LGBTQ(セクシュアル・マイノリティ)は映画にはあの1年間でどれくらい描かれてきたのか?
その疑問に関心がある人には必見のレポートが毎年公開されています。それが「GLAAD」による「Studio Responsibility Index(SRI)」です。2026年の公表からは「Where We Are in Film」として整理されています。
そこで今回はこの「GLAAD」による映画のレポートについて、2025年(アメリカでの劇場公開)の概要を日本語で私なりにまとめて紹介することにします。あくまで概要なので詳細は実際のレポート「Where We Are in Film」を確認してください(ネット上で公表されています)。
「GLAAD」とは?
「GLAAD」という組織については、以前の記事(以下)で整理しているので、そちらを参照してください。「GLAAD」独自の評価方法「Vito Russo Test」についてもその記事内で解説しています。


毎年、前年の映画の状況をまとめたレポートが公開され、2026年も2025年の作品を扱っています。
以下に詳しく内容を紹介していきます。
全体の概要(割合・性別・人種など)
2025年対象の「GLAAD」のレポートでは、対象となったハリウッドにおける映画の総数は「225」。
ここからどれくらいのLGBTQ表象があるのかを集計しています。
2025年の映画「225」のうち、LGBTQのキャラクターが認められた作品の数は「46」、割合では「20.4%」だったとのこと。前年の「23.6%」と比べて減少しました。2022年の「28.5%」がピークであり、近年はどんどん減っていることがわかります。
2025年の映画では「Vito Russo Test」に合格した映画は全体の16%(LGBTQ映画46作のうちで78%)でした。
LGBTQキャラクター数は「112人」(前年は「181人」)。前年の2024年から比べると大幅な減少となります。
このうち、46人(41%)が男性、59人(53%)が女性、7人(6%)がノンバイナリーでした。
57人(51%)がゲイ男性、35人(31%)がレズビアン女性、11人(10%)がバイセクシュアル+、6人(5%)が性的指向がクィア、3人(3%)が性的指向が不明だったとのこと。2025年もアセクシュアルの明確な表象はひとつもなく、この年はトランスジェンダーのキャラクターもひとりもいませんでした。
有色人種は34人(30%)。白人が76人(68%)に対して、黒人は11人(10%)、ラテン系は6人(5%)、API(Asian/Pacific Islander:アジア・太平洋諸島系)は9人(8%)、マルチレイシャルの人は6人(5%)、MENA(Middle East & North Africa:中東・北アフリカ地域)は1人(1%)、先住民は1人(1%)でした。なお、人間以外のキャラクターは2人とのこと。
4人(4%)のLGBTQキャラクターが何かしらの障害者であるとカウントされました。そのうちの2人はHIVとともに生きているキャラでした。
LGBTQキャラクターが登場するジャンルとしては、24%が「コメディ」、28%が「ドラマ」、23%が「ホラー」、0%が「アニメ/ファミリー」、11%が「アクション/SF/ファンタジー」でした。2025年はホラーでの表象が充実し、一方で子ども向けアニメ映画やファミリー映画はゼロになってしまいました。
スタジオごとの評価
次に映画スタジオごとの評価を見ていきましょう。評価対象にしているのは、10のアメリカの主要なスタジオです。
「GLAAD」のレポートでは、単純にLGBTQキャラクターが描かれていたかという有無だけではなく、その量や質、多様性なども評価項目としています。なお、以前までは映画スタジオに「Excellent」「Good」「Fair」「Insufficient」「Poor」「Failing」の6段階評価を与えていましたが、今回から無くなったようです。
なお、ドキュメンタリー映画はカウントしていませんが、別個に紹介はされています。
2025年の結果は以下のとおりです。
2025年は、多くのスタジオがLGBTQ表象のある映画の割合が減り、後退をより一層悪化させました。かろうじて前年よりも増えたのは「Sony」と「Warner Bros. Discovery」のみです。
