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『To Leslie トゥ・レスリー』感想(ネタバレ)…母と息子はテープの中にずっといた

To Leslie トゥ・レスリー

母と息子はテープの中にずっといた…映画『To Leslie トゥ・レスリー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:To Leslie
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2023年6月23日
監督:マイケル・モリス
恋愛描写

To Leslie トゥ・レスリー

とぅれすりー
To Leslie トゥ・レスリー

『To Leslie トゥ・レスリー』あらすじ

テキサス州西部に暮らすシングルマザーのレスリーは、宝くじに当選して高額の賞金を手にする。人生が大きく逆転すると思っていたが、数年後にはそのお金を酒で使い果たしてしまう。行き場を失ったレスリーはふらふらと彷徨うことになってしまうが、アルコールの依存はやめられない。疎遠になっていた息子にも愛想をつかされ、酒に溺れる様子に呆れられてしまう始末。そんな中、ある場所に辿り着く。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『To Leslie トゥ・レスリー』の感想です。

『To Leslie トゥ・レスリー』感想(ネタバレなし)

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セレブがノミネートを左右する?

映画業界のことを全然詳しくない一般層であれば、「アカデミー賞」のことを「なんだかよくわからないけど、世界トップの映画に贈られる賞」みたいに思いこんでいる人もいると思うのですけど、実際はそんなことはありません。

「映画芸術科学アカデミー」会員(2018年時点で7000人いると言われる)の投票によってノミネートと受賞作が選ばれます(一部の部門のノミネートは特別審査委員会が選出する)。だからあくまで映画芸術科学アカデミーの人たちが選んだ映画に贈る賞にすぎないんですね。

会員の人たちは何に投票するか、当然自分の好みで選んでいいのですが、やはり「この作品やこの人がノミネートされてほしい」という思惑も発生するものです。一応のルールでは露骨に「この作品or人にアカデミー賞を!」みたいな宣伝行為はできないことになっているそうですが、直接的なことをせずとも「この作品or人ってこんなに凄いんですよ」みたいなロビー活動はもはや当たり前になっています。

たいていそういうロビー活動は映画の配給会社が中心となって行います。ある程度の予算を特定の作品の宣伝に投入するので、「あ、今年はこの作品が推されているんだな」というのがわかります。逆にそういうロビー活動が一切無いとノミネートや受賞はなかなか難しいのかもしれません。

そんな中、2022年の映画を対象としたアカデミー賞において、主演女優賞の部門のノミネートにて思わぬサプライズがありました

その対象となった映画が本作『To Leslie トゥ・レスリー』です。

この『To Leslie トゥ・レスリー』で主演を務めたのが“アンドレア・ライズボロー”だったのですが、配給会社が小さいところで、インディペンデント映画ということで、企業による大々的なアカデミー賞向けのロビー活動は行われませんでした。にもかかわらず主演女優賞に“アンドレア・ライズボロー”がノミネートされたのです。前評判的に他の映画賞でもそんなに脚光を浴びていたなかったので予想外でした。

なぜそんなことが実現できたのかというと、『To Leslie トゥ・レスリー』の監督である“マイケル・モリス”と妻で俳優でもある“メアリー・マコーマック”が、“アンドレア・ライズボロー”を主演女優賞にノミネートさせるためにセレブを中心にキャンペーンを展開したから…というのがその内幕で…。

そうしてこの映画を激推しし始めたのは、“シャーリーズ・セロン”、”エドワード・ノートン”、“ジェニファー・アニストン”、“グウィネス・パルトロー”、“ケイト・ウィンスレット”、“エイミー・アダムス”、“スーザン・サランドン”、“ヘレン・ハント”、“メラニー・リンスキー”、“ミラ・ソルヴィノ”などなど。みんな白人なのがあれですが…。

結果、実際にノミネートしちゃったわけで、一方で「これはルール違反では?」という指摘もあり、結局は問題なしということになりました。

ただ、「Los Angeles Times」は「オスカー史上最も衝撃的なノミネートのひとつ」とまで言い切っていますが、このやり方を今後も許容するのかはどうでしょうね。今回ので証明してしまったので、次回からはもっといろいろなセレブの口コミ戦略が各所で勃発するかもしれないし、すると結局はセレブの権力に左右されるだけの賞になるので(「アカデミーセレブ賞」ですよ)、それもどうなんだと思うし…。

そんなことで話題になった『To Leslie トゥ・レスリー』。ここからは本編に移りましょう。

物語は、シングルマザーだった女性がアルコール依存症で追い詰められた人生を送りながらも、微かな人との繋がりで前向きさを取り戻していくという、わりとベタなドラマです。

