ニコラス・ケイジの睾丸に何するんだ!…映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年10月8日
監督:園子温
性描写
プリズナーズ・オブ・ゴーストランド
ぷりずなーずおぶごーすとらんど
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』あらすじ
悪名高き銀行強盗の男は、その肝心の犯罪を大失敗してしまう。その結果、落とし前をつけることになってしまい、裏社会を牛耳るガバナーの支配から逃げ出したひとりの女を連れ戻すよう命じられる。これを成功できなければ、またも囚人に戻るか、殺されるか。どちらにせよ選択肢はなかった。こうして囚われの男は、東洋と西洋が混ざり合った荒んだ過去を持つ暴力的な世界「ゴーストランド」にたどり着く。
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』感想(ネタバレなし)
混ぜるな、危険!(監督と俳優)
世の中、混ぜてはいけないものがあります。
最近ならば新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでおり、日本でも2021年9月時点で2回接種した人の割合が55%を超えました。その際にもはや恒例となっているのが副反応であり、SNSでも「こんな副反応がでた」と呟くのがいつもの風景に。そんな中で「ポカリスエットを飲むと良い」などという話も出回り、スポーツドリンクがよく売れているとか。
しかし、スポーツドリンクは解熱剤と相性が悪く、ほぼ同時的に併用するのは危険です。解熱剤の効果が薄れたりするので、メーカー側も注意喚起しています(必ず解熱剤は水で飲むこと、高熱が出たときは解熱剤と保冷枕などの併用で体を適切に冷やしましょう)。
アレとコレを混ぜ合わせると危ない…というのは日常でもありうることなので知っておきたいですよね。
ところかわって映画の世界にも混ぜ合わせると危険なものがある…のかもしれない。今回紹介する映画はまさにそういう作品でしょうか。それが本作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』です。
本作は何を混ぜ合わせたのか。それは監督の“園子温”と俳優の“ニコラス・ケイジ”です。
“園子温”監督と言えば、日本映画界を代表するカルト映画の奇才であり、世界でも名は知られています。『愛のむきだし』(2009年)、『冷たい熱帯魚』(2011年)、『リアル鬼ごっこ』(2015年)などエロ・グロ・バイオレンスをミキサーにかけたような作風が特徴でありつつも、『地獄でなぜ悪い』(2013年)、『ラブ&ピース』(2015年)など映画愛を全面に出した作品もあったり、器用で多才です。最近は『愛なき森で叫べ』(2019年)でNetflix映画デビューもしました。“園子温”監督ならばヤバイ映画を作れるという期待をさせるのですが、その監督がついにこの『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』でハリウッド・デビューですよ。長いキャリアのひとつの結実ですね。
そして“ニコラス・ケイジ”。彼については言うまでもないです。“ニコラス・ケイジ”はキャリアの昔ではアカデミー賞などのステージに立てるほどの活躍でしたが、最近はもっぱらヤバイ映画に出ているというクセ者の印象が全面にあります。最近も凄いもんです。『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』ではアルパカを育てながらクトゥルフ的な怪物と悪戦苦闘し、『アース・フォール JIU JITSU』ではなぜかエイリアンと柔術で戦う根性を見せ、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』ではイカレた殺人鬼相手にこっちまでイカレてくるという…。なお、Netflixで配信されているドキュメンタリーシリーズ『あなたの知らない卑語の歴史』ではホストを務めており、こっちも相当に“ニコラス・ケイジ”臭が凄かった…。
つまり、ヤバい映画を撮る“園子温”監督と、ヤバイ映画に出る“ニコラス・ケイジ”が、セットで揃ってしまったのがこの『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』です。混ぜたらどうなるかなんてやる前からわかります。でも不思議。混ぜたくなる好奇心が抑えられない…。
で、実際にどんな映画が生まれてしまったのかというと、言葉で説明しづらいハチャメチャな内容になっています。“園子温”監督と“ニコラス・ケイジ”をある程度知っている映画ファンなら寛容の心で受け止められるけど、そうじゃない人はただただ困惑…。そういう暴れ放題の合体ワールドですよ、これは。
共演は、『キングスマン』や『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』などエンタメ性の高い作品にも出て、ダンサーとしての身体能力をいかんなく発揮している“ソフィア・ブテラ”です。『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』ではダンス要素はないのですけど…。
他にも『マーダー・ライド・ショー』の“ビル・モーズリー”、監督として『きみに読む物語』なども手がけている“ニック・カサヴェテス”などが登場。
さらに日本勢からは、アクション監督として活躍する“TAK∴”、『愛なき森で叫べ』でデビューしたばかりの“中屋柚香”、“園子温”監督作『TOKYO TRIBE』で主演を飾った“YOUNG DAIS”、『新宿スワン』の“古藤ロレナ”、『エッシャー通りの赤いポスト』の“縄田カノン”など、いつもの“園子温”メンバーが揃っています。
“ニコラス・ケイジ”のフンドシ姿ならずっと眺めていられるという人は『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』をぜひどうぞ。
オススメ度のチェック
ひとり | :監督&俳優ファンなら |
友人 | :かなりクセが強いけど |
恋人 | :一般ウケはしない |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ここはどこ?
