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『あの夜、マイアミで One Night in Miami』感想(ネタバレ)…ひっそり配信されたけど

あの夜、マイアミで

ひっそり配信されたけど名作です…映画『あの夜、マイアミで』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:One Night in Miami
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2021年にAmazonビデオで配信
監督:レジーナ・キング
人種差別描写

あの夜、マイアミで

あのよるまいあみで
あの夜、マイアミで

『あの夜、マイアミで』あらすじ

1960年代のアメリカ。アフリカ系アメリカンの平等を勝ち取るための公民権運動が勢いを増すなか、ある場所に4人の黒人男性が集う。カシアス・クレイ、マルコムX、ジム・ブラウン、サム・クック。それぞれがアフリカ系のアイコンとなる存在だった。和やかな時間が流れるかと思いきや、ふとしたきっかけに各々の人種問題に対する感情がぶつかり合っていくことに…。

『あの夜、マイアミで』感想(ネタバレなし)

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融和は“言うは易く行うは難し”

よく「融和が大事だ」と語る人は見かけますが、それは“言うは易く行うは難し”です。

実際は自分の立場がどうであれ、そんな軽々しく口にできることではありません。なぜなら融和という概念を高らかに使ってしまうと、結局は強者の考えに弱い人たちを従わせる手段になりかねないからです。そういう薄気味悪い融和の恐怖を描いた作品が『ゲット・アウト』でもありました。

本気で融和を目指す人がいるなら、その人は相当な犠牲を払わないといけません。少なくともネットでお手軽にコメントしていればいいわけでは全くなく…(SNSとかで融和をペラペラ語っている人はそんなに困ってない何よりの証拠でしょうし…)。それこそ『ダリル・デイヴィス KKKと友情を築いた黒人ミュージシャン』でも描かれていたように、命を失う覚悟で危険に飛び込まないといけないこともあります。そもそも融和で解決しないから深刻な問題になっているのに…。

例えば、先に挙げた作品はアフリカ系アメリカ人の人種問題を扱っています。これは「白人vs黒人」という構図になりがちですが、それだけではありません。黒人のコミュニティ内でも、みんなの意見はバラバラ。対立も起きます。

2020年はそんな“黒人”間の激しい立場の違いを浮き彫りにさせる映画が目立ちました。『ザ・ファイブ・ブラッズ』もそうでしたし、『マ・レイニーのブラックボトム』も同様です。当事者ではない私が言うのもあれですが、きっと今この時代はアフリカ系コミュニティもかつてないほど大きく揺れており、それが作品となって表れているのではないでしょうか。

そして今回紹介する映画もそんな題材の作品です。それが本作『あの夜、マイアミで』

本作はすごく変わった内容です。何よりも登場人物。プロボクサーのカシアス・クレイ(のちのモハメド・アリ)、黒人解放運動活動家のマルコムX、アメフト選手のジム・ブラウン、ミュージシャンのサム・クックという、実在の、それもとんでもなく著名な偉人4人が集まって語り合うひとときを描くというものになっています。

そんなこと、本当にあったの?と真っ先に疑問に思いますが、一応は実際にあったことのようです。ただし、話した内容は誰にもわからず、そこは作品ではフィクションになっています。

『あの夜、マイアミで』はもともと舞台劇が原作で、それを生み出した“ケンプ・パワーズ”が映画版でも脚本を担当。彼はピクサーのアニメーション映画『ソウルフル・ワールド』やドラマ『スタートレック:ディスカバリー』でも活躍しており、いずれもアフリカ系を主役に新境地を切り開いた作品であり、今や注目の逸材ですね。これだけ多方面で活躍したら引く手あまたなんじゃないかな。

そして他にも特筆すべきは監督です。『ビール・ストリートの恋人たち』やドラマ『ウォッチメン』で鮮烈に印象を残したあの“レジーナ・キング”ですよ。“レジーナ・キング”はドラマシリーズで監督経験があったのですけど、長編映画ではこれが初。にもかかわらず素晴らしい仕事ぶりを披露し、最高のデビューを飾りました。“レジーナ・キング”もどんどん監督業を頑張ってほしいところ。こういうパワフルなアフリカ系女性監督の到来が続々と起こってくれれば未来にも希望が持てるってもので…。

