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『闇はささやく Things Heard & Seen』感想(ネタバレ)…Netflix;囁く男女のあらすじ

闇はささやく

男女が辿る恐怖のあらすじは違ってくる…Netflix映画『闇はささやく』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Things Heard & Seen
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:シャリ・スプリンガー・バーマン、ロバート・プルチーニ

闇はささやく

やみはささやく
闇はささやく

『闇はささやく』あらすじ

マンハッタンからハドソンバレーの村に引っ越した夫婦。そこで幼い娘と新生活が始まる。しかし、最初は新しい家に新鮮さを感じていたものの、何か奇妙な違和感に気づく。やがて新居には忌まわしい過去が、そして自分たちの関係には恐ろしい秘密が隠されていることに気づく。それはしだいに暴走するかのように膨れ上がっていき、やがては凄惨な事件へと繋がっていく。助けを呼ぶ声は誰かに届くのか。

『闇はささやく』感想(ネタバレなし)

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夫婦のいざこざは映画でじゅうぶん

この記事を書いている日は、日本のニュースを見ると、どこかの高齢の資産家男性が若妻に覚醒剤を盛られて殺された容疑の件ばかりが取り上げられていました。ドン・ファンだかなんだか知りませんが、正直、私には割とどうでもいい話です。

人が死んでいるんだからそんなことを言うべきじゃないと思うかもしれませんが、しかし、今日も今日とて新型コロナウイルスで何十人も死亡しているわけです。補償乏しき休業で経済的に死にそうになっている人も無数にいます。どう考えてもそっちの方が大問題です。世間とは不思議なもので、1人が殺されるとノリノリでスキャンダラスに騒ぎ立てるのは上手なのですが、毎日何十人と死に続けていると途端に慣れてしまって扱いが小さくなっていくのですよね。

そもそも私は夫婦のいざこざで死がもたらされる話は映画でいっぱい堪能しているのです。だからリアルな事件にはむしろ興味が薄れています。

そして今日もまた夫婦と殺戮のセットでお送りする映画の感想を書いているのですから。それが本作『闇はささやく』です。

なんだかイマイチ、パッとしない邦題なのですが、原題も「Things Heard & Seen」とフワっとしたものになっています。本作には原作があってエリザベス・ブランデージという小説家が書いた「All Things Cease to Appear」がベースになっています。原作のタイトルの方がやっぱり作品に合っていると見終わった今は思います。映画の原題はなんだか視覚とか聴覚を意識させる昨今のホラー映画界隈では流行りの仕掛けのあるエンタメジャンルのように勘違いさせそうじゃないですか。実際はそういう作品ではないです。ホラー映画ではあるのですが、もっと人間関係の闇、心の暗黒に迫っていく心理スリラーです

物語はとある夫婦が引っ越してくるところから始まります。その新居は古い家で、普通に考えればおなじみの屋敷モノのホラーの開幕です。でもそうは転がらない。ちょっと定番とは異なる転がり方をしていくのでそこはフレッシュかもしれません。

少なくともネタバレなしで言えるのはあまり恋人同士や夫婦で鑑賞するタイプの映画ではないということ。不穏で険悪な空気を助長するだけなので、間違っても「最近はちょっと喧嘩ムードだな…よし、この映画を一緒に観て関係を仲直りしよう!」とか思わないでください。それは最悪の選択肢です。

監督は“シャリ・スプリンガー・バーマン”“ロバート・プルチーニ”の2人で、脚本も担当しています。この2人と言えば、『私がクマにキレた理由』(2007年)、そしてもう少し前の2003年には『アメリカン・スプレンダー』でアカデミー脚本賞にノミネートされたこともありました。2011年には『Cinema Verite』という映画でも高く評価されましたが、個々の作品ごとに評価の乱高下が激しく、ときには批評的にも芳しくない状況だったのですが、ここに来てホラー映画で挑んでくるとは…意外。

俳優陣は、まず主役が『Mank マンク』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたばかりの“アマンダ・セイフライド(アマンダ・サイフリッド)”。2020年は『レフト 恐怖物件』というホラー映画にも出演していたのですが、日本では劇場未公開でビデオスルーでした。

その“アマンダ・セイフライド”の演じる女性の夫として物語にも大きく関わって登場するのが“ジェームズ・ノートン”。ドラマ『戦争と平和』や映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』など多彩な役で活躍しているイングランド出身の俳優です。

他にはドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でおなじみの“ナタリア・ダイアー”、ドラマ『ベター・コール・ソウル』の“レイ・シーホーン”、『フッド: ザ・ビギニング』の“F・マーリー・エイブラハム”など。

