優良物件かは保証いたしかねます…映画『ホーンテッドマンション』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年9月1日
監督:ジャスティン・シミエン
ホーンテッドマンション
ほーんてっどまんしょん
『ホーンテッドマンション』あらすじ
『ホーンテッドマンション』感想(ネタバレなし)
あの屋敷がまた入居者希望中
数あるディズニーのテーマパークのアトラクションの中でも、個性派なひとつが「ホーンテッドマンション」です。
「ホーンテッドマンション」はいわゆる「お化け屋敷」系のアトラクションですが、怖いのが苦手な人でもわりと平気。なぜならコミカルな世界観となっており、エンターテインメント寄りなファミリー向けホラーですから。一方で、家族向けであってもチープではなく、実は演劇や映画に駆使される特殊効果が散りばめられていて、マニアックな作りにもなっていることもあり、根強いファンを獲得してきました。
この「ホーンテッドマンション」が最初に登場したのは1969年。開発は難航し、オープンまでかなりの苦労があったことは「Disney+(ディズニープラス)」で配信されているドキュメンタリーでも語られています。
でも苦労のかいあって、このアトラクションは唯一無二の面白いコンセプトを我が物にできました。欠かせないのが「ホーンテッドマンション」のストーリーです。
999人の亡霊が住んでいる屋敷という設定になっていて、亡霊たちは館に訪れるゲストを1000人目の仲間に迎えようと狙っており、屋敷の住人含めてバックグラウンドがしっかりあります。着想のネタ元は「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」なんでしょうけど、「ホーンテッドマンション」はそれをさらに親しみやすくした感じですね。
そんな「ホーンテッドマンション」ですが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003年~)の大成功から、ディズニーは自社パークのアトラクションの実写映画化に執心しており、最近も『ジャングル・クルーズ』(2021年)があったばかり。
この「ホーンテッドマンション」も2023年に実写映画化となりました。
それが本作『ホーンテッドマンション』です。
ただ、このアトラクションは映画化されるのはこれが初めてではありません。2003年に“エディ・マーフィ”主演で『ホーンテッドマンション』というタイトルで映画化済み。さらに2021年には『マペットのホーンテッドマンション』というマペット版も製作されており、こちらは私も大好きです。
今回の2023年の『ホーンテッドマンション』はリブートということになります。なんでも元々は“ギレルモ・デル・トロ”が企画を進めていて、結局、その企画は潰れて、新しく再始動したのが本作のようです。“ギレルモ・デル・トロ”版、観たかったな…。
2023年の『ホーンテッドマンション』を監督することになったのは、“ジャスティン・シミエン”。2014年に『ディア・ホワイト・ピープル』で鮮烈にデビューし、2020年に『バッド・ヘアー』というホラーも手がけた注目の監督のひとりです。とは言え、脚本は“ジャスティン・シミエン”ではないので作家性は抑え気味かな。
では脚本を任されたのは誰かといえば、2016年の“メリッサ・マッカーシー”主演の『ゴーストバスターズ』や『クレイジー・バカンス ツイてない女たちの南国旅行』のシナリオを手がけた“ケイティ・ディポルド”です。
コミカルが売りのアトラクションということもあって、今回の俳優陣も負けじととても賑やか。
『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』の“ラキース・スタンフィールド”、ドラマ『アソーカ』の“ロザリオ・ドーソン”、『マリー・ミー』の“オーウェン・ウィルソン”、ドラマ『アフターパーティー』の“ティファニー・ハディッシュ”、『バットマン リターンズ』の“ダニー・デヴィート”、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の“ジェイミー・リー・カーティス”など。
それにしてもこの映画『ホーンテッドマンション』、なんでハロウィンのシーズンに劇場公開しなかったのだろうか…。タイミング、間違ってる気がする…。
あと、本作を観て「アトラクションにも乗りたくなってきたな!」と思った人もいるでしょうけど、残念ながら日本のディズニーランドの「ホーンテッドマンション」は2023年は8月10日から9月13日まで休止しているので注意してください。こっちもタイミング、悪すぎる…。
