教えてあげないよ…「Apple TV+」ドラマシリーズ『モナーク レガシー・オブ・モンスターズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にApple TV+で配信
原案:クリス・ブラック、マット・フラクション
人種差別描写 恋愛描写
もなーく れがしーおぶもんすたーず
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』物語 簡単紹介
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』感想(ネタバレなし)
ゴジラ・イヤーは年を越す
2023年は日本で久しぶりの新作映画『ゴジラ−1.0』が劇場公開され、アメリカでも怪獣マニアを沸き立たせ、堂々のゴジラ・イヤーだったと言えるでしょう。
でもこれで終わりません。2023年から2024年にかけてこのドラマシリーズが配信され、リアルタイムで鑑賞した人は、まさにゴジラで年越しできたわけですから。
それが本作『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』。
ハリウッドでは東宝と協力して「モンスター・ヴァース(モンスターバース)」というシェアード・ユニバースのシリーズが展開中です。2014年に『GODZILLA ゴジラ』(“ギャレス・エドワーズ”監督のほうだよ!)が公開され、2017年に『キングコング 髑髏島の巨神』、2019年に『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』、2021年に『ゴジラvsコング』と、計4本の映画が公開されました。
ハリウッド版は基本的に大作らしく怪獣プロレス映画に特化しており、大雑把な世界観でデカい怪獣が暴れまくる!というシンプルな売りで攻めています。
そうした中、映画だけで続いていたシリーズがさらなる拡張をみせる一歩を踏み出したのがこのドラマ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』です。いやぁ、ゴジラがドラマシリーズで描かれる時代になるとは…。
中身については、ゴジラを含めた怪獣(大半はオリジナル)が何体かでてきて暴れたりはするのですが、メインとしては怪獣のいる世界で生きる人間ドラマに焦点があたります。
コンセプト的には『ジュラシック・ワールド』シリーズに似てます。とくに『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』。あちらは世界中に恐竜が解き放たれた世界でしたが、それが怪獣になった感じです。
一応、本作にも怪獣同士の対決を含む派手なシーンも挟まれますが、シリーズの世界観を補完する人間たちのドラマが主軸なのは理解しておいてください。
時間軸としては『GODZILLA ゴジラ』の1年後から『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』までの時期を描く現代パートと、1950年代から1960年代を描く過去パートの2つが同時並行で描かれ、知られざる事実が浮かび上がってきます。
そのシリーズのファンには見逃せない『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』ですが、映画は「レジェンダリー・エンターテインメント」と「ワーナー・ブラザース」の共同で製作されていたのですが、コロナ禍でワーナー・ブラザースが劇場公開ではなく動画配信サービスを優先する方針に勝手に舵を切ったことに反発し、レジェンダリーは縁を切ってしまいました。映画はこれまでどおりワーナー・ブラザースと関係を続けるようですが、本作のドラマは「Apple TV+」での独占配信となっています。
大人の事情の結果とは言え、まさかゴジラが「Apple」の独占コンテンツの顔になる時代が来るとは思ってなかった…。
そのせいか若干、日本では本作の知名度は低めですね。「ゴジラ」作品なのに…。
その『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』の原案を手がけるのは、『スタートレック:エンタープライズ』のプロデューサーを務めた“クリス・ブラック”、ドラマ『ホークアイ』に関わった“マット・フラクション”。製作総指揮&エピソード監督には『ワンダヴィジョン』の“マット・シャックマン”も参加しています。
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』は全10話です。怪獣成分の補給にどうぞ。
これを観た次は映画『ゴジラxコング 新たなる帝国』が待ってます。
