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『あの夏のルカ Luca』感想(ネタバレ)…シレンツィオ、ブルーノ!

あの夏のルカ

ピクサーにかかれば小さな出会いの物語も傑作に…映画『あの夏のルカ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Luca
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にDisney+で配信
監督:エンリコ・カサローザ

あの夏のルカ

あのなつのるか
あの夏のルカ

『あの夏のルカ』あらすじ

海の中の世界で暮らしていたルカは親の言いつけを従順に守り、陸のモンスターに見つからないように生活していた。しかし、ひょんなことから陸への好奇心をくすぐられていく。そして海と陸を自由に行き来しているアルベルトと出会ったことで、ついに初めて陸上の世界に足を踏み入れる。そこは何もかもが初めてのもので溢れていた。陸の世界に夢中になり、陸のモンスターとされる「人間」の町にも行くことになり…。

『あの夏のルカ』感想(ネタバレなし)

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ピクサーにも夏が来た

「ピクサー」というアニメーション・スタジオを知らぬ者は今やいないですが、それは実績でも証明されています。アカデミー賞の長編アニメーション部門だけを見ても歴然です。

ピクサー作品の中でアカデミー長編アニメーション賞を受賞したのは2020年までで11作品。『ファインディング・ニモ』(2003年)、『Mr.インクレディブル』(2004年)、『レミーのおいしいレストラン』(2007年)、『ウォーリー』(2008年)、『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009年)、『トイ・ストーリー3』(2010年)、『メリダとおそろしの森』(2012年)、『インサイド・ヘッド』(2015年)、『リメンバー・ミー』(2017年)、『トイ・ストーリー4』(2019年)、『ソウルフル・ワールド』(2020年)…この11作品。ピクサーは2020年までに23のアニメーション長編映画を送り出しているので、ほぼ5割近い確率でアカデミー長編アニメーション賞を受賞している計算になります。とんでもない打率ですよ。

他のスタジオのアカデミー長編アニメーション賞実績はというと、ディズニー・アニメーション・スタジオは3作品、ドリームワークスは2作品。ピクサーの圧倒的勝利です。

でもこれには裏もあります。そもそもアカデミー賞に長編アニメーション部門が作られたのは2001年からとわりと最近なのです(だからピクサー第1作の『トイ・ストーリー』はアカデミー賞を獲っていません)。もしもっと昔から長編アニメーション部門があればディズニーが最多受賞になっていたでしょう。

逆に言えば、ピクサーという新進気鋭のスタジオが映画業界に変革を起こしたとも言えます。1995年の『トイ・ストーリー』の大成功によって映画業界は「アニメ映画は大ヒットを生むこと」、そして「実写に負けない芸術性を有していること」を痛感しました。他のスタジオも続々とCGアニメ映画を作ろうと追従していく中で、これはもうアニメーション部門として別枠にしておく方がいいと判断したのでしょうね。

ピクサーはまさにアニメーションの価値を変えたスタジオです。

そんなピクサーの次なる最新作は12度目となるアカデミー賞に輝くでしょうか。それが本作『あの夏のルカ』です。

本作は北イタリアの情緒溢れる街並みを舞台に、2人の少年が友情を深めていくという、これ以上にないほどにシンプルなストーリーになっています。しかし、そこはピクサーで、そんな平凡な物語に少しのマジカルな要素を加えて、子どもでも大人でも気楽に楽しめるファンタジーに変えています。

前作の『ソウルフル・ワールド』はちょっと哲学的な問いかけもしてくる人生を考えさせられる物語でしたが、今回の『あの夏のルカ』はガラっと変わって、身近で親しみのあるお話です。すぐに入り込めるでしょう。

監督は“エンリコ・カサローザ”というイタリア人で、これまでも『レミーのおいしいレストラン』など多数のピクサー映画のストーリー・アーティスト(ピクサーでは脚本家の人をこう呼ぶ)として関わってきた人で、今回が初の長編映画監督となります。

オリジナルで声優として出演するのは、名子役として『ワンダー 君は太陽』『グッド・ボーイズ』などで名演を披露してきた“ジェイコブ・トレンブレイ”が主役の子に抜擢。また、『IT イット』2部作や『シャザム!』で活躍した“ジャック・ディラン・グレイザー”、もはやどこでも声優している感じもある“マーヤ・ルドルフ”などが参加。

残念ながらコロナ禍のために『ソウルフル・ワールド』に続き、『あの夏のルカ』も劇場公開を取りやめ、「Disney+」での配信となってしまいました(作品個別に料金を払うプレミアアクセスではなく、サービスに登録すればそのまま見放題で観れます)。

なお、まだ勘違いしている人も多いですが、これはコロナ禍による特別措置なのであって、決して「Disney+」でしか配信されない、いわゆる“永続的な独占作品”というわけではありません。実際『ソウルフル・ワールド』は現在は円盤も販売されていますし、他企業の配信サービスでも扱われています。『あの夏のルカ』もあくまで“先行独占配信”というだけでしょう。

