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ドラマ『ザ・モーニングショー』感想(ネタバレ)…批評か?消費か?二枚舌か?

ザ・モーニングショー

このドラマ自体が問われる…「Apple TV+」ドラマシリーズ『ザ・モーニングショー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Morning Show
製作国:アメリカ(2019年~)
シーズン1:2019年にApple TV+で配信
シーズン2:2021年にApple TV+で配信
原案:ジェイ・カーソン
性暴力描写 セクハラ描写 自死・自傷描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写

ザ・モーニングショー

ざもーにんぐしょー
ザ・モーニングショー

『ザ・モーニングショー』あらすじ

長年にわたってアメリカの庶民に愛されてきた朝の情報番組『ザ・モーニングショー』。ミッチ・ケスラーとアレックス・レヴィの息の合ったニュースキャスターのトークはその人気を支えていた。ところがミッチが社内の複数の女性に性的な不正行為をしていたと報じられ、その明るい番組は一転して真っ暗な窮地に陥る。命運を握ることになったアレックスはこの事態を乗り越えようと、ある人物を引っ張り込むが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ザ・モーニングショー』の感想です。

『ザ・モーニングショー』感想(ネタバレなし)

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組織内の性犯罪にどう向き合うか

2023年9月7日、ジャニーズ事務所を創業し、日本のアイドル業界をトップで先導してきた故“ジャニー喜多川”が、所属タレントの少年たちに性加害を行っていたとされる問題で、同事務所が記者会見を開きました。そして初めて性加害を認めて謝罪しましたBBC

この問題をめぐっては、少し前に事務所側が設置した外部の専門家による「再発防止特別チーム」が調査報告書を発表し、組織のガバナンス不全に根本的な原因があることが指摘されていましたBBC。これは事務所だけの責任にとどまらず、日本のテレビ局など主要メディアも長年この疑惑を取り上げず、芸能業界全体で問題を黙殺・隠蔽してきたのではないかという批判もありますBBC

こうした組織内性犯罪、とくにその組織のトップに立つ影響力のある人物が問題を起こした場合、組織はどう対応し、そしてどう改善していくべきなのか。いや、そもそも改善なんてできるのか?

今回の事例でも「ジャニーズ事務所は畳むべきだ」という声もあがっていますが、謝罪しておしまいにはならない…今後もさらに厳しい視線を向けられるのは避けられないでしょう。

こうした組織内性犯罪を考えるうえで、今回紹介するドラマもかなり共通する点が多いなと感じます。

それが本作『ザ・モーニングショー』です。

本作は、架空のテレビ局の名物の朝の報道番組を主題とした「業界裏側モノ」で、そこで働くニュースキャスターを始めとする人たちの人間模様を描いています。こういうテレビ局を描くドラマシリーズはアメリカでは定番で、『The Mary Tyler Moore Show』(1970年~1977年)、『The Larry Sanders Show』(1992年~1998年)、『ニュースルーム』(2012年~2014年)など、作品を挙げだすとキリがありません。やはり庶民にとって目の前のテレビの裏で何が起きているのかはいつの時代も最大の関心事なんでしょうか。

『ザ・モーニングショー』は「Apple TV+」の独占配信作で、この動画配信サービスがスタートした2019年の最初のラインナップの目玉作品。Appleもそこはベタにこのジャンルを用意してくるんですね。

この『ザ・モーニングショー』は、番組のトップのニュースキャスター男性が性的不正行為(sexual misconduct)で降板するという大事件から始まります。この組織内性犯罪に対して、会社はどうするのか、加害者や被害者と親しい同僚は何をするのか…そんな人間模様が展開されるのが主軸です。『スキャンダル』に近いですが、『ザ・モーニングショー』はもっと展開が広いです。

