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アニメ『スキップとローファー』感想(ネタバレ)…総務省はこの子に任せよう

スキップとローファー

総務省はこの子に任せよう…アニメシリーズ『スキップとローファー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Skip and Loafer
製作国:日本(2023年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
監督:出合小都美
LGBTQ差別描写 恋愛描写

スキップとローファー

すきっぷとろーふぁー
スキップとローファー

『スキップとローファー』あらすじ

石川県の“はしっこ”の地元で幼馴染の親友とずっと住んできた岩倉美津未は中学卒業を機に東京の高校へ進学し、ひとり新しい地に足を踏み出す。岩倉美津未はポジティブ・シンキングだが、天然で経験も浅い。人生設計は完璧だと思っていたが、すぐに壁にぶち当たる。都会の人間関係の多さと複雑さに面食らっていると、志摩聡介という同じ高校の男子と偶然に出会い、些細なことで仲良くなっていく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『スキップとローファー』の感想です。

『スキップとローファー』感想(ネタバレなし)

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ダメな大人は置いといて

“イーロン・マスク”の暴投が冴えわたるTwitterはついに1日の読み込み制限を唐突に導入してヘビーユーザーに阿鼻叫喚の強制SNS離れを断行させITmedia NEWS、かと思えば、ハチャメチャなミスが連発しているマイナンバー制度に対して“河野太郎”デジタル大臣は誰も求めていないのにマイナンバーカードの名称変更を考えていると気まぐれで言い出したりFNN、世間にはまともなリーダーはいないのかと、深い失意のため息しかでない今日この頃。

では優れたリーダーとは何か。一般的にリーダーは「周囲をぐいぐい引っ張る」というマッチョイズムな機能だと思われてきましたが、もうそれはさすがにないでしょう。私はリーダーとは有能な調整役であり、他者の外面もしくは内面的な障害を取り除き、その才能を最大限に引き出せる人のことだと思っています。

しかし、リーダーとはひとりでは機能しません。リーダーも周囲の相互作用あってこそのリーダーです。そうやって集団は初めて理想的に前に進みだします。

今回紹介するアニメシリーズの主人公は、案外と理想に近いリーダーの役割を果たしているのかもしれません。

その作品とは『スキップとローファー』です。

本作は、“高松美咲”による『月刊アフタヌーン』にて2018年から連載されている漫画が原作。アニメ化における制作スタジオは「P.A.WORKS」で、監督は『ローリング☆ガールズ』『夏目友人帳』”出合小都美”です。

『スキップとローファー』のジャンルはタイトルからじゅうぶん漂っているとおり青春学園モノ。石川県の田舎からひとり高校進学で東京に引っ越してきた主人公が、都会の学校生活に溶け込みつつ、いろいろな同級生と触れ合って、相互作用していく…そんな物語です。

主人公は「官僚になる!」とかだいぶ威勢のいいことを言ってますが、偉そうな態度は全くとりません。でも特別な能力に秀でているわけでもない。しかし、自然と周囲は和やかになっていく…。

プロットとしてはシンプルでありきたりに思えますが、キャラクターと物語の語り口の混ぜ合わせはとても魅力的で、全体的に多幸感に溢れ、各登場人物の心の機微を繊細に捉えています。一見するとそれぞれのキャラクターはベタな型どおりに思えるのですが、ひとたび物語が駆動していくと、その見えなかった内面がぽろぽろとこぼれ、いつの間にかそのキャラを好きになっています。

ギスギスするような展開も起きますが、ショッキングを与えるような煽るだけ煽る感じではありません。かといってステレオタイプな解決で片付けてしまうこともありません。

ともかく観ていて嫌な気持ちにならない青春学園ストーリーです。読者・視聴者に不快感を与えずに面白いものを作るというのは、不快感を売り物にして注目を集めるよりも何百倍も難しいクリエイティブなことなのですが、本作はそれをサラっとやってのけています。

恋愛要素もあるにはありますが、わりとプラトニックな関係で基本はコーティングされているので、恋愛嫌悪感のある人でも見やすい部類ではあると思います。

また、作中で主人公の東京暮らしにおける保護者の役割として叔母が登場しますが、トランスジェンダー女性です。トランスジェンダーの表象としてもありがちなミスをすることなく、結構自然に上手くハマっているので、出番は少なめですが、クィアな描写に関心ある人もぜひ。

全12話で、ストレス無しでサクサク観れます。また繰り返し見返したくなる居心地の良さがあるんじゃないでしょうか。

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『スキップとローファー』を観る前のQ&A

✔『スキップとローファー』の見どころ
★居心地のいい多幸感に溢れる物語。
★魅力的で内面が丁寧に描かれるキャラクター。
✔『スキップとローファー』の欠点
☆シーズン1以上にもっと見たくなる。
日本語声優
黒沢ともよ(岩倉美津未)/ 江越彬紀(志摩聡介)/ 寺崎裕香(江頭ミカ)/ 内田真礼(村重結月)/ 潘めぐみ(久留米誠)/ 木村良平(兼近鳴海)/ 津田美波(高嶺十貴子) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:気分をリラックス
友人 4.5:気楽に話せる相手と
恋人 4.5:素直に語り合って
キッズ 4.0:ティーン向けだけど
セクシュアライゼーション:なし
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スキップとローファー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):人生設計がある!

