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『キル・ボクスン』感想(ネタバレ)…Netflix;女を慕う女は殺しで応える

キル・ボクスン

女を慕う女は「殺し」で応える…Netflix映画『キル・ボクスン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Kill Boksoon
製作国:韓国(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:ビョン・ソンヒョン
LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写

キル・ボクスン

きるぼくすん
キル・ボクスン

『キル・ボクスン』あらすじ

暗殺業界にその名を轟かす伝説的な殺し屋の女性。キル・ボクスンと呼ばれ、業界トップクラスの実力ゆえに、同業者からも一目置かれている。しかし、家に帰れば、心の内では何を考えているかわからない思春期の10代の娘がおり、どう接すればいいのか困惑していた。人を切り刻む方法も、死を偽装する方法も、身体に染み込んでいるのに、子育ては難問であった。そんな殺し屋の女性にかつてない試練が立ちはだかる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『キル・ボクスン』の感想です。

『キル・ボクスン』感想(ネタバレなし)

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チョン・ドヨンなら殺し屋はお手の物

2022年の映画を対象とする米アカデミー賞ではアジア系の中年女性が脚光を浴びることになりましたが、韓国にて今最も世界に食い込んで活躍している中年女性の俳優のひとりと言えば、この人、“チョン・ドヨン”です。

“チョン・ドヨン”は1973年生まれ。広告モデルとしてデビューし、すぐにテレビドラマで俳優のキャリアを重ねて着実に存在感を増していきました。高視聴率ドラマの顔となり、すっかりその名が国内で知られつつ、今度は1997年の『接続 ザ・コンタクト』という主演恋愛映画が大ヒット。新人女優賞を獲得し、映画界でも名前を刻みます。

その“チョン・ドヨン”が国際的に有名になった出発点はやはり“イ・チャンドン”監督の『シークレット・サンシャイン』(2007年)です。あの圧倒的な演技は映画を観た者ならば納得ですが、カンヌ国際映画祭でも話題騒然となりました。

“チョン・ドヨン”の演技の幅はとにかく多彩で、何にでもなっていくので、どの出演映画を観ていても「今度はこんな演技をするのか!」と新鮮さと驚きを与えてくれます。

そんな“チョン・ドヨン”も2023年で50歳の節目を迎えたのですが、全く演技力の切れ味に衰えは無し。『非常宣言』で飛行機テロパニックに対処したかと思ったら、お次はアクロバティックなアクションをきめる殺し屋を熱演です。もう“チョン・ドヨン”だったら殺し屋くらいお茶の子さいさいとしか思わないですよ。

その新作映画が『キル・ボクスン』

『キル・ボクスン』は、『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』『キングメーカー 大統領を作った男』“ビョン・ソンヒョン”監督が手がけるアクション映画です。前作がものすごい男臭い“男同士の関係軸”で成り立つ物語を魅せきっていたのですが、『キル・ボクスン』は真逆に反転し、こちらは“女同士の関係軸”が火花散らす物語に仕上がっています(男女同士もあるけど)。

早い話が『キル・ボクスン』は韓国版『ジョン・ウィック』なわけですけど、韓国映画のアクションであれば、これまでも『The Witch 魔女』『悪女 AKUJO』など女性主体のものはありましたが、それらの主人公は若い女性でしたからね。

最近は本作『キル・ボクスン』といい、『JUNG_E ジョンイ』といい、中年女性アクションの流れが来ているのかな…。

『キル・ボクスン』は殺し屋業界で生計を立てているひとりの女性が、その業界内を渡り歩いてきてトップクラスの名実ともに存在感を獲得したものの、ある大きな決断を迫られることになっていく…という、おおまかに言えばそんなお話です。

物語自体はいたって平凡でありきたりではあるのですが、アクション・シーンは一級品ですし、何よりも“チョン・ドヨン”のカッコよさがぎゅうぎゅうに詰まっているので、それだけ見れば大満足という人向けですかね。

あと、一応、クィアな要素もあって、母と娘がセクシュアリティのわだかまりで距離ができてしまう感じは、ちょっと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』と重なる…。

『キル・ボクスン』はベルリン国際映画祭のベルリナーレ特別部門に出品されましたが、“チョン・ドヨン”のネームバリューあってこそだろうな…。

“チョン・ドヨン”と共演するのは、『夜叉 容赦なき工作戦』『キングメーカー 大統領を作った男』“ソル・ギョング”『モガディシュ 脱出までの14日間』“ク・ギョファン”『サムジンカンパニー1995』“イ・ソム”『クローゼット』“キム・シア”、ドラマ『未成年裁判』“イ・ヨン”など。

