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ドラマ『サムバディ・サムウェア』感想(ネタバレ)…中年で平凡な私でも人生のドラマはある

サムバディ・サムウェア

中年で平凡な私でも人生のドラマはある…ドラマシリーズ『サムバディ・サムウェア』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Somebody Somewhere
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にU-NEXTで配信(日本)
製作総指揮:ハンナ・ボス、ポール・チュリーン ほか

サムバディ・サムウェア

さむばでぃさむうぇあ
サムバディ・サムウェア

『サムバディ・サムウェア』あらすじ

カンザス州のマンハッタンに暮らすサムは姉を亡くしたことで悲しみを引きずっていた。不意に涙がこぼれ、仕事もままならない。姉と一緒にこの地元に戻って生活していたが、これからどうするのかの未来の計画も立てていなかった。妹からはもう40歳なのだからちゃんとしろと小言を言われてしまう。それでもサムは、昔からの友人や新しく知り合った仲間と共に、ささやかな人生の喜びを見つけ出そうとする。

『サムバディ・サムウェア』感想(ネタバレなし)

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フィクションの世界に逃げ込んでもいい

ショッキングなニュースが自分の目に飛び込んでくることがあります。これはただのニュース。世の中で起きている出来事のひとつ。自分には関係ない。そう言い聞かせていても、自覚している以上に自分の心が深刻なダメージを受けてしまっているということはよくあります。ただでさえ世間はそういうショッキングな情報に群がり、さらに煽って拡散して、収拾がつかなくなるものです。過激な言葉が氾濫して、それがますます自分の心に衝撃を与えてしまいます。

そういうときはまず何よりも自分の心を大切にしましょう。他人のことは後回しでいいです。自分を守ってください。こんな状況だからこそ、自分を保護することを優先していいのです。それは自己中心的でも我儘でもありません。あなたに必要なケアです。

SNSやテレビなどの情報の洪水から距離をとるのも手です。ついつい触れてしまいがちかもしれませんが、スマホの画面を閉じて横に置きましょう。深呼吸してください。散歩に行くのもいいです。現実社会から離れるのです。

とはいえ、なかなか自分をケアする手段が見つからない人もいます。気軽に話せる家族や友人がいない人もいるでしょう。そもそも他人とお喋りするのが苦手だったり、人に会いたくもなかったり…。

私ならフィクションの世界に逃げ込みます。たいていはそうしています。そうすることで現実をシャットアウトして自分を守りつつ、自分の心が徐々に回復するまでの時間稼ぎができます。そんなのでいいのだと思います。

今回紹介するドラマシリーズはそういうセルフケアにぴったりな作品です。

それが本作『サムバディ・サムウェア』

このドラマは、ある辛い出来事を経験してその悲しみを引きずっているひとりの主人公が、その傷ついた心を一歩一歩ゆっくりとしたペースで回復させていくまでを、静かに丁寧に描く物語です。そこまで極端なドラマチックな展開が起きるわけでもなく、本当に日常が続いていく中での些細な人間模様を描いている、それだけのドラマです。

本作の特徴として、主人公が中年女性だということが挙げられます。「coming of age story」ならぬ「coming of middle age story」です。中年女性が映画やドラマで主役になることは少なく、あったとしてもコミカルだったり、過度なキャラ付けが加えられているケースがほとんどなのですが、本作『サムバディ・サムウェア』はとてもリアルで等身大の中年女性の姿が描かれています。

年齢が中年というだけでなく、まあ、言ってしまえば、世間的にはもてはやされる状況にない立ち位置の人間だという点も本作の肝です。結婚もしておらず、恋人もおらず、友人もほぼおらず、家族関係も悪く、夢もなく、仕事も地味で定収入なもので、ルックスも良くないのでそんなにポジティブな注目を集めることもなく、ただただ今をなんとなく生きているだけのような…。そんな中年女性が地元の田舎で過ごす。正直そこには良いこともないわけです。ぬるま湯の劣等感の風呂にずっと浸かっているような気分です。苦しいとは言えない。目に見えて傷を負っているわけでもないし、表向きは健康だから。でも、なんか、ツライ…。

そんなあなたでもケアされていいんだよと優しく寄り添ってくれるのがこの『サムバディ・サムウェア』。

本作『サムバディ・サムウェア』の原案を手がけたのは、ニューヨークを拠点にする劇場を運営する「The Debate Society」の“ハンナ・ボス”“ポール・チュリーン”

そして製作総指揮に加わり、なおかつ主演として主人公を熱演するコメディアン・俳優・歌手である“ブリジット・エヴァレット”の功績は本作の要です。本作でみせる“ブリジット・エヴァレット”の佇まいが本当に見事で、彼女あってこそのドラマ。実際、本作の舞台はカンザス州のマンハッタンなのですが、“ブリジット・エヴァレット”自身の故郷と同じで、そこは重なるように設定されています。だからあんなに自然体で佇めるのでしょうね。

