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アニメ『ガールズバンドクライ』感想(ネタバレ)…ガルクラは何に中指をたてないのか

ガールズバンドクライ

何に中指をたてて、何に中指をたてられないのか…アニメシリーズ『ガールズバンドクライ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Girls Band Cry
製作国:日本(2024年)
シーズン1:2024年に各サービスで放送・配信
監督:酒井和男
イジメ描写 人種差別描写
ガールズバンドクライ

がーるずばんどくらい
『ガールズバンドクライ』のポスター。5人のバンドメンバーが映ったデザイン。

『ガールズバンドクライ』物語 簡単紹介

17歳の井芹仁菜は故郷の学校に居場所を感じられず、厳しい父親のせいで家にもいられず、全てに反発して高校を中退し、東京に飛び出してくる。この都会で自分なりに勉強して大学進学を目指していた。そんなある日、仁菜は自分に勇気を与えてくれた音楽グループに所属していたストリートミュージシャンの河原木桃香と出会う。その桃香は鬱憤を溜め込む仁菜に一緒にバンドを組もうと誘ってくる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ガールズバンドクライ』の感想です。

『ガールズバンドクライ』感想(ネタバレなし)

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日本のアニメはロックか?

さして音楽トレンドに興味ない私でも、グラミー賞くらいはチェックしておこうという浅はかなことはしたりする…。

そんな2024年2月に授賞式が行われた第66回グラミー賞にて、「最優秀ロックパフォーマンス」「最優秀ロックソング」に輝いたのが、「Boygenius」というグループの『Not Strong Enough』という楽曲でした。

ロックと政治は切っても切り離せないものと言いますが、この「Boygenius」もかなりキレキレです。まずグループ名からして凄くて、別に男性は所属していないグループですよ。何に反抗しているかは一目瞭然です。

”ジュリアン・ベイカー””フィービー・ブリジャーズ””ルーシー・デイカス”という個別で活動していたシンガーソングライターの3名が2018年に結成したグループで、各自で政治活動も旺盛に展開しています。例えば、LGBTQ権利運動に積極的に参画し、保守派の反トランスジェンダーのバックラッシュにも毅然に反抗。楽曲もメンタルケアやクィアな解釈ができたり、時に静かに時に強烈に訴えてきます。まさにロック。2024年の時代性のロックです(2024年2月に活動の休止を発表)。

なかなか日本はロックが政治と直球で接続する事例は少ないかもしれません。政治的に頑張っているアーティストもいないわけではないですが、政治的上品さを暗黙で求めてくる日本という社会の空気はロックのポリティカルな叫びをミュートにしがち

それがロックバンドを題材にしたアニメとかになるともっと無音になってしまったり…。

でもロックは”何かに反抗する”もの。だとしたらロックバンドを題材にしたアニメはどうそのロックらしさを表現するのでしょうか。

…みたいなことを考えてもいいし、考えなくてもいいのですけど、今回、このアニメの感想ではそこを掘り下げてみようかな。

それが本作『ガールズバンドクライ』です。

本作はオリジナル作品で、10代後半から20代前半の若い女性たちが巡り合ってバンドを結成し活動していくという、もうアニメ界隈ではド定番のガールズバンドのサブジャンル。

製作は「東映アニメーション」で、おそらくガールズバンド作品の自社IPが欲しかったのだろうなと察せます。「東映アニメーション」はどうしても『プリキュア』なんかを除くと、『ドラゴンボール』とか『ONE PIECE』とか、2022年~2023年に大ヒットした『THE FIRST SLAM DUNK』といい、他社IPに依存しているところがありますからね。

『ガールズバンドクライ』はシリーズ構成・脚本に『ラブライブ!』シリーズの“花田十輝”を抜擢し、結構もろに『ラブライブ!』みたいなIPをやるぞ!と意気込んでいるのが伝わってくる…。作品のビジュアルやストーリーもだいぶ『ラブライブ!』感がでてます。コンテンツ過多で埋もれやすいフィールドなので、競争は大変そうだけど…。