なお、サプライズ出演もあります。映画を観始めてすぐわかるので、笑ってあげてください。

『キル・ボクスン』はNetflix独占配信中です。

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『キル・ボクスン』を観る前のQ&A

Q:『キル・ボクスン』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2023年3月31日から配信中です。
✔『キル・ボクスン』の見どころ
★キレのあるアクション・シーン。
★映画の主役を飾る中年女性の活躍。
✔『キル・ボクスン』の欠点
☆130分超えでやや映画時間が長い。
日本語吹き替え あり
山崎美貴(ボクスン)/ 郷田ほづみ(チャ・ミンギュ)/ 川勝未来(ジェヨン)/ 嶋村侑(チャ・ミンヒ)/ 鈴村健一(ハン・ヒソン)/ 藤原夏海(キム・ヨンジ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:アクション好きは注目
友人 3.5:気軽なエンタメとして
恋人 3.5:ジャンルが好きなら
キッズ 3.0:暴力描写が多め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『キル・ボクスン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):その仕事、人には言えない

パンツ1枚の刺青の男が夜のひと気のない路上で寝ています。起き上がり、状況を飲み込もうとする男。そこへひとりの女性がゆっくり近づいてきて、丁寧な口調で語りかけてきますが、この刺青の織田と名乗る暴力団トップの在日朝鮮人の男は「自分は関西の虎だ」と余裕でいます。

「半島に腕のいい女の殺し屋がいると聞いたな」と思い出す織田。女は敬語をやめて、娘の話を唐突にしだします。15歳の娘と家で入学不正のニュースを目にしたそうで、そこで公正が大事だと娘は言ったそうです。だから女も公正に取り組むらしく、織田に刀を投げ渡します。

「女は刀を知らんからな」と完全に勝つ気満々な織田。刀を構えると、女はスーパーの安物だという片手で持てる斧を振りかざして向かってきます。

素早い身のこなしで対決。激しく武器がぶつかり合い、女は片膝をつきます。織田は「この織田とやり合えるなんて自慢できる」と気楽な口ぶり。

女は武器を換えると言って少し離れ、そして何の躊躇もなく、銃で織田を撃ち殺すのでした

女は殺し屋です。その人生は過酷ですが、チャ・ミンギュが代表を務める大手暗殺請負企業「MKエンターテインメント(MK. ENT)」に所属するこの女は業界でもトップクラスの実力。ギル・ボクスンという名をもじって「キル・ボクスン」と呼ばれていました。

ボクスンは同業の仲間たちと談笑。先輩として慕われています。チャ・ミンギュの発案で7年前に規則ができてからというもの、MKが業界を独占。ボクスンは「実力主義だ」と言いますが、同じMKのボクスンよりもワンランク下の殺し屋であるハン・ヒソンは何かと不満げな口ぶりです。「血のついたナイフを送ってよ」とボクスンは揶揄います。これは決闘を意味する昔ながらの合図でした。

実はハン・ヒソンとは肉体関係にあり、「会社を作ったら大成功しますよ」と言われますが、ボクスンは代表を慕っていました。

MKの本社へ向かうと、ミンギュの妹であるチャ・ミンヒ理事が、現在訓練中の新人殺し屋キム・ヨンジを紹介してくれます。相手してあげることにし、「無駄な動きが多い」と指導します。キム・ヨンジはボクスンに憧れているようです。

そろそろ契約が切れるのですが、ボクスンは再契約するかどうか迷っていました。その懸念の原因は娘です。

娘のジェヨンをひとり育てるシングルマザーでもあるボクスンは殺しの仕事よりも思春期の10代の娘との交流の方に苦労していました。母親たちとのお茶会も嘘の笑顔で誤魔化せますが、勘に優れて小生意気な娘となるとそうはいきません。

今日も学校から「ジェヨンがチョルという男子をハサミで刺した」と連絡があり、急いで駆け付けます。ジェヨンはなぜ刺したのか、その理由を話しません。刺した部位は急所であり、これでは死んでいたかもしれないと叱りますが、ジェヨンはあろうことか「殺すつもりだった」と言ってのけます。

そんな中、ある人物を自殺に見せかけて殺す任務が命じられ、キム・ヨンジと一緒にさっそく仕事に取り掛かります。自殺偽装は簡単です。しかし、この任務がボクスンの運命を変えることに…。

この『キル・ボクスン』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/05に更新されています。
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血の付いたナイフを送ろう

ここから『キル・ボクスン』のネタバレありの感想本文です。

『キル・ボクスン』、冒頭から出オチでしたね。

いきなり画面でパンツ一丁で横たわっている男を演じるのはあの“ファン・ジョンミン”。すっごい小物臭をプンプンさせながら、主人公のボクスン相手に余裕をかますというベタな役回り。よりによってカタコトの日本語(しかも関西弁)で喋らすので、一層アホっぽさが増しているという…。絶対わざとだろ…。

とにかくクドイこの“ファン・ジョンミン”としばらく遊んであげて、公平な殺しとかの無意味さを味わうのでした。殺しに公平はないのです。

それにしても『人質 韓国トップスター誘拐事件』でも思ったけど、韓国の映画業界は“ファン・ジョンミン”なら何をしてもいいの?