俳優陣は、『栄光のランナー/1936ベルリン』の“イーライ・ゴリー”がカシアス・クレイ、『キング・アーサー』『ノエル』の“キングズリー・ベン=アディル”がマルコムX、『透明人間』の“オルディス・ホッジ”がジム・ブラウン、『ハリエット』の“レスリー・オドム・ジュニア”がサム・クックを演じています。大部分はこの4人のトークだけで成り立っています。

『あの夜、マイアミで』は残念ながら日本では劇場公開されず、「Amazon Prime Video」でAmazonオリジナル作品としてこっそり配信されるだけになってしまいました。なので全然宣伝もなく、取り上げるサイトも少ない状況。評価が素晴らしく高いだけにもったいない…。

主要人物の4人をよく知らなくても大丈夫。後半の感想では人物紹介もしています。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(シネフィルには見逃せない)
友人 ◯(ゆっくり楽しめる者同士で)
恋人 △(恋愛要素は薄いです)
キッズ △(大人のドラマです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『あの夜、マイアミで』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):4人は何を語る?

1963年、ウェンブリー・スタジアム。ボクシングの試合が今まさに行われていました。対戦しているのは黒人ボクサーとして頭角を現すカシアス・クレイ、そしてイギリス人のヘンリー・クーパー。

クーパーは劣勢です。対する若きカシアスは相手に余裕そうに軽口を叩き、挑発しまくります。パンチを容赦なく決めていき、これは勝ちが確実かに見えましたが、隙を突かれて強烈な一撃を食らうカシアス。先ほどの勢いはどこへやら。意識が朦朧としながらダウンしてしまいました。

また、別の場所。歌手のサム・クックは窮地に追い込まれていました。人気の低迷がチラつき、マジシャンのマーク・ウィルソン(当時にテレビ番組で大人気だった魔術師)に仕事を頼むなどと言われてしまう始末。それでもにこやかにステージに今日も立つのですが、まばらな拍手で、聴衆の反応は薄いです。トークを切り上げてさっさと歌うことにしますが、マイクスタンドが倒れたり、演奏がマッチしなかったり、散々なパフォーマンスでした。

一方、アメフト選手として一世を風靡していたジム・ブラウンは地元のカールトン宅を訪れました。さっそく「君は成功者だ。今シーズンは見事だった」と絶賛してくれます。誇りに思うと言ってくれるものの、「黒人は家に入れない」と平然と言い放たれ、あまりのあっけなさにフィールドでの血気盛んな姿は微塵もなく、途方に暮れて立ち尽くすだけ…。

黒人人権運動を指揮するマルコムXは家に帰宅し、妻・ベティと会話していました。話題は所属していた「ネーション・オブ・イスラム(NOI)の件です。妻は「ルイスと話した?」と聞き、「NOIを一緒に去る気はないそうだ」と残念そうに答えるマルコムX。「バレたらどうするの? 計画を実行したら私たちは完全に孤立する…」と妻は不安を隠せません。けれどもマルコムXは「もう1枚、切り札がある」と呟きます。

1964年2月25日。フロリダ州マイアミ、カシアスとマルコムXはモーテルの部屋で落ち合います。2人ともイスラム教に身を投じているのでした。部屋で祈りを捧げますが、まだ慣れないカシアスに手の重ね方の間違いを教えるマルコムX。

カシアスはその後、ヘビー級王者のソニー・リストンに挑戦。激しいぶつかり合いのすえ、カシアスは見事に勝利を手にし、チャンピオンになりました。解説に呼ばれたジム・ブラウンも喜び、カシアスは観戦に来ていたサム・クックと並んで「君は素晴らしい」と勝利を分かち合います。マルコムXはそんな最高の光景を写真に撮っていました。

