ソニーズ・スパイダーマン・ユニバースは貧血気味…映画『モービウス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年4月1日
監督:ダニエル・エスピノーサ
恋愛描写
モービウス
もーびうす
『モービウス』あらすじ
『モービウス』感想(ネタバレなし)
吸血鬼とは言ってはいけない時代からやってきました
人間の体内にはどれくらいの量の血液が流れているか知っているでしょうか。
日本血液製剤協会によれば、体重の約8%が血液だそうで、単純計算だと体重60kgの人には約5L弱の血液が流れているそうです。この全血液量の約20%以上が短時間で失われると出血性ショックを引き起こします。そう考えると血液ってすごく貴重な存在に思えてきますね。血は命の源です。
そんな血ですが、血だけを積極的に食していこう!という文化はあんまりポピュラーでない気がします。もちろん肉を食べていれば多少の血も摂取することになりますけど、血にこだわることは珍しいです。スーパーマーケットの売り場の牛乳パックの横に血のパックとか売ってないですもんね。宗教的にタブーになっている場合もありますが、そうでなくとも血を飲むというのはなんか嫌なイメージがある…。これはなぜなんでしょうね(教えて、誰か)。
その血をゴクゴク飲む存在と言えば、ヴァンパイア(吸血鬼)です。これまでいくつものヴァンパイアを題材にした映画やドラマを私も観てきましたが、ヴァンパイアは血を飲む以外にもキャラクター性がかなり濃いので個性の強い作品が生まれがち。
そんな中、ハリウッド映画界で覇者となっているアメコミ映画もヴァンパイア映画に進出です。
それが本作『モービウス』。
アメコミ映画でヴァンパイアものと言えば、3作品も連続で作られた『ブレイド』シリーズがありましたが、この『モービウス』はもっと一般の人がイメージするヴァンパイアのビジュアルに近いです。といってもヴァンパイアもどきみたいなもので、日光も十字架も平気なのですけど…。ヴァンパイアじゃないの?と混乱するかもですが、これには面倒な歴史があって…。
実はアメコミでは昔は吸血鬼を描くことが「コミックス倫理規定委員会」という組織が定める「コミックス倫理規定(コミックス・コード)」によって規制されていました(その歴史は『マーベル75年の軌跡 コミックからカルチャーへ』というドキュメンタリーを参照)。過激な暴力描写は禁止となり、「歩く死者、拷問、吸血鬼および吸血行為、食屍鬼、カニバリズム、人狼化を扱った場面、または連想させる手法は禁止する」とハッキリ明記されてしまいました。
しかし、マーベル・コミックの編集主幹であった“スタン・リー”はこの業界自主規制に毅然と反抗。そこでなんかヴァンパイア風な性質があるけど設定上はヴァンパイアではない「モービウス」というキャラクターを登場させて、当時の規制をおちょくるように回避したのです。
モービウスは「スパイダーマン」の敵として登場したのですが、ついに映画で描かれるときがきました。そして本作『モービウス』は「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(Sony’s Spider-Man Universe; SSU)」を構成する一作であることも忘れるわけにはいきません。今の皆さん馴染みのマーベル映画は「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」ですが、スパイダーマンの映画化権を持つソニーはスパイダーマンに登場するキャラクターで成り立つ独自のユニバースを開始させ、それがこのSSUです。SSUの第1弾は2018年の『ヴェノム』であり、第2弾はその続編の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』。本作『モービウス』は第3弾となります。
ただ、ややこしいのはこのSSUとMCUはマルチバース展開によって微妙に世界観が繋がっており、それは『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』と『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』でも示唆されたとおり。『モービウス』ではどうなるのか?…そこも見どころ。
といっても本作『モービウス』は単独で楽しめる映画なので、他の作品を気にする必要は基本はありません。ヴァンパイア(そうは言っていない)が暴れまくる映画だと思えばいいです。
その主人公のモービウスを演じるのは、『ハウス・オブ・グッチ』でも変人演技に気合い入りすぎて逆に変じゃないかとツッコまれた“ジャレッド・レト”。2016年のDC映画『スーサイド・スクワッド』で「ジョーカー」を演じたけど事実上クビみたいになって、今度はマーベルに鞍替えです。今作では血を飲みまくりですが、ちなみに“ジャレッド・レト”本人はヴィーガンです。
共演は、ドラマ『ドクター・フー』で11代目のドクターを熱演して話題となった“マット・スミス”、『6アンダーグラウンド』の“アドリア・アルホナ”、ドラマ『チェルノブイリ』の“ジャレッド・ハリス”、『ワイルド・スピード』シリーズの“タイリース・ギブソン”など。
監督は『チャイルド44 森に消えた子供たち』や『ライフ』を手がけた“ダニエル・エスピノーサ”です。
とりあえず「どう考えてもこんな吸血鬼ルックな医者はいないだろ!」と言いたくなるような“ジャレッド・レト”を眺めに『モービウス』を鑑賞してみませんか?