また、本作は実はとてもクィアなキャラクターが多彩に登場する作品でもあって、インクルーシブな温かみがあります。そこでも特徴的なのは、地味なクィアを描いているということです。どうしてもLGBTQ界隈はゴージャスでエレガントでカリスマ性のある人ばかりが業界の看板になり、クィアな人の中には「キラキラしないといけないのでは?」というプレッシャーを感じることがあるじゃないですか。それもそれで重圧で、息苦しさがあったり…。でもこの『サムバディ・サムウェア』にはそういうのは全然ない。そこがまた居心地がいいのです。

『サムバディ・サムウェア』はシーズン1は全7話で、1話あたり約25~30分ととても短いので観やすさとしてもオススメしやすいです。

本国では「HBO Max」で配信されていましたが、日本では「U-NEXT」の独占配信となっています。

リラックスしたいときにぜひ。

オススメ度のチェック

ひとり5.0:心を落ち着けたいときに
友人4.0:信頼できる相手と
恋人4.0:穏やかな時間を大事に
キッズ3.5:大人のドラマだけど
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『サムバディ・サムウェア』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『サムバディ・サムウェア』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ただ泣きたくなる時がある

カンザス州のマンハッタンの田舎町。サマンサ(サム)・ミラーは標準テスト評価センター(ESTGC)の仕事場でエッセーの採点をする仕事をいつもどおり淡々とこなしていましたが、急に取り乱したように涙して他の同僚もいる大部屋を去ってしまいます。

建物の外へ行き、ひとり動揺を抑えるサムを心配した同僚のジョエルが追いかけて来てくれます。

「ごめんなさい。悲しい内容のエッセーじゃないのに…妹に補助輪の外し方を教えただけの話」…そう説明するサム。平凡な文章だったけど、それでも自分の感情を刺激した理由は、サムも半年前に姉を亡くしたからでした。

ジョエルは「ホリーだよね。本当に残念だよ」とお悔やみを申し上げます。サムは忘れていたのですが、ジョエルは高校で同じ合唱団だったのを思い出します。

「早退したら? アーマには下痢って伝えとくから」「でも下痢で泣くかな?」

そんな会話で少し気分がラクになり今日はお言葉に甘えて帰ることにするサム。

車で帰っている途中、ケイリー・ノーマンディンのサイン会のお知らせが目にとまります。馴染みのランディが働く店により、「ケリーが本を出すって知ってた?」「高校時代の回顧録らしい」と会話。

サムは買い物袋を抱えつつ、妹のトリシアの娘であるシャノンに電話。家で集まる約束です。夜、集う家族。遺品整理は進んでおらず、シャノンはホリーのヘアカラーを見つけて先っぽだけ試してみます。

昔の自分の記事を見つけ、後日、ジョエルとそれを眺めて、ケイリーの悪評で盛り上がります。例のサイン会に行ってみることにし、ジョエルが本を購入。なんともダサそうな本で、サムの話はあるだろうかと中をチェック。たった64ページの小冊子のような本だけどケイリーはやってのけたのか…と感慨にふけります。

実家へ行くと、サムの母メアリーと父エドもいました。トリシアの夫のリックはゲームをしています。トリシアは今はチャリティーと一緒に雑貨店「Tender Moments」を開いていました。

トリシアはサムに「あなたの人生の目的は?」と問い詰めてきます。「ホリーを世話するために帰郷した」と答えるも「それって1年前でしょ。私の娘を新しいホリーにするつもり?」と激怒。「ホリーを悪く言うのはやめて」とサムも口論で応酬します。

職場でサムは落ち着かず、見かねたジョエルが教会での合唱練習に招待してくれます。

他にすることもないので行ってみると、厳かなものを想像していたがやけにパーティーっぽい雰囲気です。あの厳しそうなアーマが前に立ち、ノリノリで歌い出すものだからびっくり。

ジョエルからステージにあがって歌ってとリクエストされ、サムを遠慮がちに歌いだします。ジョエルも演奏でアシスト。気分が乗ってきたサムは力強く熱唱し、大歓声で場を盛り上げました。

こんなに晴れやかな気持ちは久しぶりかもしれない。サムの顔に生きる喜びが戻ります。

人生はまだ続く…。

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シーズン1:レジリエンスは人それぞれ

『サムバディ・サムウェア』の物語において、不在ながら重要な影響を与えている中心キャラクター、それがサムの姉で亡くなってしまったホリーです。

ホリーがどういう人物だったのか…それは作中で明確にされません。なんとなく会話の中で察せられる程度です。なぜ亡くなったのかという理由も曖昧ですし、交友関係もよくわかりません。