それでも最初から弱気なんかではなく、『ガールズバンドクライ』はやる気満々。音楽は引き手あまたのヒットメーカー“田中ユウスケ”を起用していますし、特徴的なのが主役キャラクターの声をオーディションで選んだメンバーに任せ、実際のバンド活動と連動させるという試み。声優がバンドをやるのはよくありますが、本作はアニメとバンドをスタートから一蓮托生にさせています。というか、バンド活動を先行させて話題のアーティストも多く関わる「agehasprings」事務所の下で既にかっ飛ばしています。

このアプローチはかなりリスキーだと思うのですが(とくにメンバー各個人のキャリアにとって)、どうなんだろうか…。そして別の懸念もあるのですが、それは後半の感想で…。

また、『ガールズバンドクライ』は一部のシーンを除き、いわゆる「セルルックアニメ」で表現されています。これは3Ⅾモデルを2Ⅾアニメの作画に寄せたアニメーションで動かすスタイルのことです。バンドものだとそんなに真新しくもないセルルックアニメですが、本作は表情豊かだったり、コミカルだったり、かなり頑張って動かしています。

とは言え、セルルックアニメは今やアニメ界隈の専売特許ではなく、むしろスマホゲーVTuber / VRコミュニティなどで浸透しつつあり、多くの人も見慣れてきています。そしてセルルックアニメの表現力というのは、製作にかかるコストと時間がものを言うので、やっぱり製作規模のデカいコンテンツほどセルルックアニメのクオリティは高いです。それも日進月歩で表現力が突出した作品が次から次へと出てきます。なので本作も「いや~これは今までのセルルックアニメの中でも最上級だね」なんてオタクが宣おうとも、すぐに過去の話になっちゃうんですね。だから私はこれ以上は言わない…(臆病)。

既にあれこれ書きましたけど、オリジナルで挑戦してきた『ガールズバンドクライ』を見物した人はぜひ鑑賞をどうぞ。

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『ガールズバンドクライ』を観る前のQ&A

✔『ガールズバンドクライ』の見どころ
★エモーショナルな音楽の叫びとキャラクター演出。
✔『ガールズバンドクライ』の欠点
☆業界批評としてはなおも踏み込みに乏しい。
日本語声優
理名(井芹仁菜)/ 夕莉(河原木桃香)/ 美怜(安和すばる)/ 凪都(海老塚智)/ 朱李(ルパ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:ジャンル好きなら
友人 3.5:仲の良い相手と
恋人 3.5:恋愛要素はほぼ無し
キッズ 3.5:子どもでも見れる
セクシュアライゼーション:なし
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ガールズバンドクライ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

キャリーケースを引っ張りながら慣れない東京の複雑な電車路線に混乱しながら駅を彷徨うひとりの少女…17歳の井芹仁菜。頼りにしていたスマホの電池も無くなります。不動産屋に到着した頃にはもう真っ暗で、営業は終了していました。なんとかアパートに辿り着くも、鍵は無く、隣の人が親切に「うちで充電する?」と気を利かせてくれるも、他人に警戒する井芹仁菜は慌てて断ってしまいます。

店でスマホを充電すると、姉の涼音から電話がかかってきました。心配している様子ですが、奥からはの冷たい言葉が聞こえます。「電池ないから」と嘘をついて電話を切る井芹仁菜。

実は感情任せに家を出たのです。熊本から東京へ。本当は神奈川県川崎市ですが、東京だと勘違いしています。それくらいの世間知らず。高校2年生としては大きな決断。ここで予備校に通って大学を目指すつもりでした。

上京初日で落ち込んでいた時、SNSでストリートミュージシャンの河原木桃香が近くで路上ライブしているのを知って、現場へ駆け付けます。聞き惚れる井芹仁菜。「ファンなんです」と声をかけます。

