謎は二次会からが本番!…「Apple TV+」ドラマシリーズ『アフターパーティー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にApple TV+で配信
シーズン2:2023年にApple TV+で配信
原案:クリストファー・ミラー
性描写 恋愛描写
アフターパーティー
あふたーぱーてぃー
『アフターパーティー』あらすじ
『アフターパーティー』感想(ネタバレなし)
殺人ミステリーは二次会から参加します
突然の質問です。殺人事件が最も起きやすい場所はどこでしょうか? 国とか地形の話ではなく、店とか道路とかそういう区分の話です。
正解は「住宅」です。
少なくともアメリカのFBIの犯罪統計では住宅で殺人事件が最も起きていることがわかります。これは性暴力も同じ傾向にあり(「トランスジェンダリズム(性自認至上主義)」とは?【トランスジェンダーと陰謀論①】で解説)、家の中はプライベートで安全そうに一見思えますが、実際のところは人間は1日のうち家にいることが多く、結果的に暴力事件に遭遇しやすくなっていると推察されます。
なんか嫌な話題で始めてしまいましたが、今回はもう少し肩の力を抜いても大丈夫。
二次会の家で殺人事件が起きてさあ大変!…みたいなミステリー・クライムサスペンスのドラマシリーズを紹介します。
それが本作『アフターパーティー』です。
本作は「犯人は誰だ?」という「whodunit」を軸にした殺人ミステリーであり、基本はベタです。でも全体的にコミカルになっているので、あまりシリアスで鈍重な空気に包まれませんし、ショッキングで凄惨なシーンで煽ったり、辛い気持ちにさせてくることもありません。殺されるのが「嫌な奴」であるというのも見やすさに繋がっていますが…。とにかくドラマ『マーダーズ・イン・ビルディング』みたいな気楽に見れる殺人ミステリーですね。
しかし、『アフターパーティー』には特異な個性があって、それが『羅生門』スタイル…つまり、それぞれの登場人物の自分の視点で過去を語り始め、それを組み合わせていくことで真実が見えてくる…という構成になっていること。
しかも、ここが『アフターパーティー』の最大の特徴なのですが、そのそれぞれの登場人物の自分の視点で語る回想が、さまざまなジャンル風に演出されて映像化されているのです。例えば、恋愛ドラマ風だったり、ヒッチコック風だったり、ミュージカル風だったり…。
ものすっごく遊び心満載な殺人ミステリードラマです。「毎回、何を見せてくれるんだろう」というワクワクドキドキがあり、なんだか犯人探しがどうでもよくなってきます。
この個性的な『アフターパーティー』を生み出したのが、『LEGO ムービー』や『スパイダーバース』シリーズを手がけて絶好調の“フィル・ロード”&“クリス・ミラー”のコンビのひとりである“クリストファー・ミラー”。なんでも『21ジャンプストリート』を作っているときに思いついた企画らしいです。
雰囲気的には群像劇ですが、一応の主人公を演じるのは、『トゥモロー・ウォー』の“サム・リチャードソン”。ヒロインは『ロング・ウィークエンド』『シニアイヤー』の“ゾーイ・チャオ”が演じ、刑事役では『コスメティック・ウォー わたしたちがBOOSよ!』『ホーンテッドマンション』の“ティファニー・ハディッシュ”がノリノリで暴れています。
他にも見どころとなる俳優陣がいっぱいいるのですが、シーズン1とシーズン2ではキャストも大きく様変わりし、誰がでてくるのかも楽しみにしてほしいので、ネタバレ無しの段階ではこれくらいの紹介に留めておきましょう。少しばらすと、シーズン2はアジア系の俳優が盛沢山ですよ。
ドラマ『アフターパーティー』は「Apple TV+」で独占配信中。シーズン1は全8話、シーズン2は全10話で、1話あたり約30分と短いので、サクサクと観れるでしょう。
ひとりで気分転換に観るも良し、友達と犯人当てをしながら観るも良し。殺人ミステリーは二次会からが楽しくなってくるのです。
『アフターパーティー』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に見られる |
友人 | :みんなで盛り上がって |
恋人 | :一緒に謎解きを |
キッズ | :やや性的な表現あり |
『アフターパーティー』予告動画
『アフターパーティー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):あなたの物語は?