遊廓のような日本風の建物が並ぶ場所。あるひとりの女性が2人の付き人のような女性とともに逃げるように夜の町を足早に進んでいきます。遊女たちは口々に「頑張って」とこの逃げる女を応援。3人はその遊郭を飛び出し、車に乗り込み、息きれぎれになるも「これで自由だ」と安心してエンジンをかけ…。
目覚める女。みすぼらしい格好です。起きてあたりを見渡すと謎の場所。そこはボロボロで、巨大な時計があります。逃げる途中に迷い込んでしまったのか…。「私は囚人じゃない」と叫ぶ女でしたが…。
ところかわってあの遊郭のある町「サムライタウン」では、「ガバナー!」と手拍子する女性を周りに並べて1台の車がズカズカと町の通りにやって来ます。
降りてきたのは白いスーツに白いテンガロンハットの男、ガバナーです。彼はこの町を牛耳っている大物で誰も逆らえません。ガバナーは用心棒のヤスジロウとお気に入りの少女スージーをいつも連れ歩ています。
そして次に現れたのはフンドシ一丁で手錠された男。その男は長い間、幽閉されており、今回は特別な仕事を命じられるべく外に出されました。周囲で見物していた一同は「大きな古時計」を歌い出します。囚人の男は黒いスーツに着替え、バーニスを連れてくるようにガバナーから直々に命令されます。そのバーニスという女はガバナーの以前のお気に入りだったようです。写真も渡されます。
しかも、その囚人男のスーツには首や腕、股間に光る玉が備え付けられており、爆弾になっていて5日以内に達成しないと爆発するのだとか。
さっそく囚人男は侍町ナンバーの車に乗り込みますが、やっぱり自転車に乗り換えて出発。でも囚人男を気に入ったヤスジロウが車で追いかけてきて、鍵を渡してくれたので車に変更。
ところが視界の悪い砂ぼこりが立ち込めたと思ったら、気が付くと事故を起こし、自分は投げ出されていました。
運ばれてたどり着いたのは薄汚い場所。そこは「ゴーストランド」。無法者たちの溜まり場です。囚人男の隣には髪が青い女性も運ばれており、彼女はバーニスを知ってるようです。視界にはマネキンを被って不気味に動き回る集団や、白いビラビラした衣装を身にまとう軍団などが確認でき、やがて煙をあげる大きな時計がある広場に運ばれます。
囚人男は写真をもとにマネキンに包まれた人をチェックしていくと、そのうちひとりはバーニスでした。しかし、全然喋りません。ひとまず荷車に乗せて連れて帰ろうとします。
相変わらず喋らず、無言でこちらを見つめるだけ。体にくっつくマネキンを取り払い、水分を与えていると、足に傷跡があるのを発見。
そして思い出します。この女を知っている。それは囚人男が銀行強盗に失敗した日のこと。
囚人男は因縁を思い出し、いつしかヒーローになることに…。
園子温ランドです
とにかくごちゃごちゃしている『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』ですが、物語のプロット自体は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と同じ。ある支配者が君臨する地域があって、消費されていた女がそこから逃げ出し、あるアウトローな男が巻き込まれるように関与していき、やがて英雄的な善行をすることを決意し、女たちの解放をアシストする…。
今作は過去の映画のように露骨なエロ・グロみたいなのは目立っていません。予算的にいつもよりあるから、他のことに集中した結果なのですかね。
ただそのシンプルな物語が極めて“園子温”要素満載の世界観で展開され、ストーリーラインさえも塗りつぶすくらいの濃さなので、観客は困惑することに…。
まず「サムライタウン」。ハリウッドではヘンテコな日本描写が風物詩になっていて日本観客を呆れさせることもありますが、今作はその違和感をあえてそのままに逆利用するかのようなスタイルであり、開き直っている感じすらある。時代も場所もわからないですけど、あからさまに電光板とか、納税を促す標語の横断幕があったりして、真面目な日本の昔の風景ではないんだということが日本人には明快にわかります。でも外国人にはわかっているのかは怪しいですが…(実際、どのようにリアリティを認識しているのかな?)。要するに全体的に外国人をおちょくっているようにも見えるわけです。その町を白人のガバナーが支配しているのですから余計にシュールですね。
