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2022年のハリウッド映画スタジオにおけるLGBTQ表象【GLAADレポートまとめ】

プライド月間

LGBTQ(セクシュアル・マイノリティ)は映画にはどれくらい描かれてきたのか?

それに関心がある人にとって、必見のレポートが毎年公開されています。「GLAAD」による「Studio Responsibility Index(SRI)」です。

しかし、英語で公表されている90ページ近い大ボリュームのレポートで、かつ日本のメディアはあまり報道しないので、映画ファンの間でも認知度は低いです。

そこで今回はこの「GLAAD」による「Studio Responsibility Index」について、2022年の概要を日本語で私なりにまとめて紹介することにします。あくまで概要なので詳細は実際の「Studio Responsibility Index」を確認してください(ネット上で公表されています)。

「GLAAD」とは?

まず「GLAAD」が何なのか知らない人のために簡単に説明します。

「GLAAD」は、アメリカの非政府組織で、1985年に設立されました。1980年代に巻き起こったHIV/エイズパンデミックの際に、一部のメディアがセンセーショナルに「エイズはゲイの病気」であるかのように報道するという状況があり、それに抗議するために「GLAAD」が生まれたのが始まりです。

当初は「Gay & Lesbian Alliance Against Defamation」という組織名でしたが、ゲイやレズビアン以外のセクシュアル・マイノリティも包括するために「GLAAD」が正式な名称となりました。

現在、「GLAAD」はメディアやエンターテインメント業界に対して最も影響力のあるロビー活動を展開しています。具体的には、メディアやエンターテインメント業界にて起きているLGBTQに関する問題を指摘するなどモニタリングを実施しています。また、LGBTQに関する監修や考証などの専門的なコンサルティングを提供することもあります。「GLAAD Media Awards」という賞を与える催しも行っています。

「Studio Responsibility Index」とは?

「GLAAD」は毎年、その1年のLGBTQに関するメディアの現状を総括してまとめたレポートを各種公開しています。

その中のひとつが「Studio Responsibility Index」です。

「Studio Responsibility Index」は簡単に言えば、その1年の中で映画にどれくらいLGBTQが描かれてきたのかを集計して評価したレポートです。

全ての映画を対象にすることはさすがにできないので、ハリウッドの主要な映画スタジオ10社である「A24」「Amazon」「Apple」「Lionsgate」「NBCUniversal」「Netflix」「Paramount」「Sony」「Disney」「Warner Bros. Discovery」を対象にしています。

あくまで映画を対象しています。ドキュメンタリー映画やアニメーション映画も含まれます。また、ストリーミング配信された映画も範囲内です(2022年の映画から)。しかし、ドラマシリーズやアニメシリーズは映画ではないので対象外です。

毎年、前年の映画の状況をまとめた「Studio Responsibility Index」が公開され、2023年も2022年を扱った「Studio Responsibility Index」が公表されました。

以下に詳しく内容を紹介していきます。

全体の概要(割合・性別・人種など)

2022年の「Studio Responsibility Index」では、対象となった映画の総数は「350」でした。

ここからどれくらいのLGBTQ表象があるのかを集計しています。

当然ながら「この作品にはLGBTQが描かれている/描かれていない」と「GLAAD」側が評価しても、別の視聴者には「いや、描かれていないのでは?」「描かれているでしょ」と各々で感じることもあります。「GLAAD」は、演じた俳優のアイデンティティに基づいてそれらのキャラクターをカウントすることはなく、一般に認知されている文化的要素でのみ判断しているとのことです。いずれにせよ、これが“正解”ではありませんので留意してください。

なお、ほんの一瞬、背景で映っただけといったキャラクターはカウントされません。

また「GLAAD」は「Vito Russo Test」と呼ばれる独自の評価方法を実践しています。これは、女性キャラクターが物語の中でどのように描写されているかを検査する「ベクデル・テスト」からインスピレーションを得たもので、LGBTQキャラクターが映画にどのように含まれているかを分析するための独自の基準です。名称は、LGBTQ表象をまとめた名著『The Celluloid Closet』で有名な“ヴィト・ルッソ”に由来しています。

「Vito Russo Test」には以下の基準があります。
①LGBTQと特定できる人物が含まれている。
②性的指向や性同一性ありきではない、ユニークな個性を持っている。
③プロットにとって意味のあるキャラクターである。
④ステレオタイプな偏見で描かれてはいない。

2022年の映画「350」のうち、LGBTQのキャラクターが認められた作品の数は「100」、割合では「28.5%」でした。これは「GLAAD」が調査を実施するようになった11年間で記録された最高の数と割合です(ただし集計方法などが変わっている点には留意が必要です。2021年は7つの映画スタジオで評価し、77の映画のうち16作品、20.8%にLGBTQキャラが確認されたと報告していました)。

