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『金子文子と朴烈』感想(ネタバレ)…関東大震災の追悼にこの人たちは含まれているのか

金子文子と朴烈

関東大震災の追悼にこの人たちは含まれているだろうか…映画『金子文子と朴烈』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Anarchist from Colony
製作国:韓国(2017年)
日本公開日:2019年2月16日
監督:イ・ジュニク
児童虐待描写 人種差別描写

金子文子と朴烈

かねこふみことぱくよる
金子文子と朴烈

『金子文子と朴烈』あらすじ

1923年の東京。アナキストとして意気投合した朴烈と金子文子は、唯一無二の同志、そして親密なパートナーとしてひとつ屋根の下で共に生きていくことを決める。しかし、関東大震災の被災による大混乱の最中、政府はデマを流して朝鮮人の虐殺を扇動。社会主義者らの身柄を無差別に拘束し、朴烈や文子たちも獄中へ送り込まれてしまう。社会を変えるため、そして自分たちの誇りのために獄中で闘う事を決意した2人だったが…。

『金子文子と朴烈』感想(ネタバレなし)

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この人たちへの追悼を忘れない

1923年9月1日に発生した「関東大震災」。死者・行方不明者は10万5000人と推定され、明治以降の日本の地震被害としては最悪。そんな震災のあった日が毎年来るたびに、日本では追悼式が行われています。

その震災被害でもじゅうぶんに酷いのですが、その最中におぞましい人災も起きていたことも忘れてはなりません。人災…というか、明らかな虐殺。それが当時日本で暮らしていた大勢の朝鮮人たちが虐殺されたという事件です。「朝鮮人が暴動を起こした」「井戸に毒を盛った」「金品を盗んでいる」…そんなデマが飛び交い、軍隊、官憲、武装した市民によって何の罪もない朝鮮人が殺されました。その惨劇は関東だけでなく、他地域でも発生し、香川県では朝鮮人と疑われた幼児や妊婦を含む9人が竹やりや農具などで殺害される事件も起き、歪んだ差別感情がモラルパニックをいとも容易く生じさせることがよくわかります。

しかし、そんな暴力で命を落とした朝鮮人たちをこの関東大震災のあった日に追悼する人はどれくらいいるのでしょうか。関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典が毎年行われていますが、歴代の知事が追悼の辞を送ってきたにもかかわらず、小池百合子知事は就任翌年の2017年以降、送付を取りやめています。式典と同じ日には会場となる公園でヘイトスピーチ団体が集会を行なっており、自らの愚かさを恥ずかし気もなく曝け出しています。差別は消えていません。

その関東大震災で命を奪われた朝鮮人たちですが、事件はそれだけで終わらず、朝鮮人無政府主義者が逮捕され、皇室暗殺を計画した罪で裁判にかけられる事態へと発展しました。いわゆる「朴烈事件」です。

今回紹介する作品は、その朴烈事件の渦中にいた人物たちに焦点をあて、関東大震災での朝鮮人虐殺の歴史に切り込んでいく韓国の映画。関東大震災の9月1日だからこそ、この感想記事をあげようと思います。

それが本作『金子文子と朴烈』です。

本作は先ほども簡単に説明しましたが、関東大震災の後に逮捕された朝鮮人無政府主義者(アナキスト)のひとりである“朴烈”(日本語読みは「ぼく れつ」、朝鮮語読みは「パク・ヨル」)、そしてその愛人である“金子文子”を題材にした、歴史映画です。

史実を描いているわけで歴史を知るうえでも有用な映画なのですが、『タクシー運転手 約束は海を越えて』で見られたような、重い歴史を描きつつ、それでいてエンターテインメントとしても面白くするという両立のクリエイティブがこの『金子文子と朴烈』でも光っています。関東大震災での朝鮮人虐殺のシーンも直接的に描かれ、凄惨な場面はあるのですが、同時にそんな暗い時代でもあえて明るく自分たちの生きる権利を主張する姿も活写しており、パワフルな物語です。

韓国映画はこうやって「どんな歴史でもまずは正しく受け止めて、その反省から次の未来に繋げていこう」という姿勢が溢れているのでいいですね。

『金子文子と朴烈』を監督しているのは、『黄山ヶ原』(2003年)、『王の男』(2005年)、『王の運命 -歴史を変えた八日間-』(2015年)などを手がけた“イ・ジュニク”。コミカルなテイストも得意な監督ですが、幼い少女の暴行事件を題材にした『ソウォン/願い』(2013年)だったり、社会派な分野でも腕を披露しますし、器用な監督なのかな。

『金子文子と朴烈』の物語の魅力を飾るのは俳優陣。とくに朴烈を演じた“イ・ジェフン”と、金子文子を演じた“チェ・ヒソ”の輝きが素晴らしいです。“イ・ジェフン”は『高地戦』『建築学概論』などこれまでも名作に出演していましたが、今回でさらなる代表作を獲得したかたち。そして特筆すべきは、『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』で注目されたばかりの“チェ・ヒソ”。まだ新人ですが、圧倒的な才能を披露し、今作でも堪能な日本語とその隠しきれないオーラで、明らかに主役の朴烈を押しのけるほどの存在感を放っています。“チェ・ヒソ”を観るだけでも価値のある映画ですよ。

