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『リターン・トゥ・スペース』感想(ネタバレ)…Netflix;何度も失敗しても人は宇宙へ戻る

リターン・トゥ・スペース

何度も失敗しても人は宇宙へ戻る…Netflixドキュメンタリー映画『リターン・トゥ・スペース』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Return to Space
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:ジミー・チン、エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ

リターン・トゥ・スペース

りたーんとぅすぺーす
リターン・トゥ・スペース

『リターン・トゥ・スペース』あらすじ

地球の人類は再び宇宙を目指そうとしていた。過去のNASA主導の宇宙開発に代わり、そのリーダーとなったのはイーロン・マスク率いる新興企業「スペースX」。全く新しい技術を開発し、ゼロからロケットを考案し、何度も実験を繰り返し、多くの失敗を重ねながらも、着実に一歩を踏み出していく。人はなぜ宇宙へ行かなければならないのか。この大いなるプロジェクトに関わる人々の姿を追いかけていく。

『リターン・トゥ・スペース』感想(ネタバレなし)

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宇宙に行かなくてはいけない

人はなぜ宇宙へ行こうとするのでしょうか。

別に宇宙なんて行かなくてもいいという考えの人もいるはずです。あまりに危険だし、おカネだってすごくかかるし、何も良いことなんてないだろう…と。金持ちの道楽で、無駄に決まっている…と。

でもそれでも宇宙を目指そうという人はいます。ある人は、巨大な山頂や海底洞窟を探検するような挑戦心を胸に抱いているでしょう。別のある人は、そこに莫大なビジネスチャンスを感じているかもしれません。さらに別の人は、軍事的な優位性などの支配力としての価値を見出していることも…。

しかし、この人は違いました。“イーロン・マスク”です。彼の宇宙を目指すビジョンではシンプルな意義を提示しています。それは「地球は人間の“ゆりかご”なのだがら、いずれは巣立たないといけない」というもの。つまり、宇宙に進出することは人類の成長であり、それを達成しなければ人間は次の歴史に進めない…ということです。

確かに地球にいるだけなら人類には都合がいいことが無数にあります。とくに人間の歴史の根底で蔓延っている優生思想は「人間はあらゆる生き物の中でも頂点にある」という自惚れた認識があるからこそ成り立っています。もし宇宙に進出して、人間をはるかに上回る高度な知識や文明を持った生命体に遭遇してしまったら…人間の優生思想なんかいとも簡単に脆く崩れるでしょう。他にもあらゆる権力者の基盤は地球という枠の上で成立しているものであり、世界が地球を超えて拡大してしまえばその構図は成り立たなくなります。

人類が宇宙に進出するというのは、想像できないほどにとんでもないパラダイムシフトをもたらします。異国に渡って成功した移民のように地球ではどうしても居場所がなかった者にとって宇宙は希望となるかもしれない。いや、新しい権力者が生まれてしまうのだろうか…。

そんな未知へと突き進み、人間が多惑星種となるべく奮闘している“イーロン・マスク”とその企業「スペースX」に焦点をあてたドキュメンタリー映画が今回紹介する作品です。

それが本作『リターン・トゥ・スペース』

本作を監督するのは、断崖絶壁に挑むチャレンジャーを恐怖体感映像と共に映し出して話題となった『フリーソロ』、水中洞窟に取り残された子どもたちを救うダイバーを映し出した『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』など、常に前人未踏の世界へと挑んでいく人間に寄り添ってドキュメンタリーを作ることで知られる“ジミー・チン”&“エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ”。今回は一気にスケールアップして宇宙です。

『リターン・トゥ・スペース』は宇宙好きにとっては感涙のドキュメンタリーなのですが、基本情報としてまず“イーロン・マスク”とはそもそも誰なのか、そこを簡単に説明しておきます(ドキュメンタリー内では説明はないので)。

“イーロン・マスク”は南アフリカ出身のアメリカ人で、実業家です。1999年の若い時期にオンライン金融サービスと電子メールによる支払いサービスを行う「X.com」という会社を設立。これは後に「PayPal」となり、莫大な資産を獲得。当時のドットコム・バブルの中で、ベンチャー起業で成功を収めた人物の象徴となりました。他にも電気自動車ベンチャーである「テスラ・モーターズ社」にも関わっていることで有名で、その挑戦的な起業連発の姿勢からスタートアップ界隈では第2の“スティーブ・ジョブス”のようなポジションに。米経済誌フォーブスの「世界長者番付2022」によれば推定保有資産が2190億ドル(約27兆1560億円)となり、「Amazon」の“ジェフ・ベゾス”を上回って世界一の富豪となっています。