『モービウス』を観る前のQ&A
A:特にありません。しいていえば『スパイダーマン ホームカミング』を観ておくと良いことがあるかもしれません。
オススメ度のチェック
ひとり | :吸血鬼映画が好きなら |
友人 | :気軽にエンタメをどうぞ |
恋人 | :趣味が合うなら |
キッズ | :ダークヒーローが好きなら |
『モービウス』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):血が欲しい
コスタリカの霧深いジャングル。その奥地にヘリが着陸。降りてきたのは、2つの杖で身体を支えながら黒いローブを羽織った長髪の男、マイケル・モービウスです。彼はここで発見されたコウモリを必要としていました。自分の手のひらを刃物で切り付けて血を垂らした手を突き出すと、洞窟から一斉に大量のコウモリが出現。周囲はパニックになる中、動じないマイケル。これが人生を苦しみから解放する最後の手段になるはず…。
25年前のギリシャ。10歳のマイケルは血液の難病のせいで病院にずっといました。そこに同じ病気のルーシェンという子がやってきます。マイケルは自分のベッドの隣に来た子にはいつも「マイロ」と名付けます。ルーシェンも今日からマイロです。2人の子どもは普通になって同年代の子と変わらない生活がしたいという願望を抱えつつ、その辛さに耐えていました。いつか絶対にこの自分たちの体を治してみせる…。
現在、マイケルは高い評価を受ける医者となっていました。しかし、彼が欲しいのは賞ではありません。自身の血液の難病を治す方法です。その準備は整いました。研究室には捕獲した大量のコウモリが入ったカプセル。同僚のマルティーヌ・バンクロフトと研究を重ね、このコウモリから血清を生み出します。
ひとまずその血清を実験用マウスに注射すると、そのマウスはもがき苦しみ、動かくなりました。失敗なのか…。しかし、マウスは起き上がり、成功を予感させます。
そして次の段階に進みます。マイケルは自分に血清を打つことにしたのです。痙攣しつつも、なんとか生命は維持。しかし、ふとマルティーヌが目を離すと椅子に固定していたはずのマイケルがいない…。
何か不気味な気配を感じる中、いきなり人を襲い出す存在が出現。唸り声をあげ、完全に豹変したマイケルでした。武装したチームを高速で動きながら圧倒し、鋼鉄の扉もぶち破り、民間傭兵船のこの場所を制圧。
落ち着きを取り戻したマイケルは、監視映像を確認し、変わり果てた自分に驚愕します。
医療施設に戻るも、血が欲しくてたまらない感覚に抗えず、輸血用の血液を飲み干すマイケル。ひとまず自分を分析することに。驚異的な身体能力は常時発揮できるようで、それだけでなくまるでコウモリのようなエコロケーションも会得していました。
このまま人間性を捨てて血に飢えた怪物として生きるのか、それとも死を選ぶべきか。運命の決断に悩む中、マイロはその血清に価値を見出し、自分も試したいと言い出します。
そして友情は大きく引き裂かれることになり…。
怖い顔をしているけど怖くはない
『モービウス』は映像のクオリティは当然ながら大作映画として一級品ですし、エンターテインメントとしても必要最低限は詰まっています。なのですが、個人的には全体的に作り込みというか、作品の企画自体が甘いのではと思わせる部分も多く、やや期待に応えきれない映画だったかなと…。
本作は吸血鬼映画とヒーロー映画の2つの観点で見れます。
まず吸血鬼映画として。本作は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』や『ナイトティース』みたいに人間社会の闇夜で人知れずに生きている吸血鬼たちを描くタイプの作品ではありません。そもそも本作のそれは吸血鬼ではなく、血清を打ったことによる異常変化のようなものであり、吸血鬼が普通にいる世界観なのかはわかりません(原作のマーベルの世界観では吸血鬼は普通にいる)。
本作はいわゆる能力覚醒モノであり、あくまでモービウス個人にスポットがあたり、能力に最初は翻弄されつつ、愛する者を失うという定番イベントをこなしつつ、エンディングで能力を受け入れる…というオチ。まあ、ものすっごくベタです。
ただ、さすがにもっとその後の展開が観客としては見たかったですね。これだとドラマシリーズの第1話みたいです。ここからが面白いところのはずなのに…。
また、吸血鬼映画としては本作は個性がイマイチ欠けるのも気になりました。昨今の吸血鬼映画は極端にホラーでいくか、極端にコメディでいくか、この二極化が著しいと思います。ホラーであれば最近は『ブラッド・レッド・スカイ』がとてもよくできていましたし、コメディであればやはり『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』の右に出るものはいない…。