暗めの作品ですが、ひとりでじっくり観るにはいいのかな。

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『闇はささやく』を観る前のQ&A

Q:『闇はささやく』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年4月29日から配信中です。
Q:残酷な描写はありますか?
A:グロテスクだったり、ゴアな描写はほとんどないです。陰惨な事件は描かれますけど…。あと、胸糞悪い男性キャラクターが描かれたり、同性愛差別が描かれたりはします。人によってはそっちの方が嫌だったりするかも。
日本語吹き替え あり
小島幸子(キャサリン・クレア)/ 小松史法(ジョージ・クレア)/ 沢木郁也(フロイド)/ 藤貴子(ジャスティン)/ 土井美加(メア)/ 浦山迅(トラヴィス)/ Lynn(ウィリス)/ 本保佳音(フラニー)/ 岩中睦樹(エディ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:俳優ファンなら
友人 3.5:興味ある同士で
恋人 2.5:空気は悪くなるかも
キッズ 2.5:エンタメ要素は薄い
↓ここからネタバレが含まれます↓

『闇はささやく』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):家に隠された裏話

1980年、冬。1台の車が閑静な自然に囲まれた1軒の家にやってきます。ガレージに車を止めると運転手の男は、前方の窓に赤い液がポタポタと垂れているのに気づきます。それはガレージの天井から染み出してきているようです。急いで室内へ入る男。そこには部屋でひとり立つ少女の姿が…。男はその少女を抱えて走っていき…。

春。フラニーという少女がみんなに誕生日を祝われています。その子の母のキャサリンと父のジョージも一緒です。

ジョージは仕事のためにニューヨーク北部に引っ越すとみんなに話します。アートを専門とするキャサリンは自分の好きな仕事を諦めることなるも、夫への感謝もあって家族でついていくことには同意しているようです。夫は両親から資金援助もされていたそうで、やっと自立できることにジョージは誇らしそうでした。

すぐにピッタリの家が見つかったとジョージは報告してきます。さっそく車で見に行ってみることに。それは閑静な場所に建つ一軒家で、19世紀に建てられた歴史があるものだとか。内装を整える必要がありますが、なかなかに良い物件。

気に入った2人は引っ越して荷物を搬入。キャサリンはもともとあったピアノの下に楽譜を見つけます。もとの住人のものでしょうか。

ゆったり落ち着き、夜に2人でベッドで身体を交えようとしたところ、キャサリンは何かの臭いを感じます。排気ガスのような…。

その瞬間、娘フラニーの叫び。部屋にかけこんできて、怖いと泣きじゃくります。何かを見たのか。

ジョージの職場は地元のサギノー大学。スウェーデンボルグがジョージ・イネスに影響を与えた論文が評価されたそうです。神秘主義者だったスウェーデンボルグ。けれどもジョージは霊界を信じたのが納得いかないと言います。しかし、年配の同僚のフロイドはこの地域ではそれを信じている人は多いと語ります。

「君はイネスの領域にいる。同じ考えになるかもしれない」

キャサリンは家で家事や育児に追われていると、若い男2人が訪ねてきます。エディ・ラックスと弟のコールというそうで、「安く仕事しますよ」と手伝いをしてくれることに。娘の面倒を任せることにしました。

ある日、キャサリンは戸棚の上にを発見。分厚いもので、家系図が書かれており、ある人の名は黒く消され、「地獄落ち」と記されていました。そして、指輪も発見します。そのとき、謎のゆらめきを見たような気分に…。

歴史協会に行ってみるキャサリン。古い屋敷の資料が知りたいと話すと、自分の家の写真が飾ってあるそうです。そこには「ジェイコブ・スミットとその妻。1882年」と書かれており、例のあの本にはスミット家は地獄落ちとなっていました。

一方、ジョージは大学ではすっかり学生の間で人気者となるなか、ウィリスという若い女性と出会い、欲情を抑えられずにいました。そのウィリスは実はエディの友人でもありましたが、ジョージは事情を知りません。ジョージはウィリスに会いたいがためにクロウ・ヒル厩舎にこっそり通い…。

季節は移り替わり、生活にも慣れてきましたが、相変わらずフラニーは夜中に恐怖を感じて両親の部屋にやってきます。ジョージはそれを子ども特有のことだとそこまで気にしていません。しかし、キャサリンもまた変な現象を目にするようになり始めます。

そして、キャサリンは自分の新居が実はエディとコールが以前に住んでいた家で、そこで2人の両親は死亡したという事実を知り、ショックを受けます。そこには根深い因縁の歴史があり…。

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男の欺瞞を暴く囁き

『闇はささやく』は序盤は『死霊館』的な家お祓いホラーに転移していくのかなと思わせる雰囲気ですが、結果は違う方向に転がります。とくに本作はジェンダーバイナリーな2つの視点がハッキリ露骨に浮かび上がる構成でした。つまり、男性と女性、それぞれで経験する恐怖、その影響が違ってきます。

まずジョージ・クレア。彼は物語が進めば進むほど印象が悪くなっていき、最終的には反吐が出るほどのクズ男へと地の果てまで堕ちます。

彼はとにかく欺瞞だらけでした。サギノー大学という新しい職場を見つけられたのも、実は推薦状の偽造をしたからであり、平然とキャリアを偽っていたからでした。

しかも、それだけでなく彼が若い頃に描いたというキャサリンも気に入っていた絵。それすらも親戚のヘンリーが描いたものを盗作しただけであり、加えてどうやらヘンリーが19歳で亡くなったのも察するにジョージが彼がゲイであるとアウティングしたせいらしいことがわかります。ジョージの家族は揃ってホモフォビア(同性愛差別)的な言動が濃く、ジョージは邪魔と判断したジャスティンにもレズビアン疑惑を吹聴し、妻への関係を分断しようとしていました。