共演は、『暗殺』『お嬢さん』の“キム・インウ”、『辺山』の“キム・ジュンハン”など。

韓国では2017年公開の『金子文子と朴烈』は、日本では2018年に第13回大阪アジアン映画祭にて『朴烈 植民地からのアナキスト』の邦題で初公開され、2019年に一般公開されました。

関東大震災の日には観返したい映画です。

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『金子文子と朴烈』を観る前のQ&A

✔『金子文子と朴烈』の見どころ
★日本における加害の歴史を知る。
★俳優の演技がパワフルで魅力的。
✔『金子文子と朴烈』の欠点
☆時代背景の説明はあまりない。
☆やや恋愛伴侶規範の要素が強い。
作品を観れます!
『金子文子と朴烈』
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オススメ度のチェック

ひとり4.0:歴史を知るうえでも必見
友人3.5:差別を語り合える友と
恋人3.5:異性愛ロマンスあり
キッズ3.5:語られづらい歴史の勉強に
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『金子文子と朴烈』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『金子文子と朴烈』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):私は犬ころである

1923年、人で賑わう東京の下町。人力車で身なりのいい人を運び終わったひとりの男、朴烈。支払いを求めますが全く足りません。「銭が足りません」と言うも「この朝鮮人が!」と相手は罵倒してきて蹴りつけます。「ここは日本だ。文句があるなら帰れ!」

その近くで有楽町のおでん屋で働く金子文子は朴烈の書いた「犬ころ」という詩を気に入って読んでいました。ジンユは朝鮮語が慣れていない文子に朴烈(パク・ヨル)の発音を教えます。そこへ人力車を引っ張って、その朴烈がやってきます。

文子は覚えたての朝鮮語で「あなたが不逞鮮人の中でも一番不逞なパク…ヨル?」「金子文子…朝鮮語で文子(ムンジャ)です」「あなたには伴侶がいますか? もし決まった相手がいるなら私は同志になるだけでいいです」といきなり言ってのけます。

「俺はひとりものです」と朴烈は返答しますが、文子は「同居しましょう。私もアナキストです」と手を差し出すのでした。

変な日本人だと思いましたが、朴烈の中には印象に残ります。朴烈たちは無政府主義者の朝鮮人たちで集まって日本政府の転覆を模索していました。けれども威勢はいいですが実態は空っぽ。お手製の爆弾は爆発しないし、上海からの連絡はない。ただ愚痴るだけの日々です。

夜、その場の思いつきで撲殺団だと名乗りながら、東北亜日報の初代主筆キム・ソンチョルを仲間たちと取り囲み、ロシアからのカネについて問いただします。「独立資金を横領か?」とボコボコにする。それくらいしかできません。

文子が働いている店の片隅では朝鮮人が集まり、「杉本が逃げてフランスの爆弾もダメ。鐘路警察署爆弾事件でキム・ハンが逮捕され上海計画も中断。手製の爆弾も上手くいかない」「薬局をひたすらに回って火薬を集めるのは?」「カネがないだろ」と無意味な展望を語っていました。

すると外で「アカの社会主義者ども」と絡んでくる侍風情の男が2人。それに怒った文子が熱湯を浴びせ、朴烈が包丁で追い払います。こうして文子と朴烈は関係を深め、文子は同居契約の紙を壁に貼り、一緒に生活を始めました。

定期集会で「新聞記者のチャン・ジンソンを糾弾すべきか、社会主義者を売った奴だ」と議論になり、仲間の初代が「そこまでする必要があるのかな」と提案し、懲らしめたい奴が勝手にすればいいとの結論に。実は朴烈は独自に爆弾の入手を進めており、文子は爆弾の件は聞いていないと朴烈を責めます。

9月1日。2人で家にいたとき、地震が発生。かなり大きいです。大地は裂け、建物は倒壊。庶民は大混乱に陥ります。

不安は世間を侵食し、皇居には対応を迫って人が押しかけて暴動になりそうになっていました。朴烈は嫌な予感がします。

その頃、政府は対応に迫られていました。内務大臣は「復旧よりも対策が最善です」と語り、山本権兵衛が指揮をとる中で、前内務大臣の水野錬太郎「戒厳令を発令するべきです」と提言。それは戦時や内乱が発生したときのみ発動するものでしたが、水野は「朝鮮人たちが井戸に毒を入れ、あちこち火をつけ回っている」と言い放ちます。

「それは…どういうことです?」

「誰かがそう言っていました」

「朝鮮に対して個人的に怒りや憎しみの感情でむやみに言っているのではないか」

そう言われても水野は「我々が陛下をお守りするべきです!」と頑なに主張。こうして戒厳令が発動し、朝鮮人の危険性に関する情報が街に拡散し…。

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厄災の最中にこそ残忍さが顔を出す

『金子文子と朴烈』は残酷な差別の歴史を直視させる映画であり(差別者主義者はこれを「自虐史観」と呼んで揶揄する)、当然ながらこれを加害国である日本で観るというのは全く意味が違ってきます。

