ただしどうなるかはわからない…ドラマシリーズ『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2021年~)
シーズン1:2021年にU-NEXTで配信(日本)
シーズン2:2022年にU-NEXTで配信(日本)
原案:マイク・ホワイト
DV-家庭内暴力-描写 LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写
ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル
ほわいとろーたす しょじじょうだらけのりぞーとほてる
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』あらすじ
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』感想(ネタバレなし)
海外旅行は…人間関係を悪くする?
2022年9月、日本でも新型コロナウイルスの水際対策が緩和され、入国者の制限が大幅に緩くなりました。観光地では外国人観光客が増えることが期待され、久々に日本の観光エリアに外国人観光客の群れがぞろぞろとひしめき合っている光景が見られそうです。
観光で異国を訪れると、自国とは違う空気や環境を味わい、気分も良くなってきます。家族・恋人・友人などと一緒に行くなら、その人との関係も深まりそうです。
でも本当にそうなるでしょうか。そんな常に良い刺激になるとは限らないもの。もしかしたら気が緩みすぎて相手の本性を知ってしまうかも…。平常では見られなかった関係性のひび割れに気づいてしまうかも…。
そんなことを言ったら誰かと異国を旅行するのが怖くなってしまいますけど、今回紹介するドラマシリーズはそんな異国観光の気分をやや盛り下げるような作品です。
それが本作『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』。
物語はシンプルで、とあるハワイにあるリゾートホテルが舞台です。そこに観光でやってきた宿泊客たちと、そのゲストをお迎えするホテルの従業員。そんな登場人物模様でお送りする群像劇。
ただ、「良いホテルだね~」とのんびり観光する流れかと思いきや、なんだか不穏な感じになっていきます。様々な人間模様が交差し、ギクシャクしたり、対立したり、狼狽したり…。そんな姿を眺めることになるブラックコメディです。
ジャンルとしても観光が舞台で人間関係がこじれていく様を映し出すという意味でも、『フレンチアルプスで起きたこと』(2014年)にかなり近いと思いますが、そちらと比べると『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』の方が親しみやすいかも。当然、皮肉たっぷりのブラックコメディですから、その皮肉の意図が伝わっていないと面白さも半減しますが…。
本作に関しては、シーズン1では特権…とくに白人特権・男性特権といったものにクローズアップしており、そんな“持っている人たち”の無自覚な素顔が休暇で緩んでいるところを映し出していきます。
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』の原案・監督・脚本を一手に手がけるのは、ドラマ『フリークス学園』の脚本で成功し、その後も『スクール・オブ・ロック』や『ゴリラのアイヴァン』などの映画の脚本も手がけ、『47歳 人生のステータス』など監督作もある“マイク・ホワイト”です。
群像劇なので登場人物はたくさんいるのですが、主な俳優陣としては、シーズン1では、ホテル側では、ドラマ『ルッキング』の“マレー・バートレット”がホテルの支配人を、 ドラマ『インセキュア』の”ナターシャ・ロスウェル”がホテルのスタッフを演じています。
宿泊客側は大きく分けて3つのグループがあり、裕福な夫妻とその子どもたち、新婚夫婦、独り身の女性…です。
ドラマ『ナッシュビル』の“コニー・ブリットン”が有名企業のCFOで宿泊客のひとりを、『フランクおじさん』の“スティーヴ・ザーン”がその“コニー・ブリットン”演じる女性の夫を、『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』の“フレッド・ヘッチンジャー”がその裕福な夫妻の息子を、ドラマ『ユーフォリア』の“シドニー・スウィーニー”がその夫妻の娘を、ドラマ『STAR 夢の代償』の“ブリタニー・オグラディ”がその娘の友人を、それぞれ熱演。
ラブラブ(に見える)新婚夫婦を演じるのは、ドラマ『ハイ・フィデリティ』の“ジェイク・レイシー”と、『ベイウォッチ』の“アレクサンドラ・ダダリオ”。独り身の女性を演じるのは、『シンデレラ・ストーリー』の“ジェニファー・クーリッジ”。
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』は「HBO」のドラマシリーズであり、日本では「U-NEXT」で独占配信中。シーズン1は全6話(1話あたり約55~65分)、シーズン2は全7話。
あんまり旅行中に視聴するのはオススメしないですけどね。
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :風刺コメディ好きなら |
友人 | :気の知れた相手と |
恋人 | :恋愛気分ではなくなる |
キッズ | :性描写あり |
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):ハワイです!