2022年の映画では「Vito Russo Test」に合格した映画は全体の22%(LGBTQ映画100作のうちで77%)でした。2021年の12%(LGBTQ映画16作のうちで56%)と比べると向上しています。

LGBTQキャラクター数は「292人」。このうち、163人男性119人女性10人ノンバイナリーでした。女性キャラクターのうち7人、男性キャラクターのうち6人トランスジェンダーでした。この292人の半数以上(56%)で、スクリーンに映る時間は5分未満でした。依然として女性の割合は少ないのがわかります。

55作品(55%)ゲイ男性45作品(45%)レズビアン女性21作品(21%)バイセクシュアル+12作品(12%)トランスジェンダー17作品(17%)にラベル特定できないクィアなキャラクターが含まれていました。バイセクシュアル+の表象は実際の現実の人口割合と比べると少ないです。トランスジェンダーの表象は増加傾向にありますが、まだまだ不足しています。アセクシュアルの明確な表象はひとつもありませんでした。

「バイセクシュアル+」というのは、バイセクシュアルのみならず、パンセクシュアルなど、複数の性別/ジェンダーに惹かれる人を包括するラベルです。

有色人種は117人(40%)。白人が173人(59%)に対して、黒人50人(17%)ラテン系17人(6%)API(Asian/Pacific Islander:アジア・太平洋諸島系)は26人(9%)マルチレイシャルの人は19人(7%)MENA(Middle East & North Africa:中東・北アフリカ地域)は3人(1%)先住民2人(1%)でした。2020年時点でアメリカのラテン系の人口割合は18%と言われているので、それと比べるとラテン系LGBTQキャラは少ないのがわかります。

LGBTQキャラクターが登場するジャンルとしては、44%「コメディ」40%「ドラマ」22%「ホラー」21%「アニメ(ファミリー)」16%「ドキュメンタリー」16%「アクション/SF/ファンタジー」でした。

11人(4%)のLGBTQキャラクターが何かしらの障がい者であるとカウントされました。これはこのレポートの過去最高の記録ですが、実際の人口を依然として大幅に下回っています。HIVとともに生きているキャラは1人だけでした。

スタジオごとの評価

次に映画スタジオごとの評価を見ていきましょう。

「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」では、単純にLGBTQキャラクターが描かれていたかという有無だけではなく、その量や質、多様性なども評価項目として、映画スタジオに「Excellent」「Good」「Fair」「Insufficient」「Poor」「Failing」の6段階評価を与えています。

2022年の結果は以下のとおりです。

A24
14作品中でLGBTQ映画は5作(36%
評価 – Good
Amazon(アマゾン)
35作品中でLGBTQ映画は12作(34%
評価 – Fair
Apple(アップル)
11作品中でLGBTQ映画は2作(18%
評価 – Poor
Lionsgate(ライオンズゲート)
6作品中でLGBTQ映画は1作(17%
評価 – Failing
NBCUniversal(ユニバーサル)
37作品中でLGBTQ映画は9作(24%
評価 – Good
Netflix(ネットフリックス)
107作品中でLGBTQ映画は24作(22%
評価 – Fair
Paramount(パラマウント)
24作品中でLGBTQ映画は7作(29%
評価 – Fair
Sony(ソニー)
38作品中でLGBTQ映画は8作(21%
評価 – Insufficient
Disney(ディズニー)
59作品中でLGBTQ映画は24作(41%
評価 – Good
Warner Bros. Discovery(ワーナー)
19作品中でLGBTQ映画は8作(42%
評価 – Insufficient

2022年は「A24」「NBCUniversal」「Disney」の3つのスタジオが「Good」評価を得るというかつてない快挙を遂げました(それでも「Excellent」評価はひとつもないですが…)。

「A24」は2022年から始めて集計されるようになり、アカデミー作品賞を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を始め、スタジオ自身もLGBTQ慈善活動に積極的だったりと、いきなりの高評価スタートをきり、さっそくLGBTQ表象のリーダー的なポジションが可視化された結果となりました。

「NBCUniversal」は、物議を醸す主人公を描く『TAR ター』から、クィアネスに溢れる『Bros』、クィアが死なないというジャンルの中では異例な『NOPE ノープ』など、多彩なLGBTQ映画が揃っていました。クィアな人物が脇役ではなく主演だったことが評価の高さに繋がっています。

「Disney」はかつては消極的でしたが、今では子ども向けという最も表象が難しいフィールドでLGBTQ映画を送り出そうと努力しており、『ストレンジ・ワールド もうひとつの世界』などその成果が2022年は実りつつありました。『ファイアー・アイランド』『クラッシュ 真実の愛』などのストリーミング作品も豊富でした。このまま落ちこぼれから優等生へと変身できるのか…。

