感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

アニメ『ハズビン・ホテルへようこそ(Hazbin Hotel)』感想(ネタバレ)…悪魔化されたあなたに捧ぐ

ハズビン・ホテルへようこそ

悪魔化されたあなたに捧ぐ…アニメシリーズ『ハズビン・ホテルへようこそ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Hazbin Hotel
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にAmazonで配信
原案:ヴィヴィアン・メドラーノ
セクハラ描写 性描写 恋愛描写
ハズビン・ホテルへようこそ

はずびんほてるへようこそ
ハズビン・ホテルへようこそ

『ハズビン・ホテルへようこそ』物語 簡単紹介

地獄の王女であるチャーリーは人口増加の一途をたどる地獄世界を救うために住民を更生させるというとんでもない企画を考案。情け容赦ない天国に駆除されてしまうくらいなら、みんなを天国に送ってあげればいいという自身のアイディアに胸が湧き踊る。でもここは地獄。いるのは相当に厄介で面倒な者たちばかり。そう上手くいくはずもない…?
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ハズビン・ホテルへようこそ』の感想です。

『ハズビン・ホテルへようこそ』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

祝「Hazbin Hotel」開業!

やっとこの日が来たか…。長かった…。

何のことかと言えば、そうです、『ハズビン・ホテルへようこそ』の本格始動です。

全ての始まりは2019年10月、1話のパイロット版のエピソードが公開されたことでした。それは『Hazbin Hotel』というタイトルのアニメーション。「VivziePop」の愛称で知られる“ヴィヴィアン・メドラーノ”のYouTubeチャンネルで公開された自主制作アニメーションです。

“ヴィヴィアン・メドラーノ”はクリエイターで、以前は『ZooPhobia』というウェブコミックを制作し、密かに一部で人気を集めていました。そんな“ヴィヴィアン・メドラーノ”がずっと世界観を温めていたのが『Hazbin Hotel』で、その片鱗は“ヴィヴィアン・メドラーノ”の初期作品にちょっとだけ顔を覗かせていました。

そんな中、ファンから資金提供を受け、『Hazbin Hotel』のパイロット版の制作を開始。ティザーが公開された時点でかなり盛り上がっていましたが、パイロット版のエピソードの配信でその人気は熱狂を呼び、この時点で相当にアツいファンダムを獲得します

私もパイロット版を観て魅了されたひとりで、“ヴィヴィアン・メドラーノ”のチャンネルのストリームを追いかけ、「早く本編が始まってくれ…!」と首を長くして待っていました。

そして世界でいろいろありすぎた約4年と3カ月が経過し、ついに『ハズビン・ホテルへようこそ』という邦題で、2024年1月に「Amazonプライムビデオ」で世界配信が始まりました。もう「ハズビンホテルはどこで見れるんだ!」と喚く必要もなし!

製作にはあの「A24」も参加し、万全です。

なにせもうファンダムは前からヒートアップしていましたからね。本編配信されればそうはもう大盛り上がりですよ。なんだか日本でもわりと一般層に話題のようで、古参ファンとしては嬉しいかぎり。

『ハズビン・ホテルへようこそ』の魅力は何と言っても強烈な世界観とキャラクター。悪魔の地獄を舞台にしており、そんな設定の作品は他にもいくらでもあるのですが、それをカートゥーンでここまでキャッチーなデザインで表現してみせた人はなかなかいないでしょう。

“ヴィヴィアン・メドラーノ”はミュージカルの大ファンで、本作も往年の名作をリスペクトしたミュージカル要素が満載です。音楽は何度もリピートしたくなる癖の強さ。

そしてここが“ヴィヴィアン・メドラーノ”作品のファンダムを支える欠かせない部分なのですが、本作はLGBTQ表象が非常に豊富という特徴があります。主要キャラのほとんどがクィアなキャラで、むしろクィアじゃないキャラのほうが少ないくらいです。なんでクィアなキャラだとわかるのかと言うと、本編公開前からストリームで“ヴィヴィアン・メドラーノ”本人が「このキャラは○○で…」と説明しているからです。

