ニコラス・ケイジ、俳優やめるってよ…映画『マッシブ・タレント』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2023年3月24日
監督:トム・ゴーミカン
マッシブ・タレント
まっしぶたれんと
『マッシブ・タレント』あらすじ
『マッシブ・タレント』感想(ネタバレなし)
ニコラス・ケイジ自演!
アカデミー主演男優賞を1度受賞、英国アカデミー賞で主演男優賞に2度ノミネート、ゴールデングローブ賞で1度受賞して3度ノミネート、クリティクス・チョイス・アワードで2度ノミネート、全米映画俳優組合賞で1度受賞…。さらに興収3億ドルを超える大ヒット作もあり…。その華々しい功績から「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム」にも名を残しました。
これだけの実績があれば、一般的に考えれば俳優としてはかなり大成功をおさめたキャリアだと思います。じゅうぶんに恵まれているでしょう。
でも世間はそう思ってくれない…。ゴシップになるスキャンダルの方ばかりに注目が集まり、しまいにはネタ扱いで弄ばれる。それも人気の代償と言えばそうなのかもしれないけど、それにしたってちょっと理不尽にも感じる…。
そんな憂き目を見てきた男、それが“ニコラス・ケイジ”です。
2023年時点で59歳。映画キャリアは1981年からなので、かれこれもう40年以上はこの業界に身を捧げてきた“ニコラス・ケイジ”ですが、中年になるとどちらかと言えばバカにするような視線がまとわりつくことの方が増えてきてしまっていました。他の白人男性俳優の中には普通に中高年になっても輝かしく成功を続けている人もいるのに、なぜ自分だけネタ枠なのか…。
しかし、ここ最近の“ニコラス・ケイジ”は再評価の動きも目立ち、ある意味での自分を自己批評する余裕さえ垣間見えるようにもなってきた印象があります。
そうした経緯もある中で、ついにそんな“ニコラス・ケイジ”自己批評の決定版とも言える映画が誕生しました。
それが本作『マッシブ・タレント』です。
原題は「The Unbearable Weight of Massive Talent」。邦題はかなり縮まってしまいましたが、大事なのは映画の顔。本作の主演はもちろん“ニコラス・ケイジ”。それも“ニコラス・ケイジ”が「ニコラス・ケイジ」を演じているのです。
ゲスト枠ではなくメインとして、俳優が自分自身を演じる作品と言えば、『その男ヴァン・ダム』や『人質 韓国トップスター誘拐事件』、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル』なんかがありましたが、この『マッシブ・タレント』もその類ということになります。
ただ、本作は厳密には“ニコラス・ケイジ”が「ニコラス・ケイジ」を演じているわけではないです。詳細についてはネタバレになってしまうので、後半の感想で書くことにしますが、そのポイントは結構重要なので、注意してみてみるといいと思います。
とは言え、“ニコラス・ケイジ”が「かつては大成功していたけど今は見る影もない」俳優の役で映画にでるなら、そりゃあもう面白くはなってきますよね。
しかも、その“ニコラス・ケイジ”演じる俳優を愛してやまない「大ファンの男」を演じるのが、あの“ペドロ・パスカル”ですよ。「ニコラス・ケイジとペドロ・パスカル、2人が並ぶなんて私に得すぎる!」と歓喜できる人なら、絶対に見ておくべき映画なのは間違いないです。
最近はすっかり「Hot Dad」の称号をほしいままにしている“ペドロ・パスカル”ですが、中年男性俳優として好印象で成功を手にしている“ペドロ・パスカル”が、好印象を獲得できずに沈没してしまった“ニコラス・ケイジ”を好いているという関係図がまたシュールだったり…。
『マッシブ・タレント』はとりあえずこの“ニコラス・ケイジ”と“ペドロ・パスカル”がわちゃわちゃしているのを愛でる映画です。逆にこの2人に興味が全くないなら、この映画はあなた向きではないです。それくらい極端な趣味の映画ですから。
このどういう発想なんだという『マッシブ・タレント』のアイディアを実行に移した監督が、2014年の『恋人まで1%』で監督デビューした“トム・ゴーミカン”。当初、“ニコラス・ケイジ”は「自分で自分を演じる」ことに難色を示していたそうで、それでも説得できたのは奇跡的ですが、それにしたってこんな企画を立ち上げること自体、怖いもの知らずというか…。無茶苦茶だな…。
まあ、でも結果オーライです。“ニコラス・ケイジ”がそこにいる。それで私たちのこの映画の価値は決まりました。そう、これは“ニコラス・ケイジ”本人とそのファンのための映画です。たぶんこの感想記事を“ニコラス・ケイジ”本人が読んでいることはないと思うので、ファンのあなたに伝えます。
“ニコラス・ケイジ”があなたを必要としている…と。
『マッシブ・タレント』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優ファンは必見 |
友人 | :元気をもらえる |
恋人 | :恋愛要素ほぼ無し |
キッズ | :口汚いセリフ連発です |
『マッシブ・タレント』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):頑張れ、ニック!