夜、アニクは車で同窓会の会場となっている高校に到着しました。気分は少し高揚しつつ、不安でもいっぱいです。頭の中にあるのは、かつての同級生で密かに恋い焦がれていたゾーイのこと。実はそのゾーイから「15年ぶりに会いたい」というメッセージをスマホで受け取っていたのです。最近、彼女は離婚したという話も耳に入っていました。これはチャンスがあるのか…意を決して車から降ります。
それから数時間後、二次会の会場で崖から落ちて落下死したと思われる人物の遺体が発見されて…。
封鎖された別荘にダナー刑事が到着。警部から本部長がロサンゼルスからジャーメイン刑事を呼んでいると言われるも自分が担当すると押し切ります。隣には部下のカルプ。
この別荘の近くで遺体として見つかったのはユージン・エグゼビア。著名なポップミュージックのアイコンになっている人物です。
遺体の近くには調理されたエビ、金髪のウィッグ、体の下に帽子…。自殺ではない可能性があります。鼻に殴られたような傷があり、殺人事件だとダナーは確信。別荘内で沈痛な表情で集まっている二次会参加者のもとへ。なぜか床にできている水たまりで足を滑らせつつ…。
そこにいたのは、ヤスパー、チェルシー、ブレット、ジェニファー、ウォルト、インディゴ、ネッド、ゾーイ、そしてアニクです。
事情聴取をしようとみんなに呼びかけると、妊婦のジェニファーは「アニクが殺したに決まっている」「犯行現場でインディゴがアニクを目撃している」と言い張ります。
インディゴいわく、床で寝ていたアニクがビールをかけてイタズラされ、起きたアニクはエグゼビアの仕業と勘違いし、2階へ。その後、アニクの大きな悲鳴のような声が聞こえ、ジェニファーが遺体を発見したそうです。
まず顔に落書きされているアニクに事情聴取。「あなたの物語を聞かせて」とダナーは語りかけます。
今は脱出ルーム設計者のアニクは、化学の授業でパートナーだった片想いのゾーイが離婚したらしいと聞いて同窓会にやってきた心境を吐露し、到着時は親友のヤスパーと親しくじゃれ合い、ゾーイと対面したときも上手くいっていたと振り返ります。
2人のジェニファーの受付を通り、アニクはゾーイはエグゼビアと同じ机で喋っているのを目にして少し複雑な気持ちに。しかし、ゾーイの元夫ブレットのほうがエグゼビアに敵意剥き出しだったそうです。
アニクはゾーイと2人で抜け出して学校のあちこちで会話を楽しみ、校庭でキスしかけたところでゾーイの娘のマギーが来てしまい、さらにエグゼビアがヘリでゾーイを二次会へ連れて行き、二次会会場では飲み過ぎたのかよく覚えておらず…。目覚めたときは、エグゼビアを探しに2階に上がるも誰もおらず、鏡で自分の落書きされた顔にびっくりで悲鳴をあげた…と。
その話を聞き終え、ダナーは次の聞き取りに移ります。
一方で、まだ全然自分の疑いが晴れていないと感じていたアニクは、自分で解決するしかないと考え、セキュリティサービスに詳しいヤスパーの協力もありつつ、独自に調べ始めます。
犯人はきっとこの中にいるはず…。
シーズン1:ふざけているようでヒントがある
ここから『アフターパーティー』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『アフターパーティー』の最大の魅力は、ユーモアと癖たっぷりな『羅生門』スタイル事情聴取。毎回楽しいです。
シーズン1では、アニクはぎこちないラブコメ風(第1話)、ブレットはいかにも男らしさ全開のアクション映画風(第2話)、ヤスパーは陽気なミュージカル風(第3話)、謎の脅迫メールに怯えるチェルシーは心理スリラー風(第4話)、存在空気なウォルトは青春学園ドラマ風(第5話)、ゾーイにいたってはまさかのアニメーション(第6話)。アニメもぶっこむあたり、ここはいかにも“クリストファー・ミラー”らしいですよね。
個人的にはウォルトの青春学園ドラマ風の回想が好きです。大人の俳優があえてそのまま10代を青臭さ誇張しまくりで演じているので、すっごく違和感満載なのですが、それでも押し切るという…。他のエピソードのタイトルは人物名なのに、この第5話だけウォルトの名前じゃないのがまたいじられまくりなのですが、なんだかんだで客観的な視点を一番提供しているのもシュールです。
単にふざけまくっているだけにも思える、このジャンル演出『羅生門』スタイル回想ですが、ちゃんと謎解きの材料になります。それぞれの回想はその人の主観が混ざっているので、微妙に真実が脚色されており、各回想で矛盾点があります。でも共通点もあって、それらを参考に真実を当てていくことになります。
しっかりその回想内での登場人物のセリフや服装がわずかに違っていたりと、手の込んだ映像作りになっていました。