空港の椅子で神妙な面持ちで座るひとりの男。対面する老夫婦が話しかけてきます。「どこに宿泊を?」「ホワイト・ロータス」「人が殺されたと聞いたけど」「遺体が乗る便に。今から運ばれます」「良い旅行だった?」「新婚旅行でした」「理想どおりの新婚旅行だった? そう言えば奥さんは?」「ほっといてくれ」…そう言って、男は窓から飛行機に運ばれる棺を眺めるのでした。
1週間前。クルーザーがホワイト・ロータスというリゾートホテルに宿泊客を乗せてやってきます。従業員が並んで船に手を振ります。支配人のアーモンドは新人のラニに「無個性でいろ」と指導。
さっそく目の前まで来た宿泊客に挨拶。モスバッカー家族一行を温かく迎え、ディロンと共にホテルへどうぞと案内。一昨日結婚したばかりだというパットン夫妻も迎え、クリスティとホテルへどうぞとこちらも案内。そして独りで来ていきなりマッサージを受けたいと所望するマックワッドを迎え、「マッサージの件はベリンダが担当します」と説明しつつ、ラニに案内させます。
部屋に着いたシェーン・パットンは「ここはハネムーン・スイートではなく普通のスイートじゃないか」と言い出し、妻のレイチェルは「そんな大騒ぎすること?」となだめます。シェーンは母がハネムーン・スイートを予約したはずだと支配人に苦情を言いますが、「海の見える部屋はあの部屋を予約されましたよ」「該当するパイナップル・スイートは予約済みです」と言われ、不満そうなシェーンは一旦去ります。
一方、マックワッドは部屋に白いビニール袋が見当たらないと困惑。母の遺灰が入っているらしく、荷物の横にあったのでとりあえず安心。マックワッドはマッサージの予約がいっぱいでガッカリですが、ベリンダが特別に対応することになります。
モスバッカー家の部屋でもひと悶着。娘のオリビアは「友達のパウラに何をするかわからない」と弟のクインを台所で寝かせようとし、母のニコルは叱る態度を見せつつも、結局はオリビアのやりたい放題。マークは腫れあがった睾丸をニコルに見せ、診断結果はでていないものの精巣癌だと落ち込んでいました。「父さんも46歳で癌で死んだ」と沈む夫に「医学は常に進歩している」と励ますニコル。マークはゲームばかりのクインを連れだしてアクティビティをしようとするも、マーク自身はタマばかり気にして集中できません。
そんな中、アーモンドはラニに「客は神経質な子どもだと思え。選ばれし特別な子として扱われたいんだ」と相変わらず指導していましたが、実はラニは妊娠を隠しており、今も陣痛が来ていました。平静を装っていましたが、ついに破水。アーモンドにもバレてしまい、夜中にホテル内で出産する大変な事態に。
そんなことがあったことも知らない宿泊客たちは、思い思いの時間を過ごして初日を終えます。これから自分たちが大変な思いをするとは考えもせずに…。
シーズン1:開き直る男性特権
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』で浮かび上がるのは特権の数々。宿泊客たちは特権者であることを多少なりとは自覚しているのですが、「今回は休暇なんだし、接待してよ」と気が緩んでいます。でも「あなたたちは毎日が接待を受けているような身分だったでしょ?」と突きつけられる…そんなドラマです。
わかりやすいのは男性特権。
例えば、当初は睾丸ナイーブに陥っているマークは男らしさを気にする典型的な男性像そのもので、「今の時代は男でいるのはラクじゃないな」とか「誰かに特権を譲れっていうのか。過去を悔やみ続けろというのか」と半ば開き直りな態度をとり、最終的に部屋に侵入した泥棒に殴られることで名誉の負傷をして男らしさを取り戻したと上機嫌で帰っていきます。
また、シェーンはこれまたわかりやすい富裕層のお坊ちゃま的なポジションで、資産を持つ母に依存しきり、なおかつ妻のレイチェルをトロフィーワイフとして保有することに何の罪悪感もありません。「アメリカ中の女性が望むものを全部あげよう」と言い放ち、結婚はセックスだけだと思っているのかとレイチェルに問われても「俺はロマンチストだ」などと最後まで自覚ゼロ。母も同類でしたけど。