本作は加害の実態を冒頭からずっと描き続けます。文字どおり足蹴にされる朝鮮人の労働者、普段から罵倒される日常…。

それが関東大震災という未曽有の大災害を機に、大衆の疑心暗鬼が生まれやすい環境が出現し、権力によるお墨付きによって、その内底で増大していた差別感情が一気に「残虐性」というかたちで具現化する。幼い子どもさえも槍で串刺しにされるその場面は、人間という存在の残酷さを突きつける悲しく惨いシーンです。

今作ではその引き金となるヴィラン的なポジションとして、朝鮮総督府政務総監という経歴を持つ水野錬太郎が登場します。わかりやすい悪役になっていますが、でもこういう政治家は正直に言って今の日本にも普通にいるでしょうし、本作で描かれた政治模様はとてもリアルだなと思いました。

政治コミュニティの中に突出して憎悪的な人物がおり、その暴走を止めることができない。日本人特有の同調圧力と義を重んじる集団統制の価値観は、大半の人を平均化して足踏みを揃える効果はありますが、ああいう水野錬太郎のような独自の暴走思想で突っ走る奴を食い止める機能としては働かないということ。

つい最近でも過激な差別発言をしていた政治家が平然と出世しており、既視感しかありません。

「自衛」という言葉で正当化したり、6000人の犠牲者数を都合よく過小評価したり、「神が地震で皇太子殿下を守ってくださった」と天皇を便利アイテムのように持ち出したり…。まあ、今の日本でも日常茶飯事です。2022年の日本の政治では、天皇制よりもマザームーンなカルトに陶酔している日本政治家たちの実情が暴露されていくばかりですが…。

そしてその日本的なシステムの問題点を誰よりもズバリ指摘しているのが朴烈や金子文子であり、それが天皇制批判にも重なってくるのですが、当の日本人たちは自分の問題点を自省できない。それが後の太平洋戦争へと突っ走るまでの動力となり、日本は最悪の敗北を経験し、おびただしい犠牲をだすのですが…。

自国を良いものにしたければ、他者の手厳しい声にも耳を傾けろという話でもありますけど…。いまだに日本はこれができない国ですね。

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朴烈の映画ではあるけれど

『金子文子と朴烈』の韓国の原題は「朴烈」を意味するもので、邦題が「金子文子」を前に出しているのは、日本要素を入れたかったのかもしれないです。その理由はさておき、基本は朴烈をメインに描きたい映画なのだろうということは立ち位置としては理解しておかないといけません。

なのでその点においては私もやや本作に不満はないわけではありません。とくに金子文子の役割ですね。今作では文子はあくまで朴烈を引き立たせる役割に徹しており、作中でも常に朴烈に付き従います。朴烈のために牢屋にも入るし、朴烈のために服も脱ぐし、朴烈のために結果的に命すらも捧げてしまう。

それを醜い権力的な差別に対する、ある種のピュアな愛の姿として、朝鮮人と日本人の美しい融和の象徴という体裁で位置づけられてしまっているのは、ちょっと安直な気がしますし、恋愛伴侶規範で綺麗にまとめすぎているとは思います。

本来であれば金子文子という人間にもひとりの明確な主体性があり、それは朴烈ありきではないはずですからね。

実際、史実の金子文子とは今作の文子はかなり違っている部分もあるのでしょう。それでも今回の文子はフィクションにおけるひとりのキャラクターとしてあまりにも魅力的に完成されており、それがまた「これはこれでいいような気にさせてしまう」というパワーを持っている。そこが困りどころで…。

やはり“チェ・ヒソ”の名演が素晴らしかったですね。判事の立松懐清と堂々と対峙する姿もいいですし、後半の裁判で文子はチマチョゴリ、朴烈は韓服のまるで結婚式のようないでたちで場を支配する、あのカリスマ性といい、この“チェ・ヒソ”版金子文子は圧倒的でした

おそらく日本の映画界では絶対に大作映画の主人公にはしないであろうこの人物たち。権力にものいう人間を描くことに躊躇する業界がいまだにあります。いや、そもそも題材として選ばないか。

今の日本で自国の加害史を創作物で学ぶには、『マルモイ ことばあつめ』やドラマ『Pachinko パチンコ』のように海外作品に頼らないといけない。その現状がとても悔しく申し訳なく恥ずかしいのですが、それでも「忘れさせてやる」という差別者の魂胆に乗っかりたくはないので、私も今後とも積極的にこういう作品の感想を残しておこうと思います。

『金子文子と朴烈』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 86%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)2017, CINEWORLD & MEGABOX JOONGANG PLUS M , ALL RIGHTS RESERVED 金子文子とパクヨル

以上、『金子文子と朴烈』の感想でした。

Anarchist from Colony (2017) [Japanese Review] 『金子文子と朴烈』考察・評価レビュー