脚本の“ライアン・ビナコ”は過去には『3022』(2019年)という閉鎖シチュエーション・SFサスペンスを手がけたくらいの実績の人ですが、なぜいきなりこんなジャンルに?と思ったら、『To Leslie トゥ・レスリー』は“ライアン・ビナコ”の母親の実話からインスピレーションを得て生み出したそうです(伝記とかではない)。

賞にノミネートされなかったら日本では劇場公開もなかった可能性もありうる、そんな『To Leslie トゥ・レスリー』ですけど、せっかくの機会なので気になる人はぜひ映画館でどうぞ。

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『To Leslie トゥ・レスリー』を観る前のQ&A

✔『To Leslie トゥ・レスリー』の見どころ
★アンドレア・ライズボローの名演。
✔『To Leslie トゥ・レスリー』の欠点
☆物語自体は比較的ベタなもので新鮮味は薄い。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:じっくり味わう
友人 3.0:エンタメ要素は乏しい
恋人 3.0:少しのロマンスあり
キッズ 3.0:大人のドラマです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『To Leslie トゥ・レスリー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):大金では何も変わらない

テキサス州西部。レスリーはシングルマザーとして息子のジェームズを貧しくも育て上げてきました。そんなレスリーに思いがけない転機が訪れます。地元の宝くじで19万ドル(約2600万円に相当)を当てたのです。一気に大金が舞い込み、大はしゃぎで取材に答えます。きっとこれで苦労はもう何もなくなる。そう思っていました。

数年後の現在。レスリーは部屋にひとりでじっと座り込んでいました。表情は逼迫しています。ここは低所得者の住むモーテル。今のレスリーは無一文で、宿代のおカネがない状態です。周囲の人に無心するも、「一晩ぶんだけでも」という必死の願いも叶わず、みんな避けるように断っていきます。どうしようもなくなったレスリーはあたり一帯に響くような罵声を轟かし、下品な言葉で悪態をつき、スーツケースを抱えて部屋を退去させられました

バーで酒をひとり、ヤケクソに飲みつつ、近くに座っていた男に色目を向けるレスリー。アルコールだけは止められず、それであの高額当選金も使い果たしたのですが、懲りてはいません。

雨が降る中、凍えながら建物の傍で雨宿りをするしかなく、疎遠になっていた19歳の息子ジェームズに頼ることにします。ジェームズがやってきて、彼の運転する車で彼の家へ。飲酒をしないという条件で同居を許可され、やや気まずそうな感じを出しつつも、レスリーを部屋に置くジェームズでした。

レスリーは部屋をうろうろと探索し、弦の切れたギターがあるのを目にしつつ、ベッドで久しぶりに横になります。

一緒に服を選んで買った後、「計画は?」とジェームズに聞かれますが、レスリーはあまり考えていないようです。

夜も部屋で母と息子はじっくり会話を重ね、家族がまた絆を取り戻したかにみえました。ところが、レスリーは部屋にあるカネを盗み、自由気ままに飲み食いして1日を過ごすだけ。ジェームズのルームメイトのダレンとも親しく談笑しますが、自立の兆しはなく…。

工事現場で働いていたジェームズは呼び出され、急いで家に帰ります。ベッドの下には酒瓶があり、慌ててレスリーを探して街を駆け回ります。

レスリーは部屋におり、問いただしても呑気な口調で受け答えるのみです。ジェームズは怒って、「カネも盗んだろう。酒も飲んでいる」と責めたてます。激しく失望して狼狽するジェームズは、少しばかりのカネを渡してレスリーを追い出すしかありません。

再びひとりとなったレスリー。今度は祖母のナンシーに頼ることにします。レスリーを嫌っているナンシーはボーイフレンドのダッチと小さい家で質素に暮らしており、レスリーの滞在をしぶしぶ同意。

しかし、ここでも真夜中に地元のバーを訪れたレスリーは相変わらず男たちに言い寄り、酔っぱらいながらダンス。相手の男がそんなに乗り気でなくても気にしません。それをその場にいたナンシーの友人に密告され、家に帰るとどんなに押しても引いても戸は開かず、締め出されたことを自覚します。そしてここでも罵声を残して去るしかなく…。

この『To Leslie トゥ・レスリー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/07に更新されています。
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家も家族も失って残ったのは…

ここから『To Leslie トゥ・レスリー』のネタバレありの感想本文です。

『To Leslie トゥ・レスリー』はあまり説明的な演出をとらないタイプのストーリーテリングですが、主人公のレスリーの人生の生い立ちは冒頭でササっと映し出されます。それを見る限り、おそらくDV(ドメスティック・バイオレンス)を受け、シングルマザーとして生活を余儀なくされたのだろうと推察できます。

そのレスリーが地元の宝くじで高額当選、と言っても2000万円代なので使おうと思えばすぐ無くなってしまいそうな金額で、案の定、レスリーは浪費して困窮するハメになり…。