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』を観る前のQ&A
A:基本的に過去作を観なくてもだいたいの物語はわかりますが、シリーズ1作目の『GODZILLA ゴジラ』(2014年)を鑑賞しておくと背景がより把握できます。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズのファンなら |
友人 | :怪獣好き同士で |
恋人 | :趣味が合えば |
キッズ | :少しドラマ長いけど |
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):怪獣と人間のレガシー
1973年、海の孤島である髑髏島。ウィリアム・“ビル”・ランダはこの島に調査に来ましたが、大型の怪獣に襲われ、資料の入った鞄を海に捨てます。未来にレガシーを残すために…。
2013年の日本海。とある漁船が網を引き上げると鞄が混じっていました。それには「ランダ」と書かれていて…。
2015年、飛行機が東京に着きます。機内で防護服の人による除染が行なわれ、その様子を複雑に見つめるひとりの女性。名前はケイト・ランダ。父の他界で身辺整理のために来たと入国目的を説明します。
東京の街内にも武器と避難所があり、普通の風景に見えても怪獣の影響はハッキリでていました。怪獣ビジネスも盛んなようで、サンフランシスコの悲劇はCGだという陰謀論もあるそうです。
全てはあの1年前の「Gデー」と呼ばれるゴジラの襲撃の出来事が発端です。あの日から世界は怪獣を意識するようになったのです。
タクシーでとある住所に到着したケイト。ビルの隙間にある小さなアパートで、ケイトは鍵を試して開くことを確認。意を決して玄関戸を開けます。
中には無数の写真があり、すでに住んでいた人がいました。ケンタロウという若い男です。「これは私の父です」と遺影を指さして説明するケイト。ケイトの父であるヒロシ・ランダは日本で別の家庭を持っていたのか? ケンタロウも事情がわからず、彼の母も困惑しています。「ヒロシはどこへ?」と聞かれますが、ケイトは答えません。
ケイトは自分の母には何もなかったと電話し、外へ。そのとき警報が鳴り、一斉に避難所にみんな駆け込みます。
そのパニックの中、ケイトは2014年のGデーのサンフランシスコを思い出します。自分の目の前でスクールバスが消えたあの瞬間を…。その後の避難キャンプでケイトは父に会ったものの「やらないといけないことがある」と彼は言い、後にアラスカで行方不明になったのでした。
結局、ケンタロウと行動し、父の職場で金庫を発見。そこにあったのは魚臭い鞄。中身はよくわからない代物です。そこでケンタロウの知り合いであるプログラマーでデザイナーのメイに解析を頼みます。
1959年のカザフスタン。若いビル・ランダとケイコ・ミウラは、同じくリー・ショウ大佐とともに放射線を頼りに車で廃墟施設に向かっていました。
このケイコこそ、ケイトとケンタロウの祖母にあたる存在でしたが…。
日本まわりの表象について
ここから『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』のネタバレありの感想本文です。
これまでのシリーズの映画作品でも、日本人俳優のキャスティングによる主要キャラがだいたい登場していましたが、今回の『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』は初めてガッツリと日本にスポットライトが当たり、ある日本の家族が重要なカギを握るので、人物模様も豊富になっています。安易なやられ役でもありません!
俳優陣は、『Pachinko パチンコ』の“アンナ・サワイ”(ケイト役)、本格的な主役作となった“レン・ワタベ”(ケンタロウ役)、『ケイト』の“マリ・ヤマモト”(ケイコ役)、『Giri/Haji』の“タケヒロ・ヒラ” / “平岳大”(ヒロシ役)など。
日本でも撮影していることもあって、ヘンテコ・ジャパンではない、かなり地に足着いた日本のリアルな舞台を展開できていたと思います。日系への差別も描かれますし…。
ただ、この怪獣フランチャイズにおいて、「その人間ドラマはいるのか?」と思ってしまうような部分も多かったのは正直私も感じたところ。
ケイコとビル・ランダ&リー・ショウの三角関係はさすがに意味のないミスリードすぎますし(結局、ヒロシは全然違う父親の子で、ビルは養父)、現代パートでもケンタロウとメイの関係など、なんか無理に人間関係に疑惑のサスペンスを持ち込もうとしている感じが強すぎる…。