ハンプトン・ハウス。このモーテルの一室で、4人は集結します。自分はかっこいいと自惚れるカシアス。囃し立てる3人。マルコムXは女とか呼ぶ気はないようで、他のメンバーからは不満がでます。部屋にはバニラアイスクリームがあるのみ。「どこかいかないのか」と提案しますが、とりあえずここにいるしかないようです。

マルコムXは命を狙われたこともあり、常に護衛がついています。今も部屋のドアの前には護衛が2人。そんな中で、人種問題に話題が移ります。サムは「白人を悪と宣言すべきじゃない」と言い、ジムは「俺は白人女は好きだよ」と冗談交じり。4人とも黒人であっても考えは違いました。

車に置き忘れたカメラを取りに行くマルコムX。盗まれないかと心配です。カメラはちゃんと車内にありました。マルコムXはそのまま外で公衆電話を使って妻に電話します。妻にカシアスは明朝にイスラム教徒だと公表すると告げ、互いにソワソワしていました。

しかし、マルコムXは通りの向こうにいる白人が気になり始め、そのままいそいそと部屋に戻ります。

再び部屋に集まった4人は仕切りなおして屋上へ。

マルコムXは「“成功した黒人”の最大の欠点だ」「君はオルゴールの中で踊るオモチャだ」「白人と迎合して創造力を無駄にするな」とサムに厳しくあたります。

サムも言われるがままではいられません。「なんでも白黒つけられるわけじゃない」と反論。

また、ジムやカシアスもそれぞれの意見を述べます。

こうしてマイアミの夜は真っ暗に深まっていき…。

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登場人物の簡単な紹介

『あの夜、マイアミで』は4人の実在の登場人物の会話劇でほぼ構成されており、かといって伝記映画でもないので人物の直接的なわかりやすい説明はありません。人物の詳細を知っておくと、あそこであのキャラクターがあんな言動をした理由や、ここにいたるまでの葛藤なんかが少しだけ見えてきます。

以下に簡単に解説すると…。

まずサム・クック。彼は19歳のときにゴスペル・グループのリードボーカルとなり、さらに1957年にソロ歌手としてR&Bに転向し、大ヒット。加えて自分の音楽出版社を設立したことが大きな特徴であり、これは作中でも言及されるとおり、白人中心の企業による搾取から黒人が脱する画期的な一歩でした。なのでかなり儲かっており、4人の中でもとくにリッチな感じがします。そういう白人社会と慣れ親しんで稼いでいる身分だからこそ、作中でマルコムXからあそこまでキツイ非難を受けることに…。

次にジム・ブラウン。アメリカンフットボール選手として、1957年から1965年までNFLのクリーブランド・ブラウンズで活躍し、記録を相次いで樹立。1964年に俳優としてもデビューし、作中ではその直前の心境が語られます。『特攻大作戦』(1967年)とかに出演しましたけど、映画俳優キャリアはそんなに爽快にはいきませんでしたね。なお、彼はドナルド・トランプ大統領時代はトランプと親密な間柄だったようです。そういう意味ではトランプ派の黒人の象徴と言えるかもしれません。

そしてマルコムX。彼の事情は複雑です。黒人解放運動活動家であり、イスラム教徒でもあった彼は、ネーション・オブ・イスラムというアフリカ系アメリカ人のイスラム運動組織に入信。しかし、その組織のやり方(結構過激だった)に不満を持ち、距離を取り始めます。1963年にはその組織から暗殺未遂の目に遭い、だから作中であんなにビクビクして護衛をつけているんですね。あの当時のマルコムXは白人からも黒人からも狙われる、最悪な状態だったのです。

1964年4月にマルコムXはアフリカ・中東に旅に出るので、本作の彼はその直前。その旅先で新しい道しるべを見つけることになり、つまり作中の時点では最も彷徨っている状態のマルコムXと言えます。確かに本作のマルコムXは人種問題に熱弁をふるうもどこか弱々しさもありました。巷では過激な活動家とざっくり語られがちですけど、本作ではそうは見えない、人間的脆さのあるキャラクターとして描かれています。