映画開幕の時点ではレスリーは完全に打つ手なしです。加えてあの周囲からの避けられっぷりですから、たぶん相当にこの地元では厄介者扱いなんでしょうね。テキサスで疎外される地元民を描くと言えば、最近も『レッド・ロケット』がありましたが…。

レスリーはシングルマザーという属性も持っており、定住地がなく転々とするという意味では、ドラマ『レイン・ドッグス フツウじゃない家族』のようなものです。

ただ、レスリーの場合、この冒頭では子どもにさえ見放されてしまっており、ただの「シングル」です。状況としては本当に孤立無援です。テキサスにもホームレスのような人たちのサポートやシェルターはあるにはあると思いますが、レスリーはそういうのを利用する感じにも見えません。

「大金を手にした」という過去がなまじの意地を生じさせてしまっているような、そんな振る舞いがちらちらと見え隠れします。

その家も家族も失ったレスリーにとっての大事なアイテムとして登場してくるのが「スーツケース」、そして最後にでてくる「VHSテープ」

テープの中で10代のジェームズは母がずっとダイナーを開きたいと考えていたことについて言及し、レスリーの消えかけていた情熱を思い出させてくれます。このへんの小物使いも本作はしっかり忘れません。

全体的に最小限度の構成で、無駄のない演出を積み重ねており、重苦しい題材ながらもスッキリ終わる映画でした。

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アンドレア・ライズボローの名演

その最小の演出でも『To Leslie トゥ・レスリー』が引き立つは、やはり主演の“アンドレア・ライズボロー”あってこそです。

これまであまり大きく目立つ俳優ではなかったかもしれませんが、過去にも素晴らしい演技は見せてきています。舞台劇で先に評価されたイングランドの俳優で、映画では『シャドー・ダンサー』(2012年)、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)で、賞ステージに上がっています。他にも、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』『スターリンの葬送狂騒曲』『ナンシー』『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』『ポゼッサー』『マチルダ・ザ・ミュージカル』、ドラマ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』など、出演作はとにかく多彩で、それぞれの作品ごとに全然違った雰囲気を醸し出し、演技の器用さがよくわかります。

『To Leslie トゥ・レスリー』での“アンドレア・ライズボロー”は王道でいかにも批評家に評価されやすい人物像の役柄でしたので、単独で賞に上りやすかったというのもあるでしょう。

“アンドレア・ライズボロー”の周りの共演者も、目を惹きつける名演でした。

嫌悪感を剥き出しにするナンシーを演じた“アリソン・ジャネイ”はさすがとしか言いようがない貫禄。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でアカデミー助演女優賞を受賞してからというもの、演技は衰え知らずです。生き生きしすぎているせいで、一瞬、ナンシーの方がレスリーより若いんじゃないかとさえ錯覚しそうなエネルギッシュさが見られたし…。

そのレスリーを支える側となるモーテル管理人のスウィーニーを演じたのは“マーク・マロン”。スタンドアップコメディアンとして有名な人物ですが、日本ではそんなに認知度はないです。アメリカでは「WTF with Marc Maron」というポッドキャストでいろいろなゲストを呼んでは政治的な議論を遠慮なく展開し、ドナルド・トランプをよく批判しまくっているので、話題になりやすい人です。実はアルコール依存と薬物乱用の過去があり、今回の役柄にそのまま反映されています。

母に複雑な想いを抱くジェームズを繊細に演じた“オーウェン・ティーグ”も良かったですね。“オーウェン・ティーグ”は『猿の惑星』の新作でも主演するらしいので、今後の活躍にも期待です(まあ、『猿の惑星』なら素の顔はでないかもだけど)。

『To Leslie トゥ・レスリー』の監督は“マイケル・モリス”。これが長編映画デビュー作なのですが、『13の理由』『ベター・コール・ソウル』を手がけてきた人物で、ドラマから映画に参入したタイプのキャリアですね。なので演出は安定しているのも納得です。

『To Leslie トゥ・レスリー』の欠点を挙げるなら、最終的に恋愛伴侶規範や家族規範に着地して全てが丸く片付き過ぎかなとは思います。優しいオチではありますけど、公共機能を廃して完全に個人主導の語りになっているのは、この題材としてはやや現実無視ですし…。

ストーリーの安易さはあれど、俳優の迫真の演技はたっぷり堪能できるので、それだけでも良しですけどね。

『To Leslie トゥ・レスリー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 86%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

アンドレア・ライズボロー出演の映画の感想記事です。

・『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』

・『スターリンの葬送狂騒曲』

・『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

作品ポスター・画像 (C)2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved. トゥレスリー

以上、『To Leslie トゥ・レスリー』の感想でした。

To Leslie (2022) [Japanese Review] 『To Leslie トゥ・レスリー』考察・評価レビュー