そんな“イーロン・マスク”、2002年に宇宙輸送を可能にするロケットを製造開発する「スペースX」という会社を設立し、民間による宇宙旅行を目指し始めました。もちろん当時は「そんなことできるのか? カネをドブに捨てるだけでは?」と半信半疑な反応も少なくなかったですが、“イーロン・マスク”は事業を決行。その結果は…このドキュメンタリー『リターン・トゥ・スペース』を観て確かめてください。

というわけで『リターン・トゥ・スペース』は“イーロン・マスク”時代とも言える新しい宇宙開発史の初期を描くものです。当然、その前にも宇宙開発には歴史がありますが、そこに至るまでの経緯を知るという意味でも、他のドキュメンタリー映画も参考資料に観ておくとよりグっと理解が深まります。

個人的には『アポロ11 完全版』で初の月面着陸の歴史に触れ、その後に宇宙開発停滞時代の苦悩と新時代への期待を描いた『マーズ・ジェネレーション』を観るという流れがいいんじゃかいなと思います。

『マーズ・ジェネレーション』はNetflix独占配信なので、宇宙に行くウォーミングアップがてらに鑑賞してみてください。

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『リターン・トゥ・スペース』を観る前のQ&A

Q:『リターン・トゥ・スペース』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年4月7日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:宇宙科学史が好きなら感動
友人3.5:興味持つ同士で興奮
恋人3.5:一緒に語り合えるなら
キッズ4.0:宇宙に夢があるなら
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『リターン・トゥ・スペース』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『リターン・トゥ・スペース』感想(ネタバレあり)

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「マッチョ」から「オタク」の時代へ

1969年7月20日、人類史上初の月面着陸がアメリカ合衆国のアポロ11号計画によって“ニール・アームストロング”“エドウィン・オルドリン”の手で達成されました。誰もが「ここから人類の宇宙の進出の新時代が始まるんだ」と確信したでしょう。

しかし、そんなにすぐに時代は動きませんでした。それどころか後退し始めます。

冷戦と連動していた宇宙開発競争は政治的思惑に翻弄されまくり、ときに死者を出すような大事故も経験しつつ、しだいに関心が薄れていきます。そして2011年、NASAの最後のスペースシャトルが打ち上げられ、ひとつの時代の終焉を迎えます。

以後、どうなったのかというと宇宙開発はロシア頼みとなりました。皮肉な話です。米ソの冷戦がそもそもの背景にあったのに結局はロシアに依存する結果に終わるとは…。「宇宙を夢見る子どもに何てアドバイスしますか?」とNASAの宇宙飛行士が問われ、「ロシア語を学んで」と答えることになるなんて…。

当のロシアもそこまで本格的な宇宙開発を進めようとは思っておらず、宇宙ステーションでの国際“お泊りごっこ”みたいなのがずっと続いているだけでした。

その宇宙開発停滞時代とも言える約50年を転換させようと動き出したのが“イーロン・マスク”の「スペースX」。けれども「じゃあ、スペースXに任せよう!」とならない業界の事情が…。

ここが何よりも従来の宇宙開発業界の本当にダメな部分ですね。政治的利害関係に左右され、お役所運営判断でしか動かないという…。アメリカ政府はスペースXというわけのわからない新興企業に莫大な資金をつぎ込むのを躊躇。普段はボーイングのような大手航空企業や他の軍事企業にはいくらでもカネをつぎ込んでいるくせに、政治家にとって癒着関係にない会社には冷たいのでした。あげくに宇宙開発に貢献した偉人であるアームストロングにまで否定され…。涙目になっている“イーロン・マスク”…どんまい…。

『リターン・トゥ・スペース』を見ているとなぜアメリカ政府がスペースXを嫌うのか、そのお国柄の事情も見えてくるなと思いました。やっぱり既存の宇宙開発業界って、アメリカなんかはとくに軍国主義的なマッチョイズムで成り立っているんですね。愛国心溢れる鍛え抜かれたアメリカのヒーローを生むのが従来の宇宙開発の見どころだったわけで…。

ところが“イーロン・マスク”の「スペースX」チームはどう見てもそういうのではない。完全にオタクなわけです。日々映画とかゲームの話ばかりしている。いや、NASAにもオタクはいっぱいいたはずですが、表に出ることができませんでした。スペースXの時代になったことでマッチョからオタクへと世代交代が起き、ゲームのメインキャラクターの顔触れが変わったということ。これが何よりも保守的なアメリカらしさにこだわる一部の人には許せなかったのだろうな…と。

ロシアに負けるか、オタクに負けるか…その二者択一だったんでしょうね。

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爆発から学ぶ

一方のスペースXも試練の連続です。なにせ宇宙開発の仕切り直し、ゼロからの再スタートですから。

スペースシャトルをもう1度作ればいいという単純な話ではありません。これまでの課題をクリアして、新しい技術で宇宙開発の新生を証明しないといけないのです。

まず課題の1つ目が安全性。過去の宇宙開発では1986年のチャレンジャー号爆発事故といい、お世辞にも安全なものとは言えませんでした。というか、制御された爆弾に乗っているようなものであり、相当に危険です。爆発したら死ぬ。逃げ場無し。