そのマルコムXにイスラム教へと誘われたのがカシアス・クレイ。作中のラストではカシアスXだとメディアの前で宣言しますが、結局はモハメド・アリと名乗りました。「蝶のように舞い、蜂のように刺す」でおなじみのファイティング・スタイルですが、ムスリムになったことで敵をたくさん作ってしまいます。それでも挫けることなく社会とも闘えたのは、やっぱりカシアスの精神力の強さだったのでしょうか。マルコムXの良い部分を受け継いだ感じもします。作中だとまだまだ可愛い弟分…みたいな雰囲気ですね。

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語り合う男たちの行く末

『あの夜、マイアミで』はカシアスが白人とボクシング対決するところから始まり、それはまさしく「黒人vs白人」の構図です。しかし、この一戦では負けてしまいます。

サム・クックも、ジム・ブラウンも、白人社会の厳しさを身をもって味わうばかりです。マルコムXにいたってはイスラムの黒人社会からも追われ、孤立しています。

そんな4人が黒人同士で(しかも男同士で)仲良くたわむれる予定だったはず。言ってしまえばホモ・ソーシャル的な和気あいあいを期待するわけですが、そう上手くいかないことになります。

もちろんそれぞれが同じ人種でもバラバラだからです。出身も違うし、経済的事情も違うし、宗教も違う。どんな人と繋がりがあるのかも違う。

ジム・ブラウンがマルコムXに指摘するように「ライトスキン or ダークスキン」という肌の色の濃さの問題も横たわってきます。

要するに自分たちの限界とか現実をまざまざと実感するだけに終わるわけです。舞台がモーテルのスイート、それもそこまで超豪華というほどではないレベルというのが、またあの4人、しいては人種の立場を暗示していますね。
一見すればあの4人はこの一晩の語り合いで自分を見つめなおして再起動を果たせたように思えます。一方でこの集結での人間模様は公民権運動のひとつの衰退のフラグとも解釈できます。

実際、公民権運動はここから下り坂です。1965年3月7日には、アラバマ州セルマで「血の日曜日事件」が起き、1968年4月4日にはキング牧師が暗殺。黒人への人種差別は2020年を過ぎても解決せず、平等は得られていません。

しかも、あの4人の中には悲劇が待っている者もいます。作中のエンディングで示されるとおり、マルコムXは1965年2月14日、ニューヨークの自宅でネーション・オブ・イスラムのメンバーによって爆弾で攻撃され、その一週間後の2月21日、銃弾を受けて暗殺されました。39歳でした。また、サム・クックは1964年12月11日にモーテルの管理人に銃で撃たれて死亡。33歳でした。

あの4人の中で唯一、2021年1月の現時点でも存命なのはジム・ブラウンのみ。彼は1965年以降は何度も暴行やレイプ容疑で逮捕・起訴されたりしているのですが、その素行の悪さのわりにはなんだかんだで殺されもしていないあたり、皮肉なものです。

ともかく本作のラストではサム・クックの熱唱によって幕を閉じます。番組に出演し、友達にしか聞かせていない歌を披露するサム。それは後世に届けたい、かつてこの時代を生きた仲間の証。

現在は公民権運動はブラック・ライヴズ・マター(BLM)へとステージアップし、多様な人種も参加するかつてない規模に成長しましたし、LGBTQといった他のマイノリティもそこに加わり、少数派の中の少数派として声をあげています。

そんな活動に身を投じるにせよ、眺めるにせよ、過去に存在にしたあの4人の苦悩は忘れないように心にとどめておきたいですね。

『あの夜、マイアミで』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 98% Audience 76%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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関連作品紹介

黒人同士の対立を描く映画の感想記事です。

・『マ・レイニーのブラックボトム』

・『ザ・ファイブ・ブラッズ』

・『ディア・ホワイト・ピープル』

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios ワン・ナイト・イン・マイアミ あの夜マイアミで

以上、『あの夜、マイアミで』の感想でした。

One Night in Miami (2020) [Japanese Review] 『あの夜、マイアミで』考察・評価レビュー