完全に「#MeToo」運動を踏まえた内容なのですが、企画時点では想定しておらず、「#MeToo」が起こってから作品の方向性を大きく書き換えたようです。

その『ザ・モーニングショー』のショーランナーは、ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』“ジェイ・カーソン”…だったのですが、創作上の相違とやらで企画から降り、ドラマ『ベイツ・モーテル』“ケリー・エーリン”『ビリーブ 未来への大逆転』“ミミ・レダー”が製作総指揮で主導しています。

そして製作総指揮を兼任し、このドラマで主演として顔となっているのが、“ジェニファー・アニストン”。加えて共演するのが“ジェニファー・アニストン”のブレイク作となったドラマ『フレンズ』でも一緒だった“リース・ウィザースプーン”ということで、アメリカ国内の話題性は抜群の布陣です。

他の共演陣は、『バービー』“スティーヴ・カレル”『スポットライト 世紀のスクープ』“ビリー・クラダップ”『パドルトン』で脚本も務めた“マーク・デュプラス”、ドラマ『ロキ』“ググ・バサ=ロー”、ドラマ『AND JUST LIKE THAT… / セックス・アンド・ザ・シティ新章』“ミア・ジョーダン”、ドラマ『ロシアン・ドール: 謎のタイムループ』“グレタ・リー”など。

『ザ・モーニングショー』はシーズン1・シーズン2共に全10話(1話あたり約50~70分)です。

なお、本作には、性加害行為を直接的に描写するシーンがハッキリあり、トラウマを強調するようなショッキングな展開もあります。その点は留意してください。

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『ザ・モーニングショー』を観る前のQ&A

✔『ザ・モーニングショー』の見どころ
★テレビ局内の人間模様。
✔『ザ・モーニングショー』の欠点
☆テーマへの立ち位置がやや曖昧。
☆一部の要素をスキャンダルに描きすぎる面も。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:題材に興味あれば
友人 3.5:語り合って
恋人 3.0:関心あれば
キッズ 2.0:性暴力描写あり
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『ザ・モーニングショー』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・モーニングショー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):次の放送は…

午前2時58分、ニューヨーク・シティ。床に横たわるひとりの男、チャーリー(チップ)・ブラックは「UBA」のとある番組のエグゼクティヴ・プロデューサー。CEOのフレッド・ミックレンから電話を受け、「僕らはおしまいだ」と蒼白な表情で呟きます。

その後、チャーリーからの電話が自宅のベッドで寝ているミッチ・ケスラーのもとに…。こんな時間の電話なのでうんざりとでますが、一瞬で表情がこわばり…。

そんな中、アレックス・レヴィは目覚ましで起きます。チャーリーからの着信があったようですが、無視。身支度をして暗いうちから出勤。アレックスは「UBA」の人気の朝の情報番組『ザ・モーニングショー』のキャスターであり、いつもこの時間の出勤です。車の中でもチャーリーからの電話がしきりにありますが、これも相手にしません。

しかし、会社前にチャーリーが立っていて、只事ではない様子にやっと何かがあったことを察します。

午前5時25分、ウェストバージニア州。レポーターのブラッドリー・ジャクソンは車で移動中で、車内で化粧しながら悪態をついていました。そこにミッチがクビになったと一報が入ります。

この日の報道はこの話題で持ちきりです。デイタイム・エミー賞を12回受賞した実績のあるキャスターのミッチ・ケスラー。ニューヨーク・タイムズが彼の性的暴行疑惑を報じたのが始まりです。『ザ・モーニングショー』のキャスターとしてアレックスと並んでその番組内でもハーヴェイ・ワインスタインを饒舌に批判していたのに…。

社内は大混乱。番組を作り直さないと…。チャーリーいわく数週間前から人事が内々に対応していたが情報が漏れたらしいです。「それはまず私に話すべきことでしょ!」と隠してたことに怒るアレックス。