女性も女性でその富裕層としての特権性に無自覚です。ニコルも「私はMeTooの波に乗ってなんかいない」と頑なに否定しますが、あの当時のムーブメントでキャリアを上げやすいのは白人富裕層の女性だったということを理解しておらず、ライターとして地味に頑張っているレイチェルすらも見下します(ちなみにレイチェルを演じる“アレクサンドラ・ダダリオ”はチェコスロバキア系の血筋を持っていますが、白人として一応は位置づけられるも、やや微妙な立ち位置で、そのへんも物語に考慮しているのかな)。ニコルみたいな白人女性特権というものがハッキリ批判されるというのは、あまり今の日本には該当するものがないので、アメリカ的な切り口としてまだまだ新鮮に見えますね。
シーズン1:人種よりもHSPですか?
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』では白人特権も露骨でした。タイトルに「ホワイト」が入っているのも白人至上主義への風刺をやりますよという宣誓なのでしょうが…。
これに関しては「特権者の私も可哀想だよね」という同情を誘うことのウザさが目につきます。
マックワッドはその最たる例で、この宿泊客のあらゆる我儘に付き合い、起業支援してあげるという気まぐれを信じて、最後は見捨てられるベリンダの屈辱は辛いです。
また、一見すると仲がいいように見えるオリビアとパウラ。でもその実態はオリビアの圧倒的優勢で成り立っており、ミックスであるパウラはなんとかオリビアの気を遣うことでその白人特権のおこぼれをもらっています。少しでもそこから逸脱する…例えば性的関係を抜け駆けして手に入れる…とかをすれば、すぐさまオリビアから敵視される。オリビアも無自覚です。父のようなマジョリティ特権を自覚していない中年白人男性なんかじゃないとZ世代なりの批評性を持ち合わせていても自分を反省はできない。このあたりは『Zola ゾラ』でも観察できた女性同士のすれ違いですね。
ちなみに序盤でオリビアがパウラについて「彼女はHSPなの」と発言します。HSPとは「Highly Sensitive Person」の略で環境に対する感受性がとくに高い人たちを表すラベルですが、病名などではなく、別にマイノリティを意味するわけではありません。環境感受性の高さは良い影響も悪い影響ももたらすので特段のマイナス要素ではないです。にもかかわらずオリビアはパウラをHSPとみなして、それで同情した気になっている。どう考えてもパウラのメンタルに悪影響を与えているのはオリビアなのに、それには自覚をしないで…。そういう皮肉を見せるためのHSPの使い方としては上手いなと思いました。
さらにクィアな側面もあります。父がゲイでエイズで亡くなったと知って放心状態になるマークの内心に抱え込むホモフォビア。ちなみに原案の“マイク・ホワイト”の父である“メル・ホワイト”はキリスト教伝道師の作家をしていたことで有名で、後にゲイ活動家となるのですが、ああいう白人至上主義的な同性愛差別の実態は現場でよくわかっているでしょうし、“マイク・ホワイト”もお手の物なんでしょう。
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』は全体的にこうした特権を暴く構図が要所要所にあり、そこは面白いのですが、やや特権意識を突きつける最後の詰めは甘いかなとも思ったり。
シェーンが殺人のお咎めなしで帰国できるのは盗みでクビになった従業員のカイとの対比を意図しているのはわかるのですが、ちょっと批判が緩めですし、レイチェルとの仲違いもDVの観点で言えば甘すぎる着地でしょう。クインはスマホ断ちやゲーム断ちができてこの作品の中で一番に清々しそうラストを迎えますが、あれもパドリングの現地の人たちの視点描写がないのでかなりテーマ的にそこだけ不問でご都合的に思えます。また、アーモンドがディロンと性的にハジケるシーンも、あれもパワハラ的な意図があるのでしょうが、それもわかりにくい風刺ではありました。