これらから想像できるように、ジョージは典型的な男らしさの鎧をまとうことに必死であり、自分の倫理観も失い、コントロールもしきれない人間になっています。裏ではウィリス相手に欲望を発散する程度しかできません。

そんな化けの皮が剥がれると暴力的な手段も厭わなくなるのですが、それはあの新居に蔓延る“何か”が助長しているのか。

登場人物が男性の場合、恐怖というものは自分を破滅させる方向に向かう。これは確かにホラー映画の鉄板であり、このジョージのパートだけを抜き取るとそこまで目新しさはありません。

最終的には凶行に手を染め、孤立無援となり、地獄へと迎えられていくことになりそうな予感で終わっていました。ロスト・ホライズン号に乗って…。

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女の苦悩に嘆く囁き

一方、キャサリンは夫の支配に従属している典型的な囚われ者の女性です。

本人は芸術絵画修復の仕事をもともとしており、非常に才能があるようでした。しかし、夫のためにそのキャリアを捨てます。結果、新居では専業主婦。しかも、慣れない土地のせいで知り合いもおらず(というか周囲に家もない)、孤立気味。

そんなキャサリンは序盤からケーキを食べて吐いている姿が描かれているとおり、拒食症のような症状に苦しんでいるらしく、冷蔵庫にもプロテインドリンクばかりで、家族の食事でもサラダしか食べていません。当人は相当に精神的にもツライようです。これはおそらくフラニーを妊娠・出産してからずっとこうなのではないかなと思わせます。もちろんそのキャサリンのケアをろくにしていないジョージという夫の問題でもあるのですが…。

そしてキャサリンも恐怖の現象に直面していきます。しかし、最初はかなりの怖さを感じていたのですが、しだいにそれは恐れではなく、共感に変わっていきます。もしかしたらこの“何か”は自分の味方ではないのか、と。それを肯定するように地元の人も悪いことではないかのような発言をしてきたり。

心霊的もしくは超常現象的な何かが味方になっていくというのは、これもまた昨今の女性を主人公にしたホラー映画のトレンドでもあります。例えば、『ラ・ヨローナ 彷徨う女』とか。構成的にも『闇はささやく』はこの映画に似ている部分が多いですね。

また、キャサリンはジョージと比較して明らかに芸術に秀でており、そのアカデミックな好奇心が心霊的な何かへの理解へとも繋がっている描写も印象的です。音楽にも関心を寄せ、絵にも興味を持つ。

だからこそジョージはそんな優秀な妻に嫉妬し、斧を振りかざすのですが…。

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エマヌエル・スヴェーデンボリとは?

そんなイマドキらしいジェンダーの視点を大きく取り入れた『闇はささやく』。

しかしながら、作品自体はかなりごちゃ混ぜな印象も強く、まとまりきれていない部分もあったのかなという感じも。

キャサリンのパートでは女性だけのアートクラブに誘われて参加したりと、いかにもシスターフッドな予感を期待させますが、それほどのものは終盤にも活躍してきません。思わせぶりなフェミニズムを匂わせただけだったとも言えます。第一、キャサリンに必要だったサポートはアートクラブとかではなく、もっと健康的な支援だったり、DV対応の避難所だったりするわけで、やや論点がズレているような気もしなくはない。終盤にその要素がもっとガンガンと投入されていくとカタルシスにもなっていくのに…。

ジョージのパートも、ウィリスとの性的関係が彼の醜悪さを物語るパーツとしてしか機能しないのも物足りなさではあります。あそこでキャサリンとウィリスが手を取る展開とかあればアツいのに…。まともな接触すらないですし…。

あと、作中の同性愛差別もやっぱりジョージの印象を下げる効果のためのピックアップで、当事者としての同性愛者の存在感はほぼないのはちょっと寂しいです。

そして何よりも本作に超常現象要素は必要だったかという疑問も…。別に心理スリラーだけでも勝負できたような気がする。

作中でスウェーデンボルグと語られているのは、スウェーデン出身の科学者・神学者・思想家である「エマヌエル・スヴェーデンボリ」のこと。霊界を信じており、彼の考える神秘主義は後に多くの著名人、それこそ文学者・哲学者・科学者まであらゆる分野の人に影響を与えたそうです。

本作でもジョージが不倫関係に溺れていく姿が描かれていますが、それはスウェーデンボルグの考えるキリスト教的「性」の規律における禁止行為であり、そのへんとも一致しています。

そこは全然構わないのですが、変にジャンル的な超自然現象まで交えなくても良かったのではないかなとも思ったり。

やっぱりこういうホラーはシンプルな構成の方が楽しいですね。

ということで引っ越すときはまず家の歴史の確認から。そして結婚するときは相手の過去の確認から。これ、大事。

『闇はささやく』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 38% Audience 35%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
4.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『闇はささやく』の感想でした。

Things Heard & Seen (2021) [Japanese Review] 『闇はささやく』考察・評価レビュー