これはバイセクシュアルを公表しているエルサルバドル系アメリカ人の“ヴィヴィアン・メドラーノ”の作家性と言えると思いますが、当然のようにクィア表象に溢れているだけでなく、同時にそれはこの物語の根幹を成していて、そのクリエイティブなエッジの効かせ方が上手いんですよね。単に過激さが売りのアニメではないのです。

どういうことかは後半の感想で、あまり熱くなりすぎないように自制しつつ語りたいと思いますが、ともあれ「こんな作品が見たかった!」という想いに答えまくってくれる世界だということ。

『ハズビン・ホテルへようこそ』の本編シーズン1は全8話。それを観る前にパイロット版の視聴を強くオススメします(物語も繋がっているので)。世界観にハマったら、スピンオフのシリーズである『Helluva Boss』もYouTubeで公開されているのでそちらもどうぞ。

スポンサーリンク

『ハズビン・ホテルへようこそ』を観る前のQ&A

✔『ハズビン・ホテルへようこそ』の見どころ
★魅力的な世界観&キャラクター&音楽の協奏。
★クィア表象の豊富さと物語のシンクロ。
✔『ハズビン・ホテルへようこそ』の欠点
☆子ども向きではありません。
日本語吹き替え あり
清水理沙(チャーリー)/ 種市桃子(ヴァギー)/ 平野潤也(エンジェル)/ 佐藤せつじ(アラスター)/ 平林剛(ハスク)/ 松嶌杏実(ニフティ) ほか
参照:本編クレジット
作品を観れます![PR]
『ハズビン・ホテルへようこそ』
Amazonで視聴
※上のボタンをタップするとAmazonの『ハズビン・ホテルへようこそ』商品ページへ移動します。

オススメ度のチェック

ひとり 5.0:悪魔化されるあなたに
友人 5.0:紹介し合って
恋人 5.0:一緒に楽しむ
キッズ 2.0:性表現あり
スポンサーリンク

『ハズビン・ホテルへようこそ』を観る前に

↓パイロット版(実質的に第0話)【日本語版】

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハズビン・ホテルへようこそ』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(序盤):地獄を更生の場に!?

昔々、黄金の門に守られた光り輝く街「天国(ヘブン)」がありました。支配していたのは汚れなき光…善を崇拝し悪を遮断する天使たちです。

そのひとりルシファーは夢想家でした。しかし、天国の長老たちには秩序を乱す厄介者とみなされていました。彼を除く天使たちは宇宙を広げ始め、地球の塵からアダムリリスを創造。2人は対等な最初の人間でしたが、アダムが支配を望んだためリリスは逃亡。彼女の独立心はルシファーを呼び寄せ、2人は恋に落ちます。

ルシファーとリリスは画策し、アダムの新しい妻イヴに知恵の実を渡します。この呪われた果実で悪は地球への侵入に成功。新たに闇と罪の領域である「地獄(ヘル)」が生まれ、天国の秩序は砕け散りました。

罰として天国はルシファーとリリスを暗い穴の中へ。人間の残酷で邪悪な部分しか見られないようにしました。

ルシファーは夢見る意欲を喪失。リリスは声と歌で地獄の悪魔たちに力を与えました。その結果、地獄の人口は増え勢力は拡大。脅威を感じた天国は毎年地獄に軍隊を送り謀反を起こせないように罪人たちを駆除すると決定。

しかし、リリスの夢はその娘に受け継がれていました。地獄のプリンセスに…。

ルシファーとリリスの娘であるチャーリー・モーニングスターは本を読んで心を静めていました。母とは全然連絡していません。

ガールフレンドのヴァギーは寄り添ってくれ、アラスターが見せたいものがあると声をかけます。

チャーリーには夢がありました。これ以上、無駄に駆除されていく地獄の罪人が増えてしまわないために、罪人たちを更生する贖罪の迷宮「ハズビン・ホテル」を開業しようと立ち上がったのです。上級悪魔であるアラスターはその事業の支援者です。