私としては『ザ・スクエア 思いやりの聖域』とかドラマ『メディア王 華麗なる一族』並みの明確なエグすぎる特権暴露ストーリー展開が好みなので、『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』は抽象的で綺麗すぎかな…。
リゾート地で格差を浮き彫りにする作品だと『わがままなヴァカンス』も私の好みだけど。
その『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』ですが、リミテッドシリーズとして製作されたのでシーズン1で終わる予定でしたが、好評だったのでシーズン2に続くとか。でも今度はキャラクターも舞台も一新するそうでなので、次はどうなるやら、また楽しみですね。
シーズン2:硬くならずにいこう
『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』のシーズン2、今度の舞台はシチリア島タオルミーナです。気分は『007』、または『ゴッドファーザー』か、でもそうはいきません。
シーズン1では特権がテーマとして全面にでていましたが、シーズン2とは趣向を変えて、硬直化しやすい人間関係をどうほぐすかというケアの話になっています。
イーサン&ハーパーとキャメロン&ダフニのカップル2組のエピソードでは、浮気自体を悪いこととして扱わない、とても緩い付き合い方を受け入れるオチになっていたり…。ミアとルチアの件もそうですが、性の関係に厳密な道徳的規範を求めない姿勢ですね。
はたまたハリウッドのプロデューサーのドミニク・ディグラッソとその祖父バート&息子アルビーの一同のエピソードでは、女性との付き合い方で男が失態をすることへの自己反省であったり…。
そんな中でのMVPはやっぱり“ジェニファー・クーリッジ”演じるタニア・マックワッド。なんでまた再登場しているんだという、それだけでも面白いのですが、シーズン2の彼女はさらに生き生きとしていました。
着いて早々、さっそくアシスタントのポーシャにぞんざいな突き放し、「ずっと部屋にいて」と放置。全然前回から変わってない! スクーターのシーンも爆笑ものですが、夫のグレッグについには捨てられ(というか殺す対象になるのだけど)、謎の占い師にも励ましもらえません。
そこで出会ったのが陽気なゲイ男性たちのコミュニティ。しかし、このゲイたちこそ危うい存在で…。こんなふうにゲイたちの闇組織がフラットに描かれるのって新鮮ですね。
今回の苦労人であるホテル支配人のヴァレンティーナは子猫に餌をやる親切な一面はあれど、実は自分の同性愛指向を隠しながら、女性とは未経験であることに恥を感じている独り身のレズビアン。こういう描写もまた珍しい気がする…。意中の女性イザベラはロッコという男性恋人がいることが判明し、意気消沈。でもミアに背中を押してもらい、レズビアン・バーも紹介してくれるそうで、めでたしめでたし。
いや、まあ、今回はタニアが船から足を滑らせて落下溺死するのですけど…。次回でもしれっと普通に登場しないかな…。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 89% Audience 74%
S2: Tomatometer 93% Audience 73%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Warner Bros. Television Distribution ホワイトロータス
以上、『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』の感想でした。
The White Lotus (2021) [Japanese Review] 『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』考察・評価レビュー