「いいな、ブレザー…!」と訛った方言で動画越しに語りかけてくるスマホの中の友達。その子、遠山文乃(ふみちゃん)とは幼稚園から一緒。「うちらの自慢だね」と言われ、その言葉を胸に、岩倉美津未は自信に満ち溢れて東京の新しい出発点に立っていました。15歳。今日から東京の高校生です。

石川県の“はしっこ”のほうから上京してきた来た岩倉美津未。東京暮らしでは、美津未の父方の叔母ナオちゃんが保護者です。中学の同級生は8人で、出発の際は幼馴染の遠山文乃はお揃いのパンダのヘアピンをくれました。家族や友人と別れての東京生活は寂しいですが、岩倉美津未はくよくよしません。

なぜなら岩倉美津未には明確な人生設計があるのです。「目指す大学はもちろん“T大”」「法学部を首席で卒業して総務省に入る」「定年後は市長になってメディア出演で人生を語りながら財政を大幅に改善」「死んだらお骨は日本海にまいてもらう」…自分の中では完璧でした。この高校3年はそのための学力を身につけるためにあると思っていました。

初日の登校日。東京の大都会を象徴する駅でも自分は失敗はしないと張り切って、一歩を踏み出します。

入学式が始まりだそうとする頃、高校生1年の志摩聡介は駅でのんびり歩いていました。遅刻も気にするつもりはありません。そこに同じ制服のひとりの女子が目に入ります。うなだれるように壁に頭をつけているその子は岩倉美津未でした。

岩倉美津未は駅で迷い、通勤ラッシュで人酔いし、撃沈。完全に自信を挫かれていました。

志摩聡介は「大丈夫ですか?」と話しかけます。同世代の知らない人と喋るのは久しぶりで緊張する岩倉美津未でしたが、「学校へはどうやって行くんですか?」と恥を捨てて聞きます。迷子なのかと納得した志摩聡介は「一緒に行こうよ」と朗らかに誘います。

大失態だと岩倉美津未はガタガタと震えていましたが、「たかが入学式じゃん」と志摩聡介に言われ、「それはあなたにとってはでしょ」と思わず言い返してしまいます。思わず八つ当たりした自分を恥じる岩倉美津未。

学校までもうすぐの道。慣れない靴まで脱ぎ、がむしゃらに走って学校へダッシュする岩倉美津未。志摩聡介もそんな後ろ姿を見つめつつ、自分の歩調も合わせていきます。

なんとか間に合って新入生代表の挨拶に向かいます。原稿を鞄の中に忘れましたが、そのまま根性だけでハキハキと喋り出します。しかし、終わって思わず先生の前で嘔吐してしまいました。

岩倉美津未は早々「吐いた人」という認識が学校で広まりつつも、志摩聡介だけは気楽に話しかけてくれます。なかなかにモテそうな志摩聡介と連絡先を自然に交換した岩倉美津未を目にして、後ろの江頭ミカも連絡先を交換しようと言ってきます。

担任の花園さくらが挨拶し、明日は自己紹介があると説明。こうして慌ただしく高校1日目は終わりです。

帰宅し、やや話を編集しながらも大成功だったと遠山文乃に電話で報告。実は家族にも友人にも勉強以外はズレていると思われている岩倉美津未でしたが、本人はそんなに自覚していません。

ベッドにつくと、急に自己紹介文を考えるべきじゃないかと思い立ち、悩んでいるうちに夜が明けてしまいました。

一方、志摩聡介は他校の友人とのファミレスの集まりを早めに切り上げて帰ります。いつもは学校なんてそんなに重要だとは思っていませんでしたが、なんとなく面白い子に出会えたことが、気分を少し高揚させてくれていました。

次の学校では何が起きるのでしょうか…。

この『スキップとローファー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/07に更新されています。
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他人をタイプで分けて分析するのはやめよう

ここから『スキップとローファー』のネタバレありの感想本文です。

『スキップとローファー』にでてくる登場人物は一見すると、ベタな型そのままな設定です。

岩倉美津未は「地方からの天然そうな田舎者」、志摩聡介は「アンニュイと爽やかさの入り混じったイケメン」、江頭ミカは「ちょっといじわるな女子」、村重結月は「近寄りづらそうな美人」、久留米誠は「地味で内向的な子」、高嶺十貴子は「超真面目な完璧主義な生徒会員」…という感じ。

しかし、本作はそんな表面的にキャラクターを配置して、その型どおりに物語を動かしていくのではなく、そんな登場人物の”表からは見えない”心の機微を捉えて、見えなかった内面を浮き上がらせていきます。