けれどもあまり上手くいっていません。チャーリーが5日前に開業したものの、ディスってるだけの宣伝CMしか現状はありません。

ポルノスターのエンジェル・ダストはエロなら売れるぞと呑気。バーテンダーのハスクは興味なさげ。メイドのニフティはいつもどおり好き勝手。

これではどうしたら夢を実現できるのか…。チャーリーが悩んでいると父のルシファーから電話があり、天使軍のリーダーの会合に行くようにお願いされます。これはチャンスだと考えるチャーリー。天国はきっと協力してくれるはず…。地獄史上最高のハッピーデーにしてみせる…。

天国の大使館へ向かい、計画を説明しようとしますが揶揄われます。ペニスの父を自称する天界の使者のアダムは、次回の駆除を6か月後にすると計画変更を一方的に告げてきて、さらに窮地に陥ってしまいました。

これでは夢はあっけなく破綻してしまうのか…。

この『ハズビン・ホテルへようこそ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/03/09に更新されています。
スポンサーリンク

クィアな悪魔が溢れる地獄

ここから『ハズビン・ホテルへようこそ』のネタバレありの感想本文です。

『ハズビン・ホテルへようこそ』を彩る個性豊かすぎるキャラクターたち。「このデザインが好き!」とか「この性格が好み!」とか、いろいろ語りがいがあるでしょうが、ここではクィア表象に着目したいと思います。

『ハズビン・ホテルへようこそ』にはセクシュアル・マイノリティのキャラクターが非常に多いです。

主人公のチャーリー・モーニングスターはバイセクシュアルですし、レズビアンであるヴァギーと交際していてラブラブです。ヴァギーがアダムによるアウティングみたいなかたちで元天使だと判明し、一瞬チャーリーとの関係にヒビが入りますが、1話分で修復してこれまで以上に強い愛で結ばれるのがいいですね。

男娼からポルノスターに上り詰めたエンジェル・ダスト(悪魔なのにエンジェルでわかりにくいですけど、これは薬物の名称ですね)は、ゲイで、卑猥なトークは日常茶飯事。そんなエンジェル・ダストは頭がテレビなヴォックス(こちらはバイセクシュアル)が仕切るヴォックス・テック社のポルノスタジオの責任者であるヴァレンティーノ(こちらはパンセクシュアル)と、契約という体裁ながら実質的には職場ハラスメント的な従属関係にあります。

エンジェル・ダストは「ADDICT」というミュージックビデオも公開されているのですが、シーズン1の第4話でも描かれたとおり、有害な人間関係に苦しんでいます。同じく依存症で人生を失墜させた過去がある元オーバーロード(上級悪魔)のハスク(こちらはパンセクシュアル)と「Loser, Baby」という曲で、自分の負い目を振り切る展開が本当に良いシーンでした。

そのエンジェル・ダストの悪友であるチェリー・ボムはバイセクシュアル。そのチェリー・ボムにシーズン1の最終話で愛の告白をする小憎らしいけど愛嬌のあるサー・ペンシャスもバイセクシュアル。

『ハズビン・ホテルへようこそ』は全体的にセクシャルな語り口が多用されがちですけど、そんな中でもそうじゃないキャラもいて、その筆頭が本作でもカギを握る重要な存在であろう、ラジオ・デーモンことアラスターです。

アラスターはアセクシュアル・アロマンティックということになっており、作中でも第7話で、人食い族の上級悪魔のロージーからさりげなく「ace(エース)」と言及されるセリフがあります(「Ace」はアセクシュアルの当事者コミュニティでよく使われる自らの愛称です)。

『ハズビン・ホテルへようこそ』はLGBTQ表象が豊富というだけでなく、クィア・カルチャーの捉え方もツボを押さえており、巧みです。また、クィアだけでなく、全体として動物をモチーフにしたキャラで揃えており、そうしたさまざまな需要をがっしり掴めるのが、本作の刺さる人にはクリティカルヒットするパワーなんじゃないでしょうか。

スポンサーリンク

シーズン1:悪魔化されたクィアが世界に歌う

『ハズビン・ホテルへようこそ』はこれらのキャラクターがセクシュアル・マイノリティであることをとくに物語上で押し出しているわけではなく、それをエキセントリックな“意外性”のオチとして利用もしていません。自然に盛り込まれています。