『ホーンテッドマンション』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :アトラクション好きなら |
友人 | :気軽にエンタメ満喫 |
恋人 | :ホラー苦手でも見やすい |
キッズ | :極端に怖いシーンはない |
『ホーンテッドマンション』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ようこそ、幽霊屋敷へ
ベン・マティアスは新年パーティでアリッサという女性に出会い、一目惚れします。ベンは物理学者で、目に見えない暗黒物質を検出するカメラを独自に開発しているような科学の世界の人間です。対するアリッサは心霊現象ツアーガイドをしており、まるで正反対でした。ベンは幽霊には半信半疑ですが、アリッサには夢中なので、そんな立場の違いも気になりませんでした。
しかし、年月が経過。ベンはバーで打ちひしがれていました。アリッサは亡くなったのです。
今のベンはアリッサの幽霊ツアーを引き継いでおり、外へ出れば、変な眼鏡と帽子で衣装を決め、半ばヤケクソで仕事をしていました。心中は複雑で、ときにツアー客相手に感情的になってしまうこともあります。
ところかわって、ニューオーリンズの夜、立ち入り禁止と書かれた屋敷の前に車が1台やってきます。夫を亡くしたばかりの医師ギャビーとその息子トラヴィスです。このグレイシー邸を破格の安さで手に入れ、引っ越してきたのでした。
扉はひとりでに開いたような気がしましたが、トラヴィスは埃っぽい屋敷へと足を踏み入れます。外観以上に内装も不気味です。家具などはそのまま。
懐中電灯には不気味な絵画が照らされ、怖かったのでトラヴィスはそれを布で隠します。でも何か気配を感じ、半透明な幽霊を目撃し、パニックに。
急いで母に報告するも、子を落ち着かせるギャビー。しかし、背後の甲冑が颯爽と追いかけてきて、2人はたまらず急いで外へ避難します。車のエンジンをかけ、一目散にその場を去り…。
一方、ベンは司祭だと名乗るケント神父の訪問を受けていました。なぜか猫を抱えていて、明らかに変人です。何度も帰らせようとしますが、相手も引き下がりません。なんでもある屋敷に幽霊がいるので、開発したカメラで撮影してほしいというのです。
奥の部屋からカメラを取り出し、アリッサの記憶を思い出しながら、ベンはとりあえず向かうことにします。
屋敷へ到着すると、ギャビーが玄関で出迎えてくれます。なぜか屋敷内に一歩を踏み出そうとするの止めてきますが、それでも中へ。
ギャビーと息子のトラヴィスの様子はおかしいです。甲冑に怯え、廊下でも挙動不審。カメラを向けて、仕事している感じをだしますが、ベンにはさっぱりでした。
ベンは家に戻りますが、何かここでもおかしいことに気づきます。カメラをソファに向けて撮ると、そこにはぼんやりと何かが映っている画像が…。もう一度試すも、やはり何かいるのか、気のせいか、わかりません。
ところが、ベッドで寝ていると、ドアがガタガタと揺れ、開けるとなぜか大しけの海。大量の水で押し流されてしまい、これは異常だと嫌でも痛感しました。
そして屋敷に戻り、問い詰めます。ケントもそこにいて、この屋敷の異変を知ることになります。
これは自分では対処できない…。そう考えて、お化け屋敷の歴史家であるブルース・デイヴィス教授や、霊媒師のハリエットを助っ人に考えます。
こうしてこの謎の屋敷の秘密を解くことはできるのか…。
クラシック、それでいて今の子どもにも
ここから『ホーンテッドマンション』のネタバレありの感想本文です。
前述したとおり、アトラクションとしての「ホーンテッドマンション」は世界観がかっちり決まっており、あまりそこを変更できません。なので必然的にあの屋敷や幽霊ではなく、その屋敷に訪れるゲストのキャラクター設定をいじくり回すことで、オリジナリティをだすしかないです。
2003年版の『ホーンテッドマンション』は“エディ・マーフィ”というウルトラカードで一点突破していましたが、今作の2023年版の『ホーンテッドマンション』はアフリカ系俳優のリードという点では同じですが、多彩なアンサンブルで攻めるというチーム戦になっているのが特徴。
屋敷に引っ越してきた平凡な家族だけでなく、天体物理学者、霊媒師、歴史学術者と顔触れは個性豊かで、こうした若干の「専門家らしいけど大丈夫?」みたいな人たちの集合知で、この心霊難局を乗り越えていくという基本軸があります。