全員に共通しているのは「みんな何かしらの劣等感を抱えている」ということ。学校にせよ、社会全体にせよ、何かと人間関係や性格によって順位をつけられがちですが、そんな「勝ち組」「負け組」なんて現実には存在しない。それぞれの悩みや苦しみがあって、その層が違うだけで…。

江頭ミカは過去に努力して自分を磨いた経験からかなり計算高く人間関係を乗りこなして立ち回ろうとします。志摩聡介にアプローチするのも打算的です。

村重結月は容姿ゆえのコンプレックスやジェンダーの足枷にうんざりしつつ、他者と距離をとってしまってなかなか理解してもらえません。

久留米誠は“チャラチャラ”した人とは根本的に合わないと、こちらも自分から壁を作ってしまい、硬直したネガティブ思考に留まってしまっています。

高嶺十貴子は優秀な評価を得なくてはというプレッシャーで、自分を追い詰めてしまい、あのスケジュール帳のように余裕がなくなっています。

でもその個人の殻を何かの拍子に破ることができれば、意外にそこには共感であったり、手を取り合える瞬間があったりする…。

実際、私たちは他人をタイプで分類し、レッテルを安易に貼ってしまいがちですが、それよりもいかにしてその人の内面に向き合えるかを考えようという、とてもシンプルなメッセージが『スキップとローファー』の心地よさの源になっていました。

もちろんその化学反応の重大な触媒となっているのが、岩倉美津未です。純朴な田舎者でありながら、ステレオタイプな嫌味がない表象になっており、自然に人間関係をほぐします。アニメ版では、“黒沢ともよ”の率直な声の演技も組み合わさって、岩倉美津未がより自然体に見えましたね。

岩倉美津未の立ち回り方はちょっと『ミラベルと魔法だらけの家』っぽいですね。

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イケメンをケアする

『スキップとローファー』で最もその内面が難攻不落となっていたのが、志摩聡介です。

本作は言ってみれば、志摩聡介というイケメンを恋愛的に攻略する話ではなく、イケメンをケアする話でした。そしてそのケアが非常に丁寧で誠実です。

大きく寄与するのはやはりここでも岩倉美津未。恋人ができたと打ち明ける遠山文乃に刺激されて岩倉美津未も志摩聡介に若干の恋愛感情(?)を自覚し始めますが、それはさておき、岩倉美津未は志摩聡介に恋愛ありきで近寄りません。最初は実家で飼っている人懐っこい犬みたいにしか思っていない感じでもありましたが、しだいにその心に手を伸ばしていきます。

志摩聡介は子役時代における母からの期待に応えるだけだった自分、または同じく芸能界の西城梨々華との因縁もあって、かなり自己否定的な高校生に育っています。無気力的な態度は、みんなを眩しくみていることの裏返し。「やりたいことがない、自分がわからない…」と思ってしまうほどのアイデンティティが迷子です。

そんなイケメンがいたら「いや、容姿がいいんだから最高じゃないか!」とか「カノジョでも作って遊びまくればいいじゃないか!」とか、そういう典型的な男らしさに依存するアドバイスがなされそうですが、幸運なことに志摩聡介の周りにはそうじゃないサポートをしてくれる人が何人もいました。

岩倉美津未による志摩聡介への態度は、ステレオタイプな女性らしい献身性を見せるわけでもない、とてもフラットな寄り添いです。

また、志摩聡介の幼馴染だという福永玖里寿も、一切トキシックな男らしさを発露しない男友達となっていて、安心感があります。

そして演劇部の兼近鳴海。この高校生は自身の幼少期の創作への情熱を周囲に恥ずかしがりながらも明かし、こちらも頑なだった志摩聡介の心を開きます。

安易に扱われがちなイケメンに対する、『スキップとローファー』でのケア姿勢の充実っぷりは印象的でしたね。「学校、楽しいんだ」と言えるようになるまでの過程に説得力がありました。

もちろん『スキップとローファー』の人間関係リラクゼーションはやや単純化されすぎている欠点はあります。人種とか性的指向とか、そういうのまで絡めてこうしたテーマを描き切っている海外の作品も普通にありますし…。

でもナオちゃんの描き方は程よい落ち着きでした。トランスジェンダー女性としてミスジェンダリングされることがほぼなく(電車内で「男?」と囁かれるワンシーン程度)、動物園での尾行で江頭ミカに叔父として保険証を見せるくだりなど、そんなにジェンダー・アイデンティティを違和感あるものとして浮きだたせずに物語に組み込んでいました。

岩倉美津未は総務省に勤めたいなんて野望を掲げていましたが、ぜひ総理大臣を目指してほしいですね。

『スキップとローファー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『お兄ちゃんはおしまい!』

作品ポスター・画像 (C)高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

以上、『スキップとローファー』の感想でした。

Skip and Loafer (2023) [Japanese Review] 『スキップとローファー』考察・評価レビュー