ただ、これだけの映像の情報量を視聴者が一回の鑑賞で整理するのはほぼ不可能ですよね。謎解きを真面目にさせるというよりは、謎を解いている気分に浸れればそれでいいという割り切りかな。ジェニファーが2人いるとか、ズルいよ!という仕掛けもあるし…。
刑事のダナーは完全にお気楽な好奇心だけで事情聴取しているように最初は見えましたが(“ティファニー・ハディッシュ”の演技がまたその印象を強める)、実は警察学校時代から刑事の怠慢に怒り、適切な正義を果たしたいという熱意に燃えていたことが第7話で判明します。この刑事の描かれ方は、“クリストファー・ミラー”の『21ジャンプストリート』でのホモ・ソーシャルな刑事の空気にカウンターを放つような構図でもあり、ちょっと“クリストファー・ミラー”なりの反省も感じます。
結局、最後は幼いマギーの子ども番組風の回想を交えつつ、犯人はアニクでもブレットでもなく、ヤスパーだと発覚。音楽活動に意地があるヤスパーが、エグゼビアにフレーズを盗まれたと感じての殺害でした。
二次会でも逆恨みが一番怖いですね。
シーズン2:最後はあの伝説のキャラで
ドラマ『アフターパーティー』のシーズン2でも、ユーモアと癖たっぷりな『羅生門』スタイル事情聴取は健在。今度は付き合っているアニクとゾーイが招待された、ゾーイの妹のグレースとその花婿のエドガー・ミノーズの結婚披露宴が舞台です。
今回も、第1話からアニクの回想で始まり、やっぱりラブコメ風(ちゃんと続編)。グレースは「ロミオとジュリエット」風なラブストーリーで語りだし(第2話)、“ポール・ウォルター・ハウザー”演じるおとぼけな自称刑事トラビスはノワール犯罪ドラマ風(第3話)、ミノーズ家の養女ハナはウェス・アンダーソン風なのですが(第4話)、グレースとのレズビアン・ロマンスになっているのが特徴です。セバスチャンはビジネス成り上がり伝記モノだと思ったら、ケイパー風に(第5話)。そして今回のダナーは放火魔との禁断のエロティックスリラー風で自分の警察職務への自信喪失をやたら強めで語りまくっていました(第6話)。
まだ続きます。第7話では、“ジョン・チョー”演じるユリシーズがやけに壮大な人生を語り明かし、このドラマにあるまじき「重すぎる…」という評価をアニクとダナーからもらっていました。
他にも第9話でのイザベルのパラノイア風味なメロドラマであったり、第10話ではゾーイは今度はホラー風に語りだします。
個人的にはやっぱりユリシーズが良すぎましたよね。結局、彼がエドガー&ロクサーヌ殺害の犯人なのですが(本当はゾーイの父のフェンを殺す予定だった)、もはや犯人とかどうでもよくて、ユリシーズというキャラクターの魅力が溢れまくっていた…。“ジョン・チョー”、美味しすぎたな…。
フェンを演じた“ケン・チョン”のギャグキャラでは終わらない人間味溢れる健気さも良かったですし、フェンの妻のビビアンの不倫劇も最後は上手くまとめたり、グレースのクィアなカミングアウトもすんなり描いたり、全体的にアジア系家族のステレオタイプを軽やかに振り払う気持ちよさがありました。
最後もなんだかんだでハッピーエンド。異性カップルも同性カップルも幸せなエンディングです。
そしてラストでサプライズなオチ。執筆も辞めてダナーは映画製作業に転身。シーズン1の出来事が映画化されているのですが、ゾーイは“ジェンマ・チャン”が演じ、ダナーは“キキ・パーマー”、ヤスパーは“イライジャ・ウッド”となかなかな豪華なキャスティング。
おまけで忘れてはいけないのは、この映画版のアニク役に起用された俳優で、“ジャリール・ホワイト”なのです。日本人にはあまり知名度ないですが、これは“ジャリール・ホワイト”が演じたドラマ『Family Matters』の「スティーブ・アーケル」というキャラ繋がりで、シーズン1でもアニクはブレットからこの「スティーブ・アーケル」と重ねていじられていました。「スティーブ・アーケル」は大きく厚い眼鏡やサスペンダーなど当時のいかにもオタクっぽい容姿を体現しており、ある意味ではステレオタイプを作った張本人なのですが、人気も獲得した歴史あるキャラです。
本作のアフリカ系キャラとしてのアニクがそうした表象の歴史の上に立っていることを示す、ささやかなリスペクトですね。
ドラマ『アフターパーティー』、この形式ならいくらでも作って欲しいけど、これで終わりなのかな。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 90% Audience 83%
S2: Tomatometer 95% Audience 66%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Apple
以上、『アフターパーティー』の感想でした。
The Afterparty (2022) [Japanese Review] 『アフターパーティー』考察・評価レビュー