こんなに「夏」全開なピクサー映画は初めてです。家族揃って、友達と、ひとりで…何でもいいので家でのんびりと鑑賞してみるのはどうですか。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:夏の気分に浸りつつ
友人 4.0:昔からの友達だとさらに良し
恋人 4.0:ロマンス要素なし
キッズ 4.5:子どもでも大満足
↓ここからネタバレが含まれます↓

『あの夏のルカ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):こうして出会った

夜の海で船を出す2人の男。ひとりは「シー・モンスター」の噂を口にし怯えています。しかし、老齢の男は漁場を独り占めしたやつの作り話だと言って相手にしません。蓄音機で音楽をかけながら、網を引き揚げる作業にとりかかる2人。ところが船の品々をこっそり盗っていく“何か”に気づきます。

「こいつは驚いた」

それは人間のようで人間ではない“何か”。それこそ「シー・モンスター」でした。2人はパニックになり、船の上のものが海に散乱。蓄音機も含めて沈んでいき…。

ところかわって海の中。ここで暮らすルカは自分が面倒を見ないといけない魚たちが逃げてしまったことで大慌て。急いで捕まえていきます。魚の群れを誘導し、海草の群生する場所へ。でも魚のジュゼッペが何かを見つけたようです。それは海の上…「陸」と呼ばれる場所にいるという存在が使う品々のようで、ルカは興味津々。他にもいっぱい落ちています。

そこに海上に船が通りかかり、「陸のモンスターだ!」とルカはすぐに隠れます。

昼御飯だと母・ダニエラに言われ、帰ります。父・ロレンツォはカニ・コンテストの準備に張り切っている真っ最中。ルカは食事の席で「船ってどこからくるの?」と素朴に質問。おばあちゃんは海の上に行ったことがあるらしいですが、母は「なんでも知りたがる魚は捕まるの!」と怒ってきます。

しかし、ルカはあの陸のアイテムをその後も拾います。その背後に潜水装備の何者か近づき…。

それはルカと同じ存在でした。その子はアイテムを集めて全く躊躇することなくそのまま海を出ます。ルカも引き上げられ、陸地に。ルカの姿は変わってしまい、ちょっとパニック。でもそこは穏やかな世界でした。

ふと我に返り、すぐに海に戻るルカ。けれども家に戻っても忘れられません。また浅瀬に舞い戻りますが、水面に顔を出す勇気が湧かず…。

結局、例のあの子に誘われ、まだも陸へ。上手く歩けないルカ。「歩くのも泳ぐのも一緒だ」とその子。お互いに自己紹介します。「アルベルト・スコルファノ」「ルカ・パグーロ」

アルベルトは父と陸地にある古びた塔の残骸に住んでいるらしく、父は頻繁に出かけるのでいないのだとか。

海の上はいいものばっかりと自慢するアルベルト。家には人間の道具がたくさん。するとルカは「ベスパ」という乗り物のポスターに目を奪われ、座るだけでどこへでも連れて行ってくれるという、その乗り物に夢中に。

自分でも作れるかもとアルベルトは言い出し、いつの間にか2人は時間も忘れて無我夢中でお手製ベスパ制作に熱中してしまいました。作っては壊れ、作っては壊れの繰り返し。でも2人の友情は深まります。

遠くには人間の町という場所が見えていました。「人間の町へ行ったことはある?」

2人のひと夏の冒険はまだ始まったばかり…。

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無駄のない最小構成の脚本

『あの夏のルカ』の私の感想の結論。さすがピクサー、またもさらっと良作を生み出してくる…。

今作が凄いなと思うのは徹底してミニマムな世界観に抑えていることです。おそらくピクサー史上でも最もスケールが小さいのではないでしょうか。例えば、海辺を舞台に異なる存在同士が交流していくという話は別に珍しくありません。日本アニメであれば『崖の上のポニョ』とか『夜明け告げるルーのうた』とかがそうでしたし、ディズニーであれば『リトル・マーメイド』があります。

しかし、この『あの夏のルカ』は他作品で見られるような大規模な展開は起きません。街が崩壊する危機も、戦争の前触れもなし。じゃあ、何を描くのかと言えば、ひたすらに「交流」に専念する。これほどまでにシンプルを極めるストーリー構成で勝負できるのは他のスタジオだとそうそうないでしょう。下手したら5分・10分の短編で終わってしまうような内容です。なのにこれほどまでに心を鷲掴みにするものに高めてくるとは…。いやはや、ストーリー・アーティストの皆さんの神業ですね。

本作はルカとアルベルトの2人の交流に始まり、それは海と陸の世界の交流へと拡張されていきます。やっていることとしては、あのディズニー実写映画の古典である『海底二万哩』の逆バージョンです(『海底二万哩』的な潜水服をシー・モンスター側が装着するという仕掛けも)。しかし、世界観は風呂敷を広げまくるということはなく、物語が拡大するのかなと思いながら見ているとちゃんとまたルカとアルベルトの交流にブレることなく戻っていく。このフォーカスの精密さ。