海外のレビューでは「東西文化の融合」と評している意見が目につくのですが、これはそういう文化のミックスではなく、ハリウッド的日本観へのメタ的な皮肉でもあるだろうに…。
一方の「ゴーストランド」は時計エリアを中心に荒廃したディストピア感が強いですが、モチーフはおそらく原爆と福島原発事故の掛け合わせなのでしょう。こちらも日本らしい破滅後の世界を“園子温”テイストで表現しています。車を修理し続けるラットマンとか、人間をマネキンに閉じ込めたがるキュリとか、そんなに絡まないにせよ個性だけが際立つキャラクターたちと、その他大勢のパフォーマーのようなモブたちの饗宴状態です。原作無しでやっていることもあって、アーティストの“園子温”がやりたい芸術を全部ぶっこんだ前衛的な空間が仕上がっていました。
USJでもし“園子温”監督をテーマにしたエリアが作られるとしたら、こんな世界になるんだろうなぁ…。まあ、絶対に実現はしないだろうけど。
付き合わされた人、楽しみまくった人
その強烈な世界観にひとり放り込まれることになるのが『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の主役であるヒーロー。というか“ニコラス・ケイジ”。もうほとんど“ニコラス・ケイジ”そのものを原材料そのままに使っているような…。
“ニコラス・ケイジ”にさせたいことを全部やっているだけ。フンドシ一丁にしたり、ママチャリに乗せたり、あげくに睾丸を爆破したり…。
それにしてもさすがの“ニコラス・ケイジ”。金玉にダメージを追っても、直後は変な呻き声はあげるけどその後は割とケロっとしている。腕も爆破したはずだけど、結構平気。これくらいでは動じないんですよ、経験値が違うなぁ…。
そのこの世界観にノリノリな“ニコラス・ケイジ”と対峙するヤスジロウを演じた“TAK∴”の真面目なアクション。この世界だと真面目な人間の方がバカみたいだから、ちょっと可哀想ですけどね。目の前にいるの、片手剣で楽しそうにしているオッサンだもん…。股間の潰し合いになるあたりもマヌケさといい、あまり真剣勝負を期待するものでもないです。“TAK∴”が“ニコラス・ケイジ”に付き合わされている感じがスゴイある…。
バーニスを演じた“ソフィア・ブテラ”もいかにも“園子温”監督が好きそうな女性像…軽装で白っぽい服と怯えた姿からの怒りへの豹変を見せる…やっぱり“園子温”監督って海外の女優を使っても同じパターンになるのか…。でも“ソフィア・ブテラ”は黒い髪が似合うというのはわかる気がする。日本着物衣装も着こなせるのも納得だし…。
そんなこんなで奇想天外なキャラクターたちが100分ちょっとの映画ボリュームでは消化不良になるほどには勢いオーバーで暴れまくり、とりあえずのエンディングを迎えます。でもやはりこの世界を乗りこなせるのは“ニコラス・ケイジ”だけだったと思います。
つい最近も泥酔して騒ぎを起こしたらしく、全然懲りていないというか、映画のキャラクターとそう変わらない存在感で現実を生きている“ニコラス・ケイジ”ですが、今後も元気そうです。
“園子温”監督は直近では心筋梗塞で入院したりと健康面で心配でしたが、“ニコラス・ケイジ”から元気をちょっとくらいは奪いとってもバチはあたらないでしょう。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 38%
IMDb
4.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ニコラス・ケイジが出演する映画の感想記事です。
・『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』
・『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』
作品ポスター・画像 (C)2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. プリズナーズオブゴーストランド
以上、『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の感想でした。
Prisoners of the Ghostland (2021) [Japanese Review] 『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』考察・評価レビュー