このスタイルは『ゴーストバスターズ』などでもおなじみですが、やはりその原点は1963年に“ロバート・ワイズ”が監督した『たたり』(原題は「The Haunting」)です。とある死がこびりつく邸宅に超常現象調査のグループがやってきて…というこの映画のプロットは、スタンダードな定番を築き上げました。少し出だしは違いますが、1959年の“ウィリアム・キャッスル”監督の『地獄へつゞく部屋』も屋敷に複数の人が招かれ、そこで心霊的な現象に遭遇し、謎を解明する…という類似性があります。
2023年版の『ホーンテッドマンション』に話を戻すと、“ジャスティン・シミエン”監督はこのジャンルをクラシックな王道のままに現代らしく再構築しており、今の子どもが最初に触れるホラーにぴったりではないでしょうか。
これだけの芸達者な俳優が揃えばその掛け合いも面白いです。“オーウェン・ウィルソン”、“ティファニー・ハディッシュ”、“ダニー・デヴィート”の3バカが並んでボケ倒しまくれば、それはもうツッコミも追いつきません。
なお、終盤でヴィラン的に登場するアリスター・クランプ(ハットボックスゴースト)を演じているのはまさかの“ジャレッド・レト”であり、こちらもふざけていないのに妙にシュールな感じが漂っていました(あなたついこの間まで吸血鬼だったでしょうに…)。
“ロザリオ・ドーソン”がこのメンツに囲まれながら、しっかり食いついていて、なんだか新鮮ではありましたが…。
こんな天体物理学者、本作ならあり
そして忘れてはいけない、2023年版の『ホーンテッドマンション』の主役を飾る“ラキース・スタンフィールド”。相変わらずカッコいい俳優ですが、二枚目ながらも独自のスタイルを確立していて、それは今作でも光っていました。
基本的に本作で“ラキース・スタンフィールド”演じる主人公のベンは、冒頭でアリッサという女性と短いながらも恋仲になり、終盤でギャビーを意識し始めるような展開もあり、異性愛者として行動は受け取れるのですけど、そのルックというか、存在感自体は妙にゲイっぽさというかキャンプな感じがありますよね。
“ジャスティン・シミエン”監督自身がゲイ当事者なので、意識せずとも滲み出てしまったのかもしれませんが、「こんな天体物理学者、いるか?」ってくらいにハッチャけていますし、どう考えても心霊ツアーのほうがマッチしている気がする…。
作中ではしょうもないギャグに思わず笑ってしまったり、愛嬌のある頭でっかちではない人間としてユーモラスに命を吹き込んでいました。
命を吹き込むといえば、本作の素晴らしいセットも印象的。徹底的に作り込まれたあの屋敷は、やはりこの映画だけのセットで終わらせるのはもったいないですね。役者もあれだけ本格的なセットの中で演技するのは楽しいでしょう。ディズニーはもっと映画で使用したセットをそのままテーマパークで遊びに行けるみたいにすればいいのに…。
その2023年版の『ホーンテッドマンション』ですが、アトラクション特有のストーリーにこのアンサンブルなキャストを混ぜ合わせるという試み自体は面白いですけども、完璧な調合に成功したとは言い難い出来栄えだったかなとも思いました。
とくに後半になればなるほど、雑さが目立ち、何よりもずっと屋敷に閉じ込められるわけでもないので、そんなに緊迫感もありません。舞台を移動しすぎという問題はややノイズが大きいです。
ベンの喪失感とトラヴィスの喪失感の共鳴という終盤のドラマのピークは用意されているものの、そこにずっとフォーカスしていたわけでもないので、そんなに心動かされる感じもなかったかな。
伝説の霊媒師マダム・レオタなど、このアトラクション固有のキャラクターをもっと独自性をだして掘り下げる方が面白かったのではないかと思わなくもないです。
それでも2023年版の『ホーンテッドマンション』はホラー映画にもアトラクションにとっても最初の入り口になる役割は果たせたので、それでとりあえずは良いのでしょうかね。
あとはディズニーは、ちゃんと労働者に適切な賃金を払い、雇用の尊厳を守ってください。「作品を作りすぎたから減らそうかな」なんて経営トップがもっともらしくチラつかせて、労働者の収入や雇用機会を奪う大義名分としてアピールしているようでは、そんなことするやつは確実に地獄行きです。
幽霊だってストライキしますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 38% Audience 84%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. ホーンテッド・マンション
以上、『ホーンテッドマンション』の感想でした。
Haunted Mansion (2023) [Japanese Review] 『ホーンテッドマンション』考察・評価レビュー