LGBTQのキャラクターが最も多く見られる大手スタジオの映画のジャンルの中でも、2025年に勢いづいたのは間違いなくホラーです。『コンパニオン』、『WEAPONS ウェポンズ』、『ラストサマー:リターンズ』、『アンティル・ドーン』、『ハートアイズ』、『ザ・ペアレンティング / 幽霊の棲む家』など、バラエティーに富んでいます。これはホラー映画がクィア表象と親和性があるというよりは、単に昨今は大作よりも中小規模な予算で作りやすいホラー重視になっているせいなだけかもしれません。ただ、ホラーというのはどうしても「性的マイノリティのキャラクターが死亡する」という可能性も高いですし、そもそも観る人を選ぶジャンルです。ホラーがLGBTQのキャラクターの活躍の場になっても、それほど万人には届いていないことも考えないといけません。
ファミリー向け映画でLGBTQキャラクターが見られなくなっているのは、隔たりを強く感じる部分です。
この2025年のアカデミー賞で作品賞を含む多くの賞を総なめにした『ワン・バトル・アフター・アナザー』にもクィア表象はありました。具体的にはノンバイナリーのキャラクターがいました。2025年はノンバイナリーのキャラクターの数がやや増えました。しかし、これも素直に喜びづらいところもあります。その多くは、主人公の恋人か友達という枠でしかなく、ときに物議を醸す(例えば、代名詞など)存在という小さな扱いにとどまっていたりするからです。ちなみに『ワン・バトル・アフター・アナザー』でノンバイナリーのキャラを演じた俳優は当事者ではありませんでした。
日本からみれば、せっかくクィア表象が中心にある映画が作られていても、『エコー・バレー』のように、日本では劇場公開されていない(配信スルー)に終わっているものも少なくなく、表象の実感はさらに感じづらくなっている面もあります。
そんな中でも、『ソーリー、ベイビー(Sorry, Baby)』のような傑出したオリジナルのクィア映画や、『ヘッダ』や『Fairyland』のような巧みな翻案のクィア映画があったのは嬉しいところ。こういう映画は日本で劇場公開されてほしいものです。
日本人としては、日本を舞台に日本のクィアな当事者の現実を映しだしたシーンもあった『レンタル・ファミリー』が世界にお披露目されているのは、この2025年の良かった出来事のひとつと言えるかもしれません。
2025年のレポートを振り返って…
この「GLAAD」のレポートはあくまでアメリカのハリウッドにおける映画の状況を集計したものです。ドラマシリーズは含んでいません。
2025年はLGBTQの表現がある映画作品数は全体的に減少をさらに続け、下降する一方です。

2022年より前のGLAADのレポートの数値は集計方法が異なるので掲載していません。
残念ながら、それは社会の情勢をみると納得してしまいます。現在のアメリカではドナルド・トランプ政権の執拗な後押しもあり、LGBTQへの攻撃が加速するばかりです。「ジェンダー・イデオロギー」という名のレトリックによって、LGBTQの歴史の展示をする博物館が非難され、学校や大学が追い詰められ、プライドフラッグさえ公的な機関が掲げることが制限され…。そんな世の中であれば、LGBTQ表象が委縮するのも当然です。
2025年にトランスジェンダーのキャラクターがみられなかったのは、2025年からさらに常態化したアメリカにおけるトランスジェンダーに対する社会的な迫害とのシンクロを想起しないわけにはいきません。実際は、映画制作のタイムラグがあるので、政権の政策の影響でトランスジェンダーの表象も減ったとは言い切れませんが、社会の現実はじわじわと映画の描写にも圧力を与えうるものでしょう。
これだけ委縮する空気があれば、例えば、それこそアセクシュアルを主題にする映画だったり、自閉スペクトラムのLGBTQの人物だったり、もっとクィア表現を豊かに切り開く内容の作品が作られにくくなってしまいます。
この現象は、1930年代のハリウッドの歴史でもみた光景です。あの当時のハリウッドでは、ヘイズ・コードの介入によって、映画からクィアな表現が消されていきました。2025年のハリウッドは、ヘイズ・コードがないにもかかわらず、自粛ムードによって表現が単一化してしまっているとも言えるでしょう。
あまり良い兆しはありません。しかし、希望を失うことなく、「良いクィア映画を観る喜び」を胸に、次なる1年も乗り越えていきたいです。
以上、「GLAAD」のレポートの概要のまとめでした。
私が独自に2025年のLGBTQ作品を振り返った記事も以下に紹介しておきます。