そこに報道局長のコリー・エリソンから電話が来ます。フレッドと同じ部屋にいるようです。今は本番までの2時間をどうするか、考えないといけません。

アレックスは「視聴者に真実を伝えるのが番組の品位を保つ唯一の道だ」と言い切り、ミッチの後任についても話したいとアレックスはやる気に満ちていました。

一方、ブラッドリーは抗議集会の炭鉱に到着。母から「あの子を連れ戻した」と電話が来て、少し苛立ちます。その中でフェイクニュース女と言われ、揉み合いになり、石炭の有害性をまくしたててしまい…。

アレックスはスタジオの席へ座り、放送開始。まずミッチの件から切り出します。被害者に寄り添いながら「これは当然の結果、多くの女性が望む結果です。ともに乗り越えましょう」と誠実に話し、なんとか乗り切りました。

自宅待機となっているミッチはこれは不倫だと言い、解雇に納得していない様子。「20年以上尽くしてきたのに、言い分を聞かずに…。何人かのアシスタントとヤっただけ、部下と寝てクビだなんて、喜んでたぞ!」と喚き散らします。ただ、その姿を黙って見ていた妻ペイジからは離婚を告げられ…。

この『ザ・モーニングショー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2023/09/11に更新されています。
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シーズン1:打ち切り覚悟で

ここから実写ドラマ『ザ・モーニングショー』のネタバレありの感想本文です。

大事件は報道番組にとっては不謹慎ながらも美味しいネタ。ただしそれが自社に関わるものでなければの話…。『ザ・モーニングショー』はその始まりから大波乱です。

今回の火種であるミッチ・ケスラー。本人は頑なに性暴力であることを自覚していませんが、ハンナ・ショーンフェルドに対して性加害にでる過程が第8話でしっかり描かれるとおり、その加害性は明らかです。そのミッチですが、いかにも好かれそうなムードメーカーとしても描かれており、人当たりの良さが持続的な加害を可能にするという、ボーイズ・クラブの空気を抜群に捉えていました。大人の狡猾さと子どもっぽさも同時に滲ませる“スティーヴ・カレルも見事な名演でしたね。

そんな人気キャスターの降板の中、「UBA」内で起きる人間模様ですが、それぞれの思惑や仕事論があって面白いです。

まず主人公となる2人の女性。ミッチの行為に憤りを感じていますが、その向き合い方は全然違います。

アレックスは15年の“仕事上の夫”であるミッチの行為の発覚によって、この男社会の中で尻拭いするハメになることにうんざりし、会社と番組を立て直したいと考えていますが、基本は立て直すことで守るという保身でもあります。

対するブラッドリーはもっとも第3者的な立場なので、この会社も番組も根本的にぶっこわす勢いで追及します

このアレックスとブラッドリーの絶妙な姿勢の食い違いが、第1話からピリピリと漂い、本作の魅力的なサスペンスとなっていました。

それ以外にも、この事態を経営掌握の機会として喜んでいるかのようなコリー、良心の呵責とキャリアの板挟みで苦悩するチップ、ミッチとの関係性を持ったことを引きずるミア、さらに孤立した苦悩を抱えるハンナ、現在進行形で同僚上司ヤンコと関係があるクレア…さまざまな人物の想いが交錯していき…。

終盤では、ハンナの死(薬の過剰摂取で自死の疑いあり)がその混沌した社内にひとつの鉄槌を落とし、アレックスとブラッドリーは2人揃って番組ジャックでCEOのフレッドを告発して打ち切りエンディング。

正直、このラストの展開は私はあまり好きじゃないです。ひとつに、被害者の死というステレオタイプな悲劇消費に依存している点。もうひとつは、『彼女が好きなものは』の感想でも同じようなことを書きましたが、自殺(未遂)しないと世間の流れは変えられないかのような展開にしてしまっている点。題材のアプローチは良かったのですけど、ちょっと劇的な効果を狙いすぎかなと思います。

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シーズン2:そのオチでいいのか?