ニック・ケイジ主演の『コン・エアー』をテレビでまったり見ているマリアとそのボーイフレンド。家に誰か来たのでボーイフレンドに見に行かせると、「マリア!」と叫んでボーイフレンドが駆け込んできます。間髪入れずに現れたのは、覆面の怪しい奴ら。この集団に襲われ、マリアは床に倒れて意識を失い…。
カリフォルニア。ニックは上機嫌でした。監督と会うのです。一緒に話して役を得るために熱気ムンムンのニック。監督は断りますが、ニックは監督が車に乗り込んでしまう前にドアを閉じ、目の前でお構いなしにセリフを浴びせるように演じ始めます。圧倒された監督は「holy shit」とひと言で感想を述べます。
それが終わり、ニックの運転する車の中では若い頃の自分が助手席に出現。若い頃は確かに大変だったけれども、今はもっと大変かもしれない…全盛期は過ぎた…そんな現実を突きつけられ、ニックは振り払います。
仕事だけが問題ではありません。元妻のオリビアや娘のアディともどう関係を保てばいいのかわからなく、とくにアディとは冷めきってしまっていました。
エージェントのリチャードとスパに行き、激しく叩かれるマッサージを受けながら、それでも次回作の主演の役が必要だと熱弁。リチャードはニックの大ファンだという富豪の誕生日パーティの話題を持ち出します。ニックにしてみればバカバカしいですが、それでオファーに近づけるなら無視はできません。しかし、それはプライドが許さず…。
ニックはアディの誕生日会へ向かいます。家に入ったそのとき電話で例の役が他の俳優に奪われたという悲報を知り、完全に失望して酒に逃げるしかできません。そのままヤケクソで酔った勢いで、暴言だらけの歌を弾き語りで熱唱し、アディの誕生日パーティを台無しにするのでした。
オリビアに運転してもらっている帰りの車では放心状態のニック。娘はもう幼い子ではない…諭されて余計に落ち込むしかできず…。
ドアの鍵を開けられず、その場で座り込みながら、リチャードに電話。あの誕生日パーティの招待を受けることにします。もう俳優を辞めることも考えていました。
スペインのある島に飛行機で降り立ったニック。しかし、その場には2人のCIAエージェント、マーティンとヴィヴィアンが張り込みしていました。ある事件のためです。有名人であるニックを見て驚きますが、ヴィヴィアンはその場の機転でニックのファンを装って記念撮影をする振りをして彼の服に追跡装置を忍ばせます。
何も知らないニックは船でハビとガブリエラの屋敷に到着。船を操縦していたその人こそハビで、そわそわしながらニックの横に並んで話しかけてきます。ニックは金持ちの戯言だろうと平然とくつろぎ、俳優を辞めるんだと自暴自棄。プールに沈み込んで気を失います。
ハビはニックを車で連れ出し、いきなり緊迫して走り出すハビをニックは追うハメになり、崖でいきなり演技めいたことをしだすハビに付き合います。ニックも演技のスイッチが入り、2人で崖から飛び降りて、お互いに打ち解けました。
岸の岩場で語り合う2人。ハビは「お気に入りの映画は?」と聞き、ハビ自身も『フェイス/オフ』と『カリガリ博士』、そしてオールタイムベストは『パディントン2』だと言います。
その後に2人で『パディントン2』を一緒に見て、号泣しながら傑作だとニックも納得しますが…。
実質『パディントン2』の宣伝動画
『パディントン2』は傑作、うん、そうだね! 以上です。
もうこの結論で終わっていいのではないだろうか。そんな気分にさせられる『マッシブ・タレント』ですが、実際、この映画、あのエンディングも含めて、限りなく『パディントン2』の宣伝動画ですよ。むしろ公式より宣伝が上手いかもしれない…。配給の「ライオンズゲート(Lionsgate)」も他社の映画をそんな宣伝している余裕ないだろうに…と心配したくなるけど、まあ、『パディントン2』は傑作だからね(常にその結論に行き着く)。
それはさておき、頭の中からあの熊映画を強引に引き剥がして、『マッシブ・タレント』本編の話をすると、本作は前述したとおり、厳密には“ニコラス・ケイジ”が「ニコラス・ケイジ」を演じているわけではないです。主人公は「ニック・ケイジ」ですから。
出演している映画はおそらく私たちの知っているものと同じ。でも大きく違うのは人生の出自と家族経歴。実際の“ニコラス・ケイジ”はあの巨匠である“フランシス・フォード・コッポラ”の家系であり、また当人は何度も結婚・離婚歴があって、子どもも複数いて、散財などの素行も問題視されてきました。