河原木桃香は「ダイヤモンドダスト」というガールズバンドのリーダーでしたが、ひとり脱退してしまい、今はこうやって個人で活動していました。

牛丼をご馳走してもらい、さらに家に招いてくれます。そんな少し年上の河原木桃香から「私は明日、旭川に帰るんだ」と音楽を辞めるつもりだと意外なことを告げられます。売れなかったから仕方がないし、曲の権利も売った…。でも井芹仁菜はそれを聞いて納得できません。

「夢があってこっちに来たんじゃないんです、居場所が無くて」と井芹仁菜はあらためて自分の心境を語ります。カラオケに一緒に行くと井芹仁菜の歌声に河原木桃香は少し心を動かされます。

翌日、河原木桃香からギターを貰い、河原木桃香は帰郷のために出ていきました。井芹仁菜がやっと自分の家に入り、そのギターを開けると「中指立ててけ!」と書かれていました。

そのメッセージに居ても立っても居られず、「本当にいいんですか、終わっちゃうんですよ。一緒に中指立ててください!」と路上マイクで叫びます。その叫びは河原木桃香に届き、2人の音と声は重なり始め…。

この『ガールズバンドクライ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/07/15に更新されています。
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せからしか!なロックを秘めるメンバー

ここから『ガールズバンドクライ』のネタバレありの感想本文です。

『ガールズバンドクライ』は個々のキャラクター・アークは凡庸で、正直、どこかで何度も見たような既視感のある集合体です。というか、同時期に放送していたアニメ『夜のクラゲは泳げない』と結構被っているところも多々あります。

そんな中、『ガールズバンドクライ』は「世の中に何を叫んで表現とするか」という部分に軸足が置かれている感じでした。タイトルの「cry」は「すすり泣く」ほうではなく「叫んで、声を上げて、訴える」ほうの意味ですね。

「トゲナシトゲアリ」というバンド(ヘンテコな名前の生き物として有名な「トゲアリトゲナシトゲトゲ」に由来 ※ただし正式な標準和名としては存在しない)を結成するのは、井芹仁菜、河原木桃香、安和すばる、海老塚智、ルパの16~22歳までの5人。それぞれが自己を取り巻く他者(それを「社会」と呼ぶ)に不満を溜め込んでいます。

井芹仁菜は、地元の学校でイジメられていた子を助けたばかりに今度は自分がイジメられる側になってしまい、友人のヒナにも見放され、孤立。さらに保守的で厳格な父の仕切る家庭環境にもうんざりして、家を出ます。井芹仁菜の怒りのコンプレックスは黒いオーラみたいな線で描写され、さながら”闇”属性です。

河原木桃香は、自身の青春だった「ダイヤモンドダスト」から離れ、一歩「大人になってしまった」佇まいを醸し出すも、後悔がないわけではないです。順応しようとしてしまう中で、井芹仁菜に喚起され、「トゲナシトゲアリ」というバンドに次の居場所を見い出します。青春を引きずる20歳の年齢を絶妙に突いた心の揺れ動きだったと思います。

安和すばるは、大物俳優である祖母の影響で「品行方正」の重圧を背負いすぎているお嬢様系。世間的に外見や出自で優位とみなされやすいですが、そんな人間の裏の複雑な心情をこちらもきっちり捉えていました。

海老塚智は、母の不倫で家を出て、以前のバンド仲間にも「本音を言ってしまった」ことで、井芹仁菜以上にすっかり自己抑圧的になっていました。主張を躊躇わないことのポジティブさを素直に描くというのは今の時代、とても大切だと思います。