そこで脱出システムを作ることに。そこでスペースXが開発した有人宇宙船「ドラゴン」に新しい仕組みの脱出システムを開発し、実現に成功。これで安全性を向上しました。

お次の課題はコストです。宇宙開発はとにかくカネがかかるのが弱点。とくに宇宙空間まで打ち上げるのに利用されるロケット部分が毎回使い捨てでとてももったいない運用でした。これを再利用できないか。そこで3度の失敗で資金が底をつく中、それでも苦肉の4回目の試験でなんとか打ち上げに成功。続いてロケットの再使用のために自動でブースターロケットが戻ってきて着陸するシステムを開発。これも何回も爆発失敗しながらやっとのことで実現にこぎつけます。

あのロケットがしゅっと直立して着地する瞬間の映像は何度見ても感動しますね。映画みたいな自由な離着陸ってフィクションで見ているはずなのに、現実でそれが見られるとやっぱり興奮するというか、これがリアルで存在するのか!とワクワクする…。

これによって業界が一変。打ち上げ費用は10分の1になり、宇宙開発が民間レベルになったことを確実に証明しました。

爆発を何度も経験して学ぶ。失敗は悪いことではない。こういう姿勢はお役所仕事のNASAにはどうしてもできなかったことなのですが、科学というものの基礎を教えてくれる出来事でもあり、やっと宇宙開発に科学が戻ってきた感じがして余計に嬉しくなります。

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宇宙開発の新時代の幕開け

こうしてスペースXは2020年に民間企業として史上初となる有人宇宙船の打ち上げ並びにISSドッキングを成功させ、“ダグラス・ハーリー”“ロバート・ベンケン”を宇宙へ送り、宇宙開発の新時代の一歩となりました。

宇宙開発という人類の歴史を変える事業をこの“イーロン・マスク”に託して大丈夫なのか。その不安もわかります。明らかに変人ですし、映画に触発されてオタクのノリで火炎放射器を売ったり、SNSで失言したり、いろいろスキャンダルも起こしますからね。

ただ、本作『リターン・トゥ・スペース』を見ているとこの宇宙開発に関してはかなり真面目なビジョンを持っているのがわかりますし、決して道楽のためではないことも明快です。人類の歴史を背負っている責任と覚悟が伝わってきます。

同時に未来の宇宙開発は大国の政治に依存しない方がいいのだろうと、ドナルド・トランプやウラジミール・プーチンの暴走を目にしてしまうと強く思ってしまいますよね。もう政治家は信用できない。だったら信用できそうな人を民間人から見つける方がよほどマシだという…。

宇宙開発は新時代の幕開けのスタートラインにいます。オバマ大統領が宣言した有人火星探査計画をゴールに見据えつつ、まずは「アルテミス計画」という「2024年までに“最初の女性を、次の男性を”月面に着陸させること」を目標にしたプロジェクトが進行中です。予定では2024年にアルテミス2号が初の有人ミッションとなって月を周回、2025年にアルテミス3号が有人月面着陸を行うミッションを担うことになっています。新しい宇宙船「スターシップ」の開発も順調です。

ただ、全て希望にあふれているわけでもないです。ウクライナ侵攻の件もそうですが、地球は再び大戦の危機が増しており、軍事的緊張が高まっています。ロシアは宇宙開発競争にまたも乗りだせるか不透明になってきましたが、中国がリードするのは間違いないです。今度はアメリカと中国の競争になってしまうのか。ドラマ『フォー・オール・マンカインド』のように宇宙での科学の発展はまたも政治的思惑に振り回されるのか。

それとも『スター・トレック』のように、“イーロン・マスク”の純粋なビジョンは維持されて、政治や軍事と距離を置いた全人類のための科学が達成されるのか。スペースXは女性社長“グウィン・ショットウェル”のもと多様なスタッフで成り立っていますが、それはその希望の後押しとなるのか。

「科学技術が自動的に進歩するという考えは間違いです」という言葉のように、どちらに進むかを決めるのは私たちが何を望むかにかかってきます。

これから私たちはその歴史の目撃者になります。

『リターン・トゥ・スペース』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 82% Audience 62%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

宇宙開発を題材にした映画の感想記事です。

・『ファースト・マン』

・『オデッセイ』

作品ポスター・画像 (C)Netflix リターントゥスペース

以上、『リターン・トゥ・スペース』の感想でした。

Return to Space (2022) [Japanese Review] 『リターン・トゥ・スペース』考察・評価レビュー