物語の原点には“エンリコ・カサローザ”自身の思い出もあるらしいのですが、それでも他人事にはさせない普遍性を描ききっており、イタリアなんて行ったこともないくせに観ているだけでなぜか無性に自分の心が釘付けになっていました。

プラトニックな友情の物語ですけど、そこまで暑苦しい友情の押し付けもなく(「友達を作れ」という規範ではない)、いわゆるホモ・ソーシャルな男同士の馴れ合いにもならない(その問題さはエルコレとその仲間たちによって教育的警句として描かれていました)。バランスが上手いです。

しかも、ルカとアルベルトの交流を主軸にしつつ、“他”のインクルージョンも隙がないです。

例えば、トライアスロン的なポルトロッソ杯に情熱を燃やすジュリア。彼女は別居親世帯の子であり、母のいるジェノヴァから夏の時期だけこのポルトロッソにやってきます。ジュリアはよそ者としての疎外感を感じており、それはおそらく双方の親を行ったり来たりする不安も起因しているでしょう。そのジュリアがステレオタイプな女らしさ皆無で爽やかに描かれており、気持ちがいいです。

また、ジュリアの父・マッシモは生まれながらに片腕がなく、障がい者としての表象が自然体です。そして、ラストでマッシモのもとで暮らす道を選ぶアルベルトは養子ですね。たぶん「シレンツィオ、ブルーノ!」という勇気を出すときに使う言葉の「ブルーノ」はアルベルトの父の名だったんでしょう。さらに、終盤でしれっと実はシー・モンスターだと姿を見せる2人のおばあちゃんは、それこそずっと表に出られずに自分を隠して生きてきたような立場にいた高齢の人たちと重ねられる。

この物語の対象範囲の広さ。なんて優しい映画なのか…。

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さりげないラストの巧みさ

『あの夏のルカ』は映像的演出も見事でした。

今回のキャラクターはかなりデフォルメされたデザインです。“エンリコ・カサローザ”監督の手がけた短編『月と少年』を思わせます(天文的な演出も似ている)。『ソウルフル・ワールド』では徹底して人種をリアルに違和感なく描くことにしていましたが、この『あの夏のルカ』は一転して漫画チック。

ただそのおかげでシー・モンスターから人間への変化のシーンもそれほど不気味ではなく、万人に受けやすいものになっていました。でもちゃんと不気味要素として叔父さんのウーゴという深海在住のキャラを用意してくれているのが地味に嬉しいです。ちなみにあのウーゴ、声を演じているのは“サシャ・バロン・コーエン”なんですよ(ちょっと『ボラット』っぽいギャグもあった)。

イタリアの街並みのロケーションも良かったです。日本人ならスタジオジブリっぽいと口を揃えて言うでしょうが、そもそも宮崎駿監督はイタリア映画の影響を受けまくっている人です。この『あの夏のルカ』も古典的なイタリア映画へのリスペクトに溢れていました

ルカの成長を示す要素も巧みに組み立てられており、まずは「海を出る」ことから始まり、次に「歩く」そして「自転車に乗る」ことに発展し、やがては「本当の姿を現す」という着地になる。その中で、ルカの相互理解の原動力になるのが「好奇心」だというのもいいですね。「学ぶ」ことへの純粋な憧れ、それはまさに対立を乗り越えるもっともポジティブな道具です。

ラストのシーンも素晴らしかったです。列車でのルカとアルベルトの別れ。ここで雨が降るのですが、一般的に雨は悲しいシーンの演出に使われるものであるも、ここでは雨に濡れて本当の姿を見せたルカがそのままの見た目で列車で別の地へ向かう…とても希望溢れるものに反転させています。このエンディングだけでここの絵コンテを描いた人にベストシーン賞をあげたい…。

受け入れる者もいれば受け入れない者もいる。でも学び、触れ合い、思い出を共有するのは楽しい。コロナ禍で忘れそうになっていたものを呼び戻してくれる映画になったのではないでしょうか。

『あの夏のルカ』はアカデミー賞に輝くかはわかりません。2021年はディズニー・スタジオも『ラーヤと龍の王国』の他に『Encanto』を公開する予定です。でも夏の思い出という意味では『あの夏のルカ』ほど記憶に刻まれる作品は他にないでしょう。

『あの夏のルカ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 86%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

ピクサー映画の感想記事です。

・『ソウルフル・ワールド』

・『2分の1の魔法』

・『トイ・ストーリー4』

・『インクレディブル・ファミリー』

・『リメンバー・ミー』

作品ポスター・画像 (C)Disney

以上、『あの夏のルカ』の感想でした。

Luca (2021) [Japanese Review] 『あの夏のルカ』考察・評価レビュー
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