一方で、先ほども書いたように本作はクィア・カルチャーの捉え方もツボを押さえていて、「クィア当事者はこういうが欲しかったはず!」というファンサービス的な遊びも満載で、さらにちゃんとエンパワーメントに根差したストーリーにもなっています。

そこが本作がただの過激でキワモノでマニアックで売り込む凡百の作品とは違うところ。

具体的には結構直球でLGBTQの権利運動をなぞる物語軸があって、それはパイロット版でも高らかに宣言されています。

このパイロット版ではチャーリーは「Inside of Every Demon is a Rainbow」という歌を歌いあげ、自らの夢を発表します。

この曲はいろいろな名作ミュージカルのオマージュが散りばめられているのですが、「rainbow(虹)」のフレーズから、1939年のミュージカル映画『オズの魔法使』“ジュディ・ガーランド”が歌った劇中歌「虹の彼方に(Over the Rainbow)」に似た感じもあります。“ジュディ・ガーランド”は『ジュディ 虹の彼方に』でも描かれたように、LGBTQのアライ(支援者)として有名で、この曲もLGBTQコミュニティではアンセムとして親しまれ、「レインボーフラッグ」のアイディアの基になったという通説まで生まれるほど。

そしてチャーリーの夢は「地獄にいる悪魔や罪人たちを救ってあげる(ハッピーにしてあげる)」というものです。

ここでLGBTQ当事者の迫害の歴史が思い出されます。LGBTQ当事者は昔から忌み嫌われ、事あるごとに異常者や世界を脅かす危険因子として扱われてきました。この差別を「悪魔化(demonized)」と言います。

なので文字どおり、チャーリーが救う悪魔というのは、規範的な世間に一方的に悪魔化されたそういう当事者だと解釈できます

別にこれは公式セオリーではないですが、“ヴィヴィアン・メドラーノ”はそういう解釈をちゃんと想定済みでしょうし、そんな反応を実際にしている視聴者を温かく受け止めています。

チャーリーがいる地獄の上層エリアは「Pride Ring」という名らしく、この作品の地獄は七つの大罪(憤怒とか色欲とか)ごとの階層に分かれています(作中のアプリとかを見るとその7つのリングがレインボーカラーで表現されている)。

チャーリーはそんな選り取り見取りの悪魔化された者たちをみんな救済してみせる!と豪語しているわけで、「無理だろ!」とバカにされようとも諦めません。

シーズン1で立ちはだかるのはあろうことかアダムで家父長制全開のウザい奴として描かれており、強制的規範や抑圧に対する反撃としてはうってつけの相手です。

天使軍(エクソシスト)と戦った結果、見事にアダムを打ち滅ぼし、地獄界の「ストーンウォールの反乱」をやってのけたチャーリーたち。

昇天の条件もわからずじまいでしたが、戦いの最中で殉職したサー・ペンシャスがまさかの天界で復活し、救済の成功例もできた様子。

天国でも熾天使長のセラのサポートである天使のエミリーがチャーリーと同じく「魂の平等」を信じており、共闘もできそうです。

しかし、なぜか天界にいるチャーリーの母リリスの存在といい、まだまだ謎が多すぎるアラスターの思惑といい、大きな波乱も待機していて…。アラスターに対抗意識を燃やすチームVはコメディリリーフになるのかな…。

ともかくもう次が待ちきれませんね。シーズン2を観るために私の魂はあるようなものです。

『ハズビン・ホテルへようこそ』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 86% Audience 87%
IMDb
7.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0
スポンサーリンク

関連作品紹介

大人向けの海外アニメシリーズの感想記事です。

・『キャロルの終末』

・『Harley Quinn』

・『ボージャック・ホースマン』

作品ポスター・画像 (C)SpindleHorse Toons ハズビンホテル

以上、『ハズビン・ホテルへようこそ』の感想でした。

Hazbin Hotel (2024) [Japanese Review] 『ハズビン・ホテルへようこそ』考察・評価レビュー