『ザ・モーニングショー』のシーズン2は、あのミッチ事件がひと段落しており、コロナ禍に突入する2019年の年末から2020年3月あたりを描いています。

当初はフレッドは休職で、社内クーデターを企てたコリーはクビ扱いでしたが、結局コリーの解雇は撤回となり、CEOの座につき、新たな報道局長にステラ・バクを加えて新体制となっています。とは言え、フレッドには1億ドル以上の退職金が支払われ、これも含めてハンナの遺族がUBA側を提訴し始め…。

一方、アレックスは自ら降板して仕事を辞め、隠居して自伝本を執筆中。金髪にしてすっかり取り込まれた感じのブラッドリーはエリックと番組を持っていましたが、視聴率は低迷。会社の経営の責任が圧し掛かる立場になったコリーは起死回生の一手としてアレックスの復帰を企て、これは連鎖的にチップの復帰にも繋がり…。

個人的にはシーズン2はシーズン1以上に展開に疑問点が多く、結構支離滅裂な話運びが多かった気がします。

まずこれは前シーズンにもあったことですが、シーズン2でも一部の要素をスキャンダルに扱いすぎな部分が目立ちました。

例えば、ブラッドリーはベテラン・キャスターのローラ・ピーターソンとの出会いでバイセクシュアルを自覚するのですが、それをカミングアウトするかで苦悩します。ただ、そんなにスキャンダルになることなのか?とも思うんですけど…。1990年代ならわかりますが、2020年のアメリカですよ。あの右派メディアの「FOX」にだって“シェパード・スミス”みたいなゲイのキャスターがいるのに…。加えてそのマイノリティ性が仕事に有利だからみたいな話になってましたが、それは単にトークニズムなだけでは?とか、このシーズン2のブラッドリーはシーズン1のジャーナリズムはどこへやら急に無知で虚弱な女性に変わり果てている気がする…。

また、ブラッドリーの弟で双極性障害のハルの描かれ方も、とても精神疾患のステレオタイプそのままですし…。アメリカの大手トップ・ニュースキャスターの収入は数十億円レベルなので、ブラッドリーだってもっといろいろ手は打てるだろうに…。

そして最大の問題点は、シーズン1にあった組織構造体質を批評するという視座は綺麗に抜け落ち、ただの個人レベルの問題に矮小化されているということ。

ミッチなんてこのシーズン2ではすっかり反省しているかのようなヒムパシー全開の描かれ方になり、イタリアで出会ったパオラ・ランブルスキーニを加えてアレックスとの三角関係でも始まるのかと思いきや、突然ミッチは交通事故死して哀れむムードに突入。このドラマ、毎シーズン誰か死なすのかな?

あげくには最終話でアレックスがキャンセルカルチャー批判みたいな説教までし始めます。アレックス含めて性加害組織構造の加担が批判の主題だったはずなのに、いつの間にか「個人の性関係を暴露するのは良くない」という方向へ論点がすり替えられていました。しかも、ご丁寧にアレックスをコロナ感染させて、それでも必死に訴える姿で同情を誘う演出まで…。

このドラマ、批判したと思ったら、一転して擁護したり、ころころ論調を変えて二枚舌なプロットになっているせいか、どうも落ち着かないですね。

このアレックスを諌めるのがブラッドリーの役割だったのに、シーズン2では機能していません。

アレックスのキャラクターは“ジェニファー・アニストン”の実像(白人セレブ)と重なるメタ的な配役なんですが、当の“ジェニファー・アニストン”本人も問題発言を近頃は口走ったり、ちょっと危ういところがありますThe Mary Sue

大失態をやらかしてこのドラマ自体が「お前がそれを言うな」と一蹴されるようにならなければいいのですが…。

『ザ・モーニングショー』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 62% Audience 91%
S2: Tomatometer 67% Audience 68%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)Apple ザモーニングショー

以上、『ザ・モーニングショー』の感想でした。

The Morning Show (2019) [Japanese Review] 『ザ・モーニングショー』考察・評価レビュー