ただわかるのは、サムはこの姉のホリーに依存していたということ。ホリーを世話するために地元に戻ってきたそうですが、おそらくサムもまたホリーに心を支えられていたのでしょう。だからこそホリーの死から半年経ってもサムは沈んだままこの故郷で時間が停止してしまっています。

本作はこのサムの「レジリエンス(resilience)」(何か強いストレスを受けたりしたときの回復力などに対して用いられる心理学用語)の物語です。

サム以外の家族の面々もどこかケアを必要としています。

妹のエレノアは順調そうに家族生活を育んでいましたが、ここでまさかの夫リックがチャリティーと浮気をしているという事態が発覚。憤怒の感情が迸る中で、サムと和解して、自分なりの見つめ直しをしていきます。

サムの母のメアリーはアルコール依存症で、高齢化ゆえの痴呆も混ざっているのかもしれませんが、日常であぶなかっしい面が多々発生。父のエドも被害を受けるも強く言えません(たぶん家母長な家庭なんでしょうね)。リハビリ施設に通わせるもあまり効果はない様子です。

このエレノアとメアリーはそんなにホリーと仲良くなさそうだったのだろうと推察できるのもポイントです。それこそ半年経過してもホリーの墓石さえまとも用意されていないくらい…。これは後述するホリーのクィアネスと合わせて考えると、この田舎町の保守的な側面が作用しているのがわかります。

レジリエンスの在り方は人それぞれ。『サムバディ・サムウェア』は焦らせることなく、その個人ひとりひとりに向き合わせる時間を与えてくれるドラマです。

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シーズン1:地味でクィアなコミュニティ

ひとりではどうしようもないほどに困窮していたサムでしたが、その救いのきっかけを作ってくれたのがジョエルです。高校の合唱部のメンバーだったようですが、サムは覚えていないあたりをみるに、当時は友達ではなかった様子。しかし、今になって交友を深めます。大人になってからの方が仲良くなれる同級生もいるもんですね。

一時は、ビジョン・ボードを作って目標を定めているジョエルに「40を過ぎてこんなの実現できない、現実を見るべき」と手厳しく言ってしまうサム。でも謝罪します。そんな言葉が口からでてしまうのは、サム自身が劣等感を抱いているからでした。

本作は40代に投入しても何も成し遂げていない平凡すぎる人間を全力で肯定してくれます。別に何かを成すのに年齢の締め切りはないということ。他人の採点なんて気にすることもないのです。

そしてサムはジョエルの誘いで合唱練習会へ。ここでサムが初めて熱唱する第1話のラスト。ベタながらやっぱり感動します。第1話だけで「傑作が観られたな」という感無量ですよ。これだけでお腹いっぱい。それにしても『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』といい、中年女性が歌いあげる物語はなぜこんなにも心をうつんだろうな…。

ここで注目したいのがこの合唱練習会の面々。実はかなりクィアと思われる人が多数参加しており、いわば教会ではケアしきれなかった人たちが集まる、セーフティーネットのようなセカンドケアの場所になっているんですね。

ジョエルはゲイで、ボーイフレンドのマイケルがいましたが、作中では別れてしまっており、慣れていないくせに犬を衝動飼いしてしまい泣きついています。ジョエルを演じる“ジェフ・ヒラー”もゲイ当事者です。

農学部の土壌専門でもあるフレッド・ロココを演じる“マーレイ・ヒル”は、トランスジェンダー男性であり、ドラァグキングとしても活躍している人物です。アカデミックな業界で生きているトランスの人って映画やドラマではあまり見られないので(どうしても芸能業界ばかりになりがち)本作の表象は嬉しかったですね。

そして何よりも亡き姉ホリーもまたかなりコテコテのゲイライフを送っていたことが推測できます。

あの合唱練習会の場に触れるということはサムにとっては姉のクィアネスを想起させる機会でもあり、シーズン1の最終話でもう一度今度はサムは納屋を使って合唱練習会の場を提供することで、ホリーへの後悔を払拭するようなアライな助力を行う。きちんと丸く繋がる展開だったと思います。

一件落着な感じで終わりましたが、それでもベッドに横たわるサムの表情にはまだ悲しみがこぼれる。そう簡単に終わりません。でもケアはそういうもの。とりあえず泣くことは無意味ではないので、このドラマを観て涙が流れたのならそれもまた一歩です。

『サムバディ・サムウェア』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 91%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0
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中年女性を主人公にした作品の感想記事です。

・『40歳の解釈 ラダの場合』

作品ポスター・画像 (C)HBO サムバディサムウェア

以上、『サムバディ・サムウェア』の感想でした。

Somebody Somewhere (2022) [Japanese Review] 『サムバディ・サムウェア』考察・評価レビュー