“ファン・ジョンミン”は忘れて、『キル・ボクスン』の本題です。主役は“チョン・ドヨン”ですよ。

今作のアクション・シーンはさすが近年の韓国映画クオリティなだけあって、どれも見ごたえじゅうぶんです。とくにチャ・ミンヒ理事が殺し屋たちに「ボクスンを殺せ」と密かに指示をだしてからの、一斉に襲い掛かってくる乱戦のパートは見事です。キム・ヨンジが支援に加わってから、2人でシャッターを挟んで戦う場面をぐるぐると回るカメラワークで撮っていくあたりは芸術的。これくらいなら酔わないのでちょうどいいです。

“ソル・ギョング”演じるチャ・ミンギュ代表にもバッチリとアクション・シーンが用意されていたり、本作はサービス精神豊富です。ウラジオストクの皆さん、ごめんなさい…。

ラストは当然のこの対戦相手。「ボクスンvs代表」の一騎打ち。しかし、それをあの脳内戦闘シミュレーションの映像表現で流していくという、まさかの演出は意外でしたけど、絵的にはもうこれは異能バトル漫画みたいになってるんじゃないか…。

「血の付いたナイフを送る」みたいにやたらと儀礼ぶった作法にこだわるあたり、この業界の描き方はとてもアジアらしい企業的風習、もしくはヤクザ的な習わしで成り立っているのが推測できますけど、終盤にあんな対決が待っているとは…。

この最後を観た後にもう1度あの“ファン・ジョンミン”の出オチ・おバカシーンに戻って思い出してみてください。すごい落差でしょ?

でもこの対比によって、ボクスンと代表との間には公平な戦いというものが成立しているという、到達できる者にしかわからない世界が演出されているのでしょう。だから“ファン・ジョンミン”のあの醜態も無駄なシーンではなかったんです。ありがとう、関西の虎…。

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「お疲れ様」と言ってくれるだけで

アクション・エンターテインメントとしてはじゅうぶんすぎるくらいに目を楽しませてくれた『キル・ボクスン』ですが、個人的に残念なのは、そもそもの主人公の設定。

やっぱり「殺人は抜群に得意でも育児には不器用」というギャップ設定は、世の「殺し屋女性」モノ作品で散々見られるやつなので、すっかり見飽きた感じが強いです。

よくありがちなのですが、この女性キャラクターの場合、「何かできたら、一方では何かできない」という能力のステータス・バランスにおいて、育児や家事が参入してしまうのは基本的に不公平なんじゃないかと思いますけどね。

実際のところ、そこまで本作のボクスンは育児が苦手ってこともないのですが、宣伝的なもののせいか、どうしても女性的なステレオタイプがくっつきやすいせいか、娘付き合いまでが能力的な評価の対象になってしまっている感じはあるかな、と。

でも『キル・ボクスン』でオリジナリティがある面もありました。娘のジェヨンが実はレズビアンであるという背景があり、ソラという子とキスをしているところを同級生の男子に撮られ、それを暴露されそうになったので、首をグサっとやってしまいます。このレズビアンの娘をどう受け入れるのかと悩むあたりは、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』みたいなのですが、『キル・ボクスン』の場合は「性的指向をカミングアウトした娘」と「殺し屋という職業を公表できない母」という構図にしています。

このままジェヨンが傷ついて終わるだけならちょっと嫌だなと思って観ていましたけど、最終的にはエンディングで「キスするか、殺しちゃうか、悩んだけどね」というジェヨンなりの主体性のある…そしてちょっぴり殺し屋の才能を覗かせるオチで終わっていたので、そこは気の利いた後味で良かったです。あの子、このまま『キリング・イヴ』みたいな暗殺者に成長するのかな…。

私としてはキム・ヨンジがあっさり殺されてしまうのはもったいなかったなと思ったけど…。ボクスン、ヨンジ、ジェヨンの3人で生き抜いていく人生の姿も見たかったな…。絶対に楽しそうなのに…。

そう言えばもうひとりの強烈な女性キャラクターと言えば、理事のチャ・ミンヒがいましたが、絵に描いたようなサイコなブラコンだったな…。

代表は「私が規則だ」と一種の剛腕で殺し屋社会をまとめようとしてしまっており、ボクスンはその代表に言わば飼いならされてしまっているポジションで、これはこれでパターナリズムなのですが、チャ・ミンヒ理事はその“力”そのものにぞっこんという…。表面的にはサイコなブラコンだけど、ここでも人間関係の力場を風刺しながら見せているあたりは、“ビョン・ソンヒョン”監督の得意技なのか。

『キル・ボクスン2』があるなら、ボクスンが自分の会社を立ち上げて、競合他社渦巻く業界を牛耳っていく過程を描いてほしいな。

『キル・ボクスン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 77%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix キルボクスン

以上、『キル・ボクスン』の感想でした。

Kill Boksoon (2023) [Japanese Review] 『キル・ボクスン』考察・評価レビュー