット・トレイン』は「とりあえず日本っぽいものの中で遊びまくりました!」という完全に悪ふざけの延長になっていて、ディテールは全然無いです。おそらく“デヴィッド・リーチ”監督も今作に関しては相当に遊ぼうと思ったのではないかな。
そのせいか『ブレット・トレイン』はアクションとしてもなかなかに散漫な作りだと思います。あまり列車の中でスリルたっぷりにアクションを見せるという特化もない。いかにその場のノリでふざけるかに専念している感じです。
個人的にはもうちょっと本格的なアクションが見たかったんですけどね。終盤になればなるほどVFXでのボリュームアップになってしまうので、堅実なアクションを眺めたかった人は置いていかれます。
あとやはりこれは言及しておかないといけないのですが、ハリウッド的な日本描写の件ですが、これはこれで楽しいという日本の観客がいるのもわかります。でもいつまでもこれだと現場で働いているアジアに近い側の人間は報われないまま、微妙な消費のノリに付き合わされるだけだと思うので、やっぱりそろそろ見直すべきだとも思います。たぶん感覚として理解できる人もいるでしょう…上司だけが楽しいと思ってやっているノリに部下の人たちは全く冷めているのに仕方なく付き合わされる…あの嫌~な感覚に近いものがある…。一部の人は「楽しいからいいじゃん!」と満面の笑顔だけど、お願いだからちょっと周囲を見渡してごらん…っていう…。私たち日本人観客も「このハリウッドのヘンテコ日本描写は許せるかどうか」みたいな話題をイチイチ取り上げていつまでも延々と議論しないといけないなんて不毛じゃないですか。
『ブレット・トレイン』を見ていても、“アンドリュー・小路”や“真田広之”がハリウッド的な日本悪ふざけ遊びの空気の中で必死に頑張ろうとしているのが余計にいたたまれなく見えてくる…。“デヴィッド・リーチ”が関与している『ケイト』などの日本舞台の映画もそうですが、まだハリウッドは消費する程度でいいと甘んじている気がします。
プリンスの「女子学生」描写も明らかに日本人女性を幼く見せるというステレオタイプを助長していますからね。
日本の描写はディテールをブラッシュアップすれば、つまらなくなるわけではありません。むしろさらに面白さが増すでしょう。その未踏のエンタメがきっとあるはずです。文化的に正確な描写にしつつ、悪ふざけもできるのですから。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 54% Audience 76%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved. ブレットトレイン
以上、『ブレット・トレイン』の感想でした。
Bullet Train (2022) [Japanese Review] 『ブレット・トレイン』考察・評価レビュー