しかし、『マッシブ・タレント』のニック・ケイジはそれらが基本はカットされており、妻と娘との関係悪化とキャリアの不調だけになっています。
つまり、このニック・ケイジは、混沌として複雑な背景をバッサリ省略し、アイデンティティを失わない程度で整理整頓されたシンプルな“ニコラス・ケイジ”像として位置づけられ、これがこの映画を観る私たちにとってもニック・ケイジを愛しやすくするハードルの低さにもなっている感じです。
だからこそあの若い頃の自分とのヘンテコ対話も面白いんですね。それにしても若い頃の自分がウザいというのは嫌なものだな…。
Nick… FUCKIIIIIIIIING Cage!
『マッシブ・タレント』はそのシンプル構成バージョンな“ニコラス・ケイジ”であるニック・ケイジが、流れのままにCIAに協力するハメになり、潜入調査とかしないといけなくなります。
ここの展開はもう「頑張って、ニック!」と応援したくなる…。「アクション!」の掛け声で覚醒したり、なんだか“ニコラス・ケイジ”を声で操作して楽しむゲームみたいになってる…。
CIAエージェントのヴィヴィアンを演じているのも『ガールズ・トリップ』の“ティファニー・ハディッシュ”なものだから、シリアス寄りに見えてもやっぱりギャグチックになるし…。
そのドタバタの中で巡り合ったのがハビという男。本作はこの男と男の絆のメインストーリーが肝ですが、「自分をこんなにも愛してくれるファンを騙さないといけなくなった男」と「こんなにも愛を捧げてきて大好きな男を殺さないといけなくなった男」の交錯となってくるのがエモいです。
LSDでトリップしながらドライブしてハチャメチャにエンジョイするシーンとか、どんなカップルのデートよりも楽しそうだし、追い詰められて気まずくなって靴を交換するシーンも健気だし、この2人を永遠に一緒の空間においておきたい…。茶番でもいいんです。
結局、俳優にとって必要なのはファンだし、ファンにとって必要なのは俳優であるということ。互いに依存し合っているんだから、それでいいじゃないかという単純な到達点。推しを傍で愛せるのは最高で、その純粋な推しに触れると推される側も気分がいい。本作の関係性はとても健全な男と男の絆を体現していました。
個人的にはこのニックとハビのやりとりをあと100倍くらいのボリュームで見たかったので、終盤のいよいよ物語も閉じ始めたなとわかるギャング対決シーンはちょっと見たくない気持ちもあったのですけど、“ペドロ・パスカル”が黄金の二丁拳銃でカッコよかったので良しとするか…。
本作がご褒美なのは、観客が“ペドロ・パスカル”のファンでもあった場合、推しがダブルになるので、関係性も骨太になることですね。“ニコラス・ケイジ”を推して、次は“ペドロ・パスカル”を推して…すごく忙しい…。
ファッキン・クール!な体験をした後、どうやって序盤の家族問題を解決するのかと思えば、やはりそこは『パディントン2』。この映画があれば、家庭トラブルも世界平和もおおよそ解決できるんじゃないか…。このあまりに無理やりな幕引きもこの映画なら許されるのです。
“ニコラス・ケイジ”への愛が詰まりに詰まったファンレター・ムービーとして満点であった『マッシブ・タレント』。次は“ペドロ・パスカル”版もいつか作ってくれないかな…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 87% Audience 87%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ニコラス・ケイジ出演の映画の感想記事です。
・『PIG ピッグ』
・『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』
・『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』
作品ポスター・画像 (C)2022 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved. マッシブタレント マッシヴ・タレント
以上、『マッシブ・タレント』の感想でした。
The Unbearable Weight of Massive Talent (2022) [Japanese Review] 『マッシブ・タレント』考察・評価レビュー