ルパは、日本のアニメにありがちな典型的な「外国人」枠ではあるのですけども、外国人らしさをやたらと誇張的にキャラ付けするというステレオタイプもなく、さらに店で客から人種差別なハラスメントを受けても耐えるしかない姿を描くなど、しっかり日本社会で生きる当事者を映そうという姿勢があったのは良かったです。公式サイトによれば「南アジア」出身だそうですけど、そこはもう少し具体的でいいんじゃないかと思いますが…(ただでさえ他のメンバーはちゃんと都道府県どころか市町村まで出身設定があるのに)。

ちなみに表象の観点で言えば、第1話で河原木桃香のルームシェア相手に男性が登場し、その人は「恋愛対象は男性(だから自分とは恋愛関係にならない)」と河原木桃香の口から説明されます。日常で生きるゲイをさらっと描くのはいいんですけども、この描き方だとアウティングに見えかねないし、井芹仁菜の咄嗟の反応がホモフォビアに受け取れるし、あんまり上手い表象ではなかったかな…。

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そこには中指は立てられないのか

『ガールズバンドクライ』はベタではありますが、各キャラクターの心情をエモく表現するという、昨今のこのサブジャンルの攻め方としては正攻法のスタイルを丁寧にこなしていました。上記のとおり、上手くいっていない細部はあれど、若い女性の表象としては消費にあまり偏ってないのも良かったです。

ただ、気になる点も大きいところがあって…。

ひとつは、「叫んで、声を上げて、訴える」というあたりが、対人関係に収まるだけで、それ以上は踏み込んでいないということ。最近は「アンチ青春」の手触りをだすのが流行りになっていますが、スレた感じをだすことができますが、それだけで終わりがちです。

『夜のクラゲは泳げない』の感想でも似たようなことを書いたのですけど、とくに本作『ガールズバンドクライ』においても、「子と親」とか「未成年を扱うショービジネス」の領域を映します。それに対しても中指を立てられるのか…ですね。

井芹仁菜は第10話でなんだかんだで父とも和解し、感動な空気で再上京します。不良娘が良い子におさまった着地で…。中指立てるのではなく小指を立てる可愛いポージングです。結局、親からの承認に依存し、あまり家父長的な構造にはメスを入れずに終わったなとややこの帰結は残念です。姉の「あんなだけと親たちはあんたのことを愛している」というセリフは相当にグルーミングな話術だと思うのですが…。

また、本作独自の問題で言えば、業界批判です。最終的に対バンの件もあって一度入った事務所をすぐに脱退してまた再出発するので、あの「トゲナシトゲアリ」として「ダイヤモンドダスト」とは違う路線でいこうというポリシーは示しています。

その物語は良いと思うのです。けれども、本作の企画に合わせて始動する現実の「トゲナシトゲアリ」はめちゃくちゃゴリゴリに大手のバックアップで活動しているんですよね。

要するにこのアニメは実在のバンドを「商業的に”汚れていないように”綺麗にみせる」というイメージのロンダリングとして機能しているとも言えます。そうなってくると、本作は非常にビジネス戦略が見え見えです。吉野家のプロダクトプレイスメントなんか安っぽく見えるほどにこっちのほうが根深く深刻のような…。

その作品の姿勢は本当にロックなのか…? 反骨精神は形ばかりのマイルドなロック風ビジネスじゃないのか? そういう疑問は拭えない…。

近年の”ショービジネスに派生するバンドやアイドルもの”は、(とくにアニメとなると商業企画規模もデカくなるし)絶対にこの論題からは逃げられない宿命があると思いますが、何食わぬ顔でスルーするか、ちゃんと向き合ってみせるか…今後はどんな作品が生まれるのか見守っていきたいです。

『ガールズバンドクライ』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
×(悪い)
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関連作品紹介

ガールズバンドを主体にした日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』

・『ぼっち・ざ・ろっく!』

作品ポスター・画像 (C)東映アニメーション

以上、『ガールズバンドクライ』の感想でした。

Girls Band Cry (2024) [Japanese Review] 『ガールズバンドクライ』考察・評価レビュー
#バンド #不登校 #女子高校生