一方で、評価の低いスタジオの原因は何なのでしょうか。

「Warner Bros. Discovery」は、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』という大作でゲイを描くも、トランスフォビアで知られる原作者”J.K.ローリング”にカネを与えたり、はたまたクィアなキャラクターの登場が期待されていた『Batgirl』をお蔵入りしたり、そうしたスタジオのマイナス姿勢が評価を下げたと思われます。

「Sony」も評価は低いです。「Sony」は「Crunchyroll」というアニメ専門の配信サービスを持っており、そこでLGBTQ映画があれば評価は大きく上がったと思われますが、1作もありませんでした(クィアなアニメ・ファンは少なくないので期待されているだろうに)。

最低評価となったのは「Lionsgate」で、同性愛をジョークのネタに使った程度でした。

具体的な映画ごとの評価は「Studio Responsibility Index」内の各スタジオのページで確認できます。

課題

2022年はLGBTQ表象(レプリゼンテーション)は着実に増加し、全体的にこれまでの中でも最良の傾向が観察できたわけですが、しかし、LGBTQ表象にとって明るい話ばかりではなく、なおも大きな課題も報告されています。

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ほのめかしなどの曖昧な表現

昔からずっと指摘され続けている問題点ですが、LGBTQを明確に描くのではなく、“ほのめかす”程度の曖昧な表現にとどめているキャラクターが2022年も目立っていました。

とくにエンターテインメントな大作映画で顕著で、『THE BATMAN ザ・バットマン』『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』『ソー ラブ&サンダー』『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』など、アメコミ映画は“ほのめかし”ばかりです。

別に「必ずキスしろ」とか、「ラベルを名乗れ」と言っているわけではないですが、ただこうした“ほのめかす”程度の曖昧な表現の多用は表象としては失望することが多いです。

映画を作るクリエイター自身はLGBTQ表象に積極的なモチベーションを持っていたとしても、スタジオの上層部がそれを良しとせず、編集で抑制してしまうなどの背景が推察されます。

些細なサブテキストありきではなく、しっかりと明白に大作映画でLGBTQを描けるのか。今後も注視していかなくてはいけません。

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作品のキャンセル(配信停止)

各スタジオが動画配信サービスに乗り出し、競争が激化した結果、収益性を重視し始めるフェーズに入り、ストリーミングからコンテンツを削除する動きが活発化し出しています。LGBTQ作品はその削除のターゲットにされやすいです。

2022年もLGBTQコンテンツがストリーミング・サービスから削除された事例がいくつもありました。「Disney+」「Hulu」「Max」から消えていった映画たち。なお、ある調査によれば、最も作品をキャンセルしまくっている動画配信サービスはワーナーの「Max(旧HBO Max)」だそうですThe Mary Sue

スタジオ各社は視聴率などで動画配信サービス上の作品の価値を評価しているようですが、それでいいのか。映画は観られ続けることに意味があります。観られなくなってしまったら、その映画は存在しないのと同じです。LGBTQ表象の保存という責任を各スタジオは背負っていくべきでしょう。

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LGBTQ表象に対する攻撃・誹謗中傷

非常に残念な話ですが、LGBTQ表象を歓迎しない人たちがこの世には一部に存在します。

そうした人たちが、LGBTQ作品、その出演者、もしくはスタジオを攻撃する事態も頻発するようになっており、LGBTQ表象を取り巻く安全性は損なわれています。「ポリコレ(woke)だ!」などという言いがかりに始まり、陰謀論に発展し、執拗に誹謗中傷を続ける人は後を絶ちません。

しかし、それは本当に一部の過激化した反LGBTQ運動にすぎません。

GLAAD」でも、アメリカの成人の半数が映画やテレビでトランスジェンダーやノンバイナリーのキャラクターを見るのが好きだと答えており、アメリカの成人の42%が自分たちが見るコンテンツにLGBTQコミュニティを代表するキャラクターが含まれていることが重要であると考えているという調査結果を紹介しています。「GLAAD」の調査によると、非LGBTQ成人の10人中7人が、企業はLGBTQコミュニティを公的に支援すべきだと考えており、さらにアメリカ米国の18~34歳の雇用者は、LGBTQの権利の拡大と保護を公に支援することを表明している企業で働きたいと考える可能性が5倍高くなると報告されています。LGBTQ表象が充実すればするほど、スタジオにとってもメリットです。

「GLAAD」のトップである“サラ・ケイト・エリス”は、「ハリウッドは包括的なストーリーテリングとマーケティングを改善するために人材とリソースに投資し、スタジオ配給会社が自社のブランドとプラットフォームの力を利用して差別や憎悪に対して立ち向かう味方になれると保証することでその取り組みを深めていかなければならない」と述べています。


以上、「GLAAD」の「Studio Responsibility Index」の概要のまとめでした。

私が独自に2022年のLGBTQ作品を振り返った記事も以下に紹介しておきます。