『モービウス』であればホラーの方向性でいくのが無難だと思うのですが、全年齢の作品にしようとするあまりかホラー要素で抜きんでる恐怖演出は乏しく…。画面が暗くなったりはするけど、ホラーにはなりきらない。ときおり“ジャレッド・レト”が怖い顔を見せるだけで、あれだと顔芸みたいだし…。バイオレンスも薄く、血が鍵になる要素だけどスプラッタな血しぶきはない。
『ヴェノム』のときも思いましたけどバイオレンス描写が無いのにバイオレンスをやっている雰囲気だけだすとどうもカッコ悪いですよね(『ヴェノム』は続編でコメディ路線に走り始めたからいいけど)。
むしろ心配になってくるクレジット
『モービウス』をヒーロー映画として見た場合、本来は吸血鬼(っぽい奴)を主役としたダークヒーローは新鮮なはずなのですが、なぜかそこまでフレッシュにも感じない。むしろ既存のアメコミ映画の寄せ集めのように感じてしまう部分も…。
まずコウモリを豪快に操りながら黒い衣装で闇夜の街を飛び回るとなれば、どうしたって「バットマン」を連想しますし、ついこの間『THE BATMAN ザ・バットマン』を観たばかりですからね。
それに今作のアクションは主に高速移動をともなうものであり、これもいくつものアメコミ映画で既視感があります。この手のアクションは一発芸としては面白い映像を見せてくれますけど、VFX頼みなのでリアルなアクションの面白さで魅せるわけにはいかず、飽きがきやすいのが欠点じゃないかなとも…。
また、主人公にそんなに愛着が湧かないのもヒーロー映画としては致命的で…。今作のマイケルは最初から人間味がゼロで親近感も何もないです。同じ医者でも『ドクター・ストレンジ』は生意気なクソ医師という存在感で観客の心を掴んでいたけど…。むしろマイロを演じた“マット・スミス”の方が何倍も短いシーンで愛嬌を振りまいていましたね(こっちを主人公にした方が良かったのでは?)。
あと、血液の難病を患うという設定の扱いも不十分かなと思います。ただでさえ実際の血液の病気を抱える当事者は化け物扱いかどうかはわかりませんけど異常者とか不潔とか、そういう差別に苦しんでいるわけで…。そんな中、本作はガチで怪物になって終わりですからね…。せめてかつての自分に重なるような血液の難病に苦しむ子どもを暴力や偏見から救うというエンパワーメントがあってもいいのではないか…。それでこそヒーローであろうに…。
まあ、『モービウス』の脚本を手がけた“マット・サザマ”と“バーク・シャープレス”は、あの『ドラキュラ ZERO』『ラスト・ウィッチ・ハンター』『キング・オブ・エジプト』などのシナリオの人だからガバガバな雑さは予想がついたけど…。
最後はやっぱりクロスオーバー展開ですかね。多くのファンは予告時点でどんなサプライズがあるのだろうと楽しみにしていたはず。なにせ私たちはあのかつてないマルチバース大作の『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』を観たばかりですし…。
でも『モービウス』は予告に映っていた映像の多くは肩透かしで終わり、クレジット中に『スパイダーマン ホームカミング』のエイドリアン・トゥームス(バルチャー)がおそらく『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』で起きたマルチバース事件の余波でこちら(SSU)の世界に迷い込み、そこでマイケルと出会ってチームを組むことを提案して終わります。ヴィランのチーム「シニスター・シックス」をソニーは企画したいんだなというのはすぐに察しがつきますし、次回作は『クレイヴン・ザ・ハンター』なのでほぼ確実ですが、イマイチあの2人の目的に合致するところも見当たらず、観客としては置いてけぼりを食らう…。そう言えばこの感じだとそのチームは白人オッサンばかりになるけど、イマドキそれもどうなの…。
なんかワクワクするよりも心配になってくるクレジットのオマケシーンでした。SSUは貧血で倒れないでほしいですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 16% Audience 67%
IMDb
4.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 CTMG. (C) & TM 2022 MARVEL. All Rights Reserved.
以上、『モービウス』の感想でした。
Morbius (2022) [Japanese Review] 『モービウス』考察・評価レビュー