アジア系女性の研究者であるというポジションであるケイコはなかなか良かったのですが、ちょっと気になるのは、1954年にビキニ諸島でゴジラをターゲットに核実験も兼ねて核爆弾が使用されるのですが、そこでケイコはその行為に反対し、悲しみます。これ、もちろんこのシーンを入れようとした作り手の気持ちはわかるんですけど、映画の“渡辺謙”演じた芹沢猪四郎のキャラと丸被りですし、「とりあえず日本人は原爆に反対する役回りでいいだろう」という安直な設定の使い回しに思えてきてしまうなとも思ったり…。
対するケイトですが、Gデーのフラッシュバックを抱える女性ということで、違うパターンを用意してきたのは良かったです。ダニという同僚の女性と恋愛関係にあるというサフィックな表象もあったし…。でも気のせいか、ドラマ『インベージョン』のあの女性とキャラ被ってない?って感じたりもしたけども…。
全体的に日本描写は他作品と比べれば段違いにいいのですが、第5話のあのシーンだけはキョトンとしてしまいましたよ。サンフランシスコの廃墟をメイとケンタロウとケイトが探索する際、日本のCMギャグで盛り上がるシーン。軍隊に見つかりそうで、そのうえケイトはPTSDに苦しむという結構複雑なシチュエーションなのに、「教えてあげないよ」なんてポリンキーのCMソングを口ずさむのはマッチしてなさすぎる…。あれ、編集間違いじゃないのかな…。
この世界観、何でもありだ
めんどくさい父子の軋轢とか、回りくどい親子3世代の関係図とか、そんな人間ドラマはさておき、『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』は「モンスター・ヴァース」の世界観を補完するという役目はしっかり果たしていて、そこは観る価値はありました。元がだいぶ穴だらけでしたからね…。
いろいろ判明しましたが、簡単に整理すると以下のとおり。
『ゴジラvsコング』でも重要な存在感を放っていた「エイペックス・サイバネティクス」というテクノロジー企業は、秘密機関「MONARCH(モナーク)」と結構前から複雑な関係にあり、モナークも一枚岩ではない様子。このフランチャイズはこうした人間側の架空組織の対立などを今後も活用していくのでしょう。基本、このシリーズは「レジェンダリー」が中国企業の資本傘下にあることもあって、そんなに現実の国家など政治要素を出さないようにし、この架空組織でボリュームをだす作戦なんだと思います。
個人的にはこの世界観で歴史ifモノを見たかったのですが、政治に踏み込まないなら、あまり期待できないかな…。第6話でのアルジェリアの砂漠でのゴジラの出現シーンとかはカッコよかったので、ああいう雰囲気で歴史上の出来事にゴジラが絡みまくってほしい…。
もうひとつの世界観の新事実は、怪獣の出現場所。『ゴジラvsコング』で地下空洞世界が本格的に描かれましたが、『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』ではこれが物理的な地下にあるというよりは異世界として描かれています。しかも、時間の流れも違うので、中にケイコも取り残され、そのままの年齢で、孫のケイトと対面しました。
老いリーは地下空洞世界で振り払われ、ケイトとケイコとメイだけが現世に帰還し、最終話の後は映画に続くのかな。「エイペックス・サイバネティクス」にいるということは技術革新にまた貢献するんでしょうね。
ともかく要するに異世界&タイムリープありだと確定したことになります。『アントマン&ワスプ クアントマニア』とかでも観た光景ですけど、同じ「レジェンダリー」の『パシフィック・リム』と設定はかなり重複してますね。ほんと、いつでも『パシフィック・リム』の世界とクロスオーバーできる。エイペックス・サイバネティクスがもっと洗練された二足歩行大型ロボットを開発する未来もあり得る…。
これがありなら、マルチバースだってありだし、いろいろな次元のゴジラが大結集とかしてもおかしくないんじゃないか。もう「モンスター・ヴァース」の未来は無限大だ…。
ということで『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』は怪獣並みの大技で世界観をガバっと広げてしまいました。こうなると何が起きるかわかりませんね。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 89% Audience 77%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Apple モナークレガシーオブモンスターズ
以上、『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』の感想でした。
Monarch: Legacy of Monsters (2023) [Japanese Review] 『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』考察・評価レビュー
#